北村からのメッセージ

 第99回(12月1日) 難航の三位一体 郵政改革の前哨戦

 
 政府・与党は11月26日、三位一体改革にようやく結論を下し、具体案を来年度予算案編成に盛り込むことになりました。小泉首相は郵政民営化を「明治以来の大改革」と唱えていますが、その前哨戦とされた三位一体改革こそ、明治以来続いた中央集権を地方分権に切り替える改革の「本丸」で、小泉構造改革の主要柱となるものです。公的サービスや金融改革の手段に過ぎない郵政民営化とは違って、地方行政・市民生活に多大な影響を与える大改革だけに、既得権益を守ろうとする中央官庁、これを支援する国会議員、地方自治体の3者が“三位バラバラ”の状態で激突、具体案のとりまとめが難航しました。その過程では首相の政治手法に対する不信感が自民党内に高まりました。基本方針には玉虫色の部分や先送りされた課題が多いことから、年末までさらに揉めることが予想されます。私は自民党の地方自治関係団体副委員長を務めた立場から、三位一体改革に重大な関心を持っていますが、予算編成では立派な改革が実現出来るよう発言したいと考えています。

 官治集権から分権社会へ

 三位一体の改革は@国から地方自治体への補助金を減らすA見返りに、自由に使える税源を国から地方へ移すB自治体の財政格差是正のために配分される地方交付税を見直す――の3改革を一体的に進めるものです。これまでは「官治的集権」によって、全国画一的な公共サービスが中央官僚の支配下で供給されてきました。官僚支配の道具とされてきたのが補助金で、自治体は地方税を使って関係省庁の命じる補助事業を、屈服的に実施せざるを得ない状態でした。この体制を税源移譲と補助金削減によって打ち破り、自治体財政を地域住民がコントロ−ル出来るようにし、地域の公共サービスについて国民の決定権限を強める「分権型社会」を築こうとするものです。首相は昨年6月、補助金20兆円のうち2006年度までに4兆円減らし、地方に税源移譲するとの、「骨太の方針」を掲げました。これは昨年の総選挙、今年の参院選で自民党の政権公約(マニフェスト)に盛られ、今年6月の「骨太の方針」にも盛られました。

 地方自治体へ“丸投げ”

 これに沿って、政府は今年度予算で補助金を約1兆円減らしましたが、税源移譲は約6500億円に過ぎず、地方交付税と赤字地方債は計約2・9兆円も減らしました。地方からは「闇討ちだ」(片山善博・鳥取県知事)と猛反発の声が出、税源移譲と交付税の維持が強く訴えられました。政府は約束した3兆円の税源移譲を実現するには補助金削減案を作る必要がありましたが、既得権益擁護の省庁では削減案の策定が困難と見た首相は、案の作成を地方団体に“丸投げ”しました。これに真剣に対応したのが、全国知事会(会長=梶原拓岐阜県知事)など地方6団体で、総額3・2兆円の補助金削減案をまとめました。「地方案は真摯に受け取って欲しい」――。首相は内閣改造直後から関係閣僚に、こう繰り返し指示してきました。しかし、補助金削減は省庁の権限縮小となるし、地方が政策に関与すれば政策決定の仕組みも変わり「霞が関解体」に繋がりかねないとして、関係省庁は自民党の族議員をバックに猛然と反発しました。

 新潟地震で勢いづく建設族

 関係閣僚も「総論賛成、各論反対」で、地方案に対する回答では、関係省庁合わせて約9200億円の代替案しか示さないという非協力な態度でした。特に地方案が8500億円削減するとした義務教育費国庫負担金については、文教族議員が「義務教育は憲法が保障した国家戦略だ。地域の財政力で格差を生じさせないために国が財源を保障することが必要」と、絶対反対の姿勢を崩さず、文部科学省は当初「ゼロ回答」でした。また、地方案の児童保護費など社会補償費削減案については、厚生労働省が生活保護費などの補助率カットの代替案を提案しました。問題なのは国土交通省や農水省の公共事業関係補助金です。これらの財源のほとんどが建設国債(借金)で賄われているため、「削減分が税源移譲の対象にならず、地方交付税が縮小されたら、地方側はお手上げになる」として反対しました。とりわけ、新潟中越地震など災害が多発する中で、今年は公共事業に対する国の関与の必要性が一段と高まっている状況下にあるとして、建設族議員が強く反発しました。

 義務教育に命かける森元首相

 「義務教育補助金の削減には、政治家として命をかけて反対する」「首相は自民党総裁であって絶対君主ではない.松井一人で(ヤンキースが)優勝できなかったように、本人の信念だけでは進まない」――。5人の閣僚起用に「ありがた迷惑」と内閣改造人事で不満を述べた森喜朗前首相は、秋口から三位一体改革でも小泉批判を繰り出しました。首相と距離を置き始めた青木幹雄・参院議員会長も「地方6団体と政府で決めたから、『ハイ従います』という気持ちは一切持っていない。自民党として議論したうえで結論を出すのが筋道」と全国政調会議で述べるなど、党内には首相不信任の空気が充満しました。「反小泉連合」を模索する綿貫民輔・前衆院議長、亀井静香・元政調会長、堀内光雄・前総務会長、加藤紘一・元幹事長、武藤嘉文・元外相、野呂田芳成・元防衛庁長官、野田毅・元自治相ら7氏が開いた11月初旬の会合では、「首相の独裁的な手法は許せない」「地方案は一部知事の数合わせだ」「解散・総選挙になっても、恐れてはいけない」などの過激発言が相次ぎましだ。

 義務教育費半分は交付金へ

 結局、細田博之官房長官ら調整4閣僚や関係閣僚と与謝野馨自民党政調会長らの政府・与党協議会が改革論議を重ねた結果、首相がチリ・サンティアゴのAPEC首脳会議に出発する前日の18日夕、@2005,06年度の2年間で補助金を3兆円程度削減するA焦点の義務教育費国庫負担金の扱いは2005年秋までに中央教育審議会で結論を出し、05年度削減分は別途検討――の「基本的枠組み」で合意、首相の帰国を待って26日に三位一体改革の全体像を決定しました。それによると、@補助金削減総額3兆円のうち義務教育費国庫負担金など2兆8380億円の削減を具体的に明記A税源移譲額は今年度実施分の6558億円を含めて「概ね3兆円規模」を目指し、その8割相当の2兆4160億円を移譲B義務教育費国庫負担金は地方6団体が求めた8500億円削減を明記するが、来年度は半分の4250億円を「税源移譲予定交付金」に振り替えるC地方団体が反対した生活保護費、児童手当の補助率引き下げは、国と地方自治体が参加する協議機関を設置し来年秋までに結論を得る――などが主な内容です。

 先送り・玉虫色の全体像

 「地方の案を真摯に受け止め、まとめてくれた。私の出番をなくしてくれて感謝している」――。小泉首相は、激突を避けてようやくまとまった改革案に率直な喜びを示しました。地方案をまとめた梶原全国知事会長も「ぎりぎり受け止められる最低の線だ。先送りされた点もあり、60点くらいの出来」と評価しています。確かに党執行部は苦労したようです。「基本的枠組み」では、森元首相ら文教族議員が激しく抵抗した義務教育費について、中教審に議論を委ねる形にして文教族議員の顔を立てる一方、06年度予算編成に間に合うよう中教審の結論を05年秋に前倒しするよう体裁を整えました。公共事業も「小規模な事業は地方に委ねる」と明記する一方で、治山治水や防災関連事業は引き続き国が関与する余地を残しました。「基本的枠組み」は、執行部が自民党内の不満の“ガス抜き”を図る目的で合意したため、わずかA4判2枚の合意文章の中で議論の先送りを示す「検討」「別途検討」の文字が13ヶ所もある“玉虫色”の合意でした。先送り・玉虫色の部分は全体像の中でも随所に見られるので、最終決着に至るまでにはなお曲折がありそうです。

 財務、総務省の対立深刻

 地方交付税改革については、地方が補助金削減や税源移譲に不安を持ち、「財源が乏しい自治体に確実な財源措置」を求めているのに対し、06年度までは「地方団体の安定的な財政運営に必要な一般財源の総額を確保する」こととし、必要な行政課題に適切な財源措置を行う姿勢を示しました。しかし、「具体的金額は検討課題」とされ、歳出削減などの内容はすべて予算編成に持ち越されました。特に、地方交付税の大幅削減を主張する財務省と、削減幅を抑えたい総務省の対立は深刻です。財務省は「地方自治体は、地方交付税の算定根拠となる地方財政計画通りに予算を使っていない。7−8兆円の過大計上があり、地方公務員給与などへの使い回しが横行している」と主張しています。公共事業(投資的経費)として過大に計上された予算は一般行政経費や地方公務員の給与に回されていると同省は見ています。同省が指摘した2001年度の地方財政計画は、決算と比べると、17兆円計上された地方単独の公共事業費のうち、実際に使われたのは11兆円でした。

 7、8兆円の「使い回し」

 残りの6兆円の多くは、職員互助会やOB会への補助、ペットの不妊・去勢手術の助成、住民の結婚・敬老の祝い金、1組5万円の結婚仲介奨励金、50万円の海外旅行奨励金など一般行政経費に「使い回し」されていたといいます。地方公務員給与も厚遇されているようです。一般行政職では課長補佐以上の職員が6割に達しており、この比率を国家公務員並みの4割弱に引き下げるだけで、2000億円削減できる、と財務省は見ています。これに対し総務省は、「過大計上の見直しは、実際に必要な一般行政経費の計上額の増額とセットで議論する必要がある」と反論しています。地方交付税の規模は、今年度予算で16兆9千億円と、一般会計の2割を占めていますが、法定5税(所得税、法人税、消費税、酒税、たばこ税)分の11兆2千億円だけでは賄いきれず、国と地方が赤字国債(地方債)を発効するなどして賄っています。そこで財務省は、過大計上の見直しなどで、赤字国債分(3兆9千億円)を06年度までにゼロにする案を打ち出しています。このため財務、総務両省の攻防は激しく、予算がまとまる年末まで駆け引きが続きそうです。