北村からのメッセージ

 第94回(9月16日) 郵政民営化は2R突入 強引な首相裁断

 郵政民営化の“夏の陣”は“秋・冬の陣”へ継続されることになりました。小泉首相が9月10日、郵便など4事業を当初から分社化して発足させる裁断を下し、与党の了承を得ないまま、基本方針と郵政民営化推進本部(本部長=小泉首相、全閣僚で構成)の設置を閣議決定したからです。首相は7月訪韓の際、記者団に郵政民営化への協力対応を“踏み絵”に人事を行うと明言しました。13日から23日までブラジル、メキシコ、米国歴訪という首相就任以来最も長期の外遊へ出発した首相は、帰国直後に党役員人事・内閣改造を断行する考えです。“踏み絵”効果で党内の反論を封じ込むには、10日の閣議がタイムリミットと判断、自民党内の反対を押し切り、強硬突破を図ったものです。これに対し、郵政事業改革特命委など党内の反対勢力は「この分では過疎地の郵便局も削減され、集配局しか残らない」と猛反発。年内の法案策定作業、来年3月の法案提出の閣議決定、さらには通常国会での法案審議へ向け、2段、3段構えで抵抗する態勢を固めつつあります。このように攻防は秋から第2ラウンドへ移りましたが、私も郵政改革が地方切り捨てにならないよう、制度設計を洗い直すため精一杯の努力をしたいと考えています。

 持ち株会社下に4分社化

 首相が裁断した基本方針の骨子は@2007年4月に郵政公社を民営化、2017年3月末までに最終形を実現A持ち株会社(国が百%の株式を保有してスタート、民営化後も3分の1超の株式保有)の下に当初から窓口ネットワーク、郵便事業、郵便貯金、郵便保険の4社を設立(郵便以外の3社を地域分割するか否かは、新経営陣の判断)B郵貯、郵便保険会社は移行期間中に株式を売却し、最終的に民有・民営(実質的に分離)を実現C07年4月の当初から分社化を行い、情報システムの観点から分社が可能かどうか、専門家による検討の場を郵政民営化準備室に設置して年内に結論を得るD郵貯などの民営化前の契約を引き継ぐ公社承継法人を設立E郵貯、郵便保険の限度額は当面現行の1千万円を維持F郵便事業の超過債務の扱いは、勘定区分の見直しに際して解消。必要な自己資本の充実策は、詳細な制度設計を踏まえて検討G全国均一サービスを郵便事業会社に義務付けるH職員は民営化時に国家公務員の身分を離れる――などです。

 「骨子」「素案」を矢継ぎ早に

 「党内では未だに是非を論じている1周遅れの議論があるが、民営化は決着済みだ。どうしてもまとまらないなら、自分で判断せざるを得ない」――。首相は8月24日、夏休み明けで公務に復帰した際、自民党役員会でこう宣言し、記者団には「反対なら私を(総裁に)選ばなければよかった。選んだ以上反対は出来ない」と言い切りました。経済財政諮問会議で竹中平蔵経済財政・金融担当相や財界、学者ら民間委員の連合軍と、麻生太郎総務相、生田正治郵政公社総裁の同盟軍が、経営形態などを巡り、激論を戦わせていたのに対し、いらだった首相が放った思い入れの決意表明でした。参院選で苦杯をなめた首相が、06年9月まで政権の求心力を維持するには、「挙党体制」による大幅改造人事の断行と、金看板政策の郵政民営化を実現する以外に道はないと考えていたようです。竹中経済財政相を通じ、4月に民営化基本方針の中間報告を発表させたのに次いで、8月6日は基本方針の骨子、同月31日には基本方針の素案を矢継ぎ早に発表させていました。

 既成事実を積み上げ

 その一方では、郵政民営化タウンミーティングを同月25日(福岡市)、27日(徳島市)、28日(長野県上田市)の3回開催、9月1日には民営化方針を閣議決定する決意を表明するなど、既成事実をどんどん積み上げる作戦でした。基本方針の「骨子」は1ヶ月前のホームページで詳しく紹介したので重複は避けますが、「素案」は「骨子」をたたき台に、内容をより詳しく書き直し、4つの株式会社に分割する組織形態のうち@「窓口ネットワーク会社」は、郵便、郵貯、郵便保険の会社から窓口業務を受託。地方公共団体の事務代行や年金、恩給、公共料金の受け払いなどの公共的な業務も請け負い、小売りサービスや旅行代理店などへの進出も可能にするA「郵便事業会社」はユニバーサルサービスを義務づけ、国際物流業務にも進出すると明記B「郵貯銀行」と「郵便保険会社」は民営化後の新規契約分から政府保証を廃止し、既契約分は新設する「公社承継法人」に移して政府保証を継続。管理、運営は銀行と保険会社がそれぞれ行うC全閣僚で構成する首相が本部長の民営化推進本部を設置し、有識者の監視組織を同本部の下に置くD07年4月までに経営委員会(仮称)を設置し経営や財務の在り方を検討――などを盛り込みました。

 当初から分社は困難と総裁

 このように、一面では民営化のメリットを並べ、公社職員や党内反対勢力をなだめようとしましたが、地域会社への分割、持ち株会社の設立など最終的な組織形態の枠組みや、移行期の在り方、準備期間の在り方など肝腎な部分の7項目は「保留」項目に残しました。このため、経済財政諮問会議では民営化当初の経営形態をめぐって、麻生総務相や生田総裁が「4事業一体で株式百%政府所有の特殊会社で発足する」よう主張、民営化移行後は窓口会社が持ち株会社となり、その下に3事業がぶら下がる形態を「落とし所」に決着を図ろうと努力しました。特に生田総裁は「4つのシステム会社から意見を聴いた結果、分社化には4事業ごとに新システムを立ち上げる必要があり、システム開発には通常5年、最短でも3年かかるので、当初からの分社化は困難」と経営者の立場から分社化に強い難色を示していました。麻生総務相も「27万人の常勤職員を各社に振り分ける際に、納得を得るのには時間がかかる」と労務面から困難性を訴えていました。

 特命委、公聴会で批判噴出

 一方、自民党の郵政事業改革特命委員会(村井仁委員長)は1月末の初会合以来、8月末の集中討議を含め20数回の会合を開くとともに、タウンミーティングの向こうを張って、地方公聴会を8月18日(埼玉県草加市)、同20日(青森市)、同27日(熊本市)の3回開催、民営化への慎重意見を盛り上げてきました。例えば8月30、31日の集中討議では「骨子では竹中担当相が示した利便性などの5原則が守られない」、「中央省庁等改革基本法33条にいう『民営化等の見直しは行わない』との規定をないがしろにするものだ」、「なぜ今、民営化なのか、公社でどこが不十分なのか」、「政府の詳しい説明が全くない。これでも議院内閣制か」などの批判が噴出しました。各地の地方公聴会でも、「政府案では民営化のメリットが見えない。なぜ議論を急ぐのか」、「過疎地郵便局の切り捨てにつながる」、「郵便局員はお年寄りへの目配りやゴミの不法投棄監視を通じて過疎地域を支えている。民営化ありきの議論には反対だ」など民営化反対の意見が渦を巻きました。

 総理と差し違える覚悟

 「竹中素案は砂上の楼閣のようなものだ」「白紙に絵を描くだけなら、いくらでもきれいに描けるが、歴史と現実、国民の受け止め方などを考えなければならない」――。村井委員長は各紙のインタビューに淡々と答え、分社化に強く反対しています。片山虎之助参院幹事長(前総務相)から「総理と差し違える覚悟で行け」と励まされた額賀福志郎政調会長も党内論議が不十分であるとし、首相に対して10日の閣議決定を見合すよう、慎重意見を述べました。公明党幹部もこれに同調していました。しかし、基本方針の目玉である、07年4月当初からの分社化に執念を燃やす首相は、“改革本丸”の民営化が看板倒れに終わると国民の支持は離れ、一挙に政権の求心力が失われかねないと判断。党との調整難航に業を煮やした首相は、麻生総務相、生田総裁の更迭論すら首相周辺からマスコミに匂わせ、9月7日の午後、生田総裁を官邸に招き分社化を飲むよう決断を迫りました。

 首相業を煮やし引導渡す

 生田氏はなおも難色を示しましたが、首相は「システム問題は別途専門家に検討させる」と約束、事実上の“引導”を渡して「余白」部分の全てに裁断を下し、ようやく正念場を乗り切りました。今後の法案作成作業は郵政所管の総務省にはタッチさせず、首相直属の郵政民営化準備室(室長は郵政と無縁の渡辺好明前農水次官)で一気に煮詰めることにしています。首相裁断で基本方針が決定されたため、安倍晋三幹事長ら党側は、「是非の態度は留保するが閣議決定は妨げない」と黙認しました。だが、立法府が法案を策定する以上、党は年末に向けた法案作成の段階で改めて党の意向を政府案に反映させるとともに、法案の閣議決定前に必ず党総務会など与党の了承手続きを取るよう仕向ける方針です。当面の問題は、最大関心事である改造人事で本当に挙党態勢が組めるかどうかです。参院選敗北の引責に今もこだわる安倍幹事長は希望通り辞任し、総裁と幹事長を別々の派閥に充てる「総幹分離」の慣例に戻し、最大派閥の旧橋本派から起用する案が目下、浮上しています。

 “踏み絵”見定める人事か

 しかし、日本歯科医師会の1億円ヤミ献金事件が同派を直撃しており、党のイメージダウンを懸念する声が党内若手にあるうえ、同派には「人事の“踏み絵”、“ニンジン作戦”によだれを流すな」という郵政事業懇話会会長の綿貫民輔前衆院議長や、青木幹雄参院議員会長、額賀政調会長、片山参院幹事長、村井特命委員長ら郵政民営化に反対もしくは慎重派の5人の侍がいるため、小泉首相が同派から幹事長を起用する場合は、協力姿勢の真贋を十分に見定めることになるでしょう。森喜朗前首相や青木参院議院会長らは亀井静香元政調会長や古賀誠元幹事長ら実力者を取り込み、5、6回生のベテランを抜擢し、文字通りの挙党体制を確立するよう進言していますが、これも“踏み絵”の効果次第で決まると思われます。だが、入閣適齢期にほど遠い2回生の若手にとって人事は雲の上の話で、“ニンジン作戦”とは無縁。関心は人事以上に重要な歴史的改革の郵政民営化にあります。

 理想的郵政構築に努力

 「明治以来の大改革だ。反対の大合唱の中、よくここまできた。外堀、内堀は埋めた。いよいよ改革の本丸。冬の陣、夏の陣だ」――。首相は10日夜、記者団に感情の高揚をあらわにして語り、今冬から来夏まで続く長丁場を想定してか、戦う決意を表明しました。民間金融界は、分社化の郵貯銀行、郵便保険会社に、移行期間中から融資業務や保険商品の拡充など新規業務に参入できる道が開かれたとして、「政府の後ろ盾を残したまま、業務規制を緩める“焼け太り”を認められては、民業圧迫になりかねない」と反対ののろしを上げています。窓口ネットワーク会社にしても、郵貯、郵便保険の委託や公共サービスの受託、投資信託の販売、日用品の小売り、旅行代理店、各種チケット販売、介護サービス仲介などのコンビニ化で、収益が本当に維持出来るのか、都市部に密集した特定局の削減や金融委託の成績が上がらない過疎地の郵便局が閉鎖されて、全国4千局程度の集配局しか生き残れないのではないか、非常勤を含め40万職員の労務対策は万全か、など様々な疑念が生じています。私は年末に向けて、こうした不確かなビジネスモデルの問題点を解明し、制度設計を徹底的に検証。理想的な郵政事業が構築出来るよう努めたいと考えています。