北村からのメッセージ

 第92回(8月16日) 攻防続く郵政夏の陣 首相独走に反発

 政府が臨時国会閉幕の8月6日に、郵政民営化の基本方針(骨子)を発表したことで、永田町は猛暑の最中、“郵政夏の陣”が展開されています。首相は10日、自民党の堀内光雄総務会長との会談でも「郵政民営化は小泉改革の本丸。改革に協力してくれる人の体制でやる」と重ねて強調。郵政民営化への賛否を“踏み絵”に党内の反発を抑え込み、9月に内閣改造・党役員人事を断行し、06年9月までの総裁任期中に小泉改革を実現する決意で、遮二無二走り出しました。首相は民営化の断行により、内閣支持率の下落傾向に歯止めをかけ、政権浮揚の契機にしたいと真剣に取り組んでいます。さらに日朝国交正常化、ロシアとの平和条約締結による北方領土の返還までも任期中に達成、小泉人気を回復しようと欲張っているようです。これを”首相の独走”と見る自民党内の抵抗勢力は、国民の納得する形で民営化に決着をつけようと懸命に巻き返しています。私も党郵政事業改革特命委員会(委員長=村井仁・党政調筆頭副会長)に常時出席して問題点を検討、最前の策を提起したいと考えています。

 強気で基本方針まとめる

 首相が強気になっている背景には@先の参院選では勝敗ラインの改選議席を2議席割ったが誤差に過ぎないA自公の与党は依然、絶対安定多数を維持しているB小泉改革の成果で景気は回復基調にあるCポスト小泉の候補がいない――などの読みがあるからでしょう。政権への波及を恐れてか、参院選不振の際に辞任する構えだった安倍晋三幹事長と青木幹雄参院幹事長を極力慰留、逆に首相を強力に支援してきた青木氏は、参院議員会長への昇格を果たしました。これに加え、9月の内閣改造では「適材適所、党全体の力を発揮できる老壮青のバランスという観点から人事をやり、派閥順送りの考えは取らない」との方針に沿って、参院比例選で自民党トップ当選した竹中平蔵経済財政・金融相を郵政担当相に任命する腹を固め、7月21日の経済財制諮問会議から郵政民営化の議論を再開、6日の2度目の集中審議で民営化基本方針の骨子をまとめました。

 YKKの盟友まで批判

 しかし、前号でも述べましたが、中曽根康弘、後藤田正晴、野中広務の三長老が指摘したように、首相が政権の求心力を維持するには、郵政民営化を踏み絵とするような露骨な人事ではなく、挙党態勢を確立する宰相としての度量が十分に示されなければなりません。注目されるのは加藤紘一元幹事長までが、週刊紙に「首相の『人生いろいろ』の不誠実発言への反発が小泉政治に反省を求め、自民党を敗北させた」と語ったことです。加藤氏は「選挙後の首相発言にも反省の色は見られない。『一内閣一閣僚』の信念を捨てて、閣僚ポストを自分の保身に利用しようとしている。これでは国民の理解は得られない。若い安倍幹事長は即刻辞任すべきだった」とかつてのYKKの盟友は、厳しく批判しています。

 持ち株会社傘下に4事業

 さて、基本方針の骨子は、@2007年4月に郵政公社を民営化。2017年までに最終的姿を実現A持ち株会社のもとに窓口ネットワーク、郵便、郵貯、簡保の4つの株式会社が独立。窓口ネットワーク会社は過疎地の拠点を維持B郵便会社にユニバーサル(全国均一)サービス義務を課す。郵貯、簡保会社は銀行法、保険業法の対象にし、実質的な民有・民営を目指すC民営化前の郵貯、簡保の契約分は公的に保有。管理・運営は新規契約と一括し、損益は持ち株会社に帰属D職員は国家公務員の身分を離れる――という中身で、事実上の竹中試案といえる内容です。4月末に論点整理した民営化の中間報告は、肝腎の{民営化の在り方}について、参院選への影響を配慮し、ビジネスモデルの構築、職員モラールと労使関係などの問題を提起しただけに終わり、経営形態や規模については言及しませんでした。それが、骨子では「経営の自由度拡大」、「民間とのイコールフッティング(同一競争条件)の確保」、「事業ごとの損益明確化と事業間のリスク遮断徹底」の3つの視点に立って本格的な形態を示しています。基本方針が明示されたことで、自民党は9月の最終報告書に向けて問題点を整理し、国民が期待する改革案を取りまとめる態勢に入りました。

 結論ありきの民営化反対

 特定郵便局長OB会「大樹」の支援で上位当選した長谷川憲正・元郵政審議官や、鞍替え出馬で当選した荒井広幸・前衆院議員(元党総務部会長)ら新しい参院議員が公然と反対を唱えています。「大樹の枝から落ちた実がようやく芽を出した。いよいよ闘いの第一線に立つ。党の議論はこれから始まる。民営化は郵便局を壊すことにしかならない」――。これが長谷川憲正氏の当選の弁です。自民党郵政事業懇話会の亀井久興幹事長も「郵政公社になってまだ一年しか経っていない。結論ありきで『民営化だ』といわれても、全く理解できない」と首相の強引な手法に反発しています。誰でも参加できる党郵政事業改革特別委も参院選後の8月2日以来、会合を重ねて党独自の改革案策定に入っています。郵政民営化を巡っては@首相、竹中金融相と経済財政諮問会議の民間グループA民間金融をバックとする財務省B全国特定郵便局長会などが後押しする郵政族議員C監督官庁の総務省と現業の郵政公社――が4すくみとなって攻防を続け、具体案を模索してきました。中でも郵政公社の生田正治総裁は、かつての民間企業再建の立て役者らしく、全逓など労組や特定郵便局長会の双方から十分に意見を聴き、郵政事業の改革を推進しようとしています。

 リスク遮断に固執の竹中氏

これまでの民営化論議では、経営形態について、@郵便、郵貯、簡保の3事業を分割せずに、一体化したままで民営化するA3事業をそれぞれ分割したうえで、持ち株会社にぶら下がる形態にする――の2つが最大の争点とされ、総務省は「郵便事業が赤字体質のため、一体でないと採算がとれない」と3事業一体の民営化を主張。これに対し日本経団連など財界は「市場原理を徹底させるため、3事業は完全分離すべきだ」と反論していました。それが基本方針の骨子では「最終的には持ち会社の下に窓口、郵便、郵貯、簡保の4事業会社が入る形とし、2017年までに実現する」ことになり、事実上、郵政事業の一体経営が継続される可能性が強まりました。これまで、公的金融の縮小を狙う小泉首相や竹中経済財政・金融相は「郵貯と簡保を郵便事業などからの完全分離」を目指し、竹中金融相は「どんぶり勘定の郵政事業は世界のどこにもない。3事業を独立会計とし、リスクを遮断すべきだ。見えない国民負担は1兆円以上ある。民間と同一の競争条件を確保するのが肝要。郵貯は金融改革の一環だ」と述べ、民営化の最大ポイントにしてきました。

 全国均一サービス義務化

 民営化準備室の有識者会議がまとめた法人税、法人住民税、預金保険料など郵政が免除されている「見えない国民負担」は、03年度が1兆1千億円で一世帯当たりに換算すると、約2万3千5百円になると試算しています。こうした公租公課の支払いは事業会社に義務づけられそうです。民営化後の郵貯に対する政府保証廃止もイコールフッティングの立場からやむを得ないでしょう。民営化後の公社職員には、国家公務員としての身分保障はなくなり、代わりに争議(スト)権などが付与されますが、秘匿性の高い信書の郵便物を扱うなど、公共性が高いため、NTT同様に守秘義務などを課せられる「みなし公務員」に規定されることになりそうです。具体項目では、例えば基本方針骨子の中で「窓口会社は過疎地の拠点を維持。ユニバーサルサービスを郵便に法律で義務づける」と明記し、全国約2万4千7百の郵便局網を存続させて特定郵便局を安心させる一方で、「郵貯、簡保には法的義務づけをせず、銀行法、保険業法の対象にし、会社の定款などでサービスの維持を図る」と区分けしています。

 ドイツポストがモデル

 これらに対し、党内では「急激に預金の政府保証を廃止すれば、郵貯の魅力がなくなる」、「民営化が軌道に乗るまでは各種税免除を続けるべきだ」、「郵政事業にストがあってはならない。国家公務員であるべきだ」など異論が出され、様々な経過的措置が求められています。
竹中金融相は民営化の成功例とされるドイツポストをモデルに郵政民営化を推進しようとしているようです。持ち株会社方式を採用し、収益を上げているドイツポストは、日本の郵貯に当たるポストバンク、NTTに相当するドイツテレコムを分離して民営化されましたが、累積赤字を抱えてガタガタだった企業を徹底した合理化とリストラで健全な事業体に変え、5年後にはポストバンクを再吸収し、国が100%の株式を保有する特殊会社となりました。独占が許されている信書はドイツポストの最大の収益源。独占市場から得た郵便の利益を企業買収に充てています。同社は251機の航空機を保有して世界4強の一角である国際急送便DHLを傘下に収め、売上高の約4割を物流で稼いでいます。

 麻生総務相案が落とし所?

 諮問会議の中間報告では「アジアなどの成長物流市場に戦略的に進出すべきだ」と、国際的な物流企業への脱皮を促しており、生田公社総裁が6月、北京に飛んで劉安東中国国家郵政局長と国際スピード郵便の利用拡大を話し合ったのも、ドイツポストに刺激されたからでしょう。竹中金融相も今春同社を視察し、改革面で色々と共感を覚えたようです。
 しかし、ドイツポストは利益追求のため、90年に約3万あった郵便局を約1万3千7百局に減らし、その6割は委託局としました。つまり、直営局は10年間で8割減少したわけで、この結果ユニバーサルサービスは低下し、16万人の雇用が失われました。このようにドイツポストをモデルにしたら、弊害が大きいといえましょう。従って、民営化反対の意見も多く、今後の方向としては、「郵貯や簡保にもユニバーサルサービスを義務づけるべきだ」との郵政公社従来の主張や、麻生太郎総務相が骨子発表の記者会見でコメントしたように、持ち株会社方式ではなく、過渡的な措置として窓口サービスを含む3事業一体のまま「100%政府出資の特殊会社」として発足するか、さらには「持ち株会社が窓口会社を兼ねる一体経営」となることも大いに論議されるでしょう。この「特殊会社」や「窓口兼務の持ち株会社」が落とし所になるかもしれません。我々自民党側も猛暑に負けずに、徹底的に問題点を究明して、「民営化イコール過疎地郵便局の切り捨て」とならないよう、最終報告書をまとめ上げなければならないと念じているところです。