北村からのメッセージ

 第85回(平成16年5月1日) 郵政民営化の中間報告 参院選後論戦化

 政府は4月26日の経済財政諮問会議(議長・小泉首相)で、郵政民営化の論点を整理した中間報告を決定しました。同報告は、07年に民営化を実施し、5−10年程度の移行期間を設けて改革を仕上げると明記、今後は民営化後のビジネスモデルや組織形態を論議し、今秋に最終報告書をまとめる段取りです。26日は小泉政権の丸3年記念日。首相は報告の素案にはなかった「明治以来の大改革の本丸である」「郵政に手を付けずして官業の改革はない」などの表現を盛り込み、郵政民営化達成の強い決意を表明しました。また、報告書発表当日、内閣官房に「郵政民営化準備室」を設置、渡辺好明・前農水次官を室長に、次官級2人を副室長に起用するなど、参院選後の自民党「郵政族」との本格的攻防をにらみ、着々と布石を打っています。郵政民営化は地域住民にとって極めて重要な課題。私は党の「郵政事業改革特命委員会」(委員長・村井仁元国家公安委員長)の会合には必ず出席し、国民的利益にかなう郵便局網の維持発展を目指し猛勉強を重ねています。

 党との正面衝突回避

 「(首相就任の)3年前、誰が民営化の準備室まで出来ると想像したか。ようやくここまできた」――首相は官邸で、民営化準備室の看板を自ら揮毫しながら、感慨深げにこう漏らしたといいます。「官から民へ」のスローガンを掲げてきた首相にとって就任以来の金看板である郵政民営化は、国鉄・電電の民営化に匹敵する大改革で、道路公団改革を1点とすれば100点以上の成果になると意気込むテーマです。それだけに7月の参院選を控え、与党や政府内の反対勢力、自民党最大の支持母体・全国特定郵便局長会との正面衝突は避け、中間報告では、郵便局網の活用や雇用への配慮、成長分野への進出など「明るい民営化」論を前面に出し、公社の地域分割、郵貯・簡保の縮小など重要な組織形態には触れず、肝腎な部分はすべて先送りする慎重な姿勢で臨んでいます。一口で言えば、郵便局窓口網、郵便、郵便貯金、簡易保険の4機能の自立を促し、民間企業との提携や買収などを通じて収益力のあるビジネスモデルを構築することを強調、反対勢力の批判をかわす姿勢です。

 4機能を市場で自立

 諮問会議は2月以降、竹中平蔵経済財政・金融相が昨年10月に示した@経済活性化の実現A構造改革全体の整合性B国民の利便性に配慮C郵便局ネットワークの活用D雇用への配慮――の『5原則』に沿って郵政民営化の論点を整理してきました。中間報告のポイントは、まず{民営化の意義}について、@窓口ネットワーク、郵便、郵貯、簡保の4機能が市場での自立を通じて、事業間の適切なリスクを遮断、良質で多様なサービスが安い料金で提供できるよう国民の利便性を最大限に向上A預金保険料等の免除など「見えない国民負担」の最小化B特殊法人等公的部門への資金流入を縮小C民間企業とのイコールフッティング(同一の競争条件)を確保し、経営の自由度も高める――を強調しています。「事業者間の適切なリスク遮断」は3事業を独立会計とし、郵貯依存の経営体質を改めるものです。次に{4つの機能の目指すべき方向}について、窓口ネットワークは@全ての国民が利用可能な状態を維持しつつ効率化A引き続き郵便、郵貯、簡保のサービス提供窓口としての役割を果たすB多様な事業形態を導入し窓口サービスの多様化――を挙げています。

 アジア物流市場へ進出

 郵便は@最大限の効率化が必要A世界に通用する総合郵便・物流事業への成長を目指し、アジア物流市場などに戦略的に進出――を提言しています。郵貯・簡保は@金融改革の進展との整合性確保A地域・社会への貢献と地域金融機関との共存・競争のバランスB国債の安定消化への貢献C民営化前の預金・保険は全額保証、民営化後の新規預金・保険への保証は民間と同等――とうたっています。最後に{民営化のあり方}について、@2007年に民営化を実施、最終的な民営化までに5〜10年程度の移行期間をおくA07年までを準備期間とし、郵政公社と政府が戦略的取り組みを開始B民間企業との提携、買収等を通じ経営資源を取り込み、収益力あるビジネスモデルを構築C職員のモラールと労使関係の安定に配慮Dユニバーサル(全国一律)サービスは定義を含め検討し提供が可能となる枠組みの確立――を提示しています。素案には窓口網多様化の例示で民間に郵便局運営を委託する『フランチャイズ方式』を明記しましたが、公社の修正要求で削除したようです。

 郵便局をコンビニ化

 このように中間報告は、ユニバーサルサービスを維持し、郵便局をコンビニエンスストア化し、窓口で扱う商品を増やすことで郵便局網を積極的に活用できるようにしました。郵政民営化で先行するドイツポストは、文房具の販売や雑誌購読の申し込みも扱っていますが、日本でも商店が少ない過疎地では食品や雑貨なども販売、住宅ローンや民間金融機関が開発した投資信託なども受託販売出来るようになりそうです。一部で実施されている住民票の交付など自治体の行政手続き(ワンストップサービス)は盛んになりましょう。また、ドイツポストを念頭に、郵政公社の生田正治総裁が意欲を示すアジアの物流市場への国際急送便も認められ、民間企業の買収・出資も可能となりました。その代わり、郵貯、簡保では、民営化後に引き受ける新規分は全額政府が保証せず、民間と同じ払い戻し保証にし、現在は免除の法人税などの納税を義務化し、預金保険料も民間と同様に支払うようになります。このため、郵便局に貯金する利点が薄れ、郵便局の経営コストも増大します。

 10年の移行期間短縮

 移行期間は当初、10年程度で「軟着陸」するシナリオでした。業務制限を緩和して経営の自由度を広げ、税負担など優遇措置を廃止し民間との競争条件を揃えるには、時間をかけて段階的に実施するのがベターと考えたからです。とくに、現在の職員数は28万人で、70年前後に採用した団塊の世代が多く、退職者の新規補充がなければ10年後には7万人減る勘定です。職員の雇用や国債消化に与える影響を考えて移行期間は10年とされました。しかし、経済評論家の田中直毅氏が諮問会議で「長期の移行期間を置くと組織変更が頻繁になり、競争が厳しい金融市場で敗退する可能性が高い。07年度の民営化準備期間中でも、公務員型を非公務員型に変えるべきだ」などと指摘、首相もこれに同調したため、5〜10年に変更されました。以上のように中間報告は、窓口網の積極活用などで郵政事業を拡大して反対勢力をなだめる一方、民間企業とのイコールフッティング(競争条件)を段階的に整備することが主眼とされ、改革の具体像は十分に示されていません。

 多い積み残した重要課題

 積み残された重要課題では@分割を含めた民営化後の組織形態A準備期間・移行期間の業務範囲Bビジネスモデルの具体像C民営化前後の郵便新旧勘定の扱いD郵便事業で一定の独占を認めるかE職員の雇用・身分の問題と効率化の両立――などがあり、参院選後は特命委や郵政族議員でつくる郵政事業懇話会(会長・綿貫民輔前衆院議長)などで、本格的な論議が展開されそうです。郵政民営化準備室は、諮問会議の下部組織「郵政民営化連絡協議会」を解散、メンバー8人のうち翁百合・日本総合研究所主席研究員、奥山章雄・日本公認会計士協会長、宮脇淳・北大教授、吉野直行・慶大教授の民間有識者4人が顧問に就任し、民間が作業を監視する布陣。来年の通常国会に提出する郵政民営化関連法案作成など、07年4月の郵政公社民営化への準備を進める首相肝いりの組織です。郵政3事業全体を見渡す「総括チーム」を中心に約20人で発足、国会閉幕後は各省庁の人事異動に合わせて「窓口網」「郵便」「郵貯」「簡保」の4チーム計50人程度に増員します。

 次官・局長級が室長補佐

 渡辺室長(58)を支える副室長には、事務次官級で元郵政省通信政策局長の鍋倉真一・前総務審議官(57)と高木祥吉・金融庁長官(55)の2人が、総括の審議官には中条吉郎・内閣府政策統括官(局長級)が起用され、旧郵政省色は薄められました。渡辺室長は郵政の門外漢。農水省では構造改善局長時代に汚職事件の後始末で振るった手腕が省の「有事」に買われて02年1月、「上がりポスト」と目された水産庁長官から、BSE(牛海面状脳症)問題で揺れる農水省事務次官に就任し、食糧庁廃止、消費・安全局新設などの機構改革をなし遂げたことで首相が信頼を寄せ、再度の抜擢となりました。渡辺室長は、「郵便、郵便局窓口網、郵貯、簡保の4機能ごとに10人程度のチームを編成し、具体的な論点を煮つめていく。雇用と身分保障の問題は、労組からも話をよく聞いて判断したい。郵貯のあり方は、その機能が適正に果たされるにはどの程度の規模・組織がいいのか、一定のシュミレーションをしないといけない」などと読売のインタビューで答えています。

 どうする国債の受け皿

 郵政公社の組織、制度は秋の最終報告までに詰めますが、経営形態に限らず郵貯・簡保の規模、国債の受け皿をどうするかなど課題は山積しています。03年3月末時点の郵貯残高は約233兆円で、国内最大銀行みずほグループの預貯金額の3倍強。簡保の総資産は約125兆円で、最大手生保の日本生命保険の約3倍に達しており、いずれも巨大資産。民営化後の政府保証の廃止で「郵貯は10年後に150兆円、簡保は90兆円台まで自然に縮小する」と公社は見ていますが、この見通しは過小評価のようです。全国銀行協会は郵貯拡大に歯止めをかけるため、有利な定額貯金などの新規受け入れを停止し通常預金は継続、貸し出しなどは行わないナローバンキングなど決済機能中心の体制に移行するよう主張しています。生命保険協会も「保険業務は民間だけで十分に全国に行き届いている。簡保は既に役割を終えた。縮小廃止すべきだ」と簡保による民業圧迫を批判しています。

 郵貯・簡保の廃止は無理

 経営形態の“踏み台”は、『郵政3事業のあり方について考える懇談会』(首相の諮問機関・田中直毅座長)が02年9月にまとめた@3事業一体の特殊会社化A3事業を維持したうえで、持ち株会社を設ける形の民営化B郵貯・簡保廃止による完全民営化――の3類型が示されています。「事業間の適切なリスク遮断」で3事業を独立会計にするといっても、郵便局網をほぼ現状維持するとなれば、多くの郵便局が郵貯・簡保の収益に依存している以上、一体的な改革を進めざるを得ません。まして、これまで通りに国債の受け皿機能としても期待されています。郵貯・簡保の運用は国債発行の約4分の1を占めていますが、引き受けが減少して国債消化に支障をきたせば、長期金利の上昇(国債価格の下落)を招き、日本経済は大打撃を受けかねず、郵貯・簡保の縮小廃止などは到底出来ません。諮問会議には、投資信託などの金融商品や行政代行サービスの手数料を収益の核とする考えもあるようですが、こんなものでは経営が成り立ちません。

 粛々と国民的議論

 「出席しない議員には郵政問題で発言させない」――。自民党の特命委は1月下旬の発足以来、10数回の会合を重ねていますが、村井委員長が小委員会のメンバー選定にあたり、出席率を優先する考えを示したことから、森喜朗元首相も顔を出すなど、毎回80人以上の議員が出席するほどの盛況です。村井委員長は各紙のインタビューで「郵政事業は130年の歴史、2万4千7百の郵便局、(非常勤を含め)約40万人の雇用問題がある。白地に絵を描くような改革論議は出来ない。国会議員を中心に粛々と国民的議論を行い、今秋までに結論を得る」と答えています。参院選後に特命委が、法案作りを担う郵政民営化準備室を相手に、民営化の具体的協議を始めた場合、官邸主導の組織改革案に対して与党内から異論が噴出することも予想されます。私は健全な郵政民営化のために、あらゆる事態にも対応できるよう、以上の問題点を整理し、理論武装を深めているところです。