北村からのメッセージ

 第83回(平成16年3月16日) 捕鯨復活の好機 牛・鶏ウイルス異変

 鳥インフルエンザは広島、大分から京都、大阪、兵庫3府県などへ感染が拡大。京都府丹後町の浅田農産船井農場と周辺養鶏場は、計約25万羽の鶏を自衛隊に頼み埋設処理しました。3府県の養鶏場から出荷できない卵は1日約100万個。処理に困った卵をゆでて、スコップで砕き、鶏の餌にしているそうです。終戦直後は卵や牛肉、バナナが贅沢品。代用肉として安い鯨が食卓に上り、給食にも利用されましたが、捕鯨停止後の鯨は品薄で高級品。若い世代は鯨の食習慣すらよく知りません。昨年末に米国で感染牛が発覚、タイ、ベトナムなどアジアでも鳥インフルエンザが猛威を振るっていることから、政府は牛肉、鶏肉の輸入禁止を続けています。私も衆院農水委の理事として対応策に追われていますが、食生活に異変が生じた今こそ日本が多年主張してきた「鯨の持続的な資源利用」(商業捕鯨の復活)の好機到来と考えます。7月にイタリアで開く国際捕鯨委員会(IWC)総会では、捕鯨復活に向けて国際世論を喚起し、実り多い成果を得たいと考えています。

 渡り鳥がウイルス媒介?

 日本の鳥インフルエンザは大正14年以来79年ぶりの騒動ですが、NHKは最近の報道番組で、「丁度1年前の2月にオランダで、わずか76日間に3千万羽の鶏が爆発的に感染、処分された」ことを特集しました。浅田農場に比べれば欧州は桁外れに多い被害状況ですが、無差別な国際テロと同様、ウイルスには国境がなく、昨年末以降、アジア一円にも感染が拡大しています。浅田農場など京都・大阪府で見つかったカラス6羽の死骸から同じウイルスが検出され、渡り鳥などによるウイルス媒介の疑いも強まっています。家畜伝染病予防法の届出義務を1週間も怠ったと批判された、浅田農場の経営者夫妻が自殺しました。鶏がばたばたと死ぬパニック状況下で、経営者は従業員150人の解雇や倒産問題が脳裏をかすめ、異常を隠した“駆け込み”で生存鶏1万5千5百羽を出荷し、被害を最小限に食い止めようとしたのでしょう。それには「鶏肉や卵は70度以上で加熱すれば人への感染は心配ない」との“安全意識”が働いたと思われます。だが、行政当局の告発の動きと世論の厳しい批判を浴びて責任の重大さを痛感し、引責自殺を遂げたようです。「物価の優等生」といわれる安い卵の供給に貢献した養鶏業者の死は、痛ましい限りです。

 家畜伝染病予防法を改正

 3月4日の衆院予算・農水両委では鶏インフルエンザの緊急質疑を行いました。自民党の鳥インフルエンザ対策本部(本部長・野呂田芳成元農水相)は同月10日、@死んだ鶏の通報義務違反に対する罰則強化A出荷できなくなった養鶏農家に対する救済措置(補償)の制度化B自治体へ特別交付税で財政支援Cワクチンの研究開発促進と抗ウイルス薬の備蓄――などを内容とした家畜伝染病予防法の改正案を今国会に提出する方針を決めました。BSE(牛海面状脳症)も、昨年末に米国北西部で初めて1頭が発覚したのに呼応するかのように日本でも神奈川県平塚市と北海道標茶町でことし2頭の感染牛が発覚、01年9月以降、国内で11頭が確認されました。食に対する国民の不安など風評被害に加え、輸入禁止も手伝って牛肉や鶏肉の売り上げは落ち込む一方。家畜、家禽は受難の時代ですが、牛肉、家禽肉の供給異変はたちどころに、皆様の食生活に大きく響いています。

「捕鯨班長」が鯨座礁を分析
そこへいくと捕鯨停止20年で数が増え続ける鯨は、我が世の春を謳歌するばかりか、ミンククジラなど特定の鯨種が激増、海洋の生態系を狂わせ、漁業にも大きな影響を与えつつあります。「21世紀半ばには90億人を超えることが予測される人類。これだけの人口の食料を確保するには、陸上だけでなく、地球の4分の3を占める広大な海の生物資源を有効に利用しなければなりません」――。財団法人・日本鯨類研究所の「クジラの調査はなぜやるの?」というパンフレットは、調査捕鯨の重要性をこう書き出しています。また、農林水産省には京大出身の森下丈二・水産庁遠洋課捕鯨班長がいて、「なぜクジラは座礁するか?」という面白い本を出版しています。02年1月に鹿児島県の大浦町で14頭のマッコウクジラが、同2月に茨城県波崎町で20数頭のカズハゴンドウクジラが浜辺に打ち上げられたことは、私の当時のホームページでも詳しく取り上げました。森下氏の著書もこの鯨の座礁をリード部分に書き起こし、崩壊の危機に直面する国際捕鯨委の問題点と商業捕鯨復活の必要性を熱っぽく説いています。

 人間の食奪う大食漢

 それによると@「鯨は絶滅に瀕している」との神話は誤りで、ミンククジラは15年間に2倍に増加、ザトウクジラやニタリクジラも増え続けているA妊娠率の高いミンククジラがシロナガスクジラの主食・オキアミを横取りするので、シロナガスクジラの回復を妨げているB99年夏にコククジラが北米大陸西海岸で約350頭も座礁したが、これは餌不足で死んで海岸に打ち上げられたものC鯨は旬のサンマ、鰯、スケトウダラ、イカなどの水産資源を年間2億8千万トンから5億トンも食べ、人間の3・5倍から6倍もの魚を奪う大食漢だ――などを指摘しています。森下氏の著書は、序章ヒトとクジラの共生のために 第1章魚を奪い合うヒトとクジラ 第2章クジラを科学する 第3章捕鯨紛争の正体――など5章で構成、IWCが商業捕鯨のモラトリアム(一時停止)を採択した経緯、一時停止によって海洋生態系が崩れ、鯨が“座礁”に走る理由などを細かく分析しています。

 餌不足でコククジラ座礁

 鯨の集団座礁(マス・ストランディング)はこれまで、@脳や耳に寄生虫が入り感覚器官が狂うA磁場の乱れB天候不良の影響Cシャチに追われる――などが原因に挙げられていましたが、森下氏は、捕鯨の中止で増えた鯨が魚をむさぼる結果、コククジラのような餌不足の鯨が近海に迷い込み座礁するとの見方を強めています。確かに1月末には大分県・別府湾にヒゲ鯨の仲間が餌を追って迷い込んでいます。海洋生物は、植物性プランクトンを食べるオキアミなど動物性プランクトン。それを食べるカタクチイワシなど小魚。それを捕食するサンマ、鯵、鰹、鮭など中・大型漁類。その食物連鎖の頂点に立つ鯨は、オキアミなどを櫛の歯のようなヒゲで漉して食べるナガス、ミンクなどのヒゲクジラと、永久歯で魚を噛んで食べるマッコウ、ザトウなどハクジラに分かれ、双方合わせ12種類。ミンクなどはサンマ、イワシも補食します。イルカも含むと鯨類は80種以上を数えます。

 シロナガス鯨など激減

 米・英・蘭の大捕鯨国は17世紀以降、鯨油を採るために鯨を捕獲、灯油、ローソク、マーガリンの原料に利用し、残りの肉類を海洋投棄してきました。日本やノルウエーのように鯨を食用とはせず、「泳ぐ工業製品」(森下氏評)と見てきたため、百年前の1904年に始まった南極海捕鯨で乱獲が続き、20万頭いた体長30数メートル級の地球最大動物・シロナガスクジラは数百頭に、40万頭いたナガスクジラは1万8千頭に激減しました。そこで、1937年に9ヶ国参加の「国際捕鯨協定」が結ばれ、第2次大戦後の46年、米国のワシントンで憲法に当たる「国際捕鯨取締条約」を締結、48年に15カ国が署名して発効。最初の年次総会が翌49年、英国のロンドンで開かれました。これが国際捕鯨委員会(IWC)のスタートです。日本はサンフランシスコ講和条約締結前年の51年に加盟しました。IWCは50年代半ばから10年間に北大西洋、南半球全水域、北太平洋で激減したシロナガスクジラの捕獲を相次いで禁止、70年代から80年代にかけてナガス、イワシ、マッコウ、ザトウ、ホッキョク、セミなどの鯨を相次いで捕獲禁止としました。

 10年間の捕鯨停止

 IWCに決定的な影響を与えたのが72年にスウェーデンのストックホルムで開かれた国連人間環境会議です。同会議が「商業捕鯨の10年間のモラトリアム(一時停止)を」との勧告を採択したことで、グリンピースなどNGO(非政府組織)の自然保護・動物愛護団体が、食料としての鯨利用に強い批判を加えるようになり、鯨が“聖獣”扱いされるようになりました。環境保護団体に歩調を合わせ、政治的に動きだしたのが米・英・豪・ニュージーランドなどの反捕鯨国です。当時の、通貨危機の「ニクソンショック」を抱えた米国や「イギリス病」に悩む英国などは、経済成長の著しい“大捕鯨国”日本や新興工業国の躍進に脅威を感じ、資源面から成長を阻止する狙いで82年にIWCに働きかけ、ストックホルム勧告の「商業捕鯨の一時停止」を採択させました。実施は88年からでした。これを受けて日本は86年漁期を最後に南氷洋捕鯨を中止、87年漁期には千葉、和歌山など規制外の小型鯨類を除く沿岸捕鯨を中止し、その後は調査捕鯨に従事しています。

 百年間捕獲でも影響なし

 捕獲調査では、繁殖集団(系群)の分布、資源の増減傾向、性別・年齢など資源の構成――などのデータを収集していますが、これをもとにIWCの科学委員会は、例えばミンク鯨の資源状況について、「100年前の10倍近くも増えており、90年に南極海では76万頭存在し、91年にはオホーツク海・北大西洋で2万5千頭存在している。100年間捕獲しても資源に影響はない」と推定しています。IWC(加盟51カ国)は、「鯨族の適当な保存を図って、捕鯨産業の秩序ある発展」を実現することを目標に設立されました。従って、82年のモラトリアム(一時停止)採択でも、「90年までに鯨類資源について包括的な資源評価を実施してモラトリアムを見直す」との条件が付けられています。つまり「資源評価を見て捕鯨再開を論議する」との趣旨ですが、この20年近く、商業捕鯨は中止の圧力が強まる一方で、捕鯨再開のめどは立っていません。本来、モラトリアムは、「債権支払いの延期」など「執行の猶予」を意味し、調査捕鯨が終わるまでの短期間、商業捕鯨を「差し当たり中止」することであって、一時停止を継続すべき理由はありません。

 反捕鯨国が保護委設立

 年次総会は、2002年に山口県下関で、03年にドイツのベルリンで、今年04年7月には歌で名高いイタリアのソレントで第56回年次総会が開かれます。反捕鯨の強硬派は、全ての鯨を束にして保護する主張を押し通そうとし、鯨資源が豊富だろうとなかろうと商業捕鯨の再開に反対する立場です。ベルリン総会では、メキシコがリーダーとなり反捕鯨20カ国が提案した「保護委員会設立決議案」(ベルリン・イニアティブ)をめぐって激論を交わした末、賛成25,反対20,不参加1で可決されました。決議案は@本委員会(総会)の下部機関として保護委員会を設立A鯨類保護の行動計画を策定B保護のための勧告案を作成C鯨類保護を支持する政府やNGOからの拠出で特別基金を設定――などを行うほか、資源豊富な鯨類ばかりか、イルカなど小型鯨類にまで管理の対象拡大を求め、反捕鯨国が商業捕鯨の継続と見なす日本の調査捕鯨も取り止めるよう提案しました。

 反捕鯨国が保護委設立

 もちろん日本は猛反対しましたが、日本にとってもう一つの重要課題である、「沿岸捕鯨地域に対するミンククジラ150頭、ニタリクジラ150頭の捕獲枠要求」についても否決されました。こうした保護委設立決議の採択を受け、私が参加している自民党水産総合調査会水産基本政策小委の「IWC対応検討プロジェクトチーム」では、@もはや資源管理機関としての機能を果たさないIWCからの脱退AIWC分担金の支払い停止B鯨類資源管理のための新たな国際機関の設立――などの強硬意見が出されました。これらの対応オプション(選択肢)を検討するには、クジラの持続的利用原則を支持するための議員外交の展開などが望まれますが、地球環境を維持する面からも海洋資源の活用は重要です。

 人と鯨が漁場で暗闘
 
 陸地での人工的な大量飼育は、BSE(牛海綿状脳症)、鳥インフルエンザの感染状況を見ても安全性に疑念が持たれました。現在の世界人口約64億人に対し、牛、豚、羊など家畜の肉の生産量は、1億9千万トン。50年後の人口が90〜100億人になると予測した場合、家畜肉の生産量は25%増の2億4千万トンに過ぎず、食料供給の面からも鯨・魚類のタンパク質に頼らざるを得なくなります。森下氏は「クジラが増える日、魚が消える日」の小見出しで、人間とクジラが同じ“漁場”で暗闘している様を描写していますが、科学的データに基づく持続的利用の商業捕鯨を再開することが何よりも重要です。全米野生動物連盟(NWP)は会員数400万人以上の巨大なNGO組織で、米国の政治家はこの大票田をバックに反捕鯨を唱えています。だが、鯨も家畜も「愛すべき動物」には変わりありません。陸上でウイルス防止を名目に大量の鶏類や家畜が無言のまま虐殺・埋葬されている現状を動物愛護団体がどう見るか。この矛盾は当然、第56回年次総会で質すべきでしょう。私は7月のソレント総会に向けて捕鯨再開の国際世論を喚起、直訳は猶予期間でしかないモラトリアムを撤廃していきたいと考えているところです。