北村からのメッセージ

 第82回(平成16年3月1日) 6者協議は継続 拉致に制裁2法制定

 北朝鮮の核開発を巡り、2月25日から4日間、北京で半年ぶりに再開された6者(日・米・韓・中・ロ・朝)協議は、濃縮ウラン計画などで激しく応酬、共同文書作りは見送られたものの、作業部会設置と継続協議で合意し閉幕しました。拉致家族問題は予想通り、何の進展もなく日朝双方の非難合戦に終始しました。参加国は今後、総選挙(韓国=4月)、参院選(日本=7月)、大統領選(ロシア=3月、米国=11月)など、いずれも重大な政治日程を抱え、6者協議の結果如何がそれぞれの国内政局に大きく影響するため、6者協議の継続を望んだものです。我が国では参院選に向けて、拉致問題の行き詰まりに対する世論の苛立ちを背景に、北朝鮮に対する「圧力」の経済制裁を高めようとする動きが与野党双方に一段と強まってきました。私が副部会長を務める自民党内閣部会は、先の改正外為法に次いで、特定船舶入港禁止法案を議員立法で提案することを決めました。武力事態対処法案の審議もあり、安全保障問題を中心に私は益々多忙な議員活動を続けています。

 「核の放棄」VS「安全の保証」

 6者協議は一言で言うと、「核の全面放棄」を迫る日米韓と「安全の保証」を求める北朝鮮の激しい攻防で、日程を1日延長する結果となりました。米国は、北朝鮮が「完全で検証可能かつ逆行不可能(後戻りできない)な核放棄の意思」を表明するよう要求しました。つまり、核施設が集中している北朝鮮・寧辺のプルトニウムを使った開発だけでなく、存在が不明確なウラン濃縮計画も含め、軍・民の利用目的を問わず、一切の核開発計画を二度と再開できないよう廃棄することを強く求め、日韓両国もこれを支持しました。これに対し北朝鮮は、「米国の敵視政策の解消」を条件に、「核兵器計画」を放棄する考えを表明しましたが、ウラン濃縮型や「平和利用」の核開発の廃棄は明確にせず、日米韓と対立しました。北朝鮮は02年10月の米朝協議でいったんウラン濃縮計画の存在を認めましたが、その後は一貫して否定。昨秋訪問した米調査団にはプルトニウムの抽出は認めたものの、ウランの濃縮は認めず、今回の協議でも否定で押し通しました。

 「同時行動原則」で見返り要求

 しかし、パキスタン人の“原爆の父”カーン博士の副官が最近、「濃縮ウランを空輸するなど、パキスタンの核関連技術が、イラン、リビア、北朝鮮に流出している」と供述したように、北朝鮮にウラン濃縮計画が存在することは紛れもない事実です。北朝鮮は、プルトニウム型の核開発計画を凍結するのと引き替えに「同時行動原則」に立って、いくつもの見返りを求めました。それは米国が北朝鮮を攻撃しないと言う「安全の保証」と、テロ支援国家と決めつけている「敵視政策」の撤廃です。さらに経済・エネルギー支援、アジア開発銀行や世界銀行への加盟後押し、最後に米朝関係正常化など盛り沢山な要求を打診したようです。米国は、核の凍結をうたった94年の米朝枠組み合意を破ったのは北朝鮮であるとし、たとえ寧辺の施設を再び凍結したからといって安易に見返りを与えることは出来ない、との態度を示しました。特に北朝鮮が「核兵器計画」の凍結をうたうだけで「核の平和的利用」を名目に核開発を継続するのはごまかしあるとし、平和目的も含めた完全放棄を求めました。

 韓国が3段階の解決案

 韓国は中国、ロシア両国に図り、北朝鮮がウラン濃縮計画を認めるなど全面的な核放棄への意思を明確にすることを条件に、関係国が3段階に分けて実施する解決策を提案しました。解決策は、@北朝鮮が核放棄の意思を表明し、5カ国側は安全の保証を与える用意があることを表明A北朝鮮が核凍結などに着手し、国際原子力機関(IAEA)などの査察を受ける代わりに韓中ロ3国がエネルギー支援(重油の提供など)を開始B北朝鮮が完全な核廃棄を終えると同時に、5カ国が北朝鮮の安全を文書で保証、米国は北朝鮮をテロ支援国家リストから外し、米朝関係改善を進める――との内容です。日米はこれに理解を示し支持する考えを伝えましたが、あくまでも濃縮ウランを含めた完全放棄が前提でした。

 共同文書の作成は難航

 議長国の中国は、北朝鮮の反対で半年前の前回に実現しなかった共同文書をまとめようと懸命でしたが、今回も文書づくりは難航、実務レベルで検討する作業部会を設置して6者協議の継続・定例化を図るとの「議長声明」を発表するのがやっとでした。協議を総括した議長声明は@核兵器のない朝鮮半島を実現するA核問題に対処すべく調整された措置をとるB関連する懸案に対処するC協議のプロセスを継続する。次回6者協議を北京で今年6月末日までに開催するD作業部会(次席代表級)を設ける。検討テーマは外交チャンネルを通じて決定する――の5項目です。議長声明は、あくまで議長の責任で作られましたが、各国代表の署名はなく拘束力もありません。従って、日本は「玉虫色の曖昧な文書をまとめるより、議長声明の方がまし」(安倍晋三・自民党幹事長)との態度です。参加国も、自国民の関心が深い6者協議が中断すれば、3月に国会と同様の全国人民代表大会を開催する中国、同3月に大統領選のロシア、4月に総選挙の韓国、7月に参院選の日本、11月に大統領選の米国など、いずれの国の首脳も政局運営に支障を来すと判断。「協議決裂―開店休業」の事態だけは避けようと、議長声明を容認したようです。問題は日本にとって最大の拉致家族帰国の道筋が一向につかめなかったことです。

 拉致問題は進展せず

 日本は「拉致問題を核・弾道ミサイルの廃棄、経済支援、関係正常化などと絡め、包括的解決を目指す」方針を堅持して6者協議に臨みました。協議の直前に来日したボルドン米国務次官が確約したように、米国は6者協議の冒頭、「拉致問題を解決しない限り、テロ支援国家リストから外すことは出来ない」と人道的立場で日本の支持を表明しました。だが、中韓ロ3国は日朝の2国間マターであるとし、拉致への言及は避けました。このため、日本の藪中三十二・アジア大洋州局長と北朝鮮の金桂寛・外務次官との数回に渡る二国間折衝に委ねられましたが、2月11〜13日に平壌で開かれた日朝政府間交渉と全く変わらず、何の進展も見られませんでした。平壌交渉は日本側が「被害者5人の家族を帰したら、国交正常化交渉を再開する環境が整う」と提起したのに対し、北朝鮮側は「約束を裏切ったのは日本だ。まず5人を返せ」と逆襲、死亡扱いにしている10人の消息についても「解決済み」を主張して譲らなかったといいます。6者会談でもこの応酬の繰り返しだったようです。議長声明で拉致問題は、辛うじて「関連する“懸案”に対処」のくだりに含まれましたが、次回の日朝交渉の具体的日程も決まらず、拉致家族を失望させています。

 交渉継続だけが成果

 北朝鮮の有力筋がかつて、拉致者の家族8人を“人質”として「1人10億円の身代金を払えば――」と裏取引を迫った、と巷間で伝えられました。また、昨年12月に、北京で拉致議連事務局長の平沢勝栄自民党議員らと非公式折衝した際に、北朝鮮側は「拉致被害者5人が平壌に出迎えたなら、家族8人を引き渡す」案を打診したとされています。平壌交渉には、02年秋の小泉首相訪朝に道を開いた田中均外務審議官と藪中局長、北朝鮮側は金永日外務次官(中国・アジア担当)と金正日総書記の側近・姜錫柱第1外務次官(日朝首脳会談にも同席)ら実力者が出席しました。それだけに、6者協議前の平壌交渉は、拉致問題に絞って大きく前進すると期待されましたが、「出迎え案」も出ずじまい。仕方なく外務省は、@交渉継続が合意されたA双方然るべき責任者が交渉したB日朝の平壌宣言が再確認された――ことを成果に数えたほどです。6者協議も平行線をたどるだけでした。

 軍隊で恫喝の報道官談話

 北朝鮮の強硬姿勢は平壌交渉後の発表談話に明確に示されています。朝鮮外務省報道官が発表した談話は、@我が方は日本側が平壌宣言履行の意思を明らかにするよう要求A日本が最近我が方に対する「制裁」立法化など対朝鮮圧殺の試みに執拗になっていることを強く追及、強硬には超強硬で対処する立場を改めて表明<B略>C日本が6者協議で「拉致問題」を再び持ち出した場合は、我が軍隊と人民の要求通り、日本の協議参加自体を断固として拒否、全てが崩壊すると強調D我が方と交わした約束を破って、拉致被害者5人を日本に抑留していること事態が逆に拉致行為であると指摘し、死亡者問題は既に全て解明しこれ以上論議することはないと表明――と会談の中身を総括しました。人をさらっておきながら、平然と日本を「拉致行為者」呼ばわりし、「拉致問題を持ち出せば、“我が軍隊”が日本の6者協議参加を拒否」と軍隊を背景に恫喝しました。「盗人猛々しい」というか、異常・無法国家には呆れてモノがいえません。北京協議でもこの高姿勢は不変でした。

 与野党で経済制裁法成立

 こうした、したたかな北朝鮮の外交姿勢に対し、さすがの拉致被害者家族連絡会も「不誠実な北朝鮮に対し経済制裁を発動すべきだ」との怒りを高めています。2月9日の参院本会議では、日本独自の判断で北朝鮮に対する経済制裁が出来る議員立法の外国為替及び外国貿易法改正案が、自民、民主、公明などの賛成多数で可決、成立しました。一方、万景峰92号など北朝鮮船舶を念頭に置いた特定船舶入港禁止法案(仮称)も、自民党内で煮つめており、2月17日には、私が副部会長を務める内閣部会と外務、国土交通両部会の合同部会で法案要綱を了承しました。超党派の「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟」(拉致議連約190人参加、会長=平沼赳夫・前経済産業相)は、改正外為法に基づき、早期に経済制裁を発動するよう、政府に強く求めています。

 選択肢増やす新カード

 これらの2法案は、99年に自民党の山本一太参院議員ら若手議員が原案をまとめていたものです。当時は自民党内にも慎重論がありましたが、拉致被害者家族の帰国に見通しが立たないうえ、北朝鮮の無法な手口に国民が怒り、民主党議員が改正外為法案の提案者に加わるなど情勢が一変。小泉首相も「選択肢を増やすことはいいことだ」と明言するなど、対北朝鮮政策(経済制裁)の新たなカードとして備える機運が高まってきました。改正外為法は「我が国の平和と安全の維持のため特に必用がある時は、閣議で以下の措置を決定できる」とし@主務大臣が、外国へ向けた支払い、資本取引、特定資本取引、役務取引などについて許可を受ける義務を課すことが出来るA財務相が対外直接投資の内容の変更や中止を勧告することが出来るB輸出・輸入について、承認を受ける義務を課することが出来るC措置を講じた場合は20日以内に国会承認を求めなければならない――が骨子です。

 「対話と圧力」で初制裁

 政府は北朝鮮に対して「対話と圧力」を掲げてきましたが、制裁法の成立は初めてです。閣議決定で送金を許可制にしたり、輸出入を承認制にすることもできるようになります。経済制裁は従来、国連安保理や主要8カ国(G8)首脳会議など国際的な枠組みでの一致が必要とされてきました。それを政府は昨年5月、「日米2国間の合意で可能」とする新解釈を打ち出し、さらに今回は日本単独の判断で経済制裁が可能になるよう法改正に踏み切ったわけです。共産党は反対し、社民党は衆院では賛成しましたが、参院本会議では「慎重に考える必要がある」として一転棄権、弱小政党の分裂ぶりを露呈しました。政府としては、「立法と発動は別問題」と考え、制裁の発動には慎重に構えています。

 特定船舶の入港禁止も

 一方の特定船舶入港禁止法案は、@我が国の平和・安全の維持のため、特に必要がある時、閣議決定により、期間を定めて特定船舶の国内への入港を禁止できるA対象は特定の外国船籍を持つ船と特定の外国に寄港した船B閣議では、外国名、入港禁止の期間などを定めるC政府は閣議決定の告示から20日以内に国会に付議し、入港禁止の国会承認を求めなければならないD入港禁止期間が開始された際、すでに入港している船舶は出航しなければならないE違反した船長は、3年以下の懲役または百万円以下の罰金、またはその双方を科す――が骨子。民主党の菅直人代表も「(自民党の)提案があれば積極的に検討したい。(北朝鮮との)カネとモノとのやり取りをわが国のコントロール下に置くことを徹底するには、2つのカードがあった方がいい」と述べ、同法案の国会提出に前向きの考えを表明。改正外為法と同様、民主党が与党とともに議員立法の作業に参加する姿勢を見せています。

 万景峰号利用の送金に支障

 これは民主党としても、日朝間協議が進展せず、拉致被害者家族連絡会などで強硬論が続出していることから、参院選対策上、北朝鮮への強硬路線を採らざるを得ないと判断したもののようです。しかし、同党内では「北朝鮮との交流窓口は広くしておくべきだ」とする旧社会党出身議員らとの間で意見が二極分化しているのが実情のようで、入港禁止法の成立までにはまだ曲折がありそうです。いずれにしても、万景峰92号には、北朝鮮の国会議員にあたる在日の朝鮮総連幹部が頻繁に乗船したり、日本国内でモランボン系焼肉店やパチンコ店で成功した北朝鮮系の経営者が多く乗り込み、“持参送金”に利用するケースが多いというだけに、制裁発動となれば北朝鮮の財政に与える影響は大きいでしょう。

 暴発に備え武力対処に本腰を

 経済援助のストップや制裁発動で困るのは北朝鮮です。マスコミによると、近隣諸国の警戒が厳重になって、中東へのミサイルの輸出や“特技”の偽札づくり、覚醒剤の頒布などもうまくいかず、国家財政は益々疲弊しているといわれています。かつては日本の食糧援助を受けながら、日本列島越えにテポドンの発射実験で“返礼”するならず者国家のこと。「窮鼠猫を噛む」ではないが、いつ暴発しないとも限りません。報道官の談話に「我が軍隊」が登場するのを見ても、北朝鮮が日本に向けてノドンやテポドンを発射する事態は、一応想定しておかなければなりません。それには核弾頭ミサイル迎撃システムの早期構築と、先号で詳報した武力攻撃事態対処法案の早急な成立に本腰を入れねばならないと、私は肝に銘じているところです。