北村からのメッセージ

 第73回(9月16日) 秋の政局第四弾 派閥の衰退現象            

 構造改革路線を継続して再選を目指す小泉首相。積極財政出動のデフレ克服策で首相に挑戦する3候補――。経済政策を最大の争点とする自民党の総裁選は、残り4日の大詰めを迎えました。9月20日の投票に向けて4候補は激しい多数派工作を展開しましたが、第1回投票で首相が過半数を制し再選を果たすか、それとも決選投票で2位以下連合が功を奏し、政権交代となるか全く予断を許さぬ情勢です。最大派閥の橋本派が分裂選挙、わが宏池会(堀内派)も自主投票となって従来の派閥選挙は影を潜め、党員票も前回の2倍以上の300人に増えるなど不確定要素が多いためです。しかし、総裁選は日本の運命を左右する重大な選挙。切迫した内外の重要懸案をさばくには誰が首相に相応しいか、熟慮を要します。党員票は東京、茨城が10票でトップ、次いで北海道、愛知など9票、大阪、兵庫など8票の順ですが、九州では選挙人が約3万5千6百人と多い長崎が、鹿児島と並んで7票の上位を占めました。選挙区で6万票以上の支持を得た私としては、県内の党員票の行方と4候補の言動を最後まで見守り、伝統ある政権政党を維持するうえで責任ある1票を投じたいと考えています。

 経済政策で真っ向対立

 8日の総裁選告示では、届け出順に無派閥の小泉純一郎首相(61)、橋本派の藤井孝男元運輸相(60)、江藤・亀井派の亀井静香前政調会長(66)、高村派の高村正彦元外相の4氏が立候補しました。「構造改革が持続的経済成長に結びつく」(小泉)、「デフレ克服を軸足に政策転換を」(藤井)、「景気回復なくして財政再建・構造改革なし」(亀井)、「経済縮小時には大胆な財政出動を」(高村)――。4候補は告示後、記者会見で第一声を放ち、マニフェスト(政権公約)を発表しましたが、小泉首相と他の3候補は、経済政策や行財政改革で真っ向から対決する構図となっています。首相はこの中で、「改革なくして成長なし。民間に出来ることは民間に、地方で出来ることは地方に」との従来のキャッチフレーズで構造改革を継続する意欲を重ねて表明。経済政策では、「金融、税制、規制、歳出の改革を推進し、デフレ克服、経済活性化を実現。2010年代初頭にプライマリーバランス(財政の基礎的収支)を黒字化する」を盛り込み、530万人雇用創出プログラムの推進などを掲げています。

 憲法、教育基本法に触れず

 党内で抵抗が強い郵政民営化などの行政改革は公約の後段部分に移し、「郵政3事業を07年4月に民営化。道路4公団の民営化法案を来年の通常国会に提出。三位一体の地方改革を推進。年金、医療などの社会保障を持続的可能な制度に改革」と列記。党に改正案取りまとめを指示した憲法改正には一切触れず、治安、教育でも「犯罪対策を強化し世界一安全な国・日本を復活する」と強調するだけで、教育基本法改正には言及していません。これに対し、3候補は郵政、道路公団の民営化に一致して反対。景気回復策では亀井氏が「今年度に10兆円の補正予算編成。来年度から3年間は前年度比5〜10%増の予算計上。3年以内に名目経済成長率2〜3%実現」と主張。電線の地中化による公共投資増大など内需拡大の具体的目標を提示、憲法問題でも「2年以内に憲法改正試案を策定、3年以内に国民投票を実施」と踏み込み、高速道の夜間無料化にも言及しました。藤井氏も、速やかに名目経済成長率3%を実現し、力強い製造業再生のため首相直属の「製造業再生本部」設置を提言しました。高村氏は「2年以内に株価を小泉政権発足時(約1万4千円)まで回復。3年以内に治安の危機克服。5年以内に国連常任理事国入り」など具体的年次を掲げ「経済と治安の安全」を強調。株価回復が出来なければ責任をとると明言しました。

 3候補は消費税引き上げ

 3候補は記者会見で、保険料負担軽減のための基礎年金の国庫負担割合引き上げに関し、その財源として消費税の社会福祉目的税化や、将来的な消費税引き上げに言及しましたが、「在任中は消費税を引き上げない」としている首相は、具体的な改革像は示していません。名目経済成長率についても、首相は「経済財政諮問会議で、06年には2%を上回る見通しを立てている。これが小泉内閣の目標だ」と延べ、あえて公約に触れる必要がない点を釈明しました。前回の総裁選で公約した「新規国債発行を30兆円以内に抑制」が守られなかったのに懲りて、慎重姿勢に転じたものと見られます。いずれにせよ4候補は告示後、数多くのテレビ討論会や全国行脚、電話戦術で党員票獲得の火花を散らし、4年ぶりに本格的な総裁選を戦っています。マスコミの多くは緒戦段階で、党員票(300票)、国会議員票(357票)ともに、首相が優位に立ち、過半数を制するだろうと報じています。

 首相優位とマスコミ報道

 読売によると、小泉陣営は、出身派閥の森派59、青木幹雄参院幹事長ら首相支持の参院橋本派40、山崎派27、小里グループ14、河野グループ9、無派閥9、非主流派からも、堀内派14、衆院橋本派8、江藤・亀井派1、高村派1の計182人で過半数の179票を上回ると予想。党員票でも首相の優勢は38都道府県を数えると予測しています。これは党所属国会議員と47都道府県連役員を対象にアンケート調査を実施、国会議員の回答率は57%といいますが、回答のほかに匿名を条件に取材に応じた議員を含めると、主流派(森・山崎両派、小里グループ)はもとより、参院橋本派、河野グループの大勢が首相を支持、自主投票の堀内派や衆院橋本派の中からも具体的な支持者名が浮かんでおり、確度の高い調査結果となっています。その背景には、派閥の弱体化と間近い総選挙を戦う“顔”として国民人気が高い首相に期待を寄せる議員心理が強く働いた、といえましょう。

 野中氏「捨て身の戦略」

 小泉退陣を迫る猛将の野中広務元幹事長は9日、小泉有利の情勢に対し、「自らの退路を断って、我戦うべしとの決意をした」と宣言、政界引退を表明しました。鉄の規律を誇ってきた田中―竹下派の流れを汲む橋本派幹部の青木氏が首相の推薦人になり、会長代理の村岡兼造元官房長官が首相支持を表明したことに激高、捨て身で戦う決意を表明したものです。政治記者は「“カネと数は力なり”の田中角栄元首相の意向を受けて党内最大派閥を形成、歴代内閣のキングメーカー的役割を果たしてきた橋本派の副会長として我慢出来なかったようだ」と解説しています。かつて身内同士が激しく争い切磋琢磨した中選挙区制は小選挙区制に移行し、政治資金集めを競い合った派閥領袖も政治資金規正法の強化で資金力が消滅。カネとポスト配分を武器に総裁選を戦ってきた領袖の派内求心力は薄れました。逆に2大政党が政策を対立軸に競い合う小選挙区制のもとでは、党公認や閣僚ポスト割り振りで党執行部の権限が強まり、派閥はますます融解しつつあります。わが派最高顧問の宮沢喜一元首相は「これは政治浄化が進んだと認めるべきだ」とテレビ番組で述懐されました。実際に派閥政治は急速に衰退し、内閣支持率が政権浮揚の源泉になっています。

 決断と憑きの首相

 中曽根康弘元首相は同じくテレビ対談で「小泉君は決断力と憑き(運)があり、これをイラク戦争や北朝鮮問題でうまく生かしたが、透徹した国家像や長期政策路線がない」と批判しました。確かに昨年の日朝協議再開や今春のイラク戦争支持の決断などで内閣支持率は好転し、決断外交を評価するブッシュ米大統領との仲は緊密です。大統領はバンコクでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)に向かう途中の来月17日に来日しますが、丁度日本は総選挙の真っ最中と見られ、首相にとっては強力な選挙応援になるでしょう。GDP(国内総生産)は上向き、株価が回復基調にあるなど色々の運がついています。しかし、GDPの上方修正は、4〜6月期にたばこ値上げに備えた一時買い占めや新型肺炎(SARS)の流行で海外旅行が国内旅行に切り替わった結果、消費が増えたと見られます。総裁選のお祝儀となった株価も回復傾向の米国経済に連動して上昇、米国の機関投資家が日本市場の底値に投資し、利ざやを稼ごうとしたまでとの見方があり、首相の憑きが本物かどうか分かりません。

 選挙は最後の5分

 我が宏池会の堀内光雄会長は「竹中金融改革は弱肉強食の経済政策だ」と酷評しましたが、不良債権ルールを厳しくするハードランニング(強硬着陸)路線を採った結果、中小企業は軒並み倒産し自殺者が続出する一方、りそなホールディングスに巨額の公的資金を投入するなど大企業優遇の姿勢を強めています。財界も首相のマクロ経済政策に修正や転換を強く求めていますが、大企業との格差が広がった瀕死の中小企業や疲弊した地方経済の不満は大きく、地方党員票の行方は蓋を開けてみなくては分かりません。左藤栄作元首相は選挙の度に「火事は最初の5分。選挙は最後の5分が勝負です」と遊説していました。激しい攻防の中で、野中氏の「捨て身の戦略」が特定郵便局長会など地方の職域団体を動かして党員票の過半数を抑え、国会議員票も伯仲すれば、決選投票での「2位以下連合」は現実味を帯びてきます。仮に首相が敗れた場合、前回のHP で述べたように総辞職でなく解散に打って出るか。それは得票数によると思いますが、党分裂、政界再々編の重大な局面を迎えます。また総裁選の直後には党役員人事・内閣改造、臨時国会召集、解散・総選挙が控えています。私は天下の情勢をしっかり分析し、国民が幸せになる政権と政治体制を選択したいと念じています。