北村からのメッセージ

 第72回(9月1日) 秋の政局第三弾 勝敗左右する党員票            

 自民党内は9月8日告示、同20日投票の総裁選に向けて、攻防が一段と激化しています。小泉首相は“ワンフレーズ・ポリシー”の家元らしく、政権公約(マニフェスト)をA4版1枚にまとめて配布、各地のタウンミーティングや外遊先でもパフォーマンスを繰り広げ、国民人気をあおり立てています。これに対し非主流派は、「首相の公約は旧来の郵政民営化、道路4公団の民営化、地方財政改革の“枝葉”だけで、めぼしい政策がない」と政策転換を迫り、統一候補擁立の詰めに入っています。しかし、最大派閥百人の橋本派が1枚岩でなく、かつての“三木降ろし”で非主流派が結束を見せた挙党協のような勢いはなく、取りざたされる候補はいずれも「帯に短し―」で、対立候補は絞り込まれていません。ただ、党員300票の支持母体である職域団体の大樹(特定郵便局長OB組織)、日本医師会、軍恩などがアンチ小泉色を強めており、総裁選は全く予断を許さぬ状況です。

 地方・職域組織は反発

 首相に近い中川秀直国会対策委員長は8月中旬のテレビ報道番組で、首相の獲得党員票予測について、「期待値を含めて5分5分だと思う」と控え目な見通しを述べました。自民党員約162万人の半数程度は業界団体が作る職域支部に所属しており、前回の総裁選では、その職域党員票が雪崩を打って小泉支持に流れ、小泉政権誕生の原動力になりました。しかし、2年前、小泉改革を熱烈に支持した中小企業、農業などの地方党員は、貸し渋り、貸し剥がしをもたらした金融政策や、デフレ不況による地方経済の疲弊に苦しんでいて、今回は反発する姿勢を強めています。出馬に意欲を見せる亀井静香前政調会長は「2年間、地方を痛めつけた小泉首相を支持する人はいない」と豪語していますが、千葉県議の大半が亀井会長を総裁に推す決議に署名、亀井氏を支援する新潟県議の会が発足、宮崎県連が首相再選不支持を申し合わせる――など各地で反転攻勢の機運を高めています。

 頼りは青木参院幹事長

 これが中川氏の予測の底流にあるのでしょう。前回のホームページで解説したように、党員票の扱いは今回の総裁選から大きく変わりました。前回は47都道府県ごとに3票ずつあった地方票(計141票)を、予備選で勝った1位の候補が各都道府県の持ち票を総取りしていましたが、今回の党員票は300票に増え、しかもドント(比例配分)方式に変更されました。これでは首相の有力票田でも総取りは難しく、党員票は分散されそうです。首相の頼りは、「人心一新の内閣改造」など条件付きながら、小泉再選支持に傾いている橋本派の青木幹雄参院幹事長です。青木氏は、業界団体の支援で当選してきた参院比例代表議員のボス的存在。橋本派に属する参院議員42人のグループリーダーであり、同氏周辺の結束が固いことから、首相は青木氏の業界団体への影響力に期待を掛けています。

 小泉人気作りに走る

 だが、全国ネットワークの大樹は首相の郵政民営化方針に強く反対、日本医師会も小泉政権の医療政策を批判する声明文を出すなど反発しており、党員票の行方は全く読めない状態です。それだけに、首相は総裁選のイメージ作りに懸命です。「党員票の動向は、国民の支持傾向と変わらない」とばかり、初めて広島、長崎の原爆忌に参列。全国高校野球選手権大会にも初参加し、始球式で練習した成果のストライクを投げ込み、その合間に中小企業の視察や、閣僚と国民が討論する各地の「タウンミーティング」に出席。外遊にはホンダ製のロボット「アシモ」大使を連れ、蝶ネクタイ姿でオペラの「タンホイザー」を鑑賞するなど、得意のパフォーマンスでマスコミへの露出度?を高めました。近く発表する政権公約も「字が多いのはダメだ。見やすく1枚紙に収めろ」と指示、キャッチフレーズを並べたような内容と見られています。「小泉人気」で高い内閣支持率を維持すれば、一般党員の支持も獲得できると踏んでいるからでしょう。

 小泉支持の堀内会長

 首相のトレードマークとなっているのが、財界や、マスコミが支持する郵政民営化。郵政のドン・野中広務元幹事長を抵抗勢力の“敵役”に仕立て上げて、国民の関心を引きつける算段です。当の野中氏はこうした首相サイドの挑発には乗らず、首相と堂々戦える対抗馬をひそかに擁立しようと画策しています。統一候補の具体名はまだ不鮮明ですが、告示の8日までには絞り込むでしょう。複数候補が出る場合でも、決選投票に持ち込めば2,3位連合が可能となるため、亀井氏擁立の江藤・亀井派は、独自の政権構想をまとめつつあります。経済政策転換を条件に首相支持を表明した“融和派”の堀内光雄総務会長は「党を二分する戦いは避けるべきだ」と、統一候補を辞退し、首相支持を表明しました。保守本流のわが宏池会が党の混乱回避に動くのは当然ですが、堀内会長は、首相が外遊先で「政策転換はない」と述べたことには失望しています。代わって丹羽雄哉元厚相(堀内派会長代行)や高村正彦元外相(高村派)、藤井孝男元運輸相(橋本派)らが首相の対抗馬に浮上しました。だが高村派は16人の小派閥。立候補に必要な推薦人20人を集めるにも苦労しています。ともあれ総裁選の熱気が、総選挙に相乗効果を生むものと私は期待します。

 信念居士のDNA

 最近の首相は、祖父の小泉又次郎元逓信相に似てきたといわれます。又次郎氏は、民政党の幹事長も務めた昭和初期の政界の重鎮。長い間、普通選挙運動を推進し普選法の成立にこぎ着けた功労者です。言い出したら一歩も引かない信念居士。その粘りは、小泉首相の郵政民営化にかける執念となってDNA(遺伝子)に引き継がれ、首相の血を騒がすようです。又次郎氏は“入れ墨大臣”として有名でした。こんなエピソードがあります。横須賀の鳶職の長男に生まれた又次郎氏は、軍人になりたくて家出したが、父親に連れ戻されて鳶の跡取りを命じられた。「親に忠孝を尽くすには軍人に採用されない体にすることだ」と、背中に倶利伽羅もんもんの入れ墨を彫り込んだが、結局、家業を継ぐのが嫌で再び上京。東京市議や地元の県議などを経て中央政界に進出、活躍した――というものです。

 総総分離で解散?

 入り婿の父・純也氏は温厚な人で元防衛庁長官でした。“信なくば立たず”“小泉懇談にオフレコなし”と記者団にいい続けた首相の信念貫徹の性格は、隔世遺伝によるものでしょう。怖いのは、相変わらず「劇場政治」を心がける首相が、総裁選に敗れた場合、総辞職しないで、解散権の行使で対抗する意向を示唆したことです。これは政党政治の常道に反し、党分裂を意味します。総総分離(総理・総裁分離)論は首相の恩師・福田赳夫元首相が総裁選で大平正芳氏に敗れた時からしばしば登場、その黒幕が小泉首相といわれています。首相は数ヶ月前に石原慎太郎都知事と会談した際にも“総総分離の解散”に言及したようですが、信念居士が「最後に信を問うのは国民」と決意している以上、ブラフ(脅し)でなく、総裁選の勝敗にも関係なく、10月解散は確実でしょう。総総分離選挙なら、自民党は11月総選挙を分裂選挙で戦い、政界再々編をかけた激しい決戦場となります。

 公選法改正提案も

 政治記者は「その場合、都知事が鞍替え出馬をするかは別としても、石原新党が結成され、50議席ぐらいを確保するのではないか」と警告しています。再々編となれば自公保の連立政権が維持できるのか、友党の公明党にとっても深刻な事態です。亀井氏は、公明党の期待する中選挙区制を都市部に一部取り入れた公選法改正案を次期通常国会に提案する考えを示しています。公明党幹部と親しい野中氏も様々な形で公明党に秋波を送っているようです。来年夏の衆参同時選挙を嫌う公明党が亀井提案に応じることはなさそうですが、総裁選の攻防は他党も巻き込んで熾烈になってきました。このように波瀾万丈の総裁選とそれに続く激動政局ですが、私はどのような異変が起きようとも、国政を預かる1人として、政治状況を細かく見極めて的確な判断を下し、全力投球したいと考えております。