北村からのメッセージ

 第71回(8月16日) 秋の政局第二弾 首相が闘争宣言            

 遅い梅雨明けながら、水銀柱は鰻登り。熱中症で多くの人がダウンするなど、日本列島はヒート・アイランド化しました。どうか皆さんもお元気で猛暑を切り抜けて下さい。東電の原発4基が再稼働したとはいえ、関東の電力は最大需要を日に日に更新、停電・首都機能の麻痺が心配されています。それ以上に熱い戦いが展開されているのが永田町です。小泉首相が国会閉幕後、挑発的な「闘争宣言」を発したことに、自民党非主流派は怒り、総裁選で決選投票に持ち込めば、2,3位連合も可能として、懸命に対立候補の擁立を図っています。これに対し、首相は総裁選に敗れても「解散権を行使して、国民に信を問う」姿勢を示唆し、国民の高い支持率に期待を掛けています。確かに、間近な総選挙の「顔」を誰にするかは、総裁選の選択肢では大きな要素です。一方、9月末に自由党を吸収合併することに決めた民主党内では、「小沢氏にひさしを貸して母屋を乗っ取られる」不安が高まり、選挙協力の調整が難航しているようです。今回は秋の政局第二弾を取り上げました。


 郵政民営化の一本槍

 前回は、中央公論8月号のインタビューで、首相が“踏み絵”発言をし、党内に波紋を描いたことを紹介しましたが、通常国会閉幕後の記者会見でも首相は、「勝った総裁の公約が党の公約にならないなんてばかげたことだ」「2年間目標を掲げ、ようやく芽が出てきた段階でつぶせ、という政策転換を求める動きには断固戦う」「挙党態勢を取るとき、私の進める改革に賛成してくれる人たち、グループ、政党の結集を図る内閣改造は必要だ」と相変わらず“踏み絵”的発言を繰り返し、07年4月に郵政民営化、道路関係4公団民営化、地方の「三位一体改革」など、構造改革路線を公約に掲げる意向を重ねて表明しました。これは、党内の抵抗勢力を挑発して対決構図を鮮明にし、世論の支持を得ようとする戦略に基づくもので、非主流派からは「闘争宣言」と受け取られています。首相は95年に橋本龍太郎氏を相手に総裁選に初チャレンジした時も、98年に小渕恵三氏に敗れた時も、01年に橋本氏を破った総裁選でも、掲げた公約は郵政民営化の一本槍でした。

 旧田中軍団との怨念試合

 そこには、郵政事業や道路事業を自派の金城湯池に育て上げた田中角栄元首相の系譜を引く竹下派(経世会)―橋本派に対する対抗意識があります。日経新聞は、「首相は30年の政治生活の前半を、田中氏との“怨念の戦い”を続けた福田赳夫元首相の下で過ごしてきた」と首相が挑発する理由を分析しています。マスコミが指摘するように、02年の総裁選でも派閥政治や族議員政治をやり玉に挙げ、最大派閥の橋本派などを「抵抗勢力」と切り捨て、国民の喝采を浴びました。これが忘れられず、今回も2匹目のドジョウを狙ったことは間違いなさそうです。首相の闘争宣言に対し、郵政のドン・野中広務元幹事長は「挙党一致とはいえない。議会制民主主義も議院内閣制も完全に否定した言い方だ。一国の首相が自ら提案した(郵政事業公社化)法律を葬るなど、国会の審議権にかけて容認できない」と批判。経済政策の転換を条件に首相の再選を支持する考えを示す堀内光雄総務会長も、「親の心子知らずというが、子の心親知らずもあるんだな」とこぼしています。

 橋本派の三人が意欲

 橋本派ながら堀内会長と同様“融和派”で、大幅な内閣改造による挙党態勢の確立を求める青木幹雄参院幹事長は「断固戦うというのはおかしい。あんまり挑発的なことをいわない方がいい」と不快感を示し、橋本派の会合では「郵政関連法案は参院で通さない」と断言。首相に対しても「子羊のようにおとなしくしてもらわないと困る」と直言しました。野中氏は首相の挑発を逆手にとって、自派内の独自候補擁立を進める考えに傾いたようです。既に、橋本派からは藤井孝男元運輸相、笹川尭元科学技術相、熊代昭彦氏の3人が名乗り上げ、笹川、熊代両氏は出馬の意思をまとめたパンフレットを党内に配り終えました。笹川氏は郵政政務次官当時、時の小泉郵政相と対立して辞表を提出した経歴の持ち主で、郵政民営化の強い反対論者です。無派閥では若手の渡辺喜美氏が出馬を表明。このほか派閥領袖クラスでは、亀井静香前政調会長、河野洋平元党総裁、堀内総務会長、中堅ベテランでは麻生太郎政調会長、平沼赳夫経済産業相、高村正彦元外相、若手では野田聖子元郵政相、小坂憲次前総務副大臣、塩崎恭久氏ら全体で10人以上の名が浮かんでいます。

 2、3位連合で決選投票

 01年の総裁選での党員票の「勝者総取り方式」は今回、各候補の得票数に応じた「比例配分(ドント)方式」に変更され、各都道府県3票の計141票から300票に増やされ、一候補の地滑り的圧勝は望めなくなりました。前回は党員票で圧勝した小泉首相の得票を見て、直前に亀井氏が立候補を辞退しました。しかし、今回は第一回投票の土俵が変わって、19日の党員投票は20日の国会議員投票と同時開票になるため、党員票の帰趨がつかめないまま356人の国会議員投票が別個に行われます。第1回投票で党員票を含めた投票総数が過半数に満たない場合は、決選投票に持ち込まれます。その場合、国会議員だけの投票となるため、石橋湛山内閣と同様、2,3位連合で倒閣が可能となります。前回のホームページでは、麻生、平沼、高村3氏の立候補は可能性が薄いと伝えましたが、告示前に対立候補が、2、3位連合の含みで絞られてきた場合は、3氏への出馬要請も党内で強まると見られます。地方党員票の行方次第で、今後の展開は流動的といえましょう。

 結束が緩んだ橋本派

 問題は、野中氏の“主戦派”、青木氏の“融和派”に割れているように、鉄の規律を誇ったかつての田中軍団・橋本派の結束が緩んでいることに加え、党内には「選挙の顔」として小泉人気にあやかろうとする若手の期待感が強いことです。小泉首相はこの辺の事情を十分読んで挑発的な行動に出たようですが、これに非主流がどう陣立てを構築するか。総裁選告示の9月8日まで党内の駆け引きは続くと思われます。野党側も、小沢一郎党首が自由党を解党して民主党に合併することを決め、菅直人民主党代表と“二人三脚”の全国遊説を続けています。しかし、民主党内の旧社会党系議員の間では、「小沢氏は1兵卒として働く、などと殊勝なことをいいながら、その実、鳩山由紀夫前代表らと組んで最大派閥を形成、党内を引っかき回すのではないか」と警戒を強めています。両党が競合する選挙区は30前後もあり、選挙区調整は難航しているようです。いずこも同じ熱い夏です。