北村からのメッセージ

 第69回(平成15年7月16日) 健康守る食の安全 農水など組織改正

 10月解散、11月総選挙――。小泉首相は9月下旬の総裁選直後に臨時国会を召集、テロ特措法改正案を早期に成立させて国会解散を断行する腹を固めたようです。自民党非主流派が抵抗した総裁選前倒しは諦めたが、株価が一時1万円を回復して景気が上向く兆しにあり、依然高い内閣支持率を維持し「選挙の顔」として党内若手の期待を集めていることが首相を強気にさせています。10月10日(大安)解散、11月9日(先勝)か16日(友引)の総選挙が有力視され、解散風は強まるばかり。私は終盤国会で、連日開かれた衆院イラク特別委員会でイラク復興支援特措法の早期成立に尽力したほか、既に有事3法制、食品安全関連5法、改正食糧法などの成立に貢献してきました。いずれも国民の生命・財産と健康を守り、食糧安全保障を重視した政治の基本となる法制です。風雲急を告げる中にも身を引き締め、国家の繁栄のため全力投球しています。さらにご支援下さい。

 食品安全委を創設

 政局展望は次回以降に送り、今回は食の安全について皆さんとともに検討しましょう。

 7月1日から食品安全の5法が施行され、内閣府に「食品安全委員会」(委員長=寺田雅昭・元がんセンター総長)が創設され、農林水産、厚生労働両省も、食品に関する規制・監視機能を強化する組織再編を行いました。BSE(牛海綿状脳症)発生を契機に急速に高まった行政に対する不信や不安を一掃するのが狙いです。この問題は何度も私のホームページで取り上げましたが、英国がBSE発生を確認したのは1986年。人への感染の可能性が指摘されたのは96年春ですが、日本では感染源とされる肉骨粉の規制が行政指導にとどめられました。当時、農水省の審議会では「法規制すべきだ」との意見が出ていたのに法的規制は見送られました。01年9月、国内初のBSE感染牛の発見を公表して以来、牛肉への不安から売り上げが落ち込むなど、わが国はBSE騒動に揺れました。

 相次ぐ食品の不祥事

 02年1月に雪印食品で、2月には食肉卸大手のスターセンで食肉偽装事件が発覚、3月には「全農チキンフーズ」の鶏肉偽装事件が発覚しました。このため同年4月に、対応を検証するBSE問題調査検討委員会が出した報告書では「重大な失政」と指摘し、食品への危険性を評価する審議会的な部門を、役所の影響力がない独立した機関とするよう提言。これが食品安全委の発足に繋がったものです。その後も、ダスキンがチェーン店「ミスタードーナツ」で使用禁止の食品添加物を肉まんに使用して販売(同5月)、協和香料化学が無認可添加物使用で商品を自主回収(同6月)、残留農薬問題で、中国産冷凍ホウレンソウの輸入自粛を要請(同7月)、食肉最大手の日本ハムの食肉偽装事件発覚(同8月),牛肉偽装事件で日本食品社長ら逮捕(同11月)など、昨年は毎月のように食品をめぐる不祥事が相次ぎました。今年に入っても、長崎県がホルマリンの消毒液を養殖に使ったトラフグに出荷取りやめを指示するなど、食の安全に対する国民の関心は、いやがうえにも高まっています。

 牛肉履歴管理法も成立

 このため、今国会では5月に、有害物質が検出された場合、流通禁止を可能とする改正食品衛生法を成立させたのを初め、6月には牛肉履歴管理(トレザビリティ)法など食品関連5法を成立させました。これを踏まえ、農水省は「食の安全・安心のための政策大綱」を6月20日に発表。7月1日付で「消費・安全局」を新設、これまで産業振興対策と共に運営されてきた消費者・食品安全行政を分離・強化し、食品分野のリスク管理を専門に担当させる体制に変更しました。同時に地方機関では、食糧事務所(9事務所38分庁舎)を廃止、今後は地方農政局(7ヶ所)の下で、食品のリスク管理や食糧の安定供給などを担う「地方農政事務所」(39ヶ所)に再編されました。また、6月末に廃止の食糧庁が担ってきたコメ政策などは、総合食糧局内に設置の「食糧部」に引き継がれました。厚労省も医薬局、食品保健部をそれぞれ「医薬食品局」、「食品安全部」に衣替えし、リスク管理体制を強化しました。政府の「骨太の方針=第3弾」でも「人間力を養う柱とし、食の安全・安心確保の基礎となる『食育』を関係行政機関の連携の下、全国的に展開する」ことが盛り込まれています。

 両省の縄張り争い排除

 食品の安全はこれまで、添加物は厚労省、家畜の飼料は農水省と役所の縄張りが厳然としてあり、それぞれの審議会で対象物の安全性を審査し、規制を行うかどうかの判断を下し、実際に規制や検査を行うのは両省でした。このため、規制が関連業界に及ぼす影響を懸念するあまり判断が偏ったり、時間がかかり過ぎるなど、消費者に不利益をもたらす恐れも多分にありました。そこで、新設の食品安全委は、食品が健康に及ぼす影響を科学的に判断する「リスク評価」を行い、各省庁に対し強制的に対策を取らせることが出来る勧告の権限を持たせました。このように、役所の審議会答申とは異なり、独立性の強い機関です。メンバーは公衆衛生学や微生物学などの専門家7人で構成、関係省庁からの諮問や、独自の判断で食品が健康に与える影響を評価します。委員会は原則公開で、純粋に客観的な判断を行い、評価に基づいて省庁に対策を勧告、その対応を監視します。専門的事業は、その分野に詳しい専門委員200人で構成する専門調査会が調査・審議を担当します。

 クローン牛の「リスク評価」

 一方、具体的な検査や規制などの「リスク管理」は農水、厚労両省というように役割分担を明確にしているのがこの制度の最大特徴です。厚労省の審議会も3つの部会が廃止され、リスク評価は安全委の勧告に委ねることになりました。だが、安全委には消費者代表が含まれず、事務局スタッフ54人のうち、農水25、厚労15と40人が両省からの出向者で占められ、行政の影響力が完全に払拭されたとはいい切れません。我々国会議員は、BSE事件で懸念されたような関連産業との官・業癒着が再び起きないよう、十分な監視を続けたいと考えています。安全委でまず予想される諮問内容は、体細胞を使ったクローン牛の肉や牛乳の安全性でしょう。クローン牛は現在、研究機関で実験的な飼育だけが行われ、市場への出荷は自粛するよう指導されていますが、これまでの内部検討では、両省ともに「安全」との結論を出しています。食用のゴーサインが出れば一挙に食卓に出回ることが予想されるだけに、安全委のリスク評価は慎重に進めなければなりません。

 牛肉に個体識別番号

このほか、読売新聞によると、農水省は安全委に、トラフグ養殖のホルマリン消毒など動植物医薬品、家畜に与える飼料の添加物、農薬の安全性について諮問、厚労省もBSEの病原体がたまる可能性がある牛の背骨の取り扱いや、食品中に残留するカドミウムや水銀の許容量の設定などを諮問する方向だと伝えています。また、牛肉履歴管理法の制定により、生産地や流通経路など牛肉の戸籍を消費者に分からせる「トレザビリティー(追跡可能性)」制度の準備が、12月の同法施行に向けて急ピッチに進められています。これも読売は、「国内で生産、販売される牛肉に10桁の『個体識別番号』の表示が義務付けられ、デパートやスーパーなど小売店の店頭では、値札や包装パックなどに表示される。焼肉店やステーキ・レストランなど外食店でも、メニューやレジなど客に分かる場所に明示しなければならない。消費者や取引業者は、識別番号をインターネットで検索すれば、その牛肉がいつ、どこで生産され、どんな経路をたどってきたかなど、生産・流通経路が一目で分かる」と解説しています。

 最高30万円の罰金

 生産者は、子牛が生まれると、出生年月日、品種、雌雄の別、生産者の住所・氏名、飼育施設の所在地、母牛の個体識別番号などを国に届け出ます。同時に子牛の両耳には、発行された識別番号をを記した耳標を装着し、牛を業者に売り渡せば、販売先を届け出させ、食肉の処理・卸売業者にも、識別番号の表示・伝達を義務付けるという徹底した追跡記録を整備することにしています。独立行政法人の家畜改良センターは、既に全国で飼育されている450万頭の生産地情報を収集済みですが、牛の戸籍をもとに「個体識別台帳」を作り、牛ごとの情報を記録・管理する方針です。ただし、輸入牛肉は個体識別番号の対象外に置かれるなど、なおも課題は残されています。農水省は届け出が正しく行われているかどうかを調べるため、随時立ち入り検査を実施。表示を怠っていたり、記録に誤りがあれば、最高30万円の罰金を科すことにしています。

 業界モラルも十分チエック

 このように厳格な追跡手法により、牛肉の不安は大幅に改善され、食品安全委の厳正なリスク評価により、他の食品の安全も確保される見通しになりました。衆院農水委員会の1員として私は、これらの制度運用が満足できる結果をもたらし、牛肉偽装事件のような業界のモラル低下が再発しないよう、今後も十分にチエックしていきたいと念じています。こうした食の安全を図る制度とは別に、梅雨から盛夏にかけては、食中毒がはやる季節。SARS(新型肺炎=重症急性呼吸器症候群)が突然、世界で猛威を振るったように、新種の得体の知れない細菌・ウイルスやサルモネラ菌などが茶の間に忍び込まないように、皆さんも食生活にはくれぐれもご留意し、快適な夏をお楽しみ下さい。