北村からのメッセージ

 第66回(6月1日) 有事法制衆院通過 会期延長で駆け引き            

 有事関連3法案は5月15日の衆院本会議で可決、参院に送付され今国会で成立の見通しとなりました。防衛庁制服組による「三矢研究」から40年、福田内閣が正式に検討を始めてからでも26年経過し、ようやく有事法制が日の目を見ることになります。小泉首相は「かつて安保問題で国論を二分していたことを思えば、隔世の感がある。今日は記念日だ」と、民主党との法案修正協議が妥結した日に喜びました。確かに、同法案は衆院本会議で与党3党に民主、自由両党が加わり、全議席の9割という賛成多数で可決されました。冷戦下では保革対決時代の反安保・自衛隊違憲論争などで野党の抵抗が激しく、長年タブー視されてきた有事法制論議でしたが、これが成立することはまさに画期的な出来事です。最重要法案が決着したことで、終盤国会はイラク復興・安定化支援法案、テロ対策特措法の期限延長改正案の扱い、これと微妙に絡む国会の会期延長問題に絞られています。いずれも私の所属する衆院安保委員会の課題であり、大いに汗を流したいと思っています。

 三矢研究時と同じ緊張

 三矢研究の正式名称は、「昭和38年度統合防衛図上研究」で38に「三ツ矢」の字をあてたもの。朝鮮半島の有事を想定し、自衛隊の運用や必要な手続きなどを図上研究したものです。その2年後の昭和40年(1965年)2月に衆院予算委で旧社会党議員が暴露、「シビリアンコントロール上、問題だ」と大きな論争に発展しました。防衛庁の正式な有事法制研究は昭和52年(77年)の福田内閣の時からです。「国民の生命、財産を守る」のが政治の基本なら、安保体制の堅持と有事法制は法治国家に不可欠なもの。“普通の国”でも法制整備は国家的使命です。それを冷戦下で平和ボケした野党は反戦平和を唱える知識人らと呼応し、有事法制をタブーし続けてきました。しかし、時節は再びめぐって、三矢研究の当時と同様、朝鮮半島は再び緊迫の度合いを深めています。冷戦の終結、アフガニスタン戦争、イラク戦争、北朝鮮の核危機などで日本の安保環境は激変しました。

 野党合意は初のケース

 世論調査でも小泉政権の安保政策に国民は50%前後の高い支持率を与え、先の統一地方選では有事法制反対の共産、社民両党が敗退しました。前国会の継続審議が嘘のような民意の変わりようです。とりわけ野党第1党が安全保障絡みの重要法案で修正合意に応じたのは初めてのケース。集団自衛権論議にも好影響を与えそうで、真に喜ばしい限りです。

 有事関連3法案はマスコミが詳細に報道しているので簡潔に触れますが、武力攻撃事態法案、自衛隊法改正案、安全保障会議設置法改正案の3本で構成されています。武力攻撃事態法案は、日本が武力攻撃を受けたり、攻撃が予測された場合、首相を長とする対策本部を設置し、自衛隊の活動内容、政府と地方自治体の役割分担を定める対処基本方針決定までの手続きなどを盛り込んでいます。自衛隊法改正案には、防衛出動命令前でも、防衛庁長官は首相の承認を得て陣地構築の命令が出来、都道府県知事は自衛隊が使用するために民間家屋の形状変更が出来る、としています。安全保障会議設置法改正案は、有事に備えた調査・研究をする「事態対処専門委員会」を同会議に設置することにしています。

 1年内に国民保護法制

 与党3党と民主党の修正協議では、民主党が求めていた人権への配慮を踏まえ、「憲法14,18,19,21条そのほかの基本的人権に関する規定は最大限尊重されなければならない」などの文言を追加し、「法の下の平等」「表現の自由」など個別の人権を挙げて各条を明記したほか、
@ 武力攻撃事態法案のうち地方自治体への首相の指示などを定めた14,15,16条を国民保護法制の施行まで延期
A 緊急事態への対処組織の在り方を検討
B 国会の議決で政府の対処基本方針を終了させることを可能とする――などの規定を盛り込みました。Aは民主党が強く主張したもので、有事やテロ、災害も含めた「緊急事態対処基本法」の制定や、緊急事態に一元的に対処するための「危機管理庁」設置構想です。

 与党は「行革に反する」と難色を示していましたが、「緊急事態対処基本法を真摯に検討し、速やかに必要な措置をとる」との覚え書きを交わし、法案の付則に「検討を行う」ことを明記し、民主党の顔を立てました。さらに、「法施行後2年以内」としていた国民保護法制については、1年以内に整備することを付帯決議に取り入れました。

 法治国家に相応しく整備

 国の安全と国民の生命、財産を守る有事法制は独立国家、法治国家としては当然の責務。共産党や社民党は従来から「戦争準備の法律だ」「人権が制限される」と反対し続けてきましたが、日本の軍国主義復活を警戒してきた中国ですら日本の有事法制整備には理解を示しています。三矢研究は「有事法制がなければ自衛隊は超法規的に行動せざるを得ない」として研究を始めましたが、超法規なら人権侵害などは念頭にもありません。防衛庁の制服組には法治国家に相応しい法制を整備する意欲があった点は評価すべきでしょう。ただ、当初は仮想敵国を旧ソ連とし、北海道侵攻の防衛を中心に検討されていたことから不備な点も多く、今回の法整備では国際情勢の変化、近代戦争にマッチするよう多くの検討が加えられました。マスコミは「野党共闘を崩す狙いの妥協的修正」などと報じていますが、与野党の垣根を超えて安全保障の重要法案が成立することは日本政治にとって大成果です。

 イラク支援法案で大幅延長

 今後も野党の意見も入れ、政府与党で1年以内に短縮された「国民保護法制」や「危機管理庁」の設置などを引き続き検討していきますが、私は有事法制成立を弾みに野党の合意を得て、国家繁栄の礎となる安保関連法案を数多く成立させたいと念じています。

 終盤国会は有事法制の成立見通しでヤマを越したものの、りそなグループへの公的資金注入などで資産デフレ対策が急浮上し、6月18日に迫った会期の延長問題で自民党内の駆け引きが活発化しています。首相は「会期中の全法案成立に全力を挙げる」とし、延長問題の言及を避けていますが、盟友の山崎拓幹事長はイラク復興・安定化支援法案(仮称)やテロ対策特措法の期限延長改正案、金融機関の経営改善や株価急落阻止など一連の法案を提案するため、40〜50日の大幅延長を目指しています。

 非主流派は内閣改造

 これに対し、橋本派の野中広務・元幹事長、青木幹雄・参院幹事長、堀内派の古賀誠・前幹事長ら非主流派幹部は、総裁選で首相を支持する条件として政策転換を迫り、総裁選前に内閣改造・党役員人事を断行して挙党態勢を築くよう小幅延長を唱えています。一方、主流派の森派内には、橋本派などと融和を図るため、総裁選を8月に前倒しして首相の事実上の無投票再選を実現し、9月初めに臨時国会を召集する案が浮かんでいます。

 非主流派が早期の内閣改造にこだわるのは、株価を低落させ、りそなグループへ公的資金を注入して事実上「国有化」する張本人は、竹中平蔵経済財政・金融相であるとし、同相らの更迭を迫っているからです。竹中金融相は公的資金の注入を「これは破綻ではなく再生です。りそなが再生すれば、銀行業界に自浄作用を促します」と平然と言い放ち、02年度の国内総生産(GDP)の実質成長率が1・6%増とプラスになったことを「実体経済は予想より高く推移している」と胸を張りました。

 堀内講演にご期待を

 野中氏は「デフレ時代はマイナス0・7%の名目値こそ本当の数字だ。(竹中氏は)詐欺師ではないか」と批判し、堀内光雄総務会長も「一般経済界で言えば粉飾決算だ」と指摘しています。10日の「北村誠吾出版セミナー」でも堀内会長は、“経済有事”に対し厳しいご見解を表明されると思います。どうか皆様も堀内氏の講演にご期待下さい。