北村からのメッセージ

 第64回(5月1日) 小泉政権の2年 株価暴落で不安高まる            

 小泉政権は4月26日で、発足以来丸2年が過ぎました。首相は同日から5月3日まで英国、スペイン、フランス、ドイツ、ギリシャの欧州5カ国を歴訪、各国首脳とイラク戦争後の復興の進め方を協議中です。このように小泉政権の3年目は華々しい外交でスタートを切りました。いち早く米英を支持したイラク戦争は、わずか3週間の短期決戦で終結。この首相決断に対し、国民は昨年9月の電撃的訪朝と同様に40〜50%台の高い内閣支持率を与えています。外交には弱いとされた首相が外交で人気を高め、4月の衆参統一補選で自民党は3勝1敗、脱政党化の統一地方選でも県議選で復調、市議選で勝利しました。強運の首相といえましょう。しかし、株価の低迷など小泉政権の前途は多難。対外的にはイラク復興への支援策、国内的にはデフレ不況を克服することが、年内にも予想される衆院解散・総選挙を占う試金石となります。通常国会は後半戦に突入しましたが、有事法制と並ぶイラク復興関連法案は、私の所属する衆院安全保障委員会の最大課題。法案成立に向け一層奮闘したいと考えております。

 経済は瀕死の状態

 首相は欧州歴訪後の22日に訪米し、ブッシュ米大統領と国際協調の中で、イラク復興の在り方、北朝鮮の核開発を巡る米中朝3カ国協議の経過などについて意見を交換、それを踏まえて6月にはフランスのエビアンでサミット(先進国首脳会議)に出席、その後は中東を訪問するなど、外交日程は目白押しです。だが、内政に目を転じると、小泉政権発足時に13,973円だった株価は一時7,700円台を割り込んで44%も下落し、時価総額で約151兆円が消えた勘定です。これは個人金融資産1千4百兆円の1割弱に相当し、株式を大量に保有する銀行や生命保険会社は巨額の株式含み損によって経営体力が奪われ、金融危機を起こしかねない状況にあります。「1万円割れなら退陣だ」と散々足を引っ張られた森喜朗政権末期よりももっとひどい経済の実態です。わが政策集団・宏池会の堀内光雄会長は「平成4年度末に12兆円だった不良債権は、10年間に110兆円も新規発生し、81兆円を処理したものの、同13年度末の不良債権残高は42兆円(現残高約25兆円)もあり、日本経済はまさに瀕死の状態だ」と警告しています。

 緊縮財政を厳しく批判

 堀内会長によると、バブル期の平成元年末に4万円前後をつけた株価は5分の1に下落、地価総額も90年に比べ965兆円下落し、株式総額の下落分424兆円と合わせると、個人金融資産の1千4百兆円と同額、GDPの3倍近くの富が失われたと指摘。株式総額の逸失は1割程度どころか、昭和初期の大恐慌に近い状態であるのに、竹中平蔵経済財政・金融担当相らは浜口内閣と同様の緊縮財政を取り続け、経済の失政を招いたと批判しています。マスコミは経済に明るい堀内会長をポスト小泉の有力候補に見立て、言動に注目していますが、上記ご案内の通り、6月10日の私の出版セミナーでは堀内会長にご講演を賜る段取りです。一人でも多くご参加いただき、拝聴下さるよう期待いたしております。

 株価下落に税制改正

 株価の下落に対し、日本経団連など経済3団体は4月14日、株価テコ入れのための税制改正を求める緊急提言をしました。財界要求の株価テコ入れ策は、1年間の時限措置として、今年度中に個人が購入した株式について
@ 株式の配当や売却益に対する課税を凍結
A 相続税を計算する際、株式の評価を軽減する――などです。イラク戦争が終結したにも関わらず、株価が景気の先行きに対する不透明感からか、主力銘柄や大手銀行株を中心に続落、この日は7,800円台を割ったからです。与党内にも、企業が保有する株式や債権などは時価会計制度ではなく、簿価(購入価格)評価に改めるべきだとの意見が強まっています。不良債権処理に追われる大手銀行は、健全経営の中小企業に対しても“貸し渋り”や容赦なく資金を回収する“貸し剥がし”を強め、自己資本比率を高めようと“増資”に励んでいます。各企業も自社株買い入れなどで必至に株価の維持を図っていますが、大幅な株価下落で巨額の株式含み損、評価損が発生し、3月期決算を乗り切るのに大変苦労する事態が生じてきました。

 目立つ買収ファンド

 その弱みに付け込み、進出の目立つのが外資の「買収ファンド」です。その代表例が旧長銀(現・新生銀行)を二束三文で買収したリップルウッド・ホールディングスです。月刊現代5月号は、「ニッポン経済13の論点」と題する解説企画を掲載しました。その中では小泉構造改革、インフレターゲティング、不良債権処理などを特集しています。買収ファンドについては「まず出資者を募ってファンドを立ち上げ、次にファンドのお金で破綻寸前・あるいは経営の行き詰まった企業を買収し、再生して価値を高めて売却し、売却益を出資者に還元するというもの。破綻(死んだ)企業を安く買い叩くイメージが強いせいか、よく“ハゲタカ・ファンド”と揶揄される」と解説しています。米大手投資銀行のゴールドマン・サックス(GS社)は近年倒産が相次ぐ日本のゴルフ場58カ所を傘下におさめ、44カ所を所有している西武グループを抜いて国内最大手になりました。

 不良債権の処理迫る

 問題なのは、そのGS社がメガバンクの三井住友銀行に1,500億円の資本供与をしたことです。西川善文頭取は「株価下落リスクに対応するため、長年信頼関係にあったGS社サイドに財務基盤の強化に関し相談した結果だ」と述べていますが、年4.5%配当という有利な条件でGS社に巨額の増資を引き受けてもらった背景には、「何かがあるのでは」と民間金融界では勘ぐられているようです。竹中経済財政・金融相は「デフレ不況の主な原因は、銀行が抱える不良債権である」とし、銀行に国有化をちらつかせて強引な不良債権処理を迫っています。銀行がいつまでも不良債権処理を怠っているから十分な資金が企業に回らず、景気が回復しないとの単純な理論で、昨年10月には金融再生プログラム、同11月には工程表(アクションプログラム)を発表、強硬路線を堅持しています。

 政策転換の決意か

 これは、米国や韓国が数年前の金融危機をハードランディング(強行着陸)で乗り切った手法に学んだものですが、韓国では「買収ファンド」の外資が銀行の経営権を握り、日本とは逆に中小のベンチャー企業に対する融資合戦を展開するなど、厳しい経営を余儀なくされています。読売によると、昨年の企業倒産は19,458件でバブル崩壊後最悪、5.4%の完全失業率が響き、失業者数は359万人で過去最悪といいます。自民党内では景気刺激の大幅な補正予算案編成の要望が高まり、反小泉色を強める亀井静香前政調会長は「ハゲタカ・ファンドの手先のような御用学者に経済を任せることは危険だ。首相は今国会中に大胆な景気刺激策を採り、(総裁選前に)有終の美を飾るべきだ」と退陣を迫り、首相に協力的だった青木幹雄参院幹事長も「(株価下落の)結果を率直に反省して(政策の)方向転換を考える時期だ」と首相に政策転換を促すとともに、「議会制民主主義なので、内閣を改造するなら国会議員を中心にやってもらいたい」と民間人の閣僚起用に不満を募らせています。首相は、今春入省した国家公務員に対し、「君子豹変せよ」と訓示しましたが、これは既に政策転換の決意を秘めて、自らに言い聞かせた言葉としか思えません。

 特区ぐらいで乏しい内容

 内閣府が小泉政権丸2年を記念し作成したパンフレットは「ここまで進んだ小泉改革」と謡いながら、真っ先に取り上げているのは[特区で地方がどんどん面白くなる]ぐらいで、首相が「聖域なき改革」「改革路線まっしぐら」と胸を張った割には乏しい内容だと、マスコミは批判しています。読売は<小泉流の分析>特集で「小泉首相に人気が集まったのはワンフレーズ・ポリティクス(一言政治)と揶揄されるほどの言葉のわかりやすさ、トップダウンの政策決定といった政治スタイルが好感を与えたが、その手法は姿を消し、竹中経済財政・金融相らへの丸投げばかり目立つ」、「米百票の精神で2,3年は痛みに耐えてくれと言ったが、痛みだけの2年間だった」との趣旨で痛烈に批判しています。党内では「事業規模で50兆円の政策効果を生むため、真水で10兆円の補正予算を組め」(亀井氏)などの声が高まっていますが、イラク復旧支援では必然的に補正予算の編成が政治日程に上がってきます。それに乗じて需給のバランスを回復させる積極財政を組めば、首相も路線転換とはならず、自然な形でデフレ克服の道筋が付けられると私は考えています。

 当面の復興支援策

 さて、政府が4月21日に決定した当面のイラク復興支援策は、『イラクと周辺地域の平和と安定はわが国にとって重要』 『イラクの将来についてイラク人による決定を支持』 『わが国の経験を生かし人道支援から復興支援に至る過程で知恵を出し汗を流す』――の3原則を掲げ、

@ 国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)と協力して博物館の整備や文化財の保護・保全

A 米国防省の復興人道支援庁(ORHA)に近く外務省職員らを派遣

B 国際機関やNGO(民間活動団体)を通じた人道支援

C アラブ諸国、周辺国との協力による人道・復興支援

D 国連平和維持活動(PKO)協力法に基づく、自衛隊輸送機による被災民救援物資の輸送

E 経済的影響を受けた周辺国への経済支援――の6項目です。これらは現行法によるもので自衛隊派遣は含まれていませんが、提出予定の「イラク復興支援法案」(仮称)の中で「自衛隊及び文民による協力については幅広い見地から所要の検討を進める」と、この支援策に明記しています。

 武器基準緩和も盛る

 イラク復興支援法案の内容については、4月1日付のホームページに詳報したので重複は避けますが、多国籍軍への物資輸送、食糧・燃料補給、道路・施設など社会インフラの復旧、大量破壊兵器処理などに新たに自衛隊を派遣するには、どうしても新法が必要です。野党の意向もあり、政府は同法案提出の前提として、復興支援のための新たな国連安保理の決議が必要との立場を取っており、首相自ら訪欧し外交努力を続けているところです。読売新聞の憲法に関する4党幹事長座談会では、民主、公明、自由3党幹事長がPKOなどに派遣された自衛隊員の武器使用基準を「国際基準」にまで緩和すべきだとの見解を揃って表明したといいます。国連の武器使用基準は任務遂行目的の威嚇射撃なども認められているのに対し、日本のPKO協力法では自衛隊員の正当防衛、緊急避難に限定されています。海外で自衛隊員が安心して働くためにも基準緩和は必要です。イラク復興支援法案では武器使用基準の緩和が1つの焦点になりますが、我々衆院安保委員会のメンバーは国際協調の基本ラインに沿って、首相の外交成果を見守りながら、あらゆる角度からきめ細かく法案を煮詰めていきたいと思っています。