北村からのメッセージ

 

 第60回(3月1日) 定昇見直しの春闘 高まる国民の不満            


春闘たけなわ。景気低迷と高失業率を反映、大半の労組がベア要求を見送るなかで、経営側は定期昇給の見直しを逆提案するなど、日本の終身雇用、年功序列型賃金制度は大転換を迫られています。3月期決算へ向けて大手金融は追加増資に躍起で中小企業への貸し渋り、貸し剥がしは一層強まり、個人消費もデフレの深刻化で急落しています。所得税の確定申告は3月17日まで続きますが、中小企業者、サラリーマンの重税感は例年以上に重たく、不満が高まっています。さらに米英のイラク攻撃が始まれば、世界経済の先行き不安から景気が底割れする事態も想定されます。3月危機をどう乗り切り、内外の山積する課題をいかに解決するか。小泉首相が力んで国会会期末の解散・総選挙を断行しようとしても、国会の空白は許せない状況になってきました。しかし、4月には2回に渡る統一地方選がセットされており、その勝敗次第で小泉政権は、国民に信を問わざるを得ません。この緊迫した情勢下で、私は安保、雇用・福祉、農林などの課題に情熱を傾注しています。

年功序列型賃金の大転換

自動車産業の大手労組が2月12日、一斉に春闘要求を提出したことで、1ヶ月後の集中回答日に向けて今春闘の火蓋が切られました。日産自動車労組がベア千円を求めた以外、過去最高益が見込まれるトヨタを始め、ほとんどの労組がベア要求を断念、雇用優先と生活水準を維持するため、定期昇給の確保に全力を挙げる方針を掲げています。自動車以外の主要労組でもベア獲得を目指すのはJR各社と私鉄各社に止まっています。これに対し、経営側は「ベアは論外」(日本経団連)とし、年齢給や勤続給を廃止するなど定昇制度の見直しも辞さない姿勢です。主要企業はこれまでにも、給与を年齢給と、能力や社内の地位に応じて上がる職能給、職務給などに細分化し、年齢と勤務年数によって決まる従来の年功に応じた給与の比重を低くする見直しを行ってきました。それをさらに、全職員の年齢給を廃止するほか、定昇率を減らしたり、管理職だけに導入してきた「年俸制」を一般職員に広げるなど、実質的な賃下げで、年功序列型賃金を完全になくそうとしています。

労働生産性低いと財界

日本経団連の奥田碩会長は、読売のインタビューに次のように答えています。「日本の賃金は現状維持か、引き下げないと国際競争力がなくなる。賃下げは雇用確保のためで、経営者の雇用維持への決意は固い。個人消費を冷やすとの指摘があるが、賃上げしても金融資産(貯蓄)に回るだけで、消費喚起には社会保障の将来ビジョンを示して老後の不安をなくすなどの別の手段が必要だ。将来、生産性を上げたり、他国がまねの出来ない製品を作れば、賃金は再び上がる。ただ、生産性が上昇しないのに年功序列で賃金が上がるのは、経済的に見ておかしい」とし、労働側がベア要求を見送ったことを「会社の業績や将来性を理解し、協力するもの」と評価しています。読売によると、厚生労働省の労働コスト比較では、日本で労働者に百円払って作る製品は、ドイツが81円、英、米は77円、韓国は36円で出来るといいます。日本の生産性は年1.1%しか改善していないのに対し、中国は9.8%も改善しているという世界銀行のデータもあるそうです。経営側には日本の労働生産性の低さが、国際競争力の低下に繋がるとの危機感があります。

最優先は雇用維持と労組

経営側に対し、連合の笹森清会長は「ベアの統一要求は見送ったが、生活水準を守るため、定期昇給相当分の確保は死守する。今、最優先すべきは雇用の維持だ。雇用が守られる前提があれば、労働条件の提供(譲歩)もあり得る。存続の危機にある企業では、定昇の一時凍結なども考える必要があろう」と読売に答え、労働側は雇用確保と賃下げ阻止を最重点に闘っています。かつて、“泣く子も黙る総評”の太田薫議長が組織労働者800万人を陣頭指揮して賃上げストに突入した高度成長期の春闘がまるで嘘のようです。今国会冒頭に成立させた02年度補正予算は、中小企業、雇用対策などセーフティネット(安全網)に重点が置かれていますが、完全失業率は5.4%と依然最悪。労働者は勧奨退職など企業リストラが進む中でサービス残業を強いられ、笹森会長の言う「労働条件の譲歩」に当たる労働の再配分などワークシェアリングに怯えながら生活を守ろうとしています。

値下げの消費刺激は限界

内閣府が2月中旬に発表した昨年10−12月期の国内総生産(GDP)は、実質で前期比0.5%増となったものの、個人消費と設備投資という内需の柱がともに低調で、デフレ拡大と景気の減速を色濃く示しています。確かに、デフレの特徴である物価下落は進みました。百円ストアは賑わい、新宿など駅構内の立ち売りでは、ネクタイ500円、腕時計1000円、ワイシャツ1300円、革靴5000円などはざらで、品質も悪くなくサラリーマンを満足させています。居酒屋もチェーン店化の競争でなじみの店は潰れていきますが、自宅の晩酌と変わらない値段で飲めるようになったようです。しかし、安売り競争の果て、日本マクドナルドやユニクロ(ファーストリテイリング)が経営不振となり大幅な閉店や統合を進めるなど、値下げや低価格品の投入は限界にきています。業績好調だった自動車やパソコン、ビール・発泡酒なども陰りが生じており、地下が暴落しても住宅投資は一向に進んでいません。値下げによる消費刺激効果は限界に来つつあります。

生涯設計狂う団塊世代

悲劇はバブル期に将来の昇級をあてに住宅ローンを組んだ人たちです。物価は下がっても負債の額は厳然と残り、その支払いに追われていることです。私と同じ団塊の世代にはローンと闘う仲間が多く、間もなく60歳の定年を迎えます。これらの仲間は、年齢、勤続年数に応じて自動的に賃金が上がる年功型の定昇制度を前提に生涯設計を立ててきました。それが企業の貢献度に応じて処遇する成果主義賃金の定昇制度に改められ、しかも、企業のリストラで定年を待たずに勧奨退職の標的にされています。おまけに、頼みの綱である年金の受給資格は65歳へ徐々に引き上げられ、さらには、年金の物価スライド制も「物価上昇率」から「労働人口の減少率」を差し引くなどの目減りが検討されています。戦中派や戦後の団塊の世代は企業戦士として高度成長を支えてきた最も活力に溢れた戦闘集団。それが老後の展望を失うようでは21世紀も灰色です。

倒産件数最多の約2万件

奥田会長が『賃上げしても貯蓄に回るだけ』というように、国民の貯蓄性向は強く、1万円の個人向け国債は郵便局で初日に完売しました。財務省は「景気に先行き不透明感が強まり、株価低迷が続くなか、国による元本保証など安全性資産として関心が高まった」と自画自賛していますが、老後の不安から、なけなしの臍繰りを投下した高齢者も多いはずです。昨年の中小企業の倒産件数はバブル後最多の1万9千458件。若者の間でもローンなどの多重債務による自己破産が急増しています。4月からサラリーマンの医療費自己負担が、現行の2割から3割に引き上げられるのに対し、4野党は医療費凍結法案を提出しましたが、与党内でも議論を呼んでいます。医療費は昨年7月に決着しており、今さら予算を組み替えることは困難ですが、医療費問題が蒸し返されるのは、4月の統一地方選を間近に控え、デフレ不況、暗い春闘のなかで、国民の生活不安を少しでも和らげたいとする配慮によるものです。小泉改革は遅々として進まず、国民の“痛み”が先行した感じですが、国民の信頼を回復するには、例えば医療改革では積み残した高齢者医療制度の創設、診療報酬体系の見直し、保険者の再編・統合などを早期に実現すべきでしょう。それに雇用の創出などセーフティネットの拡充。私はこれら施策の実現に向け頑張る決意です。