北村からのメッセージ

 

 第50回(10月1日)公的年金の危機 スライド制凍結解除


100歳以上のお年寄りは、史上最多の約1万8千人――。9月15日の「敬老の日」を中心に、マスコミは銀座で働くママやお医者さんなど、百歳で今も元気に活躍する全国の「かくしゃく老人」を取り上げ祝福しました。長寿大国ニッポン。喜ばしい限りです。しかし、少子高齢化社会の到来で年金財政は破綻の恐れがあり、政府は凍結中の「物価スライド制」を復活させ、国民年金や厚生年金など公的年金の給付額を引き下げる方向で検討を始めました。年金制度は昨年4月から厚生年金の支給開始年齢を引き上げたり、60歳代後半で会社務めをしている人にも保険料を納付させるように改正されたばかり。さらに年金の給付額が下がると、老後の不安が増大し、高齢者の消費が落ち込み、景気の悪化に拍車が掛かります。妙案はあるのか――。衆院厚生労働委員の私としても頭の痛い問題です。

 百歳以上が1万8千人

厚生労働省が9月10日に発表した長寿番付(全国高齢者名簿)によると、100歳以上のお年寄りは、昨年を2459人上回り過去最多の1万7934人。うち女性は1万5059人で84%を占め、“きんさん、ぎんさん”がもてはやされた時代はとっくに過ぎ去った感があります。老人福祉法が制定された63年当時は153人だった100歳以上の長寿者は、81年に1千人を超え、98年に1万人、01年は1万5千人を突破、さらに今年は高齢化が加速しました。今年度中に100歳の誕生日を迎えるお年寄りの数は1万0052人でこれも1万人を突破します。100歳以上の数は、沖縄をトップに高知、島根、熊本、鹿児島の順で続き、九州・四国などが多い「西高東低」が強まっています。

 女性は連続世界一

総務省統計局は、「敬老の日」時点の65歳以上の高齢者人口(推定)を2362万人と発表しました。総人口の18・5%を占め、こちらも人口、割合ともに過去最高を更新しています。男性は995万人(男性全体の16・0%)。女性は1367万人(女性全体の21・0%)でした。75歳以上の人口は1003万人で、初めて千万人を超えました。平均寿命もぐんぐん伸びています。「生まれたばかりの赤ちゃんが平均してあと何年生きられるか」を示すのが平均寿命です。厚労省が8月に発表した昨年の平均寿命は女性が84・93歳、男性が78・07歳でいずれも過去最高を更新しました。女性は17年間連続世界一、男性もアイスランド、スイス、フランスなどとトップ争いを続けています。

 人生90年時代

「人生50年」が口癖だった織田信長は、本能寺の変で「敦盛の幸若舞」を謡い舞ったとされますが、朝日新聞によると、終戦直後(47年)の平均寿命調査では、男性が50・06歳、女性が53・96歳で、まだ「人生50年時代」が続いていたそうです。それから5年ほどで男女とも60歳を突破し、女性は60年に70歳を超え、わずか半世紀の間に男女とも約30歳も長生きすることになりました。乳児の死亡率低下、水道など衛生状態の改善、食生活の充実などが長寿の原因で、今後も平均寿命は伸び続け、2050年には男性80・95歳、女性89・22歳になる見通し。「人生90年時代」が到来します。その半面、1人の女性が生涯に産む平均の子供の数は下降傾向をたどり昨年は1・33と過去最低を記録しています。この少子高齢化の波が社会保障システムを揺るがせています。

 1.5人で老人支える

高齢化の進展速度は急激で、全人口に占める高齢者の割合は、2050年には35.7%と国民の3人に1人が65歳以上になる見通しです。このため、高齢者の年金や医療費の支払いなどで、働く若い現役世代の負担が大きくなり、今は4人で1人のお年寄りを支えていますが、50年後には1.5〜2人で1人を支える計算になります。これに少子化が追い打ちをかけ、後の世代へのしわ寄せが一層深刻になっています。厚生年金や国民年金などの公的年金制度は5年に1度、将来の人口推計などをもとに、保険料と給付額のバランスを計算し直す「財政再計算」が法律で義務づけられています。前回の再計算は99年に行われ、人口推計をもとに試算すると、25年頃までに厚生年金の保険料率を月収の約34%(現行17.35%)、国民年金の保険料を月額2万6400円(現行1万3300円)と現行の約2倍に引き上げる必要があるとの結果が出ました。

 2000年改正

そこで当時の厚生省は、従来の給付内容を将来も維持するA案、給付を1割から2、3、4割までそれぞれ削減するB、C、Dの各案、厚生年金そのものを廃止するE案の「5つの選択肢」を発表しました。年金審議会では

@ 重い負担では将来の働く世代が耐えられない

A 厚生年金保険料の半分を負担する企業の国際競争力が損なわれる――などの意見が出て、議論の結果、同省は給付を2割削減するC案を採用、厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢引き上げなど4種類の給付抑制策を盛り込んだ年金改革法を国会に提出、1昨年3月に成立させました。法改正が翌年にずれ込んだため2000年改正と呼ばれています。

 支給年齢引き上げ

 04年の次期改正でも抜本的な改革が必要です。先の法改正で公的年金制度は昨年4月から大きく変わっています。まず厚生年金の適用年齢は、これまで60歳から64歳までが対象でしたが、支給開始年齢は段階的に約25年度にかけて65歳に引き上げられることになりました。また、65歳から70歳未満の人も定年後の再雇用などで会社に勤めていれば厚生年金の保険料を支払う義務が生じ、月給の高い会社員は収入に応じてその間に受け取る年金が減額される場合も出てきました。逆に自営業者らの国民年金では、低所得者(夫婦子供2人世帯の標準的ケースで285万円以下)向けに保険料の半額免除制度が始まりました。高齢者に給付される厚生年金は、25年には総額で年間45兆円に膨らむと見込まれていましたが、これらの措置で36兆円に抑制できると見られています。

 物価連続3年下落

先に述べた「財政再計算」は、人口動向や経済情勢、賃金や生活水準の変化を踏まえて、長期的に年金財政の健全性を保つのが狙いです。この改定の間に物価が大幅上昇すれば年金額が目減りするので、年金額を物価上昇に合わせて毎年調整する「物価スライド制」が73年に導入されました。89年には完全自動物価スライド制が導入され、前年の消費者物価指数の変動に応じて翌年の4月から年金額が自動的に改定されることになりました。しかし、バブル崩壊後はインフレよりもデフレが進み、消費者物価は99年以降3年連続で下落しており、物価スライド制を適用すると年金引き下げになるため、スライド制を凍結してきました。公的年金には毎年度、国庫負担が行われており、年金、医療、介護などに必要な義務的経費は膨らむばかり。政府はその財源を国債発行などでしのいできました。

義務的経費圧縮

国の債務残高は01年度末で607兆円に上り財政赤字や政府債務残高は先進国の中でも最悪の状況です。このため、政府は財政赤字の抑制を経済政策の柱とし、03年度予算の概算要求でも公共投資の3%削減、福祉など義務的経費の今年度予算と同額圧縮などを打ち出しています。予算編成の過程で出てきたのが、凍結されていた年金の「物価スライド制」を復活させ、公的年金の給付額を引き下げる方針です。さらに厳しいのは、政府の経済財政諮問会議で民間議員から5月に出された意見書です。それには「国民負担率の抑制と世代間の不公平是正に取り組む必要がある」として、

@ 公的年金の支給開始年齢を将来的には70歳へ引き上げる

A 現役世代の保険料負担を固定し、その枠内で給付を調整する仕組みを検討する

B 「男女共同参画社会」の視点からパート労働者への適用拡大やサラリーマンの専業主婦には保険料負担の制度を見直す

C 所得税の公的年金等控除を見直す――と提案しています。

 年金情報の開示

厚生労働省は、複雑化した公的年金制度を分かりやすく説明するため、50歳以上の希望者に見込み年金額を開示するほか、自分で将来の年金額を試算できるデータを一定年齢の加入者全員に通知するなど、情報提供の制度を検討しています。しかし、ゼロ金利時代で“虎の子”の貯蓄が目減りしているうえ、年金適齢期になっても支給が「待った」されたり、デフレで減額されるとあっては、高齢者の不安は募るばかり。消費はさらに落ち込み、景気回復は望めないでしょう。年金では株価低迷の影響で、厚労省所管の年金資金運用基金が多額の損失を出したり、企業年金制度の母体である厚生年金基金の解散が相次ぐなど厳しい局面を迎えています。私はこれらを総合的に判断しながら、年金問題と取り組みたいと念じております。