北村からのメッセージ

 

 第49回(9月16日) 食の安全に本腰  縦割り行政を改善

国内初のBSE(牛海綿状脳症)が発生して、9月10日で早1年が過ぎました。翌日に米国で起きた同時多発テロの陰に隠れて初めは目立たない事件でしたが、日を追ってBSEの恐怖が募り日本列島はパニック状態に陥りました。続いて食肉の産地偽装、虚偽表示、違法添加物の使用、無許可農薬の使用発覚など、食品の不安はこの1年間、連鎖反応を起こしました。産地偽装では雪印、日本ハムといったブランド商品の大手メーカーが関与しており、企業トップは引責辞任しましたが国民の不満は大きく、一時4割に落ち込んだ牛肉の消費量は今も8割台にしか回復していません。食品衛生面で農林水産、厚生労働両省の縦割り行政や業界指導体制の不備など、行政に対する国民の不信感が高まっています。来年度予算に対応策をどう盛り込むかは、私が所属する衆院農水、厚労委員会の重大案件。年末の予算編成と次期通常国会での関連法案成立に全力を挙げたいと思っています。

食は「人偏に悪」と変更?
「食」の字を分解すれば「人に良い」と書きます。日本は戦中、戦後の飢餓・食糧難時代を乗り切り、農地改良などによる増産に次ぐ増産で主食のコメが余り、減反政策を余儀なくされるほど豊かになりました。一方、高度成長の結果、世界から集まる副食が食卓を賑わし、史上最高の「人に良い」食生活に恵まれ、飽食の時代を謳歌してきました。それが食肉汚染を皮切りに、今を流行りのファストフードまで違法添加物に汚染されていたと分かり、危険がいっぱい。食の字を「人偏に悪」とでも変えなければならない状況です。
 BSE騒動は昨年9月10日、農水省が「千葉県の牛に疑いあり」と発表したのが発端。11月に北海道と群馬県で、今年5月に北海道で、8月に神奈川県で、計5頭の牛が確認されました。英国は182,581頭、アイルランド1,046頭、ポルトガル657頭、フランス606頭、スイス416頭、ドイツ192頭などに比べると少ない発症です。

 恐ろしいヤコブ病
しかし、BSEが人に感染すると、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)にかかると見られています。ヤコブ病は抑鬱や不安などの症状で始まり、痴呆になって半年から3年で死亡する恐ろしい病気で、現在は根本的な治療法がないそうです。厚労省によると英国125人、フランス6人など世界7カ国で発症が報告されています。農水省はBSE発覚後、原因とされる肉骨粉飼料の禁止、10月に肉骨粉の輸入・販売・使用の全面禁止と、牛を使った加工食品の自主回収要請、食用牛の全頭検査開始――など矢継ぎ早な対策を打ち出し、263億円を投じて検査前の国産牛肉を買い上げました。これは、消費者団体などの要望を受け、全頭検査を経た肉と未検査の肉が市場の混在することを防ぐ目的で始めたものです。このほか、肉骨粉の償却費、肉牛農家への経営支援費や各種補助金などを含め、01年度だけでも1,510億円、02年度を合わせるとBSE対策費には総額3,495億円を充当しています。

 肉骨粉規制の怠慢
18万頭以上の感染牛を出している英国の00年度対策費が700億円程度であったことから見れば、5頭発症の日本の対策費は手厚いものといえましょう。全頭検査により、感染性があるとされる脳、脊髄、眼球など特定危険部位は食肉処理場での除去焼却が義務づけられ、食肉処理をする全ての牛は検査し安全と確認されたものだけが市場に出回る態勢になりました。しかし、もともとBSE騒動は、政府の「BSE調査検討委員会」が指摘したように、農水省が肉骨粉の法規制を怠ったことに起因します。世界保健機関(WHO)は96年4月、BSEが「人に感染する可能性あり」とし、肉骨粉の牛の餌への使用禁止を勧告しました。この勧告を農水省が無視し、行政指導に止めたことが、肉骨粉飼料の輸入と畜産農家の使用を野放図にさせたといえます。BSEの責任は国にあるとし、酪農家は、1億円以上の損害賠償を求める訴訟を起こしました。だが、乳の出をよくし、肉質を高めるために、草食動物に仲間の骨粉を強制的に食べさせられた牛の方こそ傍迷惑でしょう。神の摂理に反した人間に対する怒りがBSEに現れたといえなくもありません。

 無認可添加物へ波及
牛の素材は微量ながらも化粧品などにも使われていて、BSE騒動を大きくしました。「食の安全」は、さらに偽装牛肉事件を経て、この1年間で食品表示、食品添加物問題に波及、内閣府の意識調査でも消費者の57%が「食品表示に苦情を言いたいと思ったことがある」と答えた ほど、燎原の火のごとく広がりました。5月には無認可添加物の食品が数多く発覚したうえ、未承認だった遺伝子組み換えのジャガイモがスナック菓子の原料に混入した問題が明らかになり、6月には中国産の冷凍ほうれん草に基準値を超えた残留農薬が検出されました。おまけに、食品に限らず中国製の「やせ薬」の健康被害者が700人を超えたという“副産物”まで発覚しています。さらに2種類の無許可添加物の使用が明らかになり、メーカーは大慌てで食品の自主回収を全国で進めました。それは、風味を増すためにアセトアルデヒド、ヒマシ油、2メチルアルデヒドなど無許可の化学合成香料がアイス、菓子、冷凍グラタン、レトルトカレーなどに使われていたというものです。

 魔女狩りの様相
厚労省が食品衛生法に基づき指定する「指定添加物」と、既に長い食経験がある「既存添加物」は、計約800品目がリストに載っていますが、上記の香料などは使用量が少ないため「健康被害はない」とし、国際評価でも「安全」の部類に入っていました。だが、国が1日の摂取許容量を定めているわけでもなく、多年体内に蓄積された場合の影響度も定かでないことから、マスコミが大きく取り上げ、BSEで神経質になった国民も食品添加物に警戒を強めました。この結果、マスコミの摘発―メーカーの自発的回収―スーパーの品薄状況が繰り返され、日本の食の世界はまるで魔女狩りの様相を呈しました。こうした無許可の食品添加物を使用してきた食品メーカーや、残留農薬に気づかなかった山形の桃・リンゴ園農家、東海のメロン栽培農家などは、折角の稔りの秋に生産物を廃棄処分にし、果物だけでも廃棄分は数百トンに達しています。泣くになけない果樹農家の悲劇です。

やくざの手口で言語道断
国民の怒りを集めた極めつけは、血税を投じた国産牛肉買い上げに絡む雪印、日本ハムによる牛肉偽装・隠蔽事件です。詐欺罪に問われた雪印の元専務と元常務は「他所も色々やっているなら、損をしないように考えてやってくれ」と部下に指示したことが、神戸地裁の初公判で検察側の冒頭陳述に明らかにされています。国が国産牛肉を買い上げ、しかも、その実施を業界団体に“丸投げ”することを知った業界では、安価な経産牛を買いあさって国に買い上げさせようとしたり、だぶついた不良在庫の輸入牛肉を買い上げさせようと企む悪徳業者が暗躍しました。雪印はその噂につられて詐欺的行為を働いたものです。老舗の日本ハムは、担当部長が「私1人の責任でやりました」と記者会見し、まるでやくざの舎弟が親分に代わって“お勤め(刑務所入り)を果たす”ような手口で、雪印同様の事件に関わり、しかも証拠の肉を焼却処分にするなど隠蔽工作をした疑いが持たれています。食肉に対する国民の「不安」に重ねて「不信」が増大しました。両社のトップが引責辞任したとはいえ、企業モラルは一体どうなったのか。言語道断な事件です。

 食品3法を緊急成立
事態を重視した我々衆院農水、厚労委員は前国会で、BSE発生防止の充実を内容とするBSE対策特別措置法、食品の偽表示に対し罰金を大幅に引き上げるJAS(日本農林規格)改正法、輸入食品の残留農薬に関する規制強化を内容とする食品衛生改正法などを緊急に成立させました。しかし、問題は縦割り行政の弊害です。食品の表示制度の1つを取っても、厚労省所管の食品衛生法と農水省のJAS法などが混在し、表示の意味が読み取りにくいとの不満があります。両法とも消費期限、保存方法を示していますが、食品衛生法は、食中毒の防止など食の安全性確保が目的で、品質保持期限、アレルギー物質を含む旨などを明示し、冷凍食品など容器で包装された食品と添加物に表示を義務付けています。これに対し、全ての飲食料品が対象のJAS法は、原産地、賞味期限などを明示、消費者に判断材料を提供するのが狙いです。これでは複雑過ぎて消費者に分かりにくいため、両省は「食品の表示制度懇談会」を設置し、関連法の一本化を視野に入れて、賞味期限と品質保持期限の統一、消費期限の定義や冷凍食品の保存温度統一などを検討しています。

 食品安全委を設置
さらに政府は6月、EU(欧州連合)にならって「食品安全委員会(仮称)」を来年度に設置することを決め、次期通常国会に行政組織改正法案や新しい食品安全基本法案を提出する段取りです。これに伴い農水省は食糧庁を廃止し、消費・安全局(仮称)を新設するなど組織の改革再編を行う準備を進めています。これと並行し農水省は03年度予算の概算要求3兆5,983億円の中で「食の安全と安心の確保」に約800億円を盛り込みました。食卓から逆に農場へ食品のルーツ・履歴を遡ることが出来る仕組み『トレーザビリティシステム』の導入と、『食育』や『リスクコミュニケーション』などを強化するものです。

800億円の対策
内容は@家畜個体識別システムを活用した牛肉のトレーザビリティシステム(監視)を確立するほか、豚肉、鶏肉、鶏卵、養殖水産物、青果物、コメ、加工食品に至るまで同システムを導入するための体制整備支援(81億円)A国民1人ひとりが食の安全と安心について「食を考える月間」を推進、地域特産物や伝統的食文化など特色を活かした『食育』の実践活動(123億円)B徹底した情報の開示と消費者の対話窓口として「リスクコミュニケーション・センター」の創設(8億円)C「食品表示ウオッチャー」の大幅な増員と「食品表示110番」の設置支援(9億円)D消費者の多様なニーズに応えて、日本の産地ならではの地域特色を活かした新鮮でおいしい『ブランド・ニッポン』食品の提供促進(505億円)――などが柱になっています。私は年末にかけてこれらの施策を推進し、
本来の安全で「人に良い」食を回復するよう努力したいと考えています。