北村からのメッセージ

 

 第48回(9月1日) 再燃したペイオフ問題 普通預金など決済性は継続              


「予定通り実施するが、決済システムに混乱がないよう万全を期してほしい」――。小泉首相は通常国会閉幕前の7月30日、ペイオフ問題で柳沢伯夫金融担当相に、こう指示しました。国会では来年4月に迫ったペイオフ全面解禁の「強行突破か、それとも再延期か」を巡り論議が白熱していた時だけに、この発言は政財界に波紋を描きました。なぜなら、政府は国際公約に掲げた以上、予定通り全面解禁して金融機関の経営改革を促すべきだと強行突破を主張。経済界や与党側は、地域金融機関に打撃を与え、中小企業の資金繰りが困難になるとして、強く延期を求めていたからです。その狭間で金融再編を目論む金融庁は、秋の臨時国会に金融合併促進特例法案の提出を予定していました。それが突如の軌道修正。金融界はもとより与野党が戸惑いを感じたのは無理からぬところです。

混乱防止で2段階

ペイオフ解禁は個人預金者だけでなく、地方自治体や中小企業にも大きな影響を与えます。私は党の地方自治、消費者関係両団体の副委員長として、ペイオフ問題をうまく着地させたいと念願してきました。そこで、首相がなぜ「決済性預金の全額保護」に軌道を変えたのか。今回は首相変心の正体を探ってみましよう。それを解説する前にペイオフの経過をざっと復習すると――。ペイオフ解禁は2段階で実施されています。第1段階は定期預金などの払戻保証額を元本1千万円とその利子までとする措置で、今年4月から実施されました。第2段階は普通預金、当座預金など決済性預金の全額保護の撤廃で、来年4月から実施の予定です。2段階にしたのは混乱防止が狙いで、普通預金は決済に直結し影響も大きいため、猶予期間を設けました。全面解禁後は、普通預金も含めて全ての預金で1千万円を超える部分は、破綻した金融機関の財務状況に応じて払戻額が決まります。

自衛で預金シフト

このため、今年4月の第1段解禁では、個人預金者は自衛手段として定期預金を1年後解禁の普通預金などにシフト(移し替え)し、マンション管理組合なども安全な大手都市銀に分散、シフトしました。この結果、この1年で定期預金は約50兆円減り、普通預金を含めた決済性預金は約72兆円も増えたといわれます。大きな問題は、総額25兆円を超す地方自治体の公金マネーが大移動を始めたことです。日経新聞によると、大口預金者の東京都は、日常の支払いに充てる歳計現金6千億円、基金1兆1千億円を都民銀行、千葉銀行など指定金融機関の15行に預けていますが、3月までに定期性預金を全て解約、流動性預金に切り替えたといいます。

公金マネーの大移動

日銀の預金統計によると、6月の決済性預金の月平均残高は、個人が前年同月比32%増の126兆4705億円、法人が37%増の94兆8476億円なのに対し、地方自治体などの公金は126%増の14兆3126億円と、1年前の2・2倍に膨れ上がったことを読売新聞は報じています。これは「避難先」として当座預金、普通預金などに大量流出した事実を物語ります。

第二地銀、信金は減少

金融機関の破綻に対する預金者の警戒は、解禁前からとっくに始まっています。読売新聞によると、全国銀行協会の調べでは、今年3月末の都市銀行の預金残高は1年前に比べ24兆円も増えたが、第二地銀は5千4百億円減り、信金も9千億円減っています。その後の朝日新聞の報道では、6月末の預金残高(手形と小切手を除く)を前年同期と比べると、都市銀行が9・0%、地銀が1・4%伸ばしたのに対し、第二地方銀行は1・8%減。信金、信用組合は4月末現在でそれぞれ1・8%、2・5%減少したということです。

中小企業も連鎖倒産

全面解禁では、経営体力の弱い第二地銀や信金、信組から、定期預金に加えて普通預金や当座預金まで流出し、仮に金融破綻が起きれば、地方自治体や中小・零細企業の資金繰りに悪影響を及ぼすでしょう。それを引き金に昭和恐慌時のような“取り付け騒ぎ”が起きれば、連鎖反応で地方の金融機関は壊滅的打撃を受け、中小企業も道連れ倒産します。これは私が帰省する度に支持者から聞かされた中小企業経営者の不安でもありました。何とか有効な手段を編み出し、連鎖倒産を阻止しなければなりません。

 3与党も解除延期要請

「ペイオフの全面解禁で、中小金融機関は大混乱をきたす」――。自民党の堀内光雄総務会長は6月末に警告を発しましたが、保守党の野田毅党首も「暴風の中で窓を開けるような話。不良債権のおよそのめどがつくまで全面解禁すべきではない」と述べました。これは全国信用金庫協会が同月、全面解禁の延期を金融庁に要請したのを受けてのご両者の発言です。信金側は全面凍結解除で普通預金という一時的非難の“逃げ場”を失えば、経営体力の弱い地域金融機関は流動性リスクにさらされ、経営が不安定になるとして、解禁の延期を求めたものです。自公保3与党の政調会長も同月14日、政府に対し全面解除の延期を要請、議員立法で預金保険法改正案を秋の臨時国会に提出する準備を始めました。

 政府は強行突破論

延期の動きは二回目です。定期預金などを対象にした第1弾のペイオフ解禁も、当時の亀井静香政調会長の一声で、01年4月から1年間延期された経緯があります。しかし、与党の再延期要求に対し、柳沢金融担当相は「(全面解禁は)金融機関の構造改革だし、日本の金融機関を強くする道だ」と強調、安易な延期は「経営者や預金者のモラルハザード(倫理の欠如)を招きかねない」と記者会見で発言。政府や既に預金をかき集めた大手銀行には強行突破論が根強くありました。全面凍結解除は構造改革の一環であり、政府の国際公約でもあります。再度延期すれば日本の金融システムと金融行政に対する国際的な信頼を失う恐れがあり、速水優日銀総裁も「内外の信認回復のためにも予定通り実行した方がいい。国が預金の保証・保護をやる国はあまり例がない」と述べていました。

 首相に金融の危機感

その譲れない一線であるはずの全面解禁に、首相がなぜ見直す決断を下したか。強気とは裏腹に、首相や金融当局には金融システムや景気に対する危機感があったからです。決済性預金の全額保護が打ち切られた場合、上記のような大手都市銀への「預金大移動」は、この1年以上に加速しますし、「危ない」との風評が立つだけでも大規模な預金シフトが起きて問題のない銀行までが倒産、経済の血流である金融の決済システムは麻痺してしまいます。もう1つは、首相が最も警戒する郵貯肥大化の問題です。郵貯の振替口座は当座預金と同じ機能を持ち、金利はゼロの代わりに全額保護の対象となり、預け入れの限度額もありません。このため、郵貯振替口座の7月末残高は約2兆9千億円で、3月末より1兆円以上もシフトが進んでいます。そこで金融当局もひそかに見直しを検討していました。

 作業部会が発足

首相の見直し指示を受けた柳沢金融担当相は8月8日、金融審議会(首相などの諮問機関)にプロジェクトチーム(座長、蝋山昌一・高岡短大学長)を設置、ペイオフの見直しと決済システム安定策の検討を開始しました。

この作業部会は

@ ペイオフ全面凍結解除後も全額保護を続ける決済性預金を厳格に定義し直す

A 決済性預金の保護は恒久措置とし、公的資金は使わない

B 定期性預金に加えて、従来の普通預金などのペイオフは予定通り実施する――を骨子とした具体策を取りまとめる方針です。政府はこれをもとに預金保険法の大幅改正案を秋の臨時国会に提案する段取りです。

 利子付き、無利子の2口座

同チームがこれまでに検討した見直し策では、決済性を明確にするため、普通預金を無利子化したうえで新型預金口座に移行させ、恒久的に全額保護する案が強まっています。これは解禁後の決済システムの動揺を防ぐため、企業や法人が資金のやりとりに使う決済性預金となる「新型預金」を作り、当座預金とともに全額保護の対象とする考えです。ただし、現行の普通預金については、公共料金の引き落としなど決済性のほか、少利子とはいえ資産運用に利用されている点などを考慮し、全面無利子化ではなく顧客の希望に応じて

@ 全て無利子に切り替える

A「利子付き」と「無利子」の2つの口座に分離する

B カード機能の付いた個人向けの新型当座預金を作る――といった選択肢が検討されています。

 システムコストに反発

 これに対し民間金融は、大手都市銀行でも個人が預金口座で決済する電気・ガス・電話などの公共料金、住宅ローン、クレジットカードの引き落としは、残高50万円未満の口座が8割であることから、「個人の決済は50万円もあれば十分。個人の決済保護に新型預金導入が不可欠とはいえない」と難色を示しています。それよりも民間金融の心配は、新型口座を急ごしらえすると、みずほファイナンスグループのようなシステム障害が再発しないかという危機意識が底流にあるようです。普通預金を「利子付き」と「無利子」に分ける場合は、従来の口座をそのまま使えるため大手銀行も比較的対応しやすいが、新型預金や新型当座預金の創設は、いずれも預金者が決済口座変更の手続きが必要になります。金融機関は膨大なシステム開発のコストが掛かるため、反発を強めています。

アメの金融合併促進策

これとは別に、塩川正十郎財務相は先のアジア欧州(ASEM)財務相会合で「日本のオーバーバンキング(銀行過剰)状態を改めるため、再編を促す指針作りをする」と述べ、多すぎる金融機関を適正規模に整理統合する意向を表明しました。同相はシステム障害を起こしたみずほグループを「緊張感が欠けている」と批判し、大手銀行の店舗数が多いことにも不満を漏らしていますが、一方の金融庁は、大手銀の再編は一段落し今後は地域の金融機関の合併が焦点になると見ています。そこで全面解禁の強行突破を「ムチ」とすれば「アメ」となるのが、同庁が7月10日に発表した「地域金融機関の合併促進策」です。

預金払戻保証に特例

内容は

@ 金融機関が合併した場合に一定期間に限り、預金払戻保証額を引き上げる経過措置を講じる

A「自己資本の充実策」として公的資金による自己資本の増強

B システム統合など合併で発生する費用削減のための税制優遇

C 優先出資証券による資本増強の規制緩和

D 信金など協同組織金融機関が絡む合併でも銀行同士の場合と同様、債権者への通知を日刊紙に掲載し事務経費の軽減――などを盛り込んでいます。

預金払戻保証額の引き上げは、元本1千万円とその利息に限るペイオフ制度が完全実施されれば、合併で上限を超えた預金が流出する恐れがあるため、その特例措置です。ムチの部分は決済性預金の保護で縮小されますが、金融合併促進のアメの方は原案を多少修正しても実現したいようです。

 貸し渋りの解消狙う

日本には約700の金融機関があり、そのうち約60余が既に統合されていますが、金融庁はこの合併促進策で、財務体質が弱い地銀や信金、信組などの経営基盤強化を図り、抜本的な組織再編や経営陣交代のきっかけにしたい考えです。それによって地域金融機関の収益性と健全性を強化すると同時に、“貸し渋り”に苦しんでいる中小・零細企業向け融資の円滑な実施を目指しています。このように小泉首相と金融庁は、ペイオフ解禁に伴う混乱回避と金融システム安定のため、決済性預金を保護する預金保険法などの改正案と、金融合併促進特例法案を秋の臨時国会に提出しようと懸命になっています。

地域金融健全化に努力

しかし、金融合併についても地域金融機関は「下手に合併に動くと逆に経営不振と受け取られかねない」と警戒しています。むしろ、地銀などの不満は、大手都市銀行に対する政府の不良債権解消策にあります。約30兆円の公的資金を導入していながら、回収不能な公的資金は10兆円にも達すると見込まれています。そんな税金の無駄遣いを許すなら、地域金融機関の自己資本強化に役立てれば、中小企業への融資も潤沢に出来ると主張しています。このため、9月は金融を巡る論議が活発化し、自民党内にはペイオフの全面解禁延期論が再び台頭する可能性があります。こうした各界の主張を吟味しながら、私は地域金融の健全化に努力を傾けたいと思っています。