北村からのメッセージ

 

 第45回(7月16日) 難航の公選法改正案 変わる選挙土俵

衆院の小選挙区の区割りを見直す公職選挙法改正案の本格審議が7月5日から衆院政治倫理確立・公選法改正特別委で始まりました。自民党執行部は「5増5減」の政府案を今国会で成立させる方針ですが、党内には細田博之・総務局長私案の「2増3減」案や野中広務・元幹事長私案の「3増3減」案があって、調整がつかず審議は難航しています。原因は定数減や選挙区の変更で影響を受ける議員に強い不満があるため、政府が郵政関連法案と同様、党の総務会や選挙制度調査会の了承を得ず、修正含みで同改正案を提出したからです。政治家にとって長年培ってきた選挙地盤は貴重な財産。勝手に土俵を変えられてはたまりません。幸いわが選挙区は該当しませんが、改正案の問題点を探ってみましょう。

 5増5減の政府案

政府案は、衆院選挙区画定審議会が昨年12月、「1票の格差」是正に向けて行った区割り見直しの答申に沿って、人口増加の埼玉、千葉、神奈川、滋賀、沖縄5県の定数を1ずつ増やし、過疎化の進む北海道、山形、静岡、島根、大分5道府県の定数を1ずつ減らすというもの。これに対し、細田私案は千葉、神奈川の2増と山形、島根、大分の3減。野中私案は細田私案をもとに若干手直ししたもので、埼玉、千葉、神奈川の3増と山形、島根、大分の3減という案です。政府案では衆院定数の増減がなく、審議会の答申に沿った内容であるため、各党の同意が得やすいとの利点がある半面、「一票の格差」2倍以上が9選挙区も残り、68の選挙区で「線引き」に変更が生じるなどの欠点があります。

 橋本派は3増3減

「2増3減」案では、格差2倍以上の選挙区がゼロとなる良さもありますが、選挙区変更が86あり、同一市区も「5増5減」より分割され、総定数も減るなどのマイナス面があります。「3増3減」案は、政府案同様、衆院定数の増減がないうえ、格差2倍以上が6選挙区残るだけでやや改善されており、野中氏ら橋本派には執行部への「助け舟」として提唱したとの気持ちが強いようです。野中氏らは同案での修正を目指し、公明党との調整に乗り出しているようです。5日の特別委では、選挙区が分割される自民党の金田英行氏(北海道7区)が「5増5減は生活圏、文化圏を分断する」と批判質問を浴びせました。

 中選挙区復活の公明

公明党は昨年秋まで、中選挙区制復活を強硬に主張して「党利党略」との批判を浴びたため、今回は衆院選挙区画定審議会の答申を尊重、5増5減を支持する構えです。保守党も公明党と同じく所属議員に法改正の影響がないため、異論はなさそうです。野党側は民主党が基本的に賛成、社民党も賛成の方向ですが、両党とも「政治とカネ」の疑惑追及に熱心で、是が非でも成立させる気構えはなく、共産、自由両党は反対の態度です。野中氏らを通じ橋本派と密接な関係にある公明党は、3増3原案に乗る可能性もありますが、首相は「5増5減を尊重する」との立場で、安易な修正には応じない姿勢です。

 臨時国会に継続審議か

区割り見直しを一早く実現し、首相の解散権を確保することで、党内の守旧派を抑え込もうとしていた山崎拓幹事長は、郵政関連法案が成立の見通しを得て安心したのか、5増5減案に対する一頃の熱意を失ったように見受けられます。また、内閣支持率の急落で解散・総選挙がやりづらくなり、公選法改正案の成立を急ぐ必要がなくなったことも影響し、同法案の成立は微妙な情勢になったといえましょう。逆に守旧派は、「1票の格差」を解消しないまま首相が衆院を解散すれば、「違憲訴訟を起こされる恐れがあるため、解散権が制約される」と主張、首相を牽制する動きも出ています。新たな区割りは次期総選挙から適用され、10月27日の衆院補選は現行選挙区で行われるため、「改正を急ぐ必用はない」との声もあり、場合によっては秋の臨時国会に継続審議される公算が高まっています。

 ゲリマンダー以来

公選法改正には党利党略がつきもの。1812年に米国のマサチューセッツ州のゲリー知事が自党に有利なように、ギリシャ神話のサラマンダー(火蛇)に似た形に選挙区の区画を変えたことから、党利党略の選挙区改正をゲリマンダーといいます。これをもじって日本では、鳩山一郎内閣のハトマンダー、田中角栄内閣のカクマンダーなどの試みが有名です。鳩山首相は1956年、憲法改正を実現するため、吉田茂内閣が1947年に改正した衆院中選挙区制を小選挙区制に改めようとしましたが、党内の不満が噴出し、断念しました。田中首相も制度改正には失敗しています。池田勇人内閣は1961年、政党の思惑に左右されないよう有識者を中心に選挙制度審議会(首相の諮問機関)を設置しました。

中選挙区支えた派閥連合

審議会は64年の3次審から具体的な制度改正論議に入りましたが、審議会の特別委員に国会議員も加わっていたこともあり、7次審までは1つの制度に絞り込めず、8次審は政治の影響を排除するため、やむなく国会議員の特別委員を認めずスタートしました。自民党も何度か選挙制度改正を模索しましたが、「55年体制」を長く支えた自民党の“派閥連合体”が健在であったことから、1選挙区に複数の候補を擁立できる制度が勢力拡大に繋がるとして、中選挙区制が長く続きました。現行の小選挙区比例代表並立制に改正されたのは、非自民連立政権が誕生した細川護熈内閣の94年からです。

 2大政党の陰で小党不利

「比例代表制は民意が議席に公平に反映される半面、多党乱立の恐れがある。小選挙区制は英国の労働、保守の2大政党が政策を競い合うように、議会の過半数を制する強力な政党が誕生して政権基盤は安定するが、2大政党の陰で少数党は著しく不利になる」―ことを考慮し並立制の採用となりました。ところが、いざ実施してみると、小選挙区制が基本の制度の下では、自民党や民主党のハザマで第三党が議席を得るのは至難の技であることが分かり、公明党は99年の半ばから中選挙区制の復活論を唱え出しました。同党の主張は、定員3人の中選挙区を150設け、衆院の定数を450議席にするというものです。

 公明の抜本改革先送り

同党と太いパイプを持つ当時の野中官房長官は「300小選挙区を150にする。人口格差で2人区、4人区も出るかもしれないが、(定数の)基礎数字を3にするといい制度ができる」などと講演で述べて同党を支援、この後に自自公連立政権が誕生しました。そこで、公明党は中選挙区制復活があたかも連立政権の密約であったかのように自民に実現を迫りました。これに輪をかけたのが昨年秋に浮上した[都市部の選挙区定数を複数にする]という案です。これには公明党幹部も多大な関心を示しました。しかし、都市部の定数増などは小選挙区制の理念とかけ離れているうえ、自民党内でも中選挙区制復活は難しいとの声が強く、マスコミも「公明党の要求は党利略求である」と決めつけました。結局、昨年末に公明党の「抜本改革」は先送りされ、審議中の改正案が上程されたわけです。

 第9次審で改革検討?

「小選挙区当選が金なら、比例代表当選は銀、小選挙区で落ちて比例で救済されるのはさしずめ銅。銅メダルが入閣するのはおかしい」――。党のベテラン議員はかつて、現行制度を五輪に例え批判しました。他にも現行制度は、有権者を無視して候補者が話し合いで小選挙区と比例代表を交互に選ぶコスタリカ方式が各地に生じるなどの欠陥があります。山崎拓幹事長は昨年末、公明党との調整で「中選挙区制復活は難しいが、第9次選挙制度審議会という手もある」と述べており、審議中の改正案の成否に関わらず、第9次審を設置して抜本改革に取り組む意向を示しています。いずれ、民意を十分に踏まえた選挙制度の改革は必要となるかもしれません。

比例選上位で処遇も

7月11日の各派閥総会でも区割り問題が論議されましたが、賛成派の山崎派、3増3減案推進の橋本派、「市町村合併の推移を見守るべきだ」と慎重論の堀内派など、対応が分かれました。山崎幹事長は同日までに、5増5減案で影響を受ける議員44人の意見聴取を終えた結果、「政府案容認の意見が多かった」と総括、12日の党選挙制度調査会で政府案賛成を決定し、今国会で成立を目指す方針です。ただし、山崎幹事長は「議席数が減る地区では救済措置を講じなければならない」とCS放送番組で発言、区割り変更で影響を受ける議員の一部に比例選上位で出馬させる考えを示唆しています。比例選挙での有利な処遇は当然でしょう。いずれにしても選挙制度の改革は、個々の議員にとって深刻な事態。同時に支持者、有権者にとっても参政権の重大な変更です。私は皆さんと共に公選法の今後の推移をじっくり見守り、適切な発言をしていきたいと思います。