北村からのメッセージ

 

 第44回(7月1日) ナノテク特集 産官学で医療にも活用              


 花子「ナノテクって何ナノ」。  太郎「10億分の1メートル。超微細加工技術のことさ」。

 花子「あらッ、そうナノ」―。  こんな問答が家庭での会話に出ていることでしょう。ナノとは、10億分の1m、つまり100万分の1mmというミクロを超えた原子・分子の世界。ナノテクノロジーは、21世紀の産業革命を起こす革新的な科学技術です。米国の産官学で構成する推進組織「ナノビジネス・アライアンス」はナノテクを応用した製品やサービスの世界市場規模を08年に7千億ドル(約92兆円)に達すると予測しました。日本国内でも20−30兆円の市場に成長すると期待されています。

 アジアでも開発加速

 このため、アジア地域でもナノテクの研究開発が加速しており、中国は40カ所もの研究拠点を整備中だし、韓国や台湾、シンガポールも研究予算を増やしています。もちろんナノテク分野は日米欧が先行してきた領域ですが、中国が後れをとっていた情報・エレクトロニクスなどの先端分野で最近、急追してきているのをみれば、全く油断がなりません。わが国は平成14年度の重点目標に@産業競争力の強化A環境・エネルギーB国民の安全・安心――の3領域を設定、基盤技術、物質・材料技術などの開発を進めてきました。終盤国会の展望が不透明なので、今回は皆さんとご一緒にナノテクを勉強しましょう。

 ナノの仕掛け人

 自民党のナノテクノロジー推進議員連盟(谷垣禎一会長、衆参議員77人)は6月10日、党本部に各省担当者を集めて第4回総会を開き、大阪大の川合知二教授(産業化学ナノテクノロジーセンター長)の講演を聞きました。川合教授は「ナノテクノロジー入門」などの著書も多数で、ナノテクの“伝道師”とも“魔術師”とも呼ばれている人。講演では30枚ものカラーイラスト資料を配付し、分かりやすくナノの世界を説明されました。阪大のナノテクセンター設立のいきさつを、2月4日の日経夕刊は「ナノの仕掛け人」の企画で、概略次のように報じています。

 川合教授は超魔術師

 「ナノテクを聞かぬ日はない。新素材や情報技術(IT)、バイオに大きな波及を及ぼす技術を手にすべく多くの魔術師が活動を始めた。川合教授は売れっ子で、それも超がつく。

 物質を極限まで分けていくと、分子や原子の基本構成要素に行き当たる。ここで用いる単位がナノ。この分子や原子1個1個を制御し、望みの素材などを作り上げていくのがナノテクノロジーだ。分子・原子の制御には走査型トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)といった先端装置が駆使される。ナノマテリアルには炭素材料の1つ、カーボンナノチューブなどがある。単一の分子や原子の世界では、これまでの常識とは異なった振る舞いをする半導体材料が生まれる可能性がある」とまずはナノの性質を細かく説明。

 角砂糖一個に図書館情報

 日経の記事は、次に阪大のナノセンター設立について触れています。「2000年1月に米国のクリントン前大統領が国家ナノテク戦略を打ち出した。この技術を次代の科学技術、産業技術の中核と位置づけ、産官学が一体となって取り組む体制作りに乗り出した。キャッチフレーズは『議会図書館の全情報を角砂糖大のコンピューターに収める』――で、原子1個ずつに情報を当てはめると理論的には可能だ。実にわかり安い目標だが、川合教授は『このままでは日本は決定的に遅れる』と焦った。やや突飛な行動だったが、当時の大島理森文相・科技庁長官に直訴。願いは結実し国家戦略が打ち出され、01年度から始まったIT、ゲノム、エコ(環境)と並んで、ナノ分野の研究開発が、国の科学技術の重点項目になった。官民挙げての“ナノテク振興”はここから始まった」と解説しています。

 4月にナノセンター発足

 こうして米国の「ナノビジネス・アライアンス」(産官学で構成)をまねた、阪大の「産業科学ナノテクノロジーセンター」は、さる4月に発足しました。ナノマテリアル・デバイス、ナノ量子ビーム、ナノテク産業応用の3研究部門で、約20人のスタッフでスタート。バイオ素子の開発、ナノのレベルで構造を制御した新素材の製造・加工などに取り組んでいます。川合教授は「日本の製造業は今、中国などに押されて元気がない。だが、他の国がまねの出来ない高度の技術を駆使したものなら、決して後れをとることはない。分子、原子を制御し、新たな機能を持った素材や素子を作るナノテクこそ、日本産業を甦らせるテコになる」と述べ、遺伝情報をつかさどるDNAで電子回路を作ろうとしています。

 DNA素子で半導体

 川合教授が走査トンネル顕微鏡を用いて撮影したDNA(デオキシリボ核酸)の超高分解能像は、目に見えない小さな細胞の、そのまた中にある核に折り畳まれた2重ラセンのDNAがあり、それが我々人間の遺伝情報を持っています。このDNAは新しいコンピューター用集積回路として応用できる可能性があるそうです。いわゆるバイオ素子で、川合教授らは基礎実験ながら、人工合成したDNA素子がスイッチング動作することを確認しています。川合教授は、半導体で使うシリコン基板の上にDNAのネットワーク構造を作ることに成功しています。

 ナノスケールを例証

 講演で川合教授は、ナノの世界を分かりやすく説明されました。ミリメートルのサイズでは、工具や文房具を0.1m(10センチ)とすれば、導線・ネジが10mm(1センチ)、グラスファイバー、神経、微生物が1mm。ミクロサイズでは、髪の毛、毛細血管が10um、バクテリア、CDメモリが1um、金箔、ギガビットチップが0.1um。ナノのサイズでは、タンパク質、ナノ微粒子が10nm、分子が1nm、原子が0.1nm――と極小の世界に移り行くサイズを例証。さらに「メータは人(身長)、ミリメータはホクロ、マイクロメータは細胞や赤血球、ナノメータはDNA、10分の1ナノメータは原子のそれぞれサイズである」と、ナノスケールをカラーのイラストで説明されました。

 極小世界で電流制御

 朝日も3月13日の夕刊では「バイオテクノロジーで発展してきた手法を使えば、DNAは目的の場所で切ったり、くっつけたりが自由自在。工夫すれば電気を通したり、通さなくしたりすることもできそうだ。最先端の半導体チップでは、回路の線幅は加工技術が進歩しても10ナノメートルが限界。それに比べ、たった2ナノメートルの幅しかないDNAは魅力的な素材。<中略>極小の世界で電流を制御する夢は、近く実現する可能性が高い。もともと生体分子だから、電子回路と生体を結ぶ親和性が高い。DNAチップや生体物質を使ったセンサーなどの検出結果を、電気的に取り出す時に使えそう」と述べ、記憶素子やトランジスタなど応用範囲は限りなく広いと報道しています。

 介護ロボットにも応用

 川合教授は「電子伝達タンパクなども組み込んだDNAのネットワークを自由に作るのが目標。本物の脳のような学習機能を持った回路や、人間のような五感をセンサーに応用できるはず」と述べています。たまたま、ナノテク議連総会の当日、党本部の別のフロアでは「ロボット介護研究会」が開催され、月額1万円の被介護者負担で500万円のロボットを家庭に導入するプランが検討されていました。仮に人間同様、視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚の五感センサーを身につけた、川合教授の言う「人に優しい」介護ロボットが開発されれば、高齢者社会にとってはまさに鬼に金棒。順調に開発が進めば、介護ロボットの量産効果は年産20万台となり、10兆円を生み出す企業となります。

 創薬、医療、予防に画期的

 川合教授は、生体適合ナノ粒子(ナノマテリアル)にバイオ・細胞技術をプラスして「人間の身体を創る」“ヒューマンボディービルディング”を5年以内に開発する考えです。これにより、ナノデバイス・エレクトロニクスを使った人工感覚器の五感センサーロボットはもとより、生理機能応用型の人工臓器、生体適合型の人工骨などが生み出されます。また、薬が入ったナノ粒子を身体の望む場所にミサイルのように送り届け、正常な細胞から危険な異物を排除する「超微小分子医療マシン」を開発する方針です。これらの“創薬”も数年内に実用化し、10−20年でさらに高度化したいと意欲を燃やしています。

 大化けの可能性

 その頃には、迅速に生体情報を処理するバイオチップが登場、超高速のゲノム解析、超高感度の遺伝子・生化学診断などの技術が進展、BSE(牛海綿脳症)のタンパク質解明をはじめ、免疫異常で発症する慢性関節リウマチの治療薬やアルツハイマーなどの医療、予防の両面で画期的な成果が期待されます。特に創薬、新医療法開発は「大化けの可能性がある」と川合教授は指摘しています。このほか、95年に島精機が、1本の糸から1着丸ごと立体的に編める無縫製のニットウエアをイタリア・ミラノの国際見本市で発表し驚嘆されましたが、ナノテクならいとも簡単な技術のようです。専門的で難しい話になりましたが、私は衆院厚生労働、農林水産の両委員として、こうしたバイオ・医療の分野は避けて通れません。大いに勉強し“日本の生命線ナノテク”を政策に活かしたいと思います。

 科技の重点4分野

 政府は平成15年度の科学技術関係予算を、総合科学技術会議が昨年まとめた@ライフサイエンスA情報通信B環境Cナノテクノロジー・材料――の重点4分野に重点配分し、先号で紹介したように優遇税制を取り入れる方針です。ライフサイエンスでは遺伝子、タンパク質の構造・機能の解明、最新知識の臨床・創薬・物質生産への応用、食品の安全性、情報通信技術との融合領域、先端解析・医療機器など。情報通信では高信頼・超高速移動通信システム、高機能・低消費電力半導体、分散コンピューター、安全性・ソフトウエアなど。環境では温室効果ガス排出削減、循環型社会創造支援システム、自然共生化、化学物質リスク管理、水循環観測・予測など。ナノテクでは半導体微細加工、生体・分子材料技術と半導体加工技術の融合などの技術を開発することにしています。

 産官学連携が必須条件

 このようにナノテクノロジーはパソコンに組み込む半導体の微細化など情報通信はもとより、重点4分野の全てをオーバーラップしています。これを推進するには、産官学の連携と大学改革が必須条件となります。政府は科学技術振興の基本的考え方として「21世紀において、知の創造と活用により世界に貢献し、国際競争力を持って持続的な発展が出来、安心・安全で質の高い生活が出来る国となるためには、科学技術の振興は不可欠である」と述べていますが、私も同感です。皆さんとともにナノテクの輝ける未来を見守り、支援していきたいと念じています。