北村からのメッセージ

 

 第43回(6月16日) 経済活性化戦略 日本の良さ発揮を              


 政府は6月21日、税制改革と経済活性化策の基本方針をまとめます。これは「骨太の方針―第2弾」と名づける総合戦略で、平成15年度予算のガイドラインを示すとともに、小泉首相が同26日からのカナダサミット(主要国首脳会議)で日本の第2次デフレ対策として公表する重要な政策です。今年1−3月期の国内総生産(GDP)は、4四半期ぶりのプラス成長となり、「景気テコ入れ宣言」の正しさがデータからも裏付けられました。米国経済の回復に伴い米国やアジア向け輸出が好調だったこと。マイナス続きだった内需も、個人消費が2四半期連続プラスに転じ堅調に入ったこと、などが理由に挙げられます。

 自立的回復軌道へ努力

 しかし、デフレ不況の影響で、家計所得が伸び悩むうえ、設備投資は3・2%減の落ち込みが続くなど不安定な状況にあり、日本経済を自立的な回復軌道に乗せるには大変な努力が必要です。政府の経済財政諮問会議(議長・小泉首相)は6月3日、骨太方針の骨格となる経済活性化戦略をまとめ、6分野にわたり30の具体策を打ち出しています。活性化戦略は自民党の経済産業部会でも10数回検討を加えましたが、産業構造改革の立場から、戦略には私の専門分野である農林水産、雇用、社会福祉、環境や教育も含め、全省にまたがる施策が網羅されています。従って同部会には私も積極的に足を運んでいます。

 実践が最大の課題

 マスコミは小泉改革を「総論あって各論なし」「国家戦略や理念が欠落」などと手厳しく批判していますが、党の部会に配布された経済活性化戦略、平成の税制改革などを子細に読んでみると、結構充実した内容であり、いかに実践するかが最大の課題と思えます。ただ、経済産業省がまとめた「産業構造改革へ向けた緊急提言」では、「競争力ある企業を伸ばし、競争力ない企業の退出を促す」戦略のもとに「国民経済レベルの選択と集中」へ産業を再編する姿が強く示されました。これに私はやや抵抗を感じます。新聞、テレビは、残念ながら限られたスペースと放映時間の中で、「工程表」の骨子しか報道していません。そこで、今回は皆さんと共に経済活性化戦略などをじっくり検討したいと思います。

 簡単な新聞報道

 朝日が「経済活性化戦略」を報じた4日朝刊は「<前略>IT(情報技術)やバイオなど先端分野の技術基盤を強化するため、試験研究開発の税制やIT・環境投資を促進する税制の見直しなどを盛り込んだ。<略>地域の活性化のため、特定地域に限って規制緩和・撤廃を進める構造改革特区の導入を掲げたが、具体的分野や導入目標時期は明示しなかった」という簡単な説明で、後は6つの戦略の主な項目を下記の通りに羅列してありました。

 6分野、30の具体策

 【人間力戦略】国立大学の法人化と教員・事務職員の非公務員化(04年度)、「英語が使える日本人」育成の行動計画を策定(今年度)、現行NPO税制の認定要件の見直し

 【技術力戦略】試験研究税制、IT・環境投資促進税制措置の見直し、知的財産権の保護・活用強化

 【経営力戦略】起業・廃業の促進、個人保証の在り方の見直し、連結税制の整備、財務諸表の四半期開示に向けた行動計画の策定、金融資産課税の見直し

 【産業発掘戦略】ビザ発行の規制緩和(今年度)、「秋休み」など長期休暇の分散化を推進、行政サービスのアウトソーシング(外部委託)推進

 【地域力戦略】「構造改革特区」の導入、バイオマス利用の推進計画策定(今年度)、寄付税制の見直し

 【グローバル戦略】FTA(自由貿易協定)など経済連携の推進強化

 戦略の基本的考え方

 朝日の記事では分かりにくく不親切なので、この戦略の基本的考え方を説明しましょう。

(日本経済低落の原因)
 @ 経営力の面で効率性や透明性が低い
 A 基礎的科学的技術の開発成果が産業化に結びつかない
 B 平等主義、年功序列の硬直的仕組みの中で個性や能力ある人材を十分生かし切れない
 C 新需要の創造力も低下し消費者の生活満足度も低い
 D 国の過度な関与で地方の個性が喪失、地域活力も失われた
 E グローバル化への対応が遅れ、日本で作ってきたモノが中国やアジア諸国へ産業立地を移しつつある――などを挙げています。

 必ず甦る日本経済

 (活性化への取るべき戦略)日本経済の潜在的力量は依然高く、経営者の勇敢な行動と決断、傾斜生産方式に見る選択と集中、品質と消費者志向を誇る技術力などの特質を活かせば日本は必ず甦る。大胆な事業・企業組織の再編、産学官の連携など新しい動きが現れ、医療・社会福祉、教育の分野でも利用者の選択肢が広がりつつある。また、新技術と潜在的需要(ウオンツ)の出会いを促進し、政策資源のダイナミックな再配分を国民経済レベルで行い持続的な経済成長を生み出す。その第一に「民間が出来ることは出来るだけ民間」に委ね、第二に政府の役割を「市場活動を邪魔しないよう裁量型から事後監視型」に変え、第三に消費者・利用者を起点に多様な選択肢のある経済社会を構築する――を挙げました。

 民営化と規制改革

 第四には、グローバル化の流れの中で活力を取り込むため、FTAを推進するなど多くの国・地域との経済連携を深めることを強調。経済活性化の戦略として上記のように人間力、技術力、経営力、産業発掘、地域力、グローバル化の6つの重点分野と30のアクションプログラム(具体策)を取り上げています。いずれも小泉構造改革の基本に沿って民営化や規制改革を通じ、経済活動の主体を「官」から「民」へ移して民業を拡大しようとしています。また、経済活性化の際には@技術と市場の好循環A製造業とサービス業の好循環B日本とアジアの好循環――という「3つの好循環」をてこに、相乗的かつ加速的に達成することが重要である、と結んでいます。これは経産省が5月13日に公表した「産業構造改革へ向けた緊急提言」の中核をなす部分で、経済活性化戦略の随所に出てきます。

 選択と集中の企業戦略

 (日本の経済社会の何が変わるか)の中でも「経済活性化戦略により、豊かな自然環境、医薬・介護サービス、子育て支援、安全・安心で美しい街並みや高品質な住宅、多様な情報・知識の入手など消費者の潜在需要を実現する財・サービスが新事業として発展していく。こうした新事業が次々と誕生する一方で競争力のない起業は市場から退出する。起業はワンセット主義では生き残れず、選択と集中による企業戦略に転換する。経営者も年功序列の閉じた社会組織の中で選ばれるのではなく、外部評価などを通じて選ばれるようになる」と記述、経産省の「構造改革に向けた緊急提言」がしっかり引用されています。

 日本的資本主義称賛

 しかし、この視点が全く正しいかとなれば、私は疑問に感じます。最近読んだ雑誌に評論家の入江隆則氏が米実業家、ビル・トッテン氏の著書を紹介しています。入江氏によると「トッテン氏作品には日本人が忘れている日本の良さを強調するものが多い。日本は江戸時代に平和で自然との共生を目指した素晴らしい文明を築き上げていたし、明治の素早い近代化も他国に類を見ないものだった。戦後の経済成長時代に構築した日本的資本主義と称するものも、世界にもまれな見事なシステムだったのかもしれない。というのも、日本人が発明した終身雇用とか年功序列の制度は、ややもすると不毛な競争に終始する近代社会を安定させて、最大多数の最大幸福を実現させる知恵だったのかもしれない。トッテン氏は、そういう日本という国の良さを日本人自身が気づかず、弊履のように捨て去ろうとしているかに見えることに、業を煮やしているようである」と同氏に賛同しています。

 米社会の疲弊深刻

 入江氏の分析によると、トッテン氏は米国人でありながら、「アングロサクソンは人間を不幸にする」と題する著書にこう書いてあるそうです。<日本がお手本にするアメリカ経済は、株高にも支えられ、良好なパフォーマンスを続けているように見える。「アメリカはニューエコノミーの時代に入った」というエコノミストも現れ、米国が世界の豊かさを独り占めしている印象すら与える。しかし、活況を呈している米経済の利益を受け取っているのはほんの一握りの金持ちだけだ。大多数を占める一般労働者の実質収入は下がり続け、今や夫婦共稼ぎでなければ家庭を維持できない貧富の差は広がり、親の目の行き届かない少年少女たちが増え、犯罪が増加しホームレスが街に溢れ、米社会の疲弊は深刻>

 日本的な良さ発揮を

 入江氏は「トッテン氏の著書の読みどころは、こういう現在の米国の不幸を、中世以来のアングロサクソンの長い歴史が生み出した必然の産物と言っている点だ。<略>.銀行などの金融王が誕生し、米帝国主義を援護してきた」と述べています。.金融資本の飽くなき利潤追求と世界市場制覇を入江氏は指摘しているのでしょう。産業構造の改革には、確かに経産省のいう「競争力のない企業は市場から退出」し、「選択と集中による企業戦略に転換」することも大事でしょうが、優勝劣敗、弱者切り捨ての発想だけで経済活性化は図れません。サッカーW杯では日本国民の熱狂と団結力が相手を圧倒、優れた民族性が再評価されました。日本の高度成長を支えた原動力には均質でハイレベルのマンパワーと終身雇用、年功序列賃金に支えられた労働者の安定感と団結心が根底にあったからです。401Kなどのポータブル年金や退職金に相当する賃金の前払いなど、ドライで個的な就労形態が昨今流行っていますが、「日本的な良さ」を発揮できる労使関係の確立が望まれてなりません。

 シーリング作りに取り組む

 経済活性化戦略の30項目には、ITやバイオ、ナノテクノロジー(超微細加工技術)などの有望分野を中心に技術開発や設備投資、新規創業を促すために税制優遇措置、規制緩和、予算の重点配分をセットにした総合戦略を描こうとしていますが、生涯現役社会を支える労働制度と社会保障制度の整備、健康寿命の増進、都市と農山漁村の共生・対流、食料産業の活性化、特色ある地方都市の再生、森林整備保全など、私の関与する政策だけ拾い上げても枚挙にいとまがありません。終盤国会から8月に掛けて来年度予算編成の概算要求基準(シーリング)作りに入りますが、経済活性化の基本戦略を踏まえ、私は厚生労働、農林水産の両政策に専門知識を網羅して真剣に取り組みたいと念じております。