北村からのメッセージ

 

 第39回(4月16日) 憶測呼ぶ解散談議 瓢箪から駒も

「総辞職はしない。やるなら解散だ」――。小泉首相が酒席で述べた一言をめぐり、政界では様々な憶測が飛び交っています。この発言について、マスコミは@武部勤農相の進退問題で亀裂を深めた公明党への牽制A内閣支持率の低下を契機に自民党内で萌え始めた“小泉降ろし”の芽を摘み取るための先制攻撃――などと解説しました。確かに、外務省一連の不祥事に端を発した「政と官」、秘書給与の流用疑惑など「政治とカネ」の問題が国民の政治不信を一層高め、田中真紀子前外相更迭後は内閣支持率が一挙に半減、横浜市長選挙では市民派候補に政党候補が敗退しました。首相が危機感を抱き、政権への求心力を回復するためにも、衆院解散を唱えたくなるのは当然でしょう。

 夏まで50日間国会延長
首相に近い政界の長老は「吉田茂は戦後立て続けに4回も解散した。毎回3分の1は落選するので3回で無能力者は淘汰される。国論の統一と政策の遂行、政権を強化するには総選挙しかない。構造改革を断行するにはまず解散だ。解散できない首相は名を残さない」と述べていますが、首相もこの長老の影響を強く受けているようです。しかし、首相自慢の〇二年度「改革断行予算」は成立したものの、景気浮揚の実効性はまだ不確か。後半国会では予算の裏付けとなる重要法案が目白押しです。しかも、党各部会の抵抗に遭って柱となる法案は未提出で、打開策として早くも国会会期の延長が取りざたされています。会期末の6月19日から8月9日頃までの50日間延長が有力で、酷暑の国会となりそうです。

 透徹したビジョンが必要
緊迫する国会運営が厳しさを加えるなかで、首相は小泉改革の成果も示さないまま国民に信を問えるでしょうか。国際経済はやや明るさを取り戻していますが中東情勢は険悪化し、原油価格の高騰が噂されています。首相が解散を断行するには、「日本を変える。自民党を変える」の公約通り構造改革を真っ先に実現し、透徹したビジョンとそれを実行に移すプロジェクトを織り込んだ選挙公約(マニフェスト)を用意しなければ勝てません。そのため、我々は後半国会で、政権党としての堂々たる政策論議を展開するつもりです。

 抵抗勢力の砦で饒舌
「皆が寄ってたかっておれを引きずり降ろそうとしても、総辞職はしない。やるなら解散だ」――。小泉首相は4月4日夜、自民党行政改革推進本部の太田誠一本部長、古賀誠前幹事長ら同本部のメンバーや石原伸晃行革相と都内の料亭で会談した際、こう語ったそうです。同本部は、首相が進める特殊法人改革に注文を付けるなど、“抵抗勢力”の砦とも見られているだけに、気負い込んでしゃべった節があります。「派閥の大小とか数を頼りにはしない。武部氏(のケース)を見ても分かるだろう。数を頼りにしていたら、(少数派閥の山崎派に属する)武部氏は守れない」とか、「敵と思えば味方、味方と思えば敵。それを見極めなければならない。味方と思っても『ブルータスお前もか』と思った人もいる」などと語り、アルコールも手伝ってか“政局談議”は饒舌だったようです。

 解散嫌う公明を牽制
この夜は、首相が武部農水相の続投を決めた直後でもあり、公明党が神崎武法代表の農水相更迭要求に沿って、参院本会議で農水相問責決議案に賛成する動きがあったため、同党が最もいやがる衆院解散を匂わすことで、動きを封じ込める狙いがあったと思われます。同時に、最大派閥の橋本派などが、首相持論の郵政民営化を警戒し、郵政事業の全面民間開放を図る信書便法案(仮称)で民間に厳しい条件を付けようとしているのに対し、首相は解散をちらつかせて牽制したといえるでしょう。だが、実際には「私の総裁任期はまだ一年ある。それまで全力投球するので解散などは考えていない」と、安心させたそうです。

重要法案目白押し
公明党は農水相問責決議案の採決が終わるまで参院本会議を欠席、同案を否決させました。首相は記者団に対し「途中で投げ出すのは楽かもしれないが無責任。政治家として一番分かりやすい辞め方は選挙で負けたとき。国民に信を問うて『小泉いらない』と言われたときに辞めるのが一番いい。内閣不信任案が可決されたら総辞職はない。解散だ」と笑みをたたえて解説しました。内心では、公明党に対して解散発言の効果があったと満足したからでしょう。後半国会は、有事法制をはじめ医療制度改革、選挙制度改革、郵政事業の民間開放、道路公団民営化などの重要法案を抱えていますが、有事法制、郵政公社関連法案などの国会提出が遅れ、審議も大幅に停滞しています。

 難題の信書便法案
とくに提案が遅れているのは、首相肝いりの「日本郵政公社法案」と「信書便法案」。難題の信書便法案は、首相ご執心の「民間事業者に郵便事業への全面参入」を認める条件として、全国展開する業者に対して、@重さが250グラムまでの手紙やはがきなどに限り全国一律料金A全国どこでも原則3日以内に配達B人口密度に応じて全国10万カ所程度の秘密保持が確実な差し出しポストの設置――などを義務づけています。また、採算性の高い都市部など地域限定で参入する宅配業者などに対しては、@一定の時間内に配達するA特別料金などを徴収するB重さ4キロ以上の郵便物を扱う――など、速達便専門やバイク便など特定サービスに限り、条件付きで許可することにしています。

 条件緩和を首相指示
郵便ポストの設置数は全国17万カ所あり、人口約700人当たり1カ所の勘定ですが、これを千人当たり1カ所と計算して全国10万カ所程度を割り出し、参入業者に「ユニバーサルサービス」(全国集配、均一料金)を義務づけることにしたものです。ヤマト運輸には30万以上の小包受付拠点があり、ポスト網整備は可能ですが、他の大手宅配業者が参入する場合、ポスト1基数十万円として数百億円の投資が必要となります。このため、民間開放を郵政民営化の一里塚にしたい小泉首相は、「この条件では厳し過ぎて民間の参入は出来ない」と条件緩和を指示、総務省も簡易ポストをコンビニ内に設置するところまで折れてきています。全国規模の郵便会社のほかに、前述の業務エリアを限定した「地域限定型」特定サービスも民間参入促進のため、首相が指示したものです。

 選挙に影響と警告
 これに対し、自民党の総務部会は、総務省の法案説明に「首相はヤマト運輸から政治献金を受けているが、黒猫ヤマトの一企業のために法案を作るなんてとんでもない」と全く逆な理由で反対。全特(全国特定郵便局長会)が自民党の強力な支持基盤であるだけに、「28日の参院新潟、衆院和歌山の補選の前に法案がまとまるようなら、選挙にも影響が出る」と“警告”したそうです。同法案は当初、3月末までに提案する予定でしたが、有事法制とともに提出が大幅に遅れています。郵政懇話会は野中広務元幹事長が会長を務めるなど、最大派閥・橋本派の牙城。郵政公社は来年度に発足するため、公社法案の成立を急ぎますが、信書便法案は流産しても一向にかまわないというのが郵政関連議員の本音でしょう。

 起死回生で解散も
従って、委員会審議に入っても医療制度改革法案と同様、与党質問を繰り出して慎重審議する構えです。そうなると、郵政民営化を構造改革のシンボルとしてきた首相にとって、かりそめにも信書便法案が継続審議になれば手痛い打撃を被ることになります。もともと党内基盤が盤石でない首相は、山崎拓、加藤紘一の現・元幹事長とはYKKの盟友関係にあり、助け合ってきました。その加藤氏が8日、政治資金を生活費などに流用していた疑惑で議員を辞職しました。マスコミは「首相の指導力に陰りが生じてきて」と報じています。首相が法案の成否によって追いつめられれば、起死回生の一手として、伝家の宝刀を抜くこともあり得ましょう。その意味で春宵一刻の解散談議は単なる「首相の危機意識の表れ」などと傍観してばかりはいられません。瓢箪から駒の事態もあり得ます。私は常在戦場の決意を新たにして後半国会で頑張りたいと思っています。どうぞご支援下さい。