第379回(9月1日)政局秋の陣 デフレ脱却・衆院補選が課題
 平和の祭典・リオ五輪は日本が過去最大のメダルを獲得、テロもなく無事終わりました。アベノミクスの成果を問う臨時国会は9月中旬に開幕、いよいよ政局秋の陣が始まります。2回の夏休みで英気を養った首相は、8月末からリオ五輪の閉会式、アフリカ・ケニアのTICAD、ロシア・ウラジオストクの東方経済フォーラム、中国・杭州のG20首脳会議、ラオスのASEAN首脳会議などに出席。中旬はニューヨークの国連総会で演説した後キューバに回り、経済協力を協議します。私は8月14日から19日まで、キューバ隣国のカリブ海に浮かぶ人口8万の小国・ドミニカのメディーナ大統領就任式に派遣され、駆け足で政府特使の役割を果たしてきました。政局秋の陣の注目点は10月23日投開票の衆院東京10区と福岡6区の補欠選挙です。自民党は参院選の大勝に次いで補選も圧勝しなければなりません。中国の経済減速や円高による株安などでボーナス商戦は振るわず国民消費に陰りが生じデフレ脱却も停滞気味。政府与党は残暑の中、経済再生策が問われる17年度予算編成に鋭意取り組み、結構多忙な日々を送っています。一層のご指導をお願い申し上げます。

訪中・キューバなど外遊目白押し
 9月に入って、首相の外遊は目白押し。8月20日はリオ五輪の閉会式出席のためブラジルへ出発。27、28両日にはケニアのアフリカ開発会議(TICAD)に出席した後、休む間もなく9月2、3日はロシア極東ウラジオストクでの東方経済フォーラム。4、5日は中国・杭州で開く主要20カ国・地域(G20)首脳会議。6、8日はラオスでの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議。18日から米国での国連総会に出席した後、米国と54年ぶりに国交を回復したキューバに立ち寄り、ラウル・カストロ国家評議会議長、兄のフィデル・カストロ前議長と会談、経済協力や投資拡大を話し合います。キューバは経済成長が見込まれ、昨年4月末に岸田文雄外相が訪問、前座を務めました。首相の地球儀俯瞰外交は多彩ですが、東・南シナ海では力による現状変更を図ろうとする中国、ノドンなど弾道ミサイルを日本海に発射して日米韓防衛協力に挑発を続ける北朝鮮など極東アジアでは緊張が高まっています。日本政府は5月の伊勢志摩G7サミットで首脳宣言に「仲裁を含む平和的な手段で紛争を解決」を再確認する記述を盛り込みましたが、首相は中国で開くG20首脳会議でもG7議長国の立場から、仲裁裁判の判決尊重を中国に求める声明を発表するよう各国に呼びかけています。政府はHPで領海侵入した中国公船の動画などの公開に踏み切りました。

北方領土進展期待の日露首脳会談
 一連の外遊の中で、首相が最も重視しているのが、中国のG20首脳会議に先立つ2、3日の東方経済フォーラムの際にウラジオストクで開く2日の日露首脳会談。プーチン露大統領と親密な首相は北方領土問題の打開に強い意欲を見せています。ロシアはクリミア半島の占有に対する欧米による経済制裁と原油安で経済が低迷し困窮しています。首相は5月の日露首脳会談で極東開発など8項目の協力計画を提案、経済協力をテコに領土問題を動かそうとし、6年ぶりの露大統領の年内来日を切望しています。ロシアは平和条約締結後に歯舞、色丹の2島を「引き渡す」とした1956年の日ソ共同宣言に基づく最終決着を求め、柔道愛好家のプーチン氏は昨年、「引き分け」もあると述べています。「政経不可分。4島一括返還」を唱えてきた日本は現在、「4島の日本への帰属が確認されれば、返還時期や態様、条件は柔軟に対応する」との立場に姿勢を変え、90年代以降、徐々に経済協力にも踏み出していました。ところがロシアは、軍事・経済の両面から北方領土を重視し、北方4島を含む千島列島(ロシアの呼称はクルリ半島)全体の開発、整備を進めています。

国後、択捉に兵力・ミサイル配備
 読売の「北方領土特集」によると、択捉、国後島の間の「国後水道」は水深が深く、ロシア海軍の太平洋艦隊がオホーツク海を経て太平洋に出るための重要な航路です。北極海では近年、温暖化の影響で氷が減少し、航行可能な時期や海域が拡大、ロシア沿岸を通る北極海航路を利用した場合、アジア・欧州間の航行距離はスエズ運河経由と比べ4割程度も短縮され、海賊に襲われる危険性も低く、貨物船などの増加が見込まれると言います。日本が安全保障関連法を制定し日米同盟を深化させたことも露政府の懸念材料であり、ロシア軍は国後、択捉両島に計約3,500人の兵力や地対空ミサイルなどを配備。さらに新型の地対空ミサイルを近く配備するとの情報もあります。またロシア国防省は5~6月に千島列島中部のマトウア島に調査チームを派遣。日本軍が第2次世界大戦中に使用した滑走路を修復できるかどうかや、海軍基地建設の可能性を調べたと言います。北方領土を取り巻くこうした新たな変化の中で首相はどのような訪露の成果を上げるか。国民は注視しています。

二次補正・TPP・憲法改正で論戦
 首相の近隣外交や15日の民進党代表選を待って9月中旬以降に開かれる臨時国会は年末までの長丁場となりそうです。経済再生を加速する約28兆円規模の16年度第2次補正予算案、環太平洋経済連携(TPP)協定の承認と関連法案の審議や憲法改正を巡り論戦の火花を散らせます。参院選では自・公・日本維新(旧おおさか維新)・日本のこころ四党だけで3分の2の改憲勢力を確保したことから、改正論議は衆参両院の憲法審査会を舞台に本格論議に入ります。大阪維新は8月23日、12年に国政へ進出した際の名称「日本維新の会」に党名を変えました。自民党は党憲法改正推進本部の森英介本部長が留任する見通し。民進党は15日の党大会後に決定しますが、改憲に慎重な江田五月・元参院議長が参院議員を引退した後も民間人のまま憲法調査会長を続投し、与野党の改憲論議を牽制する可能性が高くなりました。自民党の参院選公約は「衆参の憲法審査会で議論を進め、各党と連携しながら合意形成に努める」で、首相はテレビ討論でも「9条改正は難しい」との認識を示し街頭演説でも経済対策が中心で、憲法改正には一切触れず争点回避の姿勢を貫きました。

9条改正封印し緊急事態条項新設
 首相は第1次内閣の06年当時、「時代にそぐわない条文として典型的なものは9条だ」と語り、祖父の岸信介元首相が意欲を示した9条改正にこだわってきました。だが、昨年、集団的自衛権行使を限定容認する安保関連法が成立し、不穏な安保環境への抑止力が満たされたことから9条改正を封印。大災害やテロに備える「緊急事態条項」の新設や、参院議員を地域代表に位置づける改正などを検討項目に挙げています。それも、緊急事態時に国民の権利を制限する規定の創設は国民の理解が得られにくいので、国会議員任期の延長規定にとどめようとする意見が大勢です。自民党が野党時代(谷垣禎一総裁)にまとめた憲法改正草案には天皇を「元首」、自衛隊を「国防軍」などと明記しましたが、そうした勇ましい議論は今や党内で抑制されています。おおさか維新の会が公約に掲げた改憲項目は ①教育無償化 ②道州制実現を含む統治機構改革 ③憲法裁判所の設置 ―― の3点で9条改正は含まれません。支持母体の創価学会に護憲派の多い公明党も「9条改正は必要ない」(山口那津男代表)とし、02年の党大会以来、「加憲」を意欲的に推進。04年の党憲法調査会では環境権など「新しい人権」を盛り込み、06年の運動方針には「未来志向の憲法」を謳い、加憲対象に国民主権を明記。知る権利、プライバシー権、地方自治、私学助成の規定など13項目を列挙。自民、民進両党などがいかに対応するか、様子見を決め込んでいます。

民進党は「神学論争」でなく「創憲」
  民進党の岡田克也代表らは、民主党当時から「安倍政権下での憲法改正論議には応じない」とし、参院1人区で自民党と対抗するため「改憲勢力阻止」をスローガンに共産、社民、生活と野党4党の統一戦線を組みました。だが、「憲法9条など全文を含む全条項を守る」とした共産党や社民党の護憲論とは明確な違いがあり、民進党内には「時代の変化に対応した条文改正を目指す」という保守派が多くいることも事実。同党は3月に旧民主と旧維新の党が合流し結党しましたが、改憲に前向きな維新と同様、前原誠司元外相ら改憲派は「不磨の大典」ではなく「論憲」から「創憲」へ発展させる考えです。民主党時代の10年前にまとめた憲法改正の基本的見解では環境権、知る権利など新しい人権の確立と「制約された自衛権」を持つなどが明記されました。しかし、民進党は依然、旧民主党の保守系議員と、護憲派の旧社会党系議員に別れ、憲法改正の綱領作成でも一本化できず、「未来志向の憲法を国民とともに構想する」との曖昧な表現に留まりました。このような与野党の姿勢から両院の憲法審査会では、「9条をいかに守るか」といった神学論争での対決は影を潜め、参院の合区問題の改善などが主として討議されることになりそうです。

参院選の合区解消で改憲論戦か
  7月参院選では有権者の少ない鳥取・島根両県と徳島・高知両県をそれぞれ一つの選挙区として1票の格差を是正しましたが、人口減少県では、国政に代表者を送り出せないとの危機感が強く、参院選公約でも合区解消に向けて「憲法改正を含めあり方を検討する」と掲げていました。1票の格差を巡り違憲判決が出ることを回避するには、憲法に明示するのが必要と考えるからで、細田博之総務会長は「国政の代表は都道府県別に確保できるようにすべきだという意見が出ている」と述べ、対応を急ぐ姿勢を示しています。憲法43条では国会議員を「全国民の代表」としていますが、参院議員を「都道府県代表」と位置づければ、国民代表の衆院議員と都道府県代表の参院議員の権限が同じでよいのか」といった議論が必ず出るでしょう。また、合区解消には「比例選の定数を減らし都市部の選挙区の定数を増やす」などの案もありますが、野党の反発は必至で与野党協議は難航しそうです。

東京五輪まで3期6年に党則改正
 「次の東京五輪は世界に感動や夢、希望、勇気を与えるものにしたい」―― リオ五輪で日本は41個のメダルを奪取しましたが、首相は閉会式に出席する際の記者会見で、4年後の東京五輪に大きな期待をかけました。前回64年の東京五輪は祖父の岸信介元首相が誘致しながら安保改定を巡る混乱から退陣。首相はその無念さを知っているだけに、首相周辺は「次の東京五輪開会式への出席は首相の悲願」だと見ています。そこで二階幹事長は「1期3年、連続2期6年まで」と定めた総裁任期の党則を「3期6年」に改正することを軸に意見集約に入ろうとしています。政局秋の陣で注目されるのは10月11日告示・23日投開票の衆院東京10区と福岡6区の補欠選挙です。東京10区は衆院議員から転じた小池百合子東京都知事の後継選び、福岡6区は鳩山邦夫元総務相の死去に伴うもの。何れも自民党の議席だったため、参院選で大勝した余勢を駆って自民党は連勝しなければなりません。

政局に影響与える東京・福岡補選
  しかし、都知事選で圧勝した小池氏は自分を支援してくれた独自候補の擁立を検討。さらに来年の都議選に向けて自民党都議連などに働きかけ、「小池新党」の布石を打とうとする観測も流れています。一方、福岡6区は県政界に強い影響力を持つ県議8期の蔵内勇夫県連会長の長男・謙氏と鳩山氏次男の二郎氏(福岡県大川市長)が出馬を表明。福岡自民県連は分裂の様相を深めています。これに対し野党は民進、共産、社民、生活の4党が参院選と同様、「野党共闘」で臨む方針を固めつつあります。さて勝敗はどちらに軍配が上がるか。今後の政局に影響を与えそうです。