第377回(8月1日)内閣・党役員人事断行 長期政権の礎固め
 8月1日召集の臨時国会は参院議長を選出して、3日間で閉幕。熊本地震対策や経済振興策などを盛り込む16年度第2次補正予算案の審議と、環太平洋経済連携協定 (TPP) を承認する本格的な臨時国会は9月中旬に改めて召集する段取りです。参院選で改憲勢力を確保し大勝した安倍首相は長期政権の礎を固めるため、3日に内閣改造 ・ 党役員人事を断行します。内閣の要である麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官は不透明な世界経済に対処し、アベノミクスを完璧に達成するため留任させ、派閥領袖も閣内に取り込む見通しです。中国の経済減速と原油安に加え、英国のEU離脱などで世界経済は益々混迷を深めているため、秋の臨時国会に提出予定の16年度第2次補正予算は当初想定の10兆円を約3倍に増やす方針です。バングラデシュ、仏 ・ ニース、トルコなどでソフトターゲット狙いのテロが多発する中、首相は今月も多彩な外遊を展開。テロ対策、北朝鮮の核 ・ ミサイル実験や中国が領有権を主張する南シナ海問題などで、米国とともに 「法の支配と平和的解決」 を訴え続けています。政府与党は猛暑の中、年末にかけて成長戦略を煮詰め17年度予算編成に盛り込むため汗だくで奮闘しています。一層のご支援、ご教唆をお願い申し上げます。

伊達参院議長、役員は3派分け合い
 「参院選で約束したことをしっかり実行していくための強力な布陣を作っていきたい」 ―― 首相は7月11日、参院選後の記者会見でこう述べ、東京都知事選の応援もしないで17日から山梨県の別荘に篭りました。例年は8月中に夏休みを取りますが、8月1日の臨時国会召集、下旬のケニアでのアフリカ開発会議 (TICAD) 出席など外遊日程が控えているため、早めに休暇を取り、人事構想を練ることにしたものです。1日に選出する参院議長人事は自民党最大派閥 ・ 細田派の伊達忠一参院幹事長、岸田派の溝手顕正参院議員会長、二階派の中曽根弘文元外相、山東派の山東昭子元参院副議長らの名が挙がりましたが、結局、伊達氏に決定。副議長は民進党の郡司彰 ・ 参院議員会長に決まりました。自民党参院の議員会長には細田派の橋本聖子元政審会長、幹事長には額賀派の吉田博美国対委員長、後任国対委員長には岸田派の松山政司議運委員長が就任、3派で主要ポストを分け合いました。

党三役は改憲で野党受け人材起用
 3日にも断行する人事では首相が 「骨格は変えない」 と周辺に語っているように、内閣の要である麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官は留任させ、経済の立て直しを図る方針です。公明党の指定席 ・ 国交相は石井啓一氏が留任の予定です。首相の女房役の菅氏は在職1290日超と歴代最長、岸田文雄外相も12年12月の第2次内閣発足時から3年半、外交面で首相を支えています。菅、麻生両氏は軽減税率の導入や消費増税の延期、参院選で衆参同時選挙に踏み切るかどうかで意見が対立しましたが、「余人をもって代え難し」 で両氏とも続投となりそうです。党役員は幹事長人事が焦点。国会は憲法改正への動きが活発化するため、党三役人事は野党受けする人材が起用される見通し。党内で信望の厚い谷垣禎一幹事長の留任説が有望で、憲法改正論議を進めるには 「ハト派の谷垣氏が采配を振るった方が、他党との協議がしやすい」 と期待されています。だが、自転車 (ロードバイク) 走行中に転倒、手術して入院が長引いていることから、交代説も浮かんでいます。その場合は菅氏が党に回るか、岸田氏や二階俊博総務会長の名が取り沙汰されています。

女性参政権70周年で女性閣僚も
 谷垣幹事長や岸田氏と並び、「ポスト安倍」 の候補とされる石破茂地方創生相や石原伸晃経済再生相らの去就も注目の的。自民党の総裁任期は18年9月までですが、改憲勢力を得た首相は任期中に憲法の部分改正を実現して長期政権を固め、中曽根康弘元首相のように総裁任期を1年以上延長する党則改正に意欲を強めているといわれます。そのため、派閥の領袖も閣内に取り込み総力態勢を構築、小幅改造はありえないと見られます。マスコミによると衆院当選5回以上は約50人、参院当選3回以上は約20人で計約70人が 「入閣待望組」 とされ、有志議員で作る 「アベノミスクの完遂を支える会」 などが活発に会合を開き、猟官運動を展開している、と報じています。それに参院選では過去最多だった2007年の26人を上回る28人の女性が当選、参院の女性議員は12人増の50人となりました。参政権は18歳以上に引き下げられましたが、今年は女性に初めて参政権が与えられた衆院選挙法改正以来70年の節目。1946年初の衆院選で女性が39人当選して以来、女性議員の勢力は徐々に増大しました。最近は就任直後のメイ英、メルケル独と両国は女性が首相、台湾の蔡英文氏が14代総統 (国家元首) に当選。ブラジルに次いで米国では女性のヒラリー ・ クリントン氏が民主党の大統領候補に選ばれるなど世界的に女性リーダーが続々誕生。日本でも 「女性の地位向上」 を反映して、女性議員数人の入閣も予想されます。

4氏が民進党首争い、維新は改名
 民進党は岡田克也代表の任期満了に伴う代表選を9月2日告示、同15日投開票の日程で行います。秋の臨時国会前に新執行部体制を整えるもので、代表選は ①現職の国会議員 ②次期衆院選の公認予定者 ③地方議員 ④党員 ・サポーター ―― の投票をそれぞれポイント換算して行い、有権者は約22万6千人と見込まれます。岡田氏は代表選出馬を目下「白紙」としていますが、参院選で地元・三重地方区で敗れれば引責辞任を唱えていましたが、勝利し全体でも野党統一戦線が功を奏し、そこそこの議席を獲得したため、続投の意欲を固めていると見られます。出馬が取り沙汰されるのは、前原誠司元外相、細野豪司元環境相、蓮舫代表代行 (野田佳彦前首相グループ) 、長島昭久元防衛副大臣の4氏ですが、蓮舫氏は執行部の一員だけに岡田氏出馬の場合は微妙。前原氏は前回の代表選で出馬を見送り、細野氏支持に回った経緯から 「今回は出番」 との思いがあるようです。2人は、参院選はともかく政権選択の衆院選での共産党との共闘には消極的で、両者の話し合いで1本化する可能性があります。おおさか維新の会は党勢を全国に拡大することを目指し、党名を2012年に国政進出した際の名称である 「日本維新の会」 に戻し参院選で当選した元みんなの党代表の渡辺喜美氏を副代表に充てる人事を8月23日の臨時党大会で正式決定する段取りです。

 ケニア、中国など多彩な外遊展開
 首相は7月15、6日にモンゴルで開いたアジア ・ 欧州首脳会合 (ASEM) に出席しましたが、8月6日の広島平和記念式典への出席を優先させて、同5日開催のリオデジャネイロ五輪開会式には欠席。代わりに21日の閉会式には当選直後の新 ・ 東京都知事と一緒に出席し、日本文化を紹介するイベントなどでトップセールスを展開します。下旬にはアフリカ ・ ケニアでのTICAD会議、9月は中国の杭州で開く主要20か国 ・ 地域 (G20) 会議とロシア極東を訪問、日露首脳会談で北方領土問題に絡めてシベリア開発問題を協議。さらに国連総会にも出席するなど、相変わらず多彩な外遊を予定しています。9月中旬に開幕する臨時国会は憲法改正の取り組みやTPP協定の承認、経済対策の審議が大きな課題。特に参院選で改憲勢力を確保した政府自民党は改憲に意欲を示し、衆参両院の憲法審査会で改憲項目の絞り込みを始める考えです。

 緊急事態条項など改憲条項絞る
 自民党は野党時代の12年にまとめた憲法改正草案をベースに改正項目の具体化を図る方針ですが、首相は 「わが党が衆参で3分の2を (単独で) 持っているわけではないから、わが党の案がそのまま通るとは考えていない」 と謙虚で、与野党の合意形成を重視し、当面は緊急事態条項、環境権など新しい人権を創設する案を検討しています。党の草案では、9条の平和主義を堅持しつつ 「国防軍」 の設置を明記。天皇元首化や家族尊重の規定導入なども打ち出していますが、間接の議会制民主主義の元祖である英国が、国民投票で政権の思惑とは裏腹に欧州連合 (EU) 離脱が決まったことから、自民党憲法改正本部内には 「国民投票(2分の1)で改憲反対の結論が出れば二度と発議が出来なくなる」 との懸念があります。そこで、大規模災害やテロに備える緊急事態条項のうち 「国会議員の任期を暫定的に延長する特例規定」 などの提案を検討しています。  「加憲」 の立場の公明党は与党だけで改憲論議を進めることに慎重で、参院選公約にも憲法に関する記述は盛り込んでいません。

第2次補正予算案の審議も焦点 
 おおさか維新の会は教育の無償化、道州制実現を含む統治機構改革、憲法裁判所設置の3点を主張。民進党の執行部は民主党当時から 「安倍政権下での憲法改正論議には応じない」 としてきましたが、岡田代表は、首相が憲法を 「GHQ (連合国軍総司令部) が8日間で作り上げた代物」 と表現した過去の発言を取り消せば、議論に応じてもよいとの柔軟姿勢に転じています。共産、社民両党は根っから改憲反対で、憲法審査会で具体的な改憲項目にたどり着くには曲折がありそうです。9月の臨時国会は経済対策を盛り込んだ16年度第2次補正予算案の審議も焦点になります。政府与党は英国のEU離脱問題による世界経済の不透明化を踏まえ、これまで想定してきた10兆円超の事業規模を大型化し、約3倍の28兆円の規模に増大して景気を下支えし、完全なデフレ脱却につなげる方針です。

デフレ脱却に28兆円規模の補正 
 「キーワードは 『未来への投資』 だ。しっかりと内需を下支えし、景気の回復軌道を一層確かなものにする」 ―― 首相は7月27日、福岡市で開かれた講演会で、8月2日に閣議決定する経済対策についてこう強調しました。経済対策は ①雇用保険料や最低賃金の引き上げなど消費の活性化 ②給付型奨学金の実現、育児休業給付金の支給期間延長など 「1億総活躍」 の促進 ③政府系金融機関による出 ・ 融資の拡大と中小企業向け融資の金利引き下げなど企業の支援 ④リニア中央新幹線の大阪までの延伸を最大8年前倒しし、地方港湾の整備などインフラ整備 ⑤外国人観光客の増加、農産品輸出力強化の関連施設整備 ⑥熊本地震や東日本大震災の復旧推進 ―― などを挙げています。また、成長戦略の柱として、人工知能 (A I) を使った情報技術 (I T) で生産性を高める 「第4次産業革命」 の推進も盛り込みました。このため、約2倍増に要する18兆円の財源は、赤字国債の追加発行は見送り、公共事業に使い道が限られる建設国債のほか、日銀のマイナス金利政策の影響による国債利払い費の減収分や15年度決算で生じた剰余金などで合計 3 ~ 4 兆円程度を賄い、これとは別に国の資金を民間企業に融資する際の財政投融資の規模は6兆円程度とする方針です。

 消費増税延期で基礎的財政収支赤字
 政府が財政再建の中間目標とする2018年度の基礎的財政収支 (プライマリーバランス) は名目国内総生産 (GDP) 比 1.6% 程度の赤字となり、1月時点の試算より約 0.2% 悪化しました。これは、17年4月に予定した消費増税を2年半延期するのに伴い税収が想定より下振れするもので、国と地方の基礎的財政収支は16年度に GDP比 2.9% (約15兆円) の赤字、20年度は 5.5兆円の赤字額になる見通しです。政府はこれを18年度に GDP比 1% 程度の赤字に縮小し、20年度に黒字化する財政再建目標を掲げています。この目標を達成するには経済成長による税収増や大規模な歳出削減で収支を大幅に改善するしかありません。政府与党は臨時国会の閉会後、来年度予算編成に総力を挙げて取り組みます。