第372回(5月16日)サミット後に最終決断 正に首相の正念場
 国会会期末の6月1日まで約2週間前後。首相が「民共合作」の野党統一戦線を分断するため、7月10日に衆参同日選を断行するか。それとも、来年4月の消費再増税を先送りすることにし、国民の信を問うため秋の臨時国会または次期通常国会冒頭に解散の宝刀を抜くか ―― マスメディアは読み切れないまま選挙取材準備に追われています。首相は熊本・大分大震災の最中、予定通り先進7カ国(G7)の欧州5カ国とロシアを歴訪して伊勢志摩サミット運営の下地を作り、景気の好循環を維持するため「経済運営・改革の基本方針」(骨太の方針)、「日本再興戦略」、「日本1億総活躍プラン」を昨年より1ヶ月早めて5月内に策定します。与党内にも反対論がある衆参ダブル選ですが、首相は18日の1〜3月期のGDP速報値を分析の上、サミットの成果を踏まえて最終決断する2段、3段構えの慎重姿勢を見せています。26、7日に迫った伊勢志摩サミットはテロ対策に万全を期しますが、不透明感が強まる世界経済を立て直す明快な処方箋が描けるかどうか。政界の青嵐は風速を増すばかり。政府与党は一丸となって政策策定と取り組んでいます。4月19日に東京・品川のグランド・プリンスホテル新高輪で開かれたわが派の「宏池会と語る会」には2千数百人がご来駕、長崎の選挙区からも多勢のご参加を賜り真に有難うございました。さらなるご支援、ご教唆をお願い申し上げます。

憲法改正に誰よりも執念を燃やす
 3年に一度の参院選と衆参ダブル選ではマスメディアにとって取材態勢が大違い。そこでマスコミは色々なシュミレーションを行っています。首相がダブル選にこだわる1番の理由は、自民党の党是である憲法改正に誰よりも執念を燃やしていることです。首相は第1次内閣の2006年に「任期中に憲法改正を目指す」と公言しましたが、翌年の参院選後に健康などを理由に退陣。政権復帰直後の13年には、改憲手続きを定めた憲法96条の「衆参各院の3分の2以上の賛成で発議」を緩和する先行改正を訴え、当時の橋下徹・大阪市長が同調しましたが、世論の支持が得られず封印。やむなく、「存立危機事態」に限って集団的自衛権の限定行使を認める安全保障関連法を成立させ、“解釈改憲”を実行しました。しかし、戦争放棄を定めた憲法第9条1項と、戦争不保持を定めた2項は変わらず、自民党の改憲草案では、1項をほぼ維持した上で2項を削除し、代わりに「前項の規定は自衛隊の発動を妨げるものではない」と定め、自衛隊を国防軍に変更しようとしています。それには夏の参院選で圧勝し、改正発議に必要な3分の2以上の議席を獲得することが早道です。

祖父・岸信介氏が図った電撃解散
 マスコミ古参の友人から最近、首相が改憲に意欲を燃やす背景を聞きました。それは祖父の岸信介首相が1960年1月、日米安保条約改定の調印式に臨む訪米で胸に秘めていたのは、前回の総選挙からまだ1年半しか経っていない2月の衆院電撃解散だったと言います。当時はポスト岸を狙う河野一郎、池田勇人両氏らが「安保花道論」を流し始めていましたが、岸氏は「新条約が国益にかなう」と訴えて総選挙で勝利すれば憲法改正のレールが敷かれ、長期政権への基盤が固まると踏んでいたようです。ところが立ちはだかったのは側近中の側近・川島正次郎幹事長で河野氏と並ぶ党人派の代表格。幹事長は党務の要で、中選挙区制時代の選挙では公認調整や資金配分を取り仕切る立場。川島氏が「選挙資金のメドが立たない」と解散に同意しないため、岸氏の思惑はマル外れ。諦めた岸氏はアイゼンハワー米大統領の訪日取り止めなど安保改定阻止闘争を巡る混乱の責任を取って4ヶ月後に退陣。「解散して国民に問うべきだった」との後悔を岸氏は後年、度々口にしたようです。

安保と所得倍増の一人二役に意欲
 首相は幼少期から後悔話を聞かされ、病気が原因で政権を逃した父・安倍晋太郎氏の無念さを知るにつけ、人一倍改憲に執念を燃やし、「安保法制成就の次は経済、経済」と唱え、祖父の安保改定の実績に加え、池田首相の所得倍増までやる一人二役を自らの手で達成しようと狙っています。首相のシナリオは @来春4月の消費再増税の先送りを視野に好景気の持続 A議長を務める伊勢志摩サミットでは世界経済を下支えするため機動的な財政出動で合意 B消費再増税の先送りは軽減税率を取りやめる税制改正や法改正が必要なため、衆参ダブル選で国民の信を問う C衆参両院で改憲発議に必要な3分の2の議席獲得に全力を挙げるD首尾よく勝利すれば改憲を断行し長期政権の道筋をつける ―― とマスコミは読んでいます。先号で紹介したように首相は3月中旬、「国際金融経済分析会合」にノーベル経済学賞を受賞した米国の2経済学者に増税先送り論をぶたせ、先送りの布石を打ちました。首相は今でも公式には「消費税率10%への引き上げは、リーマン・ショックや東日本大震災のような重大な事態が起きない限り、予定通り実施する」との考えを強調していますが、熊本大地震復興の補正予算をいち早く編成し、激甚災害に指定したうえ阪神大震災、新潟県中越地震、東日本大震災に続き4度目の「特定非常災害」に指定。東日本に匹敵する大災害であるとの口実で、増税を先送りしても公約違反にならないとの態度を採っています。

十面埋伏の陣よろしく次々と布石
 大型連休中の訪欧では、オランド仏大統領とレンツイ伊、メルケル独、キャメロン英の各首相らと相次ぎ会談、不透明な世界経済を改善するため機動的な財政出動と構造改革を推進することで合意を取り付けました。26、7日の伊勢志摩サミット(先進7カ国首脳会議)では為替の安定、テロ対策、北朝鮮の核・ミサイル対策、中国の活発な南シナ海進出問題などを含めて、強いメッセージを取りまとめて発信。これをテコに衆参同時選の可否を決断する構えです。一方、首相はアベノミクスでデフレ脱却を軌道に載せた勢いを維持し、内閣支持率が高いうちに、好企業から水が滴り落ちるトリクルダウンで景気の好循環を諮り、大企業と中小企業・正規と非正規社員・中央と地方の間で生じた3つの格差解消を念頭に「骨太の方針」などを前倒しで決定し、選挙公約にしようと政策策定に懸命。このように、首相は三国志の曹操、軍師の竹中半兵衛、黒田官兵衛が採用した孫子の兵法「十面埋伏の陣」まがいの戦術で、あらゆる事態を想定した解散の環境作りに次々と手を打っています。 

増税先送りは公約違反で総辞職だ
 自公両与党は衆院で3分の2以上の議席を持っていますが、参院で3分の2(162議席)に届けるには、夏の参院選で両党(非改選76議席)が86議席を獲得することが必要です。だが、これまで最多だった小泉政権発足直後の01年参院選でさえ77議席獲得で、与党だけでは困難。そこで首相は改憲に前向きなおおさか維新の会(同5議席)、日本のこころを大切にする党(同3議席)を加えて何とか3分の2議席を確保しようとしています。これに対し、民進党の岡田克也代表は「消費増税先送りなら公約違反で内閣総辞職をすべきだ」と批判し、3日に都内で開いた護憲派集会では、「首相が目指すのは参院選で多数を得ての9条改正だ。立憲主義を無視し改憲を強行しようとする安倍首相の間は憲法改正論議には応じられない」と頑なな態度を示し、共産党の志位和夫委員長は1日の日曜討論で「憲法の全条項を守り平和的、民主的条項の完全実施を目指す」と護憲や戦争法制の廃棄を唱え、参院選の「1人区」で同党公認の野党統一候補を擁立するよう民進党などに働きかけました。同党は全国32の1人区のうち20以上で候補を辞退し、野党統一候補を決めました。

改憲争点の選挙に与党内で反対論
 それだけに、首相が局面打開の秘策として考えたのが衆参同時選ですが、読売によると、憲法改正が争点になることについて、山東昭子・元参院副議長は「(改正の)思いは分かるが、参院選を前に不適切だ。ただでさえ厳しい参院選は益々厳しくなる」と自制を求め、二階俊博総務会長も訪韓したソウル市内で同行記者団に、「しゃにむに憲法改正へ自民党が旗を振るような姿勢を示したら、選挙には勝てない」との考えを示し、谷垣禎一幹事長は「少なくとも野党第1党を巻き込み、国民投票にかけるプロセスが現実的だ」と述べています。安保よりも環境権などの「加憲」を主張する公明党は互いに強固な組織票を持つ共産党と参院選でせめぎ合っていますが、創価学会の組織票が十分に機能しない衆参ダブル選には消極的。自民党内にも現行の小選挙区比例代表制の衆院選は政権交代を目指す制度であり、「現有勢力(290議席)が激減するリスクが大きい」、「熊本大地震の復興に全力で取り組むべきだ」と早期解散を危ぶむ声が多くあります。衆院解散権は“伝家の宝刀”という首相の専権事項。「頭の隅にもない」という解散は絶えず首相の「頭の真ん中」にあり、まさに正念場。谷垣幹事長が川島氏のような辣腕を振るう時代は遠く過ぎました。だが、6日の日露首脳会談で協議された北方領土問題、同日開幕の第7回朝鮮労働党大会、11月の米大統領選の行方など外交問題が今後の政局には絡んできます。次回のHPは6月1日更新ですが、衆院解散の日となるか、一時休戦で第2ラウンドに入るか、全く予測不能です。