北村からのメッセージ

 

 第37回(3月16日) 様変わり春闘 ワークシェアリング

春闘たけなわーーといっても今や昔。春闘方式が始まって以来47年目。初めてベースアップの要求が消え、雇用維持の春闘に様変わりしています。30数年前は総資本対総労働が激突した三井三池炭坑の争議があり、激しい賃上げ闘争でいつも交通機関を麻痺させる国鉄ストが春闘のヤマ場に設定されていました。これらの大争議を指揮した太田薫議長、岩井章事務局長(いずれも故人)が率いる800万組織の総評は「昔陸軍、今総評」と恐れられたほどです。その三井三池炭坑(福岡)が97年3月に、わが地元の池島炭坑(長崎)が昨年末に、太平洋炭坑(北海道)が1月末に閉山、日本から“黒いダイヤ”の石炭が消えてしまいました。総評も労働戦線統一で解体、連合に糾合されています。

 5つのデフレ対策
ここ数年の深刻な不況下で、経営側は人員削減中心のリストラを続け、ベアはおろか定期昇給の凍結・見直しを迫り、労組側は賃上げよりも経営側との雇用維持協定の締結に躍起になるなど、雇用をどう守るかに重点を移しています。昨年12月の完全失業率は5・6%でピーク、1月は5・3%にダウンしましたが倒産続出で依然危険水域です。株式、円、債権のトリプル安で景気はさらに落ち込み、衆院予算委では「3月経済危機」を巡り与野党が激しい論戦を展開しました。政府はブッシュ米大統領の訪日を期にデフレ対策を発表しました。中身は小泉首相の国際公約である@不良債権処理の加速A金融システムの安定B株式など資本市場の活性化C安全網(セーフティネット)としての中小企業への貸し渋り対策D金融政策の一層活用――の5項目です。これで株価はやや回復しました。

 巷に溢れる失業者
しかし、3月の決算期を迎え、企業は青息吐息。とくに株価の底割れで巨額の含み損を抱える銀行は、不良債権を処理しようにも十分な引き当て金の積み増しが出来ず、資本不足に陥っています。このため、貸し渋りどころか、厳しく負債を取り立てる“貸し剥がし”が横行、中小企業は悲鳴を上げています。これで倒産件数は急激に増え、失業者やホームレス者は大都会の巷に溢れています。2月の連休中にフジテレビは大阪・西成の「あいりん地区」を特集しましたが、飢えと寒さで餓死する人、抽選に漏れて簡易宿泊施設に入れず路上で寝る人、炊き出しに群がる人など悲惨な2万人の失業者を取り上げていました。その中には、倒産した中小企業の社長や企業の幹部も含まれています。東京の山谷地域も同じ光景でしょう。

雇用機会分け合う
これらの失業が、“負の遺産”である不良債権の処理という、構造改革の結果生じた企業倒産による国民の“痛み”であるなら、政府は万全の対策を採らなければなりません。衆院の厚生労働委員としては、雇用の安全網(セーフティネット)がいかに重要であるかを痛感しています。その一つがいま春闘で脚光を浴びているワークシェアリングです。一口に言えば「労働時間を短くして雇用機会を分かち合う」方法です。これは日経連が早くも1昨年の1月、労働問題研究委報告の形をとり春闘方針の中で検討を打ち出しました。雇用の維持を図る手段として、労働時間の短縮に応じて賃金を引き下げるという主張です。

連合が路線転換
これに対し連合など労働側は、賃上げと雇用安定の双方を要求、日経連と対峙しましたが、その後2年で雇用情勢が急激に悪化、連合は路線を転換しました。昨年11月の春闘討論集会で笹森清連合会長は「所定内労働時間が減った分の給料が減るのは、ある程度やむを得ない」と事実上ワークシェアを認めて従来の方針を転換、同時に、ベースアップ(定期昇給は別途)の統一基準を掲げず、賃上げには柔軟に対応する姿勢を打ち出しました。この結果、昨年末に政労使のトップがワークシェアリング検討会議を開催、1月15日には実務者レベルの作業委員会を開くなど、労使協調的な春闘が始まっています。

オランダモデルに期待
欧州も失業は深刻で、ワークシェアリングを最も早く手がけたのがオランダです。昨年末の朝日新聞によると、「オランダは1982年、政労使トップのワッセナー合意によって労働時間短縮、賃上げ抑制、パートなど就業形態の多様化を推進。賃金や社会保障などの面でフルタイマー(正社員)とパートの均等待遇を実現。96年には労働時間の違いを理由とする差別を禁止する法改正。86年に12%だった失業率は2000年には2.6%に低下した」と伝えています。日本ではパートの時間給が正社員の6割程度、しかも社会保険なども適用されず、先進国の中では正社員との格差が最も大きいようです。その意味では「オランダ・モデル」を導入することが労働側の期待となりましょう。

 時短で週4日勤務
オランダだけでなく他の欧州諸国も朝日から引用してみましょう。欧州一失業率が高いドイツでは、「自動車のフォルクスワーゲンが93年の雇用保険協定で、週5日35時間制を28,8時間に短縮、原則週4日勤務に切り替え。時短分の賃金は下がるが、諸手当支給により月収分は維持した」といいます。VW社は昨年末に、5千人の失業者を一挙に雇うミニバン、マイクロバス製造の子会社「自動車5000有限会社」を設立したところ、3万5千人の応募があったといいます。会社名は新規採用の5000人に平均月収5000マルク(約29万円)を支払う意味で命名したそうです。

労働悪化に組合反発
ところが、ドイツの法定労働時間はいまだに週48時間制であるため、新会社は労働時間を週42時間、最大で46時間とし、大幅な残業や土・日勤務を求めてきました。これに対し、労働組合は「93年の雇用保険協定に反する」と反発しました。VW社は従業員共存のため、同協定で緊急避難的に就労30時間を切るまで労使が歩み寄り、実際には週35時間制が定着していました。それを新会社が労働条件を悪化させようとしたため、組合が反発したものです。結局、会社側は労働時間や待遇を業界平均の水準に近づけることを組合側に提案、妥協が成立したといいます。このようにワークシェアは問題が多いようです。

レイオフに近いベルギー
ベルギーは94年、中央レベルの労使協定に基づき、3ヶ月から1年間休業する“キャリアブレーク”制度を導入。休業期間中は政府から休業手当てが支給され、社会保障関係の権利も維持されるそうです。レイオフ(一時帰休)の形態に近い制度ですが、政府が公的支援をするのが特長といえましょう。フランスは「2000年1月から、法定労働時間を週39時間から週5日の36時間に短縮(従業員20人以下の企業は02年1月から)。10%以下の時短を実施し、6%以上の新規雇用か雇用維持を約束した企業に、政府が社会保障負担の軽減措置を講ずることで、50万人の雇用効果が期待できる」としています。

 ワークシェアに4類型
ワークシェアについて朝日は、「一時的な景況の悪化に対応し従業員1人当たりの労働時間を短縮して、社内でより多くの雇用を維持するフォルクスワーゲンの例を<緊急避難型>。法定労働時間の短縮など国全体でより多くの雇用機会を提供するフランスは<雇用創出型>。パートなど勤務の仕方を多様化し女性などの就業機会を増やすオランダは<多様な就業対応型>。60歳代の継続雇用を図るため短時間の就業機会を提供する日本の大手電機メーカーは<高年齢者対応型>」と分析しています。

正社員、パートを均等処遇
さて、日本はどうか。週40時間制ですが、役所はもとより民間でも現実にアフターファイブ(5時)に帰宅する人は少なく、夜中まで働く「会社人間」が当然と受け止められています。終身雇用制、年功序列型賃金に支えられてきた日本のサラリーマンは会社への帰属意識、忠誠心が旺盛で、自分の担当外の仕事にまで責任を感じ、長期間の有給休暇を取ることすら躊躇してきました。この「働きバチ」たちにワークシェアリングをどう導入するかが最大の課題でしょう。現状では、リストラでフルタイマーの給与をカットし、浮いた経費で待遇の悪いパートタイマーを増やすことをワークシェアリングと考えているようです。これではいけません。ワークシェアリングは「時間当たり賃金」の考え方が基本となります。そこには地位や身分に対する賃金でなく、従業員の格差をなくし、同一労働には同一賃金で処遇しなければなりません。

 望まれる財政支援
 ただし、朝日によると日本興業銀行は2月上旬、ワークシェアリングについて、「優秀な労働者の労働時間を削減する一方で、生産性の低い労働者の雇用を確保する側面がある。短期的には有効だが長期的に見れば日本経済の競争力低下に繋がりかねない」と警告しています。今春闘でベアを断念し、雇用安定の協定締結を経営側に強く求めた労組は鉄鋼労連、ゼンセン同盟、金属機械メーカーのJAM労組など数多くあります。賃下げやリストラの激しい攻勢を受けているJAMは雇用安定協定の締結とワークシェアリングの導入を柱に戦っています。オランダやフランスは政府が何らかの財政支援をしていますが、日本もオランダのように、フル(正社員)、パートを均等に処遇する企業に補助金を出すことなどを検討すべきでしょう。衆院厚生労働委員会を舞台に、ベストの対応策を考えたいと思います。