第364回(1月16日)外交、内政の課題山積 長期政権へ布石
 戦後70年の節目に韓国政府と懸案の慰安婦問題の決着をつけた安倍首相は、外交、内政に一層自信を深めて国会を乗り切り、夏の参院選にも勝利し、長期政権を固める決意です。松の内の 4日に開幕した通常国会は、首相が年末ギリギリに成就した慰安婦問題などの外交報告、麻生太郎副総理・財務相が 15年度補正予算の財政演説を行い、野党がアベノミクス 「新 3本の矢」 、安保法制、TPP 大筋合意などを巡って鋭い論戦を挑みましたが、波乱なく14日に補正予算案は衆院を通過。21日までに成立する見通しです。 「イスラム国(IS)」 のテロ多発、中国の国際法を無視した南シナ海での領海主張と露のクリミア併合など国際秩序の崩壊、北朝鮮の水爆と称する核実験など安全保障の国際環境は急変しつつありますが、日本は今年から国連安保理事会の非常任理事国に就任。5月には伊勢志摩サミット (主要国首脳会議) を主催します。国際平和に果たす役割は極めて重大になりました。内政では第 2次安倍政権発足以来、企業業績や株価は上昇したものの、家計の金融資産や企業の内部留保が高まったまま。春闘に向けて政府と経団連などの官民対話では内部留保を賃上げと設備投資に回す交渉を進めない限り参院選で国民の信を得られません。衆参ダブル選の風評は益々現実味を帯びています。9日に佐世保市の玉屋文化ホールで開いた北村の新年交歓会には例年以上に大勢の方がご出席を賜り、ありがとうございました。一層のご支援、ご教唆をお願い申し上げます。

緊張感持ち政権運営し輝く1年へ
 「不透明さを増す世界経済、テロとの闘い、貧困や開発の問題、気候変動 ―― といった課題にしっかりとリーダーシップを発揮していく」 ―― 首相は年頭所感の発表で抱負を述べ、 「日本がまさに世界の中心で輝く1年」 と指摘し、「もはやデフレではないという状況を創ることが出来たが、『築城3年、落城1日』 だ。さらに高い緊張感を持って政権運営に当たっていく」 と自らを引き締めました。所感の中では、2016年を 「1億総活躍・元年」と位置づけ、「国内総生産(GDP)600兆円」 「希望出生率1.8%」 「介護離職ゼロ」 の明確な 「的」 を掲げ、新しい 3本の矢を放ち、挑戦する 1年とする ―― との強い決意を表明しました。確かに家計の金融資産は約 1700兆円に上り、企業の内部留保も 350兆円に達しています。大企業と中小企業、正規と非正規雇用など賃金と処遇の格差拡大を如何に解消し経済の好循環に結びつけるかが内政の最大課題です。4日召集の通常国会は 6日に衆院、7日に参院で各党代表質問の後、両院予算委で野党が環太平洋経済連携協定(TPP) 合意の国内対策や軽減税率制度、「 1億総活躍社会」 関連施策などを巡って厳しく追及。22日の 16年度予算案提出後は、首相の施政方針演説など政府 4演説に対する論戦が火花を散らすと思われます。

新しい国造りへ 「挑戦」 を24回乱発
 「本年は挑戦、挑戦、挑戦あるのみ。未来へと果敢に挑戦する」 ―― 首相は 4日の年頭記者会見で、これまでの 「経済」 の乱発発言に替えて 「挑戦」 の言葉を約 20分間に 24回も繰り返す熱の入れ方。町工場が技術力で大企業に対抗するさまを描いた小説 「下町ロケット」 を引き合いに、 「新しい国造りへの新しい挑戦を始める」 と抱負を語りました。この後、国会冒頭の外交報告では旧日本軍慰安婦問題の決着に胸を張りました。戦後 70年の昨年は日韓国交正常化 50年の節目であり、首相は歴史認識を問われた 1年でしたが、岸田文雄外相に指示し、日韓両政府は大詰めの 12月 28日に慰安婦問題の最終決着で合意しました。日本は 「当時の軍の関与の下、多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた。政府は責任を痛感している」 と表明、@元慰安婦支援のための財団に 10億円規模の資金を拠出 A韓国は財ソウル日本大使館前の少女像撤去に努力 B双方は合意が 『最終的かつ不可逆的な』 ものとする ―― などを確認。国連などの場でお互いに批判・非難しないことも約束しました。

慰安婦問題の決着から飛躍する年
 日米韓を軸とした連携が安全保障上の重要な土台であると見るオバマ米大統領は、歴史問題で対立する日韓両国に苛立ちを募らせ、1昨年 3月から仲介に乗り出し日米韓首脳会談を開くなど後押しをしてきました。それだけに今回の日韓合意は大歓迎です。しかし、元慰安婦支援団体 「韓国挺身隊問題対策協議会 (挺対協)」 は 「日本政府は被害者に法的賠償をしろ」 と日本大使館前で怒声を響かせ、少女像撤去に反対しました。元慰安婦は韓国政府が認定した 238人のうち 8割が死亡、昨年だけでも 9人が他界し 46人しか生存していません。韓国の朴槿恵大統領は 「合意は政府が最善を尽くした結果だ。間違った交渉したとの世論醸成は被害者の残り少ない人生の助けにならない」 と戒めるなど、挺対協の説得に努めています。首相は近隣諸国から厳しく問われた 「歴史認識」 に対し 50年の村山首相談話のキーワードを盛った 「70年談話」 を昨年夏に発表。「先の世代の子供たちに謝罪の宿命は負わせない」 とピリオドを打ちました。その後、日中、日韓と日中韓首脳会談を韓国で開催。今年は日本が議長国となって東京で日中韓首脳会談を開き日中の 「戦略的互恵」、日韓の 「未来志向」 両外交を推進する段取り。それゆえ韓国内で不満が強く残っているのは残念です。

安倍政権打倒で結束、共産は変身
 さて、野党戦線はどうか。衆院で先行して統一会派を組んだ民主、維新の両党は国会対応や政策の調整機関を設けるなど積極的に動き、4日は初めて両党の全所属議員 93人が出席する総会を開いて、安倍政権打倒の気勢を上げました。岡田克也民主党代表はかねてから 「憲法 9条改正を安倍政権で行うことは反対」 と唱えてきましたが、総会では 「安倍政治を何時までも続けさせる訳にはいかない。気持ちを 1つにして闘おう」と結束を訴えました。松野頼久維新の党代表も、この日の党会合で 「春先には新党 (を結成し)、今夏の参院選を必ず勝ち抜く」 と両党の合流に意欲を示しました。しかし、連合傘下の公務員労組から支持を受ける民主党が、国家公務員給与を引き上げる給与法改正案を推進しようとしているのに対し、公務員給与の削減を掲げる維新の党は反発。安保関連法の改廃法案提出を巡っても、集団的自衛権の限定行使に白紙撤廃を目指す民主党に対し、維新は限定行使を事実上容認する態度であり、足並みが乱れています。野党で注目されるのは、これまで天皇陛下のお言葉を賜る通常国会の開会式に欠席を続けてきた共産党が初めて出席したことです。連合政権を目指す同党は、熊本選挙区の新人候補擁立を取りやめ市民団体とも連携して参院選での無所属統一候補の選考に向かうなど、柔軟な戦術に切り替え“変身”しています。

会期末解散なら7月衆参W選可能
 国会の会期延長をしない場合の参院選投票日は、6月 26日、7月の 3、10、17、24日の 5通りの日曜日ですが、有権者が約 240万人増える 「18歳選挙権」 を実現するには 7月 10日以降となります。また、会期末の 6月 1日に衆院を解散すれば、7月 10日に衆参ダブル選が設定できます。このため各党は参院選対策に大童ですが、自公の連立与党が非改選の 76議席と合わせ過半数 (122) を維持できる 46議席を確保、さらには憲法改正に必要な 3分の 2以上の議席を獲得できるかが最大の焦点。「おおさか維新」 の暫定代表だった橋下徹前大阪市長は昨年暮れ、「自・公・おおさか維新の 3党で 3分の 2以上の議席を確保し、憲法改正に取り組むべきだ」 と発言し、3党の連携を強めました。今年は 1946年 11月 3日の憲法公布から70年の節目の年となります。しかし自民党は参院選で改憲勢力が得られた場合は、いきなり 9条の改正ではなく、大災害発生時に国会議員の暫定的な任期延長を認める 「緊急事態条項」 の新設や 「環境権」 など新たな人権の追加、「財政規律条項」 新設の 3項目を改憲の優先課題とするよう提案し、“加憲”を唱える公明党も概ね賛同しています。

安倍政権は内外課題に万全の備え
 首相は春先にも訪露し、ウラジオストクなど地方都市でプーチン露大統領と首脳会談を開きます。その前座として自民党の高村正彦副総裁が 10〜 13日間、訪露し大統領側近のナルイシキン下院議長と会談、首相からプーチン氏に宛てた親書を手渡しました。高村氏は、自民党の顧問弁護士で作る 「自由民主法曹団」 とロシア法曹関係者によるモスクワでの交流に合わせ訪露したもので、下院議長との会談ではプーチン氏の来日など日露首脳会談に向けた地ならしのほか、北方領土問題、経済協力などについて意見を交換しました。外交では日露間の北方領土、北朝鮮との拉致問題、中東での宗派対立によるサウジアラビアがイランと国交断絶、「イスラム国」 のテロ増大、など懸案事項が一杯。首相は国連安保非常任理事国としての世界安定策など多くの課題を抱えています。内政では成長戦略の一層推進、沖縄県と国が法廷闘争に持ち込まれた米軍普天間飛行場の辺野古への移設など難問が山積。5月 26、27日は伊勢志摩サミットが開かれ、5月の連休明け以降は休会状態となるため、安倍政権は今国会提出の法案を絞り込み、夏の決戦に万全の備えで臨んでいます。

改憲争点化でダブル選に現実味
 自民党の二階俊博総務会長は 9日、地元和歌山市の記者会見で、「首相は夏に衆参同一選に踏み切る可能性が高い」 との考えを示しました。首相は翌 10日、NHKの党首討論番組で同時選挙への言及は避けながらも、改憲を是認する 「おおさか維新の会」 を念頭に 「野党を含む改憲派勢力で、憲法改正の発議に必要な 3分の 2以上の議席確保を目指す」 と表明。11日に地元山口県下関市で開かれた会合でも参院選勝利に強い意欲を示しました。参院選で統一候補擁立を模索する野党は 「改憲を争点化することで野党の連携を乱す分断策だ」 と警戒を強めています。だが与党内では 「憲法改正の大テーマで戦えばダブル選の大義名分になる」 との見方も強まっており、ダブル選は日を追って現実味を帯びてきました。