第363回(1月元旦)補正と本予算で激しい攻防 やまぬ解散風
 輝かしい新年が明けました。皆様のご健勝を祈り上げます。安倍政権は松の内早々の4日に開幕する通常国会で、3.3兆円の15年度補正予算案と 2月22日に提出する 96.7兆円の16年度予算案を巡り激しい与野党攻防に入ります。両予算案は名目GDPを600兆円に押し上げるなどアベノミクス「新 3本の矢」を達成する政策を柱としたものです。幸い昨年末の米国FRBの0.25%利上げが国際経済に与えた影響は少なく日本の株式市場も安泰です。政府与党は補正を早急に、本予算も連結して 3月末の年度内に成立させて 「成長と分配」 に弾みをつけ、5月の伊勢志摩サミット (主要国首脳会議) を成功させて国民の信頼を得、7月の参院選に突入し大勝利を収める戦略を描いています。野党は補正予算案に盛り込んだ @1億総活躍 ATPP B災害などの対策や、 本予算案の C軽減税率の線引き D法人実効税率の引き下げ ―― に加え、閣僚の政治資金問題を幅広く取り上げ厳しく追及する構え。特に民主党は安保法制改廃に同調する市民団体とも連携し、参院選の一部選挙区で無所属の野党統一候補擁立を模索しています。衆参ダブル選の風評は消えず 「吹き出したら止まらないのが解散風」 。さらに衆院選挙制度改革の有識者調査会は長崎選挙区の 1減を含む10減案を公表しました。 益々厳しい政局です。 倍旧のご支援を賜りたくお願い申し上げます。

外交報告と財政演説に論戦の火蓋
 通常国会は 1月開会に決まった 1992年以降、最も早い 4日に召集。会期は 6月1日までの150日間です。4日は安倍首相の外交報告と麻生太郎副総理・財務相が財政演説、これに対する衆院の代表質問は 6日に行われ、与野党論戦の火蓋が切られます。首相の外交報告は、首相の外遊で昨年秋の臨時国会が開かれなかったため、秋以降の日中韓首脳会談、APEC首脳会議など各国訪問の成果や、環太平洋経済連携協定 (TPP) の大筋合意、「1億総活躍社会」 実現の緊急対策などを説明する方針です。野党は国会冒頭に首相が所信表明演説を行うよう求めましたが、自民党は22日の来年度予算案提出後に首相が施政方針演説をするため、「同じことを2回やるのは理にかなわない」 と拒否しました。麻生財務相は15年度補正予算案を説明しますが、衆参両院の財務金融委員会での補正予算案と両院予算委員会の審議を麻生氏が掛け持ちするため、補正の審議はかなり手間取ることになりそうです。

参院選目当てのバラ撒きと批判
 12月18日に閣議決定した15年度補正予算案は 「1億総活躍社会の実現」対策に 1兆1646億円を充てるほか、農家補助金拡充のTPP対策費、 東日本大震災復興財源の上積みなど歳出総額は 3兆3213億円。この中には待機児童や介護離職対策として施設整備費が計上されています。財源は当初見込みより税収が上振れした分と14年度予算の使い残しなどで賄い、新規の国債発行 (借金) には頼りません。しかし、低所得の年金受給者の約1250万人に 1律3万円の給付金を配ることに自民党内からも 「高齢者を優遇し過ぎだ」 と批判が出されたことから、野党は 「参院選目当てのバラ撒きだ」 と追及すると見られます。消費増税の負担軽減策として昨年度から始めた子供 1人当たり 3千円の子育て給付金を、軽減税率の財源確保を理由に来年度から打ち切りを決めたことにも野党は強く反発しています。

16年度予算案約97兆円は史上最大
 12月24日に閣議決定した96兆7218億円の16年度予算案は史上最大。「1億総活躍社会」の実現に重点配分する一方、社会保障費の伸びは抑え、財政再建の両立を図りました。具体的にはアベノミクス 「新 3本の矢」 の @名目 GDP (国内総生産) 600兆円 A希望出生率 1.8% B介護離職ゼロ ―― を達成する施策が盛り込まれ20年ごろまで年 3%を上回る成長率の実現を目指しています。自公両党は同月16日、10日にまとめた原案に軽減税率の制度設計を付け加えた16年度与党税制改正大綱を正式に決定しました。焦点の軽減税率については前号に詳しく書いたので重複は避けますが、税制大綱は @法人実効税率を 29.97%の20%台へ引き下げ A自動車取得税を廃止する代わりに燃費性能の高い車は優遇する新税を創設 B親・子・孫の 3世代同居住宅の改築費の一部を所得税から控除 C所得税などを課さない通勤手当ての上限を15万円に引き上げ ―― などが骨子。野党は 「新 3本の矢」 には具体的な道筋が見えないと批判。税制改正案も法人税率引き下げは大企業優遇、軽減税率は外食の線引きが曖昧で国民生活が混乱し財源の手当てが不明確などと徹底追及する構えです。

民主は統一候補、首相は野党分断
 民主、維新の両党は衆院を先行させて統一会派 (92人)を結成しましたが、7月の参院選では、市民団体とも連携し安保関連法の廃止を訴える統一候補を模索。連合政権を目指す共産党も熊本選挙区 (改選数 1) で決めていた新人候補の擁立を取りやめ、野党が協力して立てる無所属統一候補の支援に回ることを決めました。一方、首相は19日夜、大阪市長を退任した橋下 徹氏 (おおさか維新の会前代表) と会談。記者団には 「慰労会だ」 と煙に巻きましたが、会談には菅義偉官房長官、松井一郎大阪府知事 (おおさか維新代表) も同席し 3時間半にも及んだことから、橋下氏が意欲を示す憲法改正などを巡って議論し、野党分断策を話し合ったと見られます。こうした中で、衆院選挙制度改革を検討する有識者調査会 (座長・佐々木毅元東大学長) が 「 1票の格差」 縮小に向けて、小選挙区を 7増13減、比例ブロックを 1増 5減にし、議員定数を現行の475から465とする 10削減の答申案をまとめました。14日に正式決定し大島理森衆院議長に提出します。小選挙区は東京が 3増、愛知、神奈川、千葉、埼玉、の 4県で 1増になる一方、三重、滋賀など13県で1議席ずつ減り、長崎も含まれています。比例は東京ブロックが 1増、東北、北関東、東海、近畿、九州の 5ブロックが 1減。「1票の格差」 は現状の 1.78倍から 1.62倍に縮小します。 

 「駆け込みダブル選」 機運高まるか
 戦後初の1946年衆院選の定数が466だったことから最終的に定数を 「10減」 の465としました。現行の比例代表並立制の議席が当初、小選挙区300、比例選200だったことを踏まえ、削減幅10に 3対2 の割合を適用。小選挙区289、比例選176としています。しかし、議員定数は戦後の人口増に対処して順増してきたもの。少子高齢化で人口が減少傾向にあるとはいえ、戦後初の総選挙の定数に近づける理由は全くないでしょう。選挙年齢18歳への引き下げにより今後は逆に240万人の有権者が増えます。人口の都市集中改善策で地方創生策が脚光を浴び、高齢者施設の地方移転やUターン、I ターン現象が進みだしているというのに、有識者は最高裁の 「違憲状態」 との判決を受けて選挙の実態を知らないまま 「1票の格差」 是正だけを念頭に、時代に逆行する削減案を出したとしか言いようがありません。御厨貴・東大名誉教授も 「17年消費増税後の総選挙は難しい」 と述べ、衆参ダブル選を想定しています。定数削減前の 「駆け込みW選」 機運が高まることも予想されます。

着実な経済成長で米 0.25%利上げ
 米国の中央銀行に当たる米連邦準備制度理事会 (FRB) は12月16日、2008年 9月のリーマンショックを受けて同年12月から続けてきた異例の 「ゼロ金利政策」 を解除、年 0.25%に利上げを決定しました。景気減速で金融緩和が強まる世界経済の中で、着実な経済成長を進める米国は失業率が 5.0%にまで改善、金融引き締めに動くことになりました。利上げは本来、景気の過熱を防ぐものですが @米国の景気が利上げ出来るまでに回復 A日本企業の業績に寄与する ―― との見方が投資家の間に広がり、東京株式市場は直ちに日経平均株価が400円超上昇しました。だが、財務省が翌日に発表した昨年11月の貿易統計 (速報、通関ベース) によると、貿易収支は 2ヶ月ぶりに3797億円の赤字。原油安を受けて燃料輸入額が減少したものの、中国経済の減速を背景に、鉄鋼やプラスチックの原料となる有機化合物の中国向けの輸出減が響いたものです。輸出は前年同月比 3.3%減の 5兆9814億円で 2ヶ月連続の減少、輸入は 10.2%減の 6兆3611億円と11ヶ月連続で例年を下回っています。このため、FRBの利上げ後、日経平均株価は乱高下を続け、やっと落ち着きました。

泥沼化恐れ日銀が金融補強策
 FRBは今後数回にわたり緩やかな利上げを進める方針ですが、これ以上円安が進むと輸入食材などの価格が高騰し、消費生活に影響します。日銀は12月18日の金融政策決定会合で、設備投資や人材投資に積極的な企業の株式を組み込んだ上場投資信託 (ETF) の買い入れ枠を 3千億円設定するほか、買い入れ可能な国際の種類も増やす 「金融補強策」 を打ち出しました。日銀は 2%の物価上昇による景気回復を狙い、14年10月に、市場に供給する資金を年間80兆円増やすペースで国債の「爆買い」 を続ける、異次元・大胆な金融政策を打ち出してきました。しかし、日銀は既に世の中の国債の 3割強を保有、今年末には 4割を超えるとの試算もあり、2年決戦のはずだった大規模金融緩和策が泥沼化する恐れが出てきました。そこで黒田東彦総裁は 「現在の量的・質的金融緩和の円滑な推進、経済に対する効果をより明確にするためのもの」と補強策の狙いを説明、安倍政権が財界に促してきた 「設備投資」 と 「賃上げ」 に積極的な企業に ETFの買い入れ枠を増やし政府をサポートしたものです。甘利明経済財政担当相は 「政府の政策と親和性がある」 と歓迎しています。

首相春先訪露しテロ対策など協議
 首相は今年も 「地球俯瞰外交」 によるトップセールスと、東北災害地施策を毎月行う方針ですが、まず春先には訪露を予定しています。日露首脳はファーストネームで呼び合うほど緊密な関係にあった上、一昨年11月に北京で、昨年中のプーチン露大統領の来日へ準備を具体的に開始することで一致していました。 だが、露のクリミア半島編入問題で日本が欧米側についたため日程調整が難航、「16年以降の最も適切な時期」 に先送りされていました。しかし、昨年11月にトルコで開いたG20首脳会議出席の際の日露首脳会談で、プーチン氏がロシアの地方都市に招待する意向を示したことから首相が早期の訪露を伝達したものです。場所は極東のウラジオストクかハバロフスクになりそうです。首相は重要課題である北方領土問題の打開に何らかの糸口を探りたい思いですが、ロシアは北方領土問題を進展させる心算はないものの、極東開発には日本の援助を得たいのが本音で、地方都市訪問なら公式訪問にはならず、首脳間対話が継続できるため、非公式に招請したものです。ロシアはウクライナ紛争以来サミットメンバーから外され孤立していますが、伊勢志摩サミットの議長国を務める首相は、事前に訪露し主要課題となるテロ対策やシリア問題、険悪なロシアとトルコの関係改善などについてプーチン氏の意向を探る思惑もあるようです。慰安婦問題の早期妥結を目指す首相は24日、岸田文雄に指示し外相は月末に訪韓しました。