第361回(12月1日)大車輪の首相外交 軽減税率で自公対立
 安倍首相は外遊を理由に野党が強く求めた臨時国会の召集を見送り、11月は韓国、トルコ、フィリピンなどを相次ぎ訪問、20カ国 (G20) 首脳会議などのほか、日中韓、日米、日露の個別首脳会談をこなしました。 パリの同時多発テロにもひるまず、同月 30日にパリで開幕の COP21にも出席、地球俯瞰外交の成果を上げています。 外遊合間に帰国した 17日には TPP,対策をすばやく指示。 23日の帰国後は 「1億総活躍」の対策第1弾など 15年度補正予算案と 16年度予算案の年内編成に全力を挙げています。 通常国会は来夏の参院選を睨んで、1月 4日という異例の早期召集を決断。 3月末の年度内に予算を成立させ、5月 26日からの伊勢志摩サミットで内閣支持率を浮揚させ、選挙戦を有利に闘う戦略です。 しかし、税制改正では消費税を 10%に引き上げる際の公約である軽減税率の規模と対象品目、線引きを巡って自公両党の主張がかけ離れ、 調整が難航しています。 野党は違憲だとする安保関連法制、 TPP対策、アベノミスク 「新3本の矢」 を追及しようと手ぐすね引いて国会開幕を待っています。 慌しい年の瀬ですが倍旧のご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

国際的反テロ包囲網構築を提唱
 13日の金曜日、まさに 「魔の金曜」 夜に 130人の死者、351人の負傷者を出した過激派組織 「イスラム国」 (IS) によるパリの同時多発テロは、残虐 ・ 冷酷で世界に衝撃を与えました。 オランド仏大統領は 「戦争状態にある」と宣言し、非常事態宣言を 3ヶ月延長する法案を閣議決定、 直ちにシリアの IS拠点に報復空爆を強化。 プーチン露大統領もエジプト ・ シナイ半島でのロシア機墜落事故を ISによるテロと断定、「犯人が何処に隠れていても捜査する。世界の何処にいても見つける」 と述べ、国際的 「反テロ連合」 を呼びかけ、シリア空爆を拡大しました。 トルコで 15、16日に開かれた主要 20カ国 ・ 地域 (G20)会議で、オバマ米大統領は ISに対する国際社会の包囲網構築を提唱。 G20は ISなどに流れるテロ資金を根絶するため各国が協調して取り組むことを宣言しました。日本では来年 5月の伊勢志摩サミットを初め 19年のラグビーワールドカップ、 20年の東京五輪などが目白押し。

日本参加はTPP交渉を質的転換
 自民党の谷垣禎一幹事長は 17日の記者会見で 「来年はサミットがある。テロ対策には相当意を用いなければならない状況になった」 と述べ、 同党が過去 3回提出し、国民の反対で廃案になった共謀罪新設を含む組織犯罪処罰法改正の必要性に言及しました。 菅義偉官房長官も 2000年に国連が採択した 「国際組織犯罪防止条約」 の批准に伴い法整備の必要性を認めていますが、野党は共謀罪の新設が言論弾圧に利用される虞があると反発しています。 環太平洋連携協定 (TPP) の参加 12カ国首脳会合は 18日、フィリピンのマニラで、同時に開催中のアジア太平洋経済協力会議 (APEC) に合わせて行い、TPP交渉が 10月の閣僚会合で大筋合意に達したことを歓迎。議長のオバマ氏は 「日本の参加は TPP交渉を質的に転換させた」 と述べ日本の積極的な交渉姿勢を評価。 安倍首相は 「実際に発効しないと絵に描いた餅だ」 と指摘し各国に早期発効を促しました。 早期発効には各国ごとの承認が必要なため、首脳会合では速やかな国内手続きを優先的に取り組む姿勢を確認しました。

一帯一路やAIIBで世界経済牽引
 18日から始まった日米中を含む 21カ国・地域が参加した APEC首脳会議は域内カバーのアジア太平洋自由貿易圏 (FTAAP) の実現を目指しますが、中国の習近平国家主席は 「最近、域内自由貿易の枠組みが次々と現れ分散化する傾向への懸念が出ている」 と TPP を牽制した上、「世界の経済成長は緩慢だが、中国は成長が続く基礎を持っている」 と強調。 シルクロード経済圏の 「一帯一路」 構想やアジアインフラ投資銀行 (AIIB) に各国が賛同しているとし、世界経済の牽引役であることを訴えました。 しかし、韓国とインドネシアが TPP参加を表明、台湾、タイ、フィリピンも参加を検討、中国とは距離を置いています。トルコで 17日に開いた日露首脳会談は、焦点のプーチン大統領の来日について 「最も適切な時期」 を目指すことで一致、北方領土問題では 2013年の日露共同声明に基づき 「双方に受け入れ可能な解決策」 を目指す方針を改めて確認しました。首相にとって第 1次内閣を含めプーチン氏との会談は 12回目。しかし、両者の蜜月関係は薄れ、現時点では領土問題が進展する見通しは立たず、大統領来日も来年に持ち越すことが確実になりました。

米は安保関連法、日中韓会談評価
 マニラのホテルで 19日夜開いた日米首脳会談で首相は、米軍普天間飛行場の辺野古移設について、「唯一の解決策であり、確固たる決意で進める」 と伝え、新基地建設の方針を双方が確認。中国が人工島の造成を進める南シナ海での米海軍の巡視活動に支持を伝え、自衛隊派遣を検討する考えも表明しました。オバマ大統領は冒頭、日本の安保関連法の成立を取り上げ、「世界に連携を広げていく協議ができる」 と歓迎。先の日中韓首脳会談についても 「地域における理解を深める行動に心から感謝する」 と同会談を評価しました。このほか首相は訪問先で比 ・ 加 ・ 印など各国首脳と個別会談、経済、防衛、テロ防止協力などで一致しました。首相は 21日にマレーシアに移り、ASEANと日中韓との首脳会談で、南シナ海での中国の人工島造成に 「深い懸念」 を表明。経済関連会合で日本の新幹線の高い技術力を紹介、「日本の円借款の貸付条件を緩和し手続きを迅速化する」 と演説しました。

「航行の自由作戦」 参加に慎重姿勢
 翌 22日に日米中など 18カ国首脳が参加して開かれた東アジアサミット (EAS)で、首相やオバマ氏は、中国による南シナ海での人工島造成の動きを批判。 李克強中国首相が 「域外国は地域情勢を緊張させる行動を取るべきではない」 と日米両国を牽制し議論は平行線を辿りましたが、 日本が主導した 「通年で活動できるEAS事務局」 の新設で合意しました。 この後の記者会見で首相は 「海と平和の安全を守るため各国が国際法に基づき責任を持って行動するコンセンサスが得られた」 と説明し米国の 「航行の自由作戦」 に重ねて指示を表明しましたが、 「あくまで米国が独自に行っており、自衛隊の活動とは別で、参加 (派遣) する具体的計画は今のところない」 と慎重に答え、23日に帰国しました。 1週間後に首相は地球温暖化対策の枠組みを協議するため 30日にパリで開幕した国連気候変動枠組条約第 21回締約国会議 (COP21)にも出席。欧州連合 (EU)議長国のルクセンブルクを訪問して 2日に帰国します。 首相が円借款の緩和を表明したのは、インドネシアの高速鉄道建設計画受注で日本企業が中国側に敗れた経緯を踏まえ、マレーシアとシンガポールやタイに新幹線計画があるのを睨んで、自らトップセールスを務めたものです。11月の半分を費やした大車輪のハード外交はこれで一応札止め。帰国後は予算編成など内政の仕上げにかかります。

経営安定に攻めと守りのTPP対策
 自民党は 11月 17日、農林水産戦略調査会と農林部会の合同会議を開きTPPの農業対策を決め、政府に申し入れました。 これは小泉進次郎農林部会長ら 「地方キャラバン」 隊が全国の農家、農業団体からの意見を吸い上げてまとめたもので、農業の不安解消に向け、 @ TPPによる輸入量相当の国産米を備蓄米として買い入れる A繁殖牛は肉用子牛保証基準価格を現状に即して見直す B養豚経営安定対策事業を法制化し 9割補填する C加工原料乳生産者補給金の単価を見直す ―― などコメ、麦、牛 ・ 豚肉、乳製品、甘味資源作物の重要5品目の経営安定策と、 D担い手の施設整備や金融面での支援、農地の大区画化 E産地パワーアップ事業の創設 F新国産ブランド品種の開発 G畜産クラスター事業の拡充 H重要品目ごとの輸出促進策 ―― など輸出拡大の 「攻めの対策」 も盛り込みました。輸入食品の増加に対して国産食材の消費を促す 「原料原産地表示」 の拡大を検討。中小企業の海外展開のための相談窓口の新設も提言しました。 小泉部会長は 「TPPで農林水産業がくじかれることが、決してあってはならないとの覚悟を込めた」 と述べています。

自民が生鮮食料品中心に 2段階案
 政府はこれを基に 25日、総合的なTPP策大綱を決定。 「 1億総活躍」 対策とともに、必要な経費 3兆円規模の 15年度補正予算案を通常国会に提出、冒頭に成立させる方針です。予算編成で最大の焦点は 2017年 4月の消費増税に合わせて導入される軽減税率の扱い。自公両党の協議では、17年 4月から暫らくは現在の帳簿と請求書を基にした簡素な方式を認め、3年後の 20年 4月をメドに、請求書などに税率や税額を明記するインボイス (税額票) を義務付ける考えでは大筋合意しています。 ところが自民党内では、当初の対象品目は生鮮食料品を基本とし、事業者の準備が整う 3年後をメドの対象を拡大する 「 2段階案」 が浮上。これに対し公明党は、同じ品目の税率が 2回変わると混乱を招きかねないことから 「一旦上がった税率は下げられない」 (税調幹部) と難色を示しています。消費税を 10%に引き上げれば、税収の増額見込みは 5兆 4千億円で、増収分は年金、介護、子育て、医療など社会保障政策の財源に充てられることになっています。首相は帰国直後の 24日、党本部で谷垣幹事長、宮沢洋一税調会長と協議し、 「社会保障と税の一体改革」 の枠内で、軽減税率導入時の減収額を 4千億円以内に抑える範囲内で対象品目を決めるよう指示しました。

平和と福祉の党の 2 枚看板崩れる
  自民は対象が 「生鮮食品のみ」 なら減収額は 3千4百億円で 「精米」 の4百億円を足しても 3千 8百億円に収まると試算しています。 一方公明党が主張する 「酒類を除く飲食料品と外食」 に広げた場合の減収額は 1兆 3千億円に膨らみ、増収見込みの4分の1が失われるとの見通し。 生鮮食料品と加工食品に絞った場合でも 1兆円の減収で、対象品目の攻防が続いています。消費税は低所得者に 「痛税感」 を煽る逆進性の税制であるため、公明党の山口那津男代表は 「国民の消費意欲を損なわないよう経済の勢いを維持する効果を重視すべきだ」 と主張しています。 同党の支持母体 ・ 創価学会は創立 85周年で 11月 18日が創立記念日。 安保法制化では地方議員を含め多くの学会員が国会周辺のデモに参加するなど足元が大きく揺らいでいます。 与党は幹事長に格上げした協議で 26日、 @インボイスの経理方式導入 A 20年度までは経過措置として現行方式を基に簡素な方式を認める ―― などを決定しましたが、軽減税品目の線引きを巡って依然対立しています。公明党は安保法制に加え、軽減税率で自民党に押し切られると、「平和の党」 「福祉の党」 の 2枚看板が崩れ、学会員の支持を失い来夏の参院選も戦えないと憂慮しており、線引きでは激しく抵抗。最終的には党首会談で決着を図ることになりそうです。

ダブル選は大阪維新の会が圧勝
 16年度税制改正は軽減税率のほか、経済活性化を目指し 「法人実効税率」 を現在の 32.11%から 20%台後半まで引き下げる法人減税や、環境に配慮し燃費に応じた自動車税などの負担を変える仕組みが焦点です。 消費増税に合わせて自動車購入時に収める 「自動車取得税」 を廃止する代わりに燃費に応じて車の価格の最大 3%を収める新制度の導入が固まりつつあります。 任期満了に伴う 11月 22日投開票の大阪府知事選と大阪市長選のダブル選は、低投票率にもかかわらず地域政党 ・ 大阪維新の会が圧勝。 松井一郎現知事が自民推薦、民主、共産支援の栗原貴子元府議を倍近い票差で破って再選。 橋下徹市長の後継の吉村洋文元衆院議員が同じく自民推薦、民共両党支援の柳本顕元市議に大差で勝利しました。5月の住民投票で否決された 「大阪都構想」 への再挑戦を公約に掲げ、維新の党分裂を経て、橋下氏が告示直前に結成した国政政党 「おおさか維新の会」 の消長を占うダブル選でしたが、同会の完勝で弾みがつき、野党再編に大きな影響を及ぼす可能性が出てきました。

一旦離れるが参院選で政界復帰へ
 橋下氏は大阪都構想が否決された際、政界引退を表明しましたが、松井氏は記者会見で 「橋下氏の情報発信力で改革の実績を広く伝えることが出来た」 と “劇場型選挙” を指揮した橋下氏の存在感を強調した上、「一旦は政界を離れ、新党の法律政策顧問として関わってもらう」 と述べつつ、来夏の参院選か次期衆院選に出て政界に復帰する可能性を示唆しました。 維新の党は松野頼久代表ら民主党と合体を目指す残留組、 新党 「おおさかの会」 合流組、無所属など四分五裂の状態で、「ヒトとカネを巡る泥仕合」 を続けています。 同党は 12月 6日の党大会で代表選を行いますが、民主党との連携を強める松野代表と、新党旗揚げを求める江田憲司前代表に近い小野次郎総務会長の一騎打ちとなります。橋下氏らは首相や菅官房長官と気脈を通じており、与党内には安倍政権の補完勢力になるとの期待感があります。来夏の参院選に向け、民主党内では前原誠司元代表と細野豪志政調会長が、年内に解党し維新の党と新党結成を主張。これに岡田克也代表らは否定的ですが、維新の党側は江田氏らが同意しています。共産党は安保関連法の廃案を目指し 「国民連合政府」 構想を唱え、野党間の選挙協力を提案しています。一方、1955年に保守合同した自民党は 29日、都内のホテルで立党 60年の記念式典を開き 「自由と民主の旗の下、平和愛好の国民政党とし日米同盟を基本に国際貢献をしてきた」 と長期政権を担当する姿勢を強調しました。