北村からのメッセージ

 

 第36回(3月1日) 日米首脳会談 対テロ協調の背景

 「構造改革の加速化」を訴える小泉首相。「首相の指導力、戦略、決意を信頼する」と支援を送るブッシュ米大統領。日本経済の再生と対テロ戦での日米協調を焦点とした2月18日の日米首脳会談は、双方のエール交換に終始し大成功に終わりました。10年前に父親のブッシュ大統領が3大自動車メーカー(ビッグ3)の会長ら多数の米経済人を引き連れ来日し、市場開放を強く求めた姿とは打って変わり、緊密な日米協調を演出するための会談でした。大統領は国会演説で「日本は抜本的な改革と競争の全面的導入を通じた“新たな維新”へ乗り出した」と語り、「小泉首相は日本のエネルギーと決意を体現した指導者だ。イチロー選手のようにどんな球も打ち返すことが出来る」と盛んに持ち上げました。

 深化する日米同盟

 日本経済が危険水域にあることは世界経済が抱える最大のリスク要因。不況の中でも日本の自動車メーカーだけが米国のビッグ3を再び追い上げ、新たな貿易摩擦が生じつつあるだけに、日本側は、大統領の口から不良債権処理など経済政策、通商政策面で厳しい発言が出されないかと、神経をとがらせていました。だが、大統領はわざと経済閣僚を従えずに来日し「日本経済が強靱であることが世界にとって重要」と述べただけで、小泉改革に全面支持を表明、具体的な注文はつけませんでした。これには昨年9月の米同時多発テロ以来、日本がテロ対策特別措置法を制定、海上自衛隊の艦船をインド洋に派遣し米軍への補給を実施したり、アフガン復興国際支援会議を日本で開催するなど、日米同盟が新たに深化した関係に入っているため、ブッシュ大統領が最大の敬意を表したからでしょう。

 厳しい日米財界人会議

しかし、米国は停滞の一途をたどる日本経済が世界の安定を脅かしかねないことを懸念しています。同日ワシントンで開かれた日米財界人会議では、小泉改革の早期実現を求める共同声明を採択しました。共同声明は、日本のデフレ進行や失業率上昇、企業が抱える過剰設備処理の遅れなどに懸念を表明、「構造改革が遅延する代償は高い。日本のリーダーが緊急かつ大胆な行動を起こすことを強く求める」と訴えています。具体的には市場原理に基づく規制緩和の加速、不良債権や過剰債務を処理する包括的な施策、企業のリストラ促進などを挙げています。そこには、日本経済の低迷が、同時多発テロから立ち直りの兆しにある米国経済の足を引っ張りかねないとの不安があります。とくに米国が警戒するのは、日本の経済危機の深刻化が米国のアジア戦略、世界戦略の足かせになるからです。

 改革の手綱緩めず

 朝日は19日のコラムで「中国が急速に台頭する中で、日本がこのまま衰退すればアジア太平洋の均衡を崩し、米国の世界戦略上も齟齬(そご)を来す恐れがあることを米国は危惧している。日本の経済力は従来、日米同盟を維持していく上で日本の最大の戦略的価値だった」と指摘しました。米国の危惧の表れが日米財界人会議の共同声明ですが、この点、小泉首相は不良債権処理の促進と規制緩和、デフレ対策を挙げて「日本経済の再生は小泉内閣の最大使命だ。構造改革の手綱は緩めない」と会談で胸を張りました。立派な国際公約ですが、これを実現するには自民党が一丸となって取り組まなければなりません。

 イラクへの軍事行動

米大統領が日本の経済政策に具体的要請をしなかった背景には、田中真紀子外相更迭問題で内閣支持率が急落した小泉首相を強力に支援したほか、訪日後に韓国、中国訪問の一環として組み込まれたテロ対策の協調で日本の合意を取り付けることにあったようです。ブッシュ大統領はイラク、イラン、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が大量破壊兵器を開発したり、弾道ミサイルを保有しているとして、「悪の枢軸」と非難しています。非難はEUの同盟国で評判を落としていますが、大統領は記者会見で「悪の枢軸」3カ国について「全ての選択肢(軍事行動含む)を排除しないが、平和的に解決したい」と述べました。

イランに働きかけ

これは、イラクを念頭に国際的な包囲網の構築を目指したもので、イラクが大量破壊兵器の査察を拒んだり、オサマビンラディン氏やタリバン勢力をかくまった場合、最終的には軍事行動の可能性も排除しない、との姿勢を明らかにしたものです。対イランでは、ハタミ大統領ら改革派にパイプを持つ日本に「強い働きかけ」を期待しました。小泉首相は会見で、大統領の姿勢を「テロに対する毅然たる決意だと受け止める。テロとの戦いは長く厳しい。米国、国際社会と協力して取り組む」と述べてイラク問題の重要性を指摘、イランにはミサイル開発などに絡む米国の疑念を払拭するよう働きかける意向を示しました。

 広がる支援活動

 ここで問題なのは、米国がイラクへの軍事行動に踏み切り、自衛隊に後方支援を求めてきた場合、日本がどう対応できるかということです。日米両国は96年の日米安保共同宣言に基づき、アジア・太平洋の平和に貢献するため99年、日本周辺の脅威に日米が共同で対処する周辺事態法を制定しました。さらに、アフガンでの米国の軍事行動を支援するテロ対策特別措置法を成立させ、現在自衛隊は周辺事態法の対象地域であるアジア太平洋地域を越え、ペルシャ湾などに展開する米艦に給油するなど後方支援を実施しています。その主力が佐世保基地所属の海上自衛隊であることは言うまでもありません。だが、米国がイラクへの軍事行動を起こせば日本の支援活動は危険な湾岸地域にまで広がります。

 新法制定が必要

その場合、米同時多発テロとの関連が明白にならない限り、テロ特措法では対応出来ず、新法の制定が必要になります。国際社会の平和と安定を守るために日米同盟の果たす役割は大きく、テロ特措法のような時限立法ではなく、恒久的な法整備が必要との声が日増しに強まっています。その一方で、多数の犠牲者を出したからこそ、同時多発テロでは日本国民も米軍への支援を納得したが、欧州諸国でさえ眉をひそめるイラク攻撃への支援となると、国民の理解は得られまい、との意見も国内にはあります。後方支援が度重なると、自衛隊家族の皆さんも不安が募ることでしょう。様々な議論が沸き起こってきそうです。

 全国会議員に配送

 ところで2月初旬、時事評論家の増田俊男氏書き下ろしの「ブッシュよ、お前もか」が、全国会議員に送られてきました。「新型戦争を演出し経済再生を狙う米国の覇権構想」とのサブタイトルが付いた同書は、「国益のために絶えず戦争を繰り返してきた」とする米国の歴史をひもとき、第5次中東戦争を予言しています。第1章の<アメリカの戦争は経済政策だ>の見出しからして過激で、「米の景気浮揚策に利用された第一次世界大戦」「欧州戦線に参戦するためのダシにされた日本の真珠湾攻撃」「冷戦終結の不景気を湾岸戦争で乗り切った前ブッシュ政権」「テロ計画の全容をつかみパキスタンの情報を握り潰したCIA」など、目次を見るだけでも一般大衆の興味をそそる内容が満載されています。

 ルーズベルトの手法

 この中では、ニューディール政策を成功させたフランクリン・ルーズベルト氏やレーガノミックスが残した負の遺産を引き継いだ現大統領の父、ジョージ・ブッシュ氏ら歴代大統領の戦争政策を紹介しています。小泉首相をルーズベルトにたとえる評論家もいますが、首相の手法は確かに、雇用促進が主だった第一次ニューディールの後、社会保障の充実と税制改正を第二次ニューディール政策の柱に掲げたルーズベルトの手法に似ています。増田氏は「ナチス・ドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発すると、ルーズベルトは兵器の供給によって景気を回復させる好機ととらえ、国内世論を戦争支持に誘導していった。当時の世論は88%が参戦反対だったが、日本が卑怯な手段で攻撃してくればいいと判断、暗号の傍受・解読などで真珠湾攻撃を予測していながら、2時間にわたる日本の攻撃を許し、多大な犠牲者を出した」と米国参戦のいきさつを詳しく紹介しています。

 先代と同じ血筋

 このことは「真珠湾の真実」(ロバート・スティネット著)などでも詳細に書かれていて、決して新しい話ではありませんが、現ブッシュ大統領が「リメンバー・パール・ハーバー」に引っかけて「リメンバーWTC(世界貿易センター)」と叫び、同時多発テロを“戦争”と位置づけ国民の団結を訴えたことは、共通項があると増田氏は指摘しています。増田氏はとくに先代のブッシュ大統領について、「レーガン時代の冷戦終結で兵器の需要が激減、軍需産業が崩壊寸前にまで追い込まれていたが、“やらせ事件”を使ってイラクを湾岸戦争に引き込んだお陰で、あっという間に息を吹き返した。戦争終結後、破壊されたクエートを復興する整備事業まで米企業が請け負った。こうしてブッシュはフセイン大統領を一方的に悪者にすることで米経済全体を活性化させ、自国産業を見事に立て直すことに成功した」と記述し、現大統領にも同じ血筋が引き継がれていることを示唆しています。

 安保論争が再燃

 ブッシュ大統領の熱誠溢れる国会演説を聴いた立場から見ると、増田氏の著作は独断的な視点が目立ち、感心できる作品ではありません。だが、このような書籍が全国会議員にばらまかれたとなれば、野党議員を喜ばせ、3月国会では経済再生問題と絡めてアフガン後の同盟関係を巡る安保論争が再燃しかねません。とりわけ米国のイラク攻撃が始まった場合の新法制定や、集団的自衛権の行使をどうするかなどが焦点になりましょう。その意味で米国の対テロ戦略は、今後の日米同盟に厳しい試練をもたらすことになりそうです。