第359回(11月1日)外遊で臨時国会見送り 日中韓会談に意欲
 首相は 11月 1日にソウルを訪問、日中韓首脳会談と初の日韓首脳会談をこなし、15 〜 16日はトルコで開催の主要 20か国 ・ 地域 ( G20 )首脳会議、18 〜 19日はフィリピンで開くアジア太平洋会議 (APEC) 首脳会議に相次ぎ出席するなど外遊は目白押し。両会議ではプーチン露大統領や習近平中国国家主席との再会談を模索しています。 安倍政権は外遊ラッシュを理由に野党が強く求める臨時国会の召集を見送り、通常国会の召集を例年の 1月中 ・ 下旬から松の内の 4日に前倒しする案を検討。 これで 150日間後の会期末は 6月上旬に繰り上がり、5月末の伊勢志摩サミット前に事実上の審議を終え、外交成果を国民に訴えた上で 7月参院選に突入する戦略を描いています。 安全保障法制成立後、 経済最優先に切り替えた首相は、アベノミクス 「新 3本の矢」 の具体策を盛り込む 2016年度予算案編成に全力を挙げ、消費税率 10%へ引き上げ時に取り入れる軽減税率の法制化や環太平洋経済連携協定 (TPP) 発効に向けた国会承認案件、 土砂災害 ・ TPP対策などの補正予算を早急に煮詰め年度内に成立を目指します。 政府与党には多忙な晩秋ですが、一層のご支援をお願い申し上げます。

中央アジアにインフラ ・ 経済援助
 首相は 9月末の国連総会出席に次いで、10月 22 〜 28日まで小泉首相以来 9年ぶりにモンゴルと中央アジア 5カ国を歴訪。社会資本整備や経済援助を確約しました。 ソ連崩壊後に独立したトルメニスタン、カザフスタンなど中央アジアは依然ロシアの影響力が強い地域。 だが石油、天然ガスなどの資源が豊富で、中国は 「一帯一路」 に描く陸のシルクロードの中枢としてパイプラインの敷設などの開発で急接近を図っています。 首相は 「インフラ投資や人材育成で3兆円を超すビジネスを生み出す」 と表明、財界代表 50人を引き連れトップセールスに臨み、日本の存在感を示しました。 地球俯瞰外交の集大成となるのが 1日からの韓国訪問。 日中韓首脳会談は 9月の 「抗日戦争勝利 70年」 式典に招かれた韓国の朴槿恵大統領と習近平国家首席の首脳会談でソウルでの開催が合意されました。 その先触れとして 10月中旬、 中国を訪問した公明党の山口那津男代表は習主席と会って安倍首相の親書を手渡した後 「日中関係改善の流れを一層確実にし、首脳会談の環境を整える役割を果たせた」 と記者会見で自讃しました。 だが 「桜の咲く頃の訪日を」 との要請に習氏の返事はなかったそうです。 中韓両国はともに首相の 「70年談話」 に一定の評価を下しており 1日の安倍首相と李克強中国首相、朴韓国大統領の日中韓首脳会談では対中国の 「民間交流など戦略的互恵関係」、対韓国の 「未来志向に立った協力関係」 の修復と推進に努めると見られます。

歴史認識や従軍慰安婦で応酬か
 だが、山口代表と会談した劉雲山政治局常務委員 (共産党序列 5位) は 「70年談話には中国やアジアへの感情的な配慮はあったが戦争責任に関しては依然として回避する態度があった」 と厳しく指摘したことから、首脳会談でも首相の歴史認識や従軍慰安婦問題を巡ってかなりの応酬があると予想されます。 2日に開く日韓首脳会談は、2012年 5月に当時の野田佳彦首相と李明博大統領が会談して以来約3年半ぶり。 首相は 10月 19日、 視察先の福島県楢葉町で記者会見し、 「隣国であるがゆえに難しい問題も存在するが、問題があるからこそ首脳同士が胸襟を開いて会談していくことが必要だ」 と指摘。 経済や人的交流、文化など幅広い分野で話し合う意欲を示しました。 しかし、 朴氏は先の訪米での講演で 「慰安婦問題に進展があれば、意味のある会談になる」 と語り、 補償問題など懸案解決への意気込みを見せています。 しかも、 李中国首相の場合は中韓首脳会談後に朴氏主宰の夕食会が開かれる 「公式訪問」 であるのに対し、安倍首相は昼食会も開かれない 「実務訪問」 であり、冷遇されています。 首相は 11月中、トルコの G20、フィリピンでの APECの両首脳会議の後も 20 〜 22日にマレーシアで開く東南アジア諸国連合 (ASEAN) 関連首脳会議、 30日から仏 ・ パリで開 く国連気候変動枠組み条約 21回締約国会議 (COP21)にも出席する予定です。

野党 5党は憲法 53条で召集要求
 首相の外遊は 55カ国を軽く突破。 一連の首脳会議に出席する習中国国家首席との会談を期待しています。 しかし、民主、維新、共産、生活、社民の野党 5党は 「首相外遊を理由に逃げるのは許せない」 と 20日、TPP、米軍普天間飛行場の辺野古移設、原発再稼動、新閣僚の所信表明、森山裕 農水相ら 3閣僚に浮上した 「政治とカネ」 問題などを追及するため、早急に臨時国会を開くよう与党に申し入れ、 翌 21日には憲法 53条の規定に基づく召集の要求書を大島理森衆院議長に提出しました。 同規定では衆参どちらかで 4分の 1以上の要求があれば、内閣は臨時国会の召集を決めなければならないと明記。 無所属を含め要求した 5野党計は定数を十分満たしていますが、 規定には期限を定めておらず政府は過去 2回、要求に応じていません。 政府与党は首相の外交日程や 16年度予算案の編成作業を理由に挙げ、11月 10、11両日に衆参両院の予算委を開催、閉会中審査で切り抜ける構えですが、野党の結束が保てるかどうか。維新の党を除籍 (除名)された 「おおさか維新の会」 の国会議員は 24日、大阪で 「臨時党大会」 と称する会合を開き、松野頼久代表の任期延長手続きは不当で 「執行部は不在だ」 とし、馬場伸幸議員を新代表に選んだ後 「解党」 を決めました。 これを松野代表が認めず同党は政党交付金と議員を巡る 「カネとヒト」 の争奪戦を展開。 4分 5裂の泥仕合の末、法廷闘争に持ち込まれそうで、野党の連携は迫力不足です。

新3本の矢推進策の検討本格化
 「戦後最大の経済という大きな目標に向かって、民需主導の好景気を確実にする必要がある。来春の賃上げ、最低賃金の引き上げ、民間投資の拡大について議論を深めてほしい」 ―― 首相は10月 16日の経済財政諮問会議で指示。 同日開かれた 「未来投資に向けた官民対話」 の初会合でも企業の設備投資に関し 「一歩踏み込んだ拡大の見通しを示して欲しい」 と要請しました。首相は切れ目ない外交日程の合間を縫って内政にも力を注いでいます。 月内には与党税制協議会が軽減税率の制度設計で合意。 農家への支援策を盛り込んだ TPP総合政策大綱を策定。 12月初旬には 16年度税制改正大綱、下旬には戦後最大 102兆円規模の 16年度予算案を決定する段取りで、 アベノミクス第 2ステージの経済再生策構築にハッパをかけています。 「官民対話」 には経団連の榊原定征会長ら経済 3団体のトップ計 7人が参加し、法人税実効税率の 20%台に引き下げや規制改革を要望しました。 安倍政権は官民対話を軸に 「新 3本の矢」 推進策の検討を本格化。 予算、 地方創生、 税制の対応は諮問会議や全閣僚参加の 「一億総活躍対策本部」 と 29日に初会合を開いた有識者参加の 「 1億総活躍国民会議」 ( 議長・首相 )、「まち、ひと、しごと創生会議」 などで検討。 成長戦略 ・ 規制改革は産業競争力会議や規制改革会議で立案し、 調整します。

公明は酒類除く全飲食料品の軽減
 首相は 17年 4月の消費増税と同時に軽減税率を導入するため、軽減税率に慎重だった野田毅自民党税制調査会長を交代させ、後任に宮沢洋一前経済再生相を起用。政府与党は同 16日から調整に入りました。 消費税は低所得層にとって 「痛税感」 の重い逆進性の税制であるため、自公両党は 13年 1月、消費税率を 17年 4月に 10%へ引き上げると同時に飲食料品などの税率を低く抑える軽減税率を導入することで合意し、協議を重ねてきました。 ところが、 財務省が 10%徴収の 2%分に相当する金額をマイナンバー (共通番号) 制度を活用して後で返金する 「還付案」を提案したため、 低所得者の負担軽減を最重視する公明党が反発、「酒類を除く飲食料品 (外食を含む) 」 を 1つの指標に野菜や魚 ・ 肉など生鮮食品から味噌 ・ 豆腐など加工品まで幅広 く消費税率を抑え、 簡易な経理方式で対応すべきだと主張しました。 これは本格的な経理方式の欧州型インボイス (税額票) だと中小 ・ 零細企業の負担が重いため、 現行の 「請求書等保存方式」 を 1部手直しする案を示したものです。

自民は益税見直し 「 2段階方式 」 へ
 消費税率を8%から10%に引き上げると、 税収は年間 5.4 兆円増えますが、「酒類を除く飲食料品」 の税率を 8%に据え置くと軽減される税収額は約 1兆円で、外食も含めると約 1.3兆円になり、 中小企業の事務負担も重くなります。 野田前会長を含む自民党税調や財務省内には年金や医療などの社会保障に充てる税収が減ることを懸念し、 当面は精米など極めて限定した対象範囲に絞り、 一定期間後に対象を拡大する 「 2段階方式」 を唱える声が起きています。 宮沢新会長は 20日のインタビューで、 「社会保障と税の一体改革」 の範囲内に留めるべきだとの考えを示す一方、 国に収めるべき消費税が事業者の手元に残っている 「益税」 については 「見逃せないレベルにきている」 と述べ、 益税の原因となる 「簡易課税制度」、「事業者免税点制度」 の見直しの必要性を強調しました。 だが、 益税を防ぐ厳格な経理方式であるインボイスについては 「実行するまで相当の時間がかかる」 と述べ、 数年程度の 「猶予期間」 を置いて中小企業が簡易な経理方式を採用、 軽減税率に不可欠なインボイスは大企業が先行して導入、数年後に統一する方向で調整に入る意向を示しました。 自公両党は与党税制協議会で、 医療や介護、子育てなどの自己負担額に上限を設ける 「総合合算制度」 を見送り、4000億円を軽減税率の財源とすることで合意しましたが、29日の検討委員会では、国債の追加発行 (新たな借金) に頼らない方針を確認しました。今後は飲食料品の線引きや新聞 ・ 出版物など他の品目の扱いが協議の焦点になります。 

重要 5品目の関税約 3割を撤廃
 政府は 20日、成長戦略に掲げる TPP で合意した関税の撤廃品目を正式に発表しました。 全品目の内訳を公表したのは初めて。 衆参両院の決議で 「聖域」 として保護を求めていたコメ、 麦、牛 ・ 豚肉、乳製品、甘味資源作物の農産品重要5品目関係 586品目のうち約 3割の 174品目で関税を撤廃。日本の全農林水産物は 2328品目あるうち 81%の関税を撤廃。 全体では工業品を含め日本が関税をかけている 9018品目のうち 8575品目と 95%が撤廃されることになりました。これで国内消費の大半を輸入に頼っている牛タン、粉チーズなどの関税がゼロとなるなど海外からの各種食品が安く輸入されるため、消費者のとっては福音です。 逆に米豪など 11カ国が日本産の農林水産品や工業品にかけている関税は、全品目の 99 〜 100%が撤廃されることになり、日本の輸出拡大に追い風となりそうです。 野菜や果物、海産物の関税は大半が撤廃され、日本が過去に結んだ経済連携協定 (EPA) では過去に例を見ない自由化率であるため、 農業関係者は不安を感じ、 野党は 「 3割の関税撤廃は国会決議違反だ。 輸入食品の安全にも問題がある」 と批判し、国会で追及する構えです。

農業の保護と 「6次産業化」 推進
  菅義偉官房長官は同日の記者会見で、「結果として国益にかなう最善のものになった」 と評価。甘利明 TPP相も 「コア (重要 5品目の核) 部分は守ることが出来た」と総括しましたが、自民党内には野党の反発など来夏の参院選への影響を懸念する農村部出身の議員が多いため、 政府は農業生産など国内への影響額の試算を急ぎ総合的な農業対策の概要を早急に示す方針です。 対策は国内農業保護のため @農地の集約化 A1次の生産から加工、販売まで手掛ける 「 6次産業化」 の推進 B生産者の少額負担による、国内消費の拡大や輸出促進C米価維持のためのコメの買い上げ D牛肉農家に対する赤字穴埋め策の拡充 ―― など 「攻めの農業」 に徹し、16年度予算に盛り込む方針です。 政府は 5品目の聖域を守るため米 ・ 豪向けに無関税で計 8万トン弱のコメを輸入する TPP特別枠を新設することで合意。 その分を政府備蓄米として買い上げる予算措置も講じます。 輸出の拡大では加工品も含め農水産物の輸出額を現在の約 6100億円から、2020年に 1兆円に増やす目標を掲げています。