第358回(10月16日)新3本の矢で経済再生 骨格維持の改造
 9月の自民党総裁選で無投票再選を果たした安倍首相は 10月 7日、内閣改造、党役員人事を断行、18年秋まで任期中の第 2ステージで 「 1億総活躍社会」 の実現を目指し再船出しました。 アベノミクス 「新 3本の矢」 でGDPの 6百兆円を達成するため、党 4役、主要閣僚の骨格は変えず、「老壮青、男女のバランス」 が取れた布陣で、経済再生を最優先に取り組んでいます。 成長戦略の柱である環太平洋経済連携協定 (TPP) 交渉も 6日、大筋で合意。月内にはソウルで日中韓首脳会談と初の日韓首脳会談が開ける見通しです。 さざ波が立った日露関係も北方領土問題の 「対話継続」 で合意するなど外交関係はまずまずの成果。 政府与党は大胆な経済政策で内閣と自民党の支持率を挽回、 挙党態勢を固めて来夏の参院選で改憲勢力を確保しようと燃えています。 去る 4日に長崎市で開いた 「衆院安保委員長 ・ 北村誠吾君を励ます会」 には大勢の皆さんのご出席を賜り、 感激いたしました。 謹んでお礼申し上げるとともに、今後とも、さらなるご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

経済最優先の取組みを英語で訴え
 「 1にも 2にも 3にも最大のチャレンジは経済、経済、経済だ。 3年間アベノミクスに全力投球してきた。日本に長らく巣くっていたデフレマインドは一掃された」 ―― 首相は 9月 28日、ニューヨークの通信社で開かれた金融関係者との対話イベントで、今後も引き続き 「経済最優先」 で取り組む考えを英語でアピール。 経済再生の目標に掲げたのが 1億総活躍社会で、 @希望を生み出す強い経済A夢を紡ぐ子育て支援 B安心につながる社会保障 ―― を新たな 「 3本の矢」 とし、国内総生産 (GDP) 600兆円を達成するもの。10月 7日の党役員人事は、 谷垣禎一幹事長、二階俊博総務会長、稲田朋美政調会長、 茂木敏充選対委員長の 4役と高村正彦副総裁が揃って再任。内閣改造では、首相が 「大きな骨格を維持し、女性が活躍し老壮青のバランスが取れた体制」 と述べた通り、盟友の麻生太郎副総理兼財務相、腹心の菅義偉官房長官、岸田文雄外相、石破茂地方創生相、TPP交渉を仕上げる甘利明経済再生相、安保法制推進の中谷元防衛相、労働基準法改正 (残業代ゼロ法案)を抱える塩崎恭久厚生労働相、マイナンバー制度推進の高市早苗総務相ら主要閣僚と就任後間もない遠藤利明五輪担当相の 9人が留任。 来夏の参院選に向け挙党態勢を固めました。

 1 億総活躍の未来作る新しい挑戦
 公明党は世代交代含みで太田昭宏国土交通相に代わって石井啓一政調会長が後継国交相に就任。新設の 「 1億総活躍担当相」には首相側近の加藤勝信官房副長官を起用し女性活躍、拉致問題の両担当も兼務、行革担当相兼国家公安委員長に河野太郎党行革推進本部長、農水相に森山裕 ・ 党 TPP 対策委員長、環境相に丸川珠代元厚労政務官、復興担当相に高木毅元衆院議運委員長、法相に岩城光英元参院政審会長、沖縄北方兼科学技術相に島尻安伊子元沖縄県連会長、新国立競技場建設など東京 5輪問題で辞意を表明した下村博文文科相の後任には馳浩元文科副大臣を抜擢、新人は 9人です。経済産業相にはベテランの林幹雄元国家公安委員長が再入閣しました。第 3次改造内閣の出発に当たり首相は 「 1億総活躍の輝かしい未来を作る新しい挑戦を始める。GDP6 百兆円、希望出生率 1.8%、介護離職ゼロの 3大目標に向かう強固な態勢を整えることが出来た」 と自讃、 「これからも経済最優先。地方創生も本番。TPPの大筋合意を受け総合的な対策を進め、平和安全法制の着実な施行に万全を期す。〈 1億総活躍社会の〉 改革第 1弾を緊急に策定する」 と抱負を語り、1億総活躍対策本部を設置しました。アベノミクス 「 3本の矢」 では異次元の金融緩和など経済再生の 「手段」 を打ち出しましたが、「新 3本の矢」は @強い経済 A子育て支援 (少子高齢化対策)B社会保障 ―― の 「重点目標」 を掲げたものです。

全閣僚のTPP総合対策本部設置
 「人口 8億人、世界 GDPの 4割を占める広大な経済圏が生まれる。国家百年の計だ。アジア太平洋に自由で公正、開かれた国際経済システムを作り上げ、経済面での法の支配を抜本的に強化する」 ―― 首相は 6日午前、環太平洋経済連携協定 (TPP)交渉の大詰め合意を受けて記者会見で語り、市場開放で影響を受ける国内産業対策をまとめる全閣僚参加の 「 TPP総合対策本部」 を設置すると表明しました。 米 ・ アトランタで開かれた日米など 12か国が参加する TPP交渉は医薬品、乳製品、自動車の原産地規則を巡り閣僚級の最終協議か 4日間も難航しましたが、  6日未明に大筋で合意、2010年に始まった交渉はようやく終結の見通しです。これで世界の貿易総額の約 3分の 1を占める巨大な貿易圏が誕生。少子高齢化で国内市場が縮小に向かう日本は、人口増が続く米国やアジアの需要を取り込み、新たな成長が期待されます。最も難航したのはバイオ薬品の独占販売期間を巡り、米国が自国の有力な製薬会社の利益を保護するため 「12年」 を主張したのに対し、豪州や新興国は安価な後発 (ジェネリック) 医薬品を早く使えるよう 「 5年以下」 を求め、鋭く対立したこと。 この対立に日本が仲裁に入り、米国と豪州が 「実質 8年」 で折り合いました。 注目の的は、2国間の自由貿易協定 (FTA) 締結に力点を置き参加を見送ってきた韓国が一転、参加の検討を始め、日米主導の TPP合意で経済的牽制を受けた中国が、独自に FTAを結んでいる TPP参加国の豪州、ニュージ−ランドや中国と FTA未締結のシンガポール、マレーシアなどを対象に、TPP協定の国会承認をしないよう切り崩し工作を始めたことです。

「関税死守」 決議守る姿勢に徹底
 TPP交渉に当たり衆参両院の農水委員会は、牛 ・ 豚肉、コメ、麦、乳製品、砂糖など甘味資源作物の 5農産品目を聖域とし、「関税死守」 を決議しましたが、結果はいかに。守りの姿勢に徹した聖域は 【コメ】無関税の国別輸入枠を新設。当初 3年目は米国から 5万トン、豪州から 6千トン。 段階的に増やし 13年目以降は米国から 7万トン、豪州から 8400トン 【小麦】米 ・ 加 ・ 豪に輸入枠を新設。当初は計 19.2万トン、7年目以降は 25.3万トン。 関税は維持。代わりに国が輸入している製粉会社に転売する時に上乗せする 「輸入差益」 を発効から 9年目までに 45%削減【牛肉】現行の関税 38.5%を当初 27.5%に。その後段階的に引き下げ、16年目以降は 9%に 【豚肉】ソーセージなどに使われる安い価格帯のものへの関税現行の 1キログラム当たり 482円を当初は同 125円に。その後、段階的に引き下げ 10年目以降は 50円に 【乳製品】バターと脱脂粉乳に低関税の TPP輸入枠を新設。 当初は生乳換算で計 6万トン、6年目以降は計 7万トン。チェダー、ゴーダ、クリームチーズなどは 16年度目までに関税を撤廃 【甘味資源】現行の糖価調整制度を維持するが、一定の輸入拡大に繋がる措置を検討 ―― で大筋合意し、農業団体の不満解消に精一杯努めました。 

車など工業製品は攻めの姿勢貫く
 このほか食品では 【水産物】マグロ、サケ・マスなどは 11年目までに、アジ ・ サバは 12〜16年目までに関税撤廃 【ボトルワイン】 8年目までに関税を撤廃 ―― などで合意し、輸入農産物の仕入れ値が下がり、スーパーなどで売られる商品価格は値下がりし、消費者にはプラスになりそうです。 一方、攻めの姿勢を貫いた工業製品では 【車】米国が日本の乗用車にかけている関税 2.5 %を 15年目から削減開始。 20年目で半減、 25年目で撤廃。 自動車部品は 8割以上で即時撤廃【自動車の原産地規制】 域内で生産された部品を原則 45%以上使う 【バイオ医薬品】製薬会社に独占的に販売を認めるデータ保護期間を実質 8年とする ―― で合意。 関税の削減は長期にわたりますが、高い国際競争力を持つ自動車を中心に経済界には追い風が吹くと見られ、大いに交渉の成果が上がりました。 再び漂流しかけた TPP交渉が 4日間の延長で各国が譲歩に転じて合意できたのは、各国が今後の政治日程に振り回されるとの危機感があったからです。米国は来年秋の大統領選を睨んで民主、共和両党の対決姿勢が強まり、合意への機運が薄れる恐れがあったこと。日本も来夏の参院選が近づくと民主党など野党の批判や農漁業団体の反発が激しくなると予想されること。19日に総選挙を控えたカナダでは保守党単独で過半数を確保するのは困難視され、次期連立政権が交渉を仕切り直しするとの恐れがあった、などです。

クリントン氏も反発、承認難航か
 中国はアジアと欧州に跨る陸 ・ 海シルクロードの 「一帯一路」経済圏構想を打ち出し、「アジアインフラ投資銀行」 (AIIB) を設立し世界経済を動かそうとしていますが、オバマ米大統領は 「TPPがないと価値観を共有しない中国が世界貿易のルールを作ることになる」 と中国を牽制、TPP参加国が世界経済をリードする考えです。 しかし、米国では来秋の大統領選の共和党候補で首位を走る不動産王のトランプ氏が 「現政権の無能さは理解不能。TPPはひどい内容だ」 と批判。与党の民主党支持基盤の自動車関連労組が 「円安を利用し米市場に自動車の輸出攻勢をかけている」と日本を批判、それに呼応する形で ポスト ・ オバマの最有力候補であるクリントン前国務長官が 「為替操作の対応が貧弱だ。TPPは私が設定した高い水準を満たすとは思わない」 と反発するなど、米議会で協定の承認を得るのは時間が掛かりそうです。日本でも関税撤廃を初めて知った果樹農家の反対が強まっています。

安保隠しの経済政策と野党批判
 野党は第3次安倍改造改革の経済政策、TPP交渉の中身を質すため臨時国会の早期召集あるいは衆参両院予算委の閉会中審査を要求しました。「内閣改造で何が変わって何をしようとするか分かない。TPP合意は国益に反する」 (枝野幸男民主党幹事長)、「そもそも 1億総活躍社会とは何か。しっかりチェックしたい」 (松野頼久維新の党代表)、「憲法や平和主義を壊す安倍政権に求められるのは改造でなく退陣だ」 (志位和夫共産党委員長)、「戦前の 1億総動員を想起させる」 (吉田忠智社民党党首) と野党は 「安保隠し」 として経済政策を徹底的に追及する構えです。しかし、維新の党は、24日に結党大会を開く 「おおさか維新の会」 に馬場伸幸前国対委員長、片山虎之助前参議院会長ら 16人、残留組の松野代表、江田憲司前共同代表ら 26人、態度未定の中間派が小沢鋭仁氏ら 8人という 3派分裂の状態。 次世代の党は前党首の平沼赳夫氏と離党した園田博之氏が自民党への復党を認められました。

分裂で政局は潮目に変化の兆し
  同党を離党した藤井孝男元運輸相も自民復党を願っています。こうしたバラバラ野党ですが、共産党は @安保法廃止 A立憲主義の回復 B 「国民連合政府」 樹立 ―― を掲げ、来夏参院選の選挙協力で統一戦線を構築しようと動き、生活の党の小沢一郎共同代表が評価する談話を発表しています。 このような流動政局を睨んで石破地方創生相は 28日、石破派 「水月会」 を結成、「ポスト安倍」 に真っ先に名乗り上げました。総裁選規定で安倍首相の 3選はあり得ないからです。本人は 「私心を持たず日本や国際社会、次世代のため何をなすべきか考えて活動したい」 と意欲的。 派内には 「下野して自由な身で次に備えるべきだ」 との声がありましたが、首相から地方創生の重要性を説かれ、閣内に封じ込まれました。総裁選出馬を断念した野田聖子元総務会長は政府が安保法案を一括提出したことを 「いかにも雑だった」 と法成立直後に批判するなど首相とは距離を置いており、着々と総裁選の出馬態勢を固めつつあります。 一方、翁長雄志沖縄県知事は 13日、仲井真弘多前知事が承認した米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古沖の埋め立てを正式に取り消しました。 今後は法廷闘争に持ち込まれそう。厄介な問題が浮上し政局の潮目は徐々に変化しています。