第357回(10月1日)新3本の矢で経済再生 改造は骨格維持
 防衛体制を大変革する安全保障関連法は与野党激突の末、9月19日未明に成立しました。同法は中国の軍事力増大、海洋進出など安保環境の急激な変化に対応し、日米同盟を強化して抑止力を高める法制です。自民党総裁選で無投票再選された首相は18年秋まで3年間の第2ステージで、「1億総活躍社会」を目指し、「希望を生み出す強い経済」 などアベノミクスの 「新3本の矢」 構想を打ち出し、経済再生を最優先に取り組みます。10月早々に 「老壮青、男女のバランス」 が取れた内閣改造・党役員人事を断行、不況からの完全脱却と景気の好循環を図る来年度予算編成に総力を挙げます。外交では9月末に訪米し国連総会で演説。10月末にはソウルを訪れて日中韓首脳会談を開催、歴史認識でこじれた関係を修復。年内にはプーチン露大統領の来日を期待し、北方領土交渉を進展させる方針です。これらの懸案処理で内閣支持率を上げ、来夏の参院選で与党3分の2の改憲勢力を確保、念願の憲法改正に漕ぎ着けたい考えです。なお一層のご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

日米同盟深化と抑止力を世界発信
 「我が国の安全保障の基軸である日米同盟の強化を世界に発信することによって、抑止力はさらに高まり、攻撃を受ける可能性は一層なくなっていく」 ―― 首相は参院特別委の安保法案審議が大詰めを迎えた段階でこう力説。「中国は急速な軍拡を進め、27年間で41倍に軍事費を増やした。尖閣諸島周辺では公船による侵入を繰り返し、 領海未確定海域で一方的な資源開発を行っている」 と中国の海洋進出の動きを具体的に示し、危機感を訴えました。国連総会の演説でも 「積極的平和主義」 の理念を説明、日米同盟深化を世界に発信しました。60年安保で祖父の岸信介元首相は全学連と労祖の激しい国会デモに遭い、樺美智子東大生が圧死するなど大騒乱の中、「天には (賛成の) 声なき声がある」として安保条約改定の批准を強行した結果アイゼンハワー米大統領の来日が中止になり、退陣しました。しかし第2次政権担当1千日を超えた首相は 「安保改定で反対を唱えた人たちも抑止力が高まり満足した」 と自信たっぷり。安保法制の評価は後世の歴史家に委ねる考えです。

アーミテージ・ナイ報告書が手本
 マスメディアが戦後70年の節目に反戦キャンペーンを張ったため、高校生から高齢者までが国会周辺でフランス・デモ的な草の根デモを展開、世論調査でも反対が賛成をかなり上回り、法案の説明不足が7、8割を占めました。安保法案には読売、サンケイが賛成したのに対し朝日、東京・中日が明確に反対、地方紙も大半が反対。これが無党派デモの大動員に繋がったと見られます。特に東京新聞は 「米要望通り法制化した」 とし米国の超党派の日本専門家が2013年にまとめた 「アーミテージ・ナイ報告書」 を紹介しました。アーミテージ元国務副長官、ナイ元国防次官補らが共同執筆した報告書は、日本が集団的自衛権を行使出来ないことを 「日米同盟の障害」 と断じ、自衛隊の活動範囲を拡大し @中東・ホルムズ海峡での機雷掃海 A南シナ海での警戒監視活動の実施  BPKO活動に離れた場所で襲撃された他国部隊などを武器使用で助ける 「駆けつけ警護」 の追加 ―― のほか、TPP交渉への参加や情報保全の向上、武器輸出3原則の見直し、原発の再起動にも言及しています。同紙の指摘通り安倍政権は特定秘密保護法の制定、武器輸出の原則解禁、原発再稼動など全ての政策を手掛け、4月訪米の議会演説で「夏までに安保法制の成就」を約束しました。

難民支援拡充に970億円拠出
 「こういうのを完全コピー、『完コピ』と言う。全て米国の要求通りに行っている。独立国家と呼べるのか」 ―― 生活の党の山本太郎共同代表は参院審議で厳しく批判しました。確かニ米国はイラク戦争、アフガニスタン紛争、ウクライナ危機など中東・東欧の和平工作に失敗して「世界の警察官」を返上、アジア重視のリバランス(再均衡)政策に切り替え、軍事費も削減するなど日本依存を高めています。野党は日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定による日米同盟の強化で抑止力が向上する半面、日本の負担が増大すると懸念しています。首相は9月26日に訪米、29日(日本時間30日未明) にニューヨークの国連総会で演説。安保法の成立を背景に日本が国連平和維持活動 (PKO)に積極的に貢献する姿勢を打ち出すとともに、シリアやイラクの難民支援を拡充し、今年は約8億1千万ドル(約970億円)を拠出すると表明、日本が常任理事国入りを目指す安保理改革案の実現に強い決意を示しました。バイデン米副大統領、プーチン露大統領とも個別に首脳会談した後、ジャマイカを訪問して2日に帰国するなど活発な外交を展開中。10月末にはソウルで日中韓首脳会談と日韓首脳の初会談が開かれる見通しです。日韓双方の民間団体は連携して国交正常化50年を祝う 「日韓交流おまつり」 を別個に開催、友好ムードを盛り上げています。

領土で露大統領の年内来日困難視
 一方、ロシアはウクライナ南部のクリミア半島の併合に日本を含めた西側諸国が経済制裁を加えたことに反発、NO2 のメドベージェフ首相が8月22日、日本の度重なる中止要請を無視し択捉島訪問を強行、愛国主義の高揚を図っています。岸田文雄外相は9月21日に訪露、露大統領来日の意向を探りましたが、ラブロフ露外相は外相会談後の共同記者会見で、「北方領土問題では協議しなかった」と否定、「北方領土は対話の議題ではない」 と4島の帰属問題の協議を事実上拒否しました。安倍首相とプーチン露大統領は蜜月関係にあった2013年の首脳会談で、「北方4島の帰属問題を解決して平和条約の締結を目指す」 で合意しましたが、ロシアはウクライナ危機以来、冷戦時代のソ連に先祖帰りし、平和条約交渉と領土交渉を分離し極東・シベリアの開発など経済分野での協力事業に限り協議するとの強硬姿勢に転じています。首相は訪米中の日露首脳会談で平和条約交渉を切り出し、11月の20カ国・地域(G20)首脳会合などを活用しての対話継続で一致しましたが、プーチン氏は平和条約問題には一切触れず、日露の経済協力拡大への期待感を示しただけ。露大統領が安倍首相に内諾した年内来日は困難視され、北方領土問題での進展は望み薄です。

北朝鮮は長距離ミサイル発射準備
 北朝鮮は 「拉致被害者調査を来夏までに発表する」 と約束して1年後に 「報告の先送り」 を通告してきました。国連人権理事会は21日、ジュネーブで北朝鮮の人権状況を討議するパネルディスカッションを開き、失踪した田口八重子さん長男の飯塚耕一郎さんと横田めぐみさん弟の横田拓也さんが出席、「家族は高齢化している。もはやこれ以上時間をかけていい問題ではない」 と訴えました。拉致家族は 「日本が解除した経済制裁を復活すべきだ」 と憤りますが、追加制裁に踏み切れば交渉が途絶える恐れもあり政府は慎重に対応。図に乗った北朝鮮は10月10日の朝鮮労働党創建70周年記念日に、人工衛星打ち上げと称して長距離弾道ミサイルの発射や核実験実施などで国威を発揚する準備を着々と進めています。

習首席訪米で 「対等な新型大国関係」
 このように拉致問題は益々解決が困難視されます。中国の習近平国家主席は9月22日から米国を国賓で公式訪問。25日の首脳会談でオバマ大統領は米企業を標的にした中国のサイバー攻撃や人民元切り下げ、南シナ海岩礁埋め立ての海洋問題、人権状況などに 「強い懸念」 を表明した結果、米中は @サイバー犯罪に関する閣僚級の対話メカニズムを創設し、企業秘密など知的財産の窃盗行為禁止 A両国戦闘機の偶発的衝突を回避 B中国は温暖化対策のため発展途上国に200億元(約3800億円)を金融支援C北朝鮮の完全非核化を目指す ―― などで合意しました。しかし習首席は 「領土主権と、合法で正当な海洋権益を維持する権利を持っている」 と核心的利益は譲らず、南シナ海問題は平行線をたどりました。習首席は国連サミットの演説で、「途上国支援に20億ドル(約2400億円)を南南協力援助資金として拠出する」 と表明。米中首脳会談に先立つ22日、習首席はシャトル市を訪れて米国トップ企業15社の幹部を前に 「中国もサイバー攻撃の被害者だ。〈株価暴落などの〉大規模パニックを避ける行動を取るので、対中投資を拡大して欲しい」と先手を打って演説。各社の本社や工場を視察し、中国の国有企業がボーイング航空機300機〈約4兆5千億円〉を”爆買い”することで合意。日中が競合している米西部ロサンゼルス―ラスベガス間の高速鉄道建設計画を売り込むなど経済を中心に 「対等な新型大国関係」 の外交を展開しました。とはいえローマ法王の訪米と重なり、習首席訪米に対する米社会の反応は冷ややかでした。

軽減税率と辺野古移設が依然難題
 102兆4千億円と過去最大の概算要求予算のうち、約3.8兆円設けた特別枠を巡り地方創生、農業6次産業化など成長戦略にどう割り振るか。来年度予算編成が本格化します。税制改正では、消費増税を17年度中に10%に引き上げる際、財務省が示した軽減税率を代行する 「還付案」 に公明党が強く反発、25日の与党税制協議会で自民党に反対を伝達しました。公明党は品目ごとに消費税率などを記したインボイス(税額票)の導入を簡素化したり、軽減品目の重点化など独自案を検討中で、税制協議会で16年度税制大綱を煮詰める与党協議はかなり難航しそうです。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の那護市辺野古への移設問題は、5回にわたる集中協議が決裂。翁長雄志沖縄県知事は前知事の埋め立て承認を取り消す決意を表明しましたが、訪米して各界に現状を説明した後、21日にスイス・ジュネーブの国連欧州本部の人権理事会でも演説。かつて琉球王国が日本に併合され、太平洋戦争後に米施政権下に置かれた沖縄の歴史的経過を説明し「時代の変化の中で自己決定権を踏みにじられてきた」と訴えました。政府は取り消しにどう対処するか。これも難題です。

老壮青で主要閣僚・党役員留任へ
 「デフレ脱却はもう目前。アベノミクスは第2ステージに移る。目指すは1億総活躍社会だ。少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持する」 ―― 首相は24日、自民党が両院議員総会で党総裁再選を正式に決定した後の記者会見で、 @希望を生み出す強い経済 A夢を紡ぐ子育て支援 B安心につながる社会保障 ―― を新たな 「3本の矢」 とし、国内総生産(GDP )600 兆円の達成や介護による離職をゼロにする目標などを打ち出しました。秋の臨時国会では豪雨による土砂災害などの補正予算や前国会で積み残した岩盤規制改革法案などの審議が待っています。このため、10月7日に予定する内閣改造、党役員人事では、「大きな骨格を維持しながら、女性に活躍してほしい。老壮青、男性、女性、バランスの取れた体制を整えていく」とし、 「1億総活躍担当相」 を新設すると述べました。マスコミは内閣改造で、盟友の麻生太郎副総理兼財務相、腹心の菅義偉官房長官、岸田外相、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が大詰めの甘利明経済再生担当相、安保法制推進の中谷元防衛相、労働基準法改正(残業代ゼロ法案)を抱える塩崎恭久厚生労働相ら主要閣僚は留任。党役員人事では党総裁選で首相の無投票再選レールを敷いた谷垣禎一幹事長、二階俊博総務会長が再任すると予想しています。人事には新国立競技場建設など東京五輪問題で辞意を表明した下村博文文科相の更迭も含まれますが、次期総裁選を目指し28日に 「石破派」 を結成した石破茂地方創生相や野田聖子元総務会長らの処遇も関心の的です。