第356回(9月16日)首相、無投票総裁再選 安保攻防大詰め
 安全保障法案の与野党攻防はいよいよ大詰め。自民党総裁選は8日の告示に対立候補の届出がなかったため、安倍首相の総裁続投が確定。首相は安保法案の衆院通過から2ヶ月を経過したことから、衆院で再可決できる「60日ルール」を使わなくとも、参院で採決する時機が来たと判断、連休前の14〜20日間に成立させる構えです。6野党の党首は4日に会談し、先月末に盛り上がった12万人規模の国会デモを背景に「強行採決の阻止」で一致。内閣不信任案の提出を含め徹底抗戦の共闘体制を固めています。しかし、分裂状態にある維新の党は、大阪系の松井一郎前顧問(大阪府知事)が内閣不信任案は「民主党の提案であり、野党再編の踏み絵だ」と反発しているほか、永田町には郵政民営化法案が参院で否決された際に小泉元首相が「抜き打ち解散」を断行したように安倍政権にも解散の口実を与えるとの懸念もあります。首相の70年談話に一定の評価を下した中韓両国は「抗日戦争勝利70年」式典前の首脳会談で日中韓首脳会談を10月下旬にもソウルで開催することで合意。首相が対中国の戦略的互恵関係、対韓国の未来志向の協力関係推進を唱える積極的平和外交の展望が開けてきました。気懸かりなのは米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡る沖縄県との話し合いが決裂。消費増税の軽減税率を巡り公明党との間に隙間風が吹き始めたことです。予算編成も本格化しています。一層のご支援、ご教唆をお願い申し上げます。

17日にも可決し5連休前成立へ
 「会期も大幅に延長したが、あとわずか。どこかの段階で決める時は決めなければならない。それが民主主義のルールだ」――首相は4日、民放テレビに出演して安保法案を成立させる決意を表明しました。同法案の審議は防衛省の内部資料を巡る紛糾で1週間中断、8日にようやく参考人質疑が行われました。政府与党は予定した11日の成立は見送りましたが、参院での審議時間は今月半ばで衆院審議の116時間に迫る100時間を超えることから、15日に中央、16日に地方(神奈川)の公聴会を経て17日にも採決、5連休前の18日までに本会議で可決し、27日の会期内に成立させる方針です。野党が抵抗する場合、参院で否決とみなし衆院3分の2で再可決する憲法「60日ルール」は14日から可能ですが、「数の力で世論や野党を押し切った」と来夏の参院選で批判される影響などを考慮し、連休までに採決できない場合の「奥の手」として保存しました。先月末に12万人規模(主催者発表・警察調べは3万人)の国会デモを掛けた「戦争させない・9条壊すな!総がかり実行委」が各紙に全面広告を出し9,12,14日に国会包囲行動を起こしたことに野党は勢いづき、民主、維新、共産、社民、生活、日本を元気にする会の6野党党首は4日に会談し「強引な採決を阻止する」ことで一致。衆院の内閣不信任案、参院の首相問責決議案提出を検討しています。

経済成長最優先に一致結束し進む
 首相にとってラッキーなのは無投票で総裁再選が決まったことと、内閣不信任案の提出などで野党の足並みが乱れていることです。仮に総裁選が法案審議との「ダブルトラック」で選挙戦に入り、全国遊説や街頭演説などを行えば、野党は「首相が代わることもある最中に、審議などは出来ない」と反発して安保法案の審議を拒否、採決がさらにずれ込む事態が予想されていました。しかし、自民党の全7派閥と鳩山邦夫元総務相が中心の派閥横断的グループ「きさらぎ会」が首相支持を表明。8日の告示に先立つ出陣式で首相は「アベノミクスの経済再生は未だ道半ば。重要法案が残っている。継続は力なりで、一致結束して臨んでいきたい」と経済成長を最優先に2期目の政権運営に望む決意を表明しました。唯一人、立候補の意欲を燃やした無派閥の野田聖子前総務会長は2日、札幌市内の講演で「無投票は国民に対する欺瞞であるし、傲慢であるし、不誠実だ」とボルテージを上げていましたが、立候補に必要な推薦人20人を集めきれず、出馬を断念しました。無投票再選は14年前の小泉元首相以来で、総裁再選は7人目。総裁任期は18年9月までの3年間です。前回総裁選で敗れた石破茂地方創生相は9日,自身に近いグループ「無派閥連絡会」(約40人)を発展的に解消して「石破派」を結成。「何時の日にか審判を頂くために備える」と述べ、安倍首相の後継を目指す考えを表明しました。約20人が参加の意思を示しています。

維新分裂で不信任案の足並み乱れ
 もう1つは、分裂状態にある維新の党が10月中にも分解することです。同党の国会議員51人(衆院40人、参院11人)の内、橋下徹大阪市長が結成する新党に少なくとも18人が積極的な参加意向を示し、残留希望者は22人。態度を明確にしない「中間派」10人余の取り込みを巡る争いが激化しています。新党には元自民党参院幹事長の片山虎之助総務会長、馬場伸幸国対委員長(衆院大阪17区)ら関西を選挙基盤とする大阪系で、党代表には前党顧問の松井一郎大阪府知事か片山氏が就任すると見られています。残留組は衆院17人、参院5人で松野頼久代表、江田憲司前代表、柿沢未途幹事長、小野次郎幹事長代理ら民主、みんなの党出身者が多く野党再編を志向しています。松野代表は8日、山形市長選候補問題で分裂状態の発端を作った柿沢幹事長と片山、馬場の3氏を解任。後任の幹事長に今井雅人政調会長を起用するなど人事を刷新しました。江田氏は民主党の岡田克也代表と同じ通産省(現経産省)出身で再編では意気が合う仲。松野氏は「このまま違憲の可能性が極めて高い法案を強行採決するのであれば不信任に値する」と民主党提案の内閣不信任案に同調する姿勢を見せ、10月1日に告示を予定していた代表選は延期しました。みんなの党を率いた江田氏はみんなの仲間が多い中間派相手に野党再編の参加を呼びかけています。

国際経済と国内景気に不安動向
 首相と気脈が会う橋下、松井両氏は安保法案に賛成で、橋下氏は「新党は『維新スピリッツ』を持つ議員による政党になる」と述べ、松井氏も内閣不信任案について、「民主党からの『踏み絵』だ。不信任の理由がない踏み絵をわざわざ踏む必要はない」と反発しています。他の野党内でも、小泉元首相が郵政民営化法案の参院採決に当たり、自民党内の造反で否決された際、衆院を抜き打ち解散して大勝した経緯があることから、当時、小泉政権の中枢にいた安倍首相が小泉手法を真似て「伝家の宝刀を抜く」のではないかとの不安がよぎっています。一方、国際経済と国内景気の動向はどうか。米国は雇用の改善が進み、消費やインフレなど金利引き上げの環境は整ったとし、年内利上げの可能性を模索していますが、利上げすると金融緩和で世界中にあふれた投資マネーが米国に逆流していく恐れがあります。中国は人民元の切り下げや、天津、山東省で相次ぐ5件の工場爆発の影響で原油の需要が減少、鉄が生産過剰となるなど中国経済は減速の一途。こうした不安要因で先月末に、日経平均株価が1万8千円を割って世界同時株安となり、その後も乱高下を続けています。

G20で中国の経済減速に警戒感
 トルコのアンカラで4,5両日に開かれた20カ国・地域(G20 )財務相・中央銀行総裁会議は、米国の金利引き上げへの牽制と、中国に経済構造の抜本改革を求める意見が相次ぎ、各国が構造改革を急ぐ必要性を盛り込んだ共同声明を採択して閉幕しました。中国人民銀行の周小川総裁は上海市場の株価暴落について具体的内容には触れず、「バブルが弾けるような動きがあった」と何度も説明。楼継偉・中国財政相は「今後5〜10年間は厳しい状態が続くかも知れない」と悲観的な見通しを述べました。麻生太郎財務相は「中国当局は注意深い政策運営と市場との対話が求められる」と現地で強調し、過去の対策で生じた過剰設備の解消や金融機関の不良債権処理、社会保障制度の構築などに取り組むよう主張しました。円安・ドル高で伸びるはずの輸出が中国経済の減速で低調になれば、経済再建の進路が歪みます。来年度予算編成作業ではアベノミクス第3弾の成長戦略をいかに構築するかが最大な課題ですが、10月下旬にもソウルで開催される日中韓首脳会談では対中国の戦略的互恵、対韓国の未来志向に立った協力を推進する経済外交が最重要になってきました。

懸念材料は辺野古移設と軽減税率
 安倍政権にとって懸念されるのは、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の那護市辺野古への移設問題。9日までの1カ月間、一切の作業を中止し計画反対の沖縄県と5回にわたり集中協議をしましたが、7日に首相官邸で開いた最終協議でも双方の溝は深まらず決裂しました。菅義偉官房長官が「工事を再開させて頂く」と述べたのに対し、翁長雄志知事は「力で阻止する」と反発。初めて出席した首相が「あくまでも19年前の日米両政府の合意が原点だ」と強調したのに対しても、翁長氏は「戦後、住民の土地が強制接収されたのが原点で、代替施設を求められるのは理不尽だ」と抗議しました。決裂後は「政府・沖縄県協議会」を設置し米軍基地の負担軽減と経済振興などの対話を続けますが、集中協議の「一時休戦」は功を奏せず、安保法制反対闘争に弾みをつける結果になり、今後は予想される安保法制の違憲訴訟に加え、公有水面埋立法を巡る政府と沖縄県の法廷闘争に持ち込まれる可能性が出てきました。

マイナンバー制活用し2%還付案
 もう1つの懸念は財務省が検討中の軽減税率の代行案に、公明党が反発していることです。政府与党は公明党の強い要望を入れ、消費税率を10%に引き上げる2017年度中に生活必需品には低い税率を適用する軽減税率制度を導入する方針ですが、財務省は、酒類を除くほぼ全飲食料品について10%徴収の2%分に相当する金額を後で給付する還付案を打ち出しました。購入額と給付の差が出ないよう、10月から国民に割り当てられる12桁のマイナンバー(共通番号)制度を活用する考え。消費税は収入の低い層の負担が高収入層より重くなる「逆進性」があり、公明党が低所得層の負担軽減には軽減税率が欠かせないと強く主張。与党は15年度税制改正大綱に「国民の理解を得た上」と明記して軽減税率の導入に合意。自公両党が年末の16年度税制大綱策定に向け大詰めの協議に入る矢先でした。財務省は適用する品目の線引きや会計処理の煩雑に加え、財政再建が困難になるとの判断から軽減税率の導入に難色を示し、負担分を給付型とする「還付案」を打ち出しました。

財務省還付案に公明反発し隙間風
  しかし、還付案の説明で麻生財務相が“煩雑や困難”と言う言葉を使わず「複数税率(軽減税率)を入れることは面倒くさい」と軽減税率を切り捨てる発言をしたため、同制度の導入を公約に掲げた公明党の山口那津男代表が財務省を批判。漆原良夫中央幹事会会長も「今まで考えてきた内容とは少し異なり『唐突で理解できない』という話が(党内に)ある」と指摘。同省が10日、与党税制協議会に正式に示した還付案は、消費者が会計する時は一律に10%分の消費税を支払うが、マイナンバー制度に伴って導入される個人番号カードをレジにかざせば2%分を後日、返金する仕組み。協議会では自公両党の出席者から「性格が異なる“軽減税率もどき”では」、「詐欺、サイバーの攻撃の対象になりかねない」など厳しい意見が出されました。安保法案も両党が苦心して合意し提出しましたが、平和政党を標榜する創価学会員が各地で反対を唱え、両党間には隙間風が吹き始めています。