第353回(8月1日)60日ルール視野に最終攻防 五輪も難題
 安全保障関連法案の審議は参院に舞台を移し、7 月 27 日から与野党が激しい攻防を続けています。 ツイッターなどインターネットの影響で、 全国に反対デモの活動が盛り上がったことを背景に、 野党は結束し関連法案を廃案に追い込もうと懸命です。 大幅会期延長で十分な審議時間を得た与党は成立に自信を深めていますが、 会期末までにはお盆休みや 9 月の連休もあり、実際の審議日数は限られることから、 与党は採決見通しが立たない場合は、 参院の 「 60 日ルール 」を適用し、 成立させる腹を固めています。 首相は 7 月 17 日、 巨額工費が問題となった 2020 年東京五輪の主会場となる新国立競技場の建設計画を白紙から見直すことを決めました。 マスメディアは 「違憲と指摘された安保法案の対応で内閣支持率が低下傾向にあり追い込まれて世論に配慮せざるを得なかった」 と批判しました。 首相には苦しい選択です。 8 月末は来年度予算について各省庁の概算要求を締め切り、 予算編成作業も本格化します。 猛暑到来ですが、 さらなるご支援、ご指導をお願い申し上げます。

900億円上回る巨額工費に批判
 「 コストが当初より大幅に膨らみ、大きな批判があった。 現在の計画を白紙に戻し、 ゼロベースで見直す 」 ―― 首相は 1 ヶ月ほど前から計画見直しを政府内で検討していたと説明した上で  「 2020 年の開催までに間違いなく完成すると確信し、 決断した」と述べました。 巨大なアーチ構造の現行計画は、 工費が基本設計時を約 900 億円上回る 2520 億円に膨らみ、 世界的建築家の槙文彦氏らから計画見直しを求める声がかなり以前から上がっていたなど、 世論の批判が高まっていました。 政府は今秋までに新整備計画を策定しますが、 前回のようにデザインだけを選定する国際的なコンペは実施せず、 設計や施工方法も含めて一括して決めることで時間を短縮し、 20 年春ごろまでに完成させる方針です。 首相は7月5日、 五輪大会組織委会長でラグビー ・ W杯推進会議議長の森喜朗元首相と会談、 19 年秋に日本で開かれるラグビー ・ W杯の新国立競技場での開催は見送ることで了承を得ました。

嫌なスタイルだった―と森元首相
 森氏は 「生牡蠣のように泥臭いあのスタイルは嫌だった」 とザハ ・ ハディド女史が設計した 2 本の巨大なキール ・ アーチ構造のデザインをけなし、 「何を基準に高いというのか。 責任体制は文科省と日本スポーツ振興センター ( JSC ) にある」 と不満をブチ上げました。 費用がかさむため建設が少なく 「アンビルトの女王」 との不評さえある、 ハディド女史の作品を選んだ 12 年当時の予算は 1300 億円。 それが契約段階で 2520 億円に膨張、 最近の五輪会場では最も高かった 12 年のロンドン五輪 ・ 530 億円の 4 倍、「鳥の巣」 競技場と言われた 8 年の北京 ・ 337 億円の 6 倍に膨れ上がりました。 500 億円の巨額負担を求められた東京都の舛添要一知事は 「文科省は無能力 ・ 無責任で、 これが最大の失敗原因」 とのブログを公表。 デザイン案を決定した国際コンペの審査委員長を務めた建築家の安藤忠雄氏は 「私たちが頼まれたのはデザイン案の選定だけ。 私は総理大臣じゃない」 と巨額工費に当惑し、責任の立場にないことを強調しました。 首相も当初はデザインについて 「民主党政権時代に決まった」と強調、 批判の矛先を民主党に向けようとし、 7 月 9 日に建設会社と従来の計画でスタンド工事の契約を結ぶなど規定路線を進めてきました。 だが、 13 年 9 月の五輪招致演説で 「どんな競技場とも似ていない新スタジアム」 と世界にアピールした手前もあり、 世論の厳しい反発を浴びて軌道修正。 21 日に建設計画再検討の閣僚会議を発足させました。

8月末に各省概算要求締め切り
 「デフレ脱却、 経済再生と財政健全化の双方に資するよう、 予算編成を進めていきたい」 ――首相は 7 月 16 日の経済財政諮問会議 (議長・安倍首相) でこうハッパをかけ、 2016 年度予算編成に向けた議論を開始しました。 予算の大枠を決める概算要求基準 (シーリング) を同 24 日に閣議了解、 各省庁からの要求を 8 月末に締め切ります。 経済成長を重視する観点から歳出の上限は設けず、 前年に続いて成長戦略を促す特別枠 「優先課題推進枠」 を 3 ・ 9 兆円分設定しました。 政府は 20 年度に国と地方の基礎的財政収支 (プライマリーバランス = PB)を黒字化する目標を掲げていますが、 概算要求総額は 2 年連続で 100 兆円を超える見通しです。 年金や医療などの社会保障費は、 高齢化に伴う 6700 億円の増額を容認しましたが、 福祉予算は 5000 億円増にとどめるため、1700 億円程度の抑制策が必要です。 概算要求基準では基本的に 15 年度の内容を踏襲。 特別枠の財源確保のため、 政策判断で増減できる政策経費を 10 %程度削減するよう各省庁に求め、 各省庁は、 削減後の政策経費の 30 %程度を特別枠として要望できる 「アメとムチ」 の予算配分で、 歳出改革に熱心な役所をバックアップします。 経済財政諮問会議の伊藤元重東大教授ら民間有識者は、 各省庁に歳出改革を促すための 「専門調査会」 を同会議に新設、 進展状況をチエックする考えです。

橋本・小泉政権も財政健全化失敗
 安倍政権は財政健全化計画の前提となる国内総生産 (GDP) の実質 2 %、 名目 3 %以上の経済成長を目指しています。 しかし、 橋本龍太郎政権が 1997 年に実質 1.75 %、 名目 3.5 %の成長率を前提とした財政再建策に着手しましたが、 アジア通貨危機や景気後退のあおりでマイナス成長に陥り、 計画は凍結。 その後の小泉純一郎政権も 2006 年に名目 3 %程度の成長率を見込んで財政再建に取り組みましたが、 リーマンショックに見舞われて失敗に終わりました。 財政健全化に取り組んだ世界各国の歴史を見ても高い成長を前提とした計画は頓挫していると言えます。 国の借金に当たる国債の利子や元本を返済できない債務不履行 (デフォルト) の危機に直面した国は 2000 年前後にロシア、 エクアドル、 アルゼンチン、 ジャマイカ、 ギリシャなどがありますが、 前号で述べた通り、 財政危機に陥った国に共通するのは、 成長率や貯蓄率の低下、 長期金利の上昇、財政再建の遅れなどで、いずれも現在の日本に当てはまります。日本の負債(借金)は 16 年 3 月末に 1035 兆円に達する見込みで、 対 GDP 比は 205 %。 経済指標では経済小国のギリシャよりも悪化しています。

女性の活躍推進、低所得若年層支援
 それにも拘らず、 安倍内閣の骨太方針では年度ごとに歳出の上限枠を当てはめることは今回見送り、 唯一盛り込まれた数値は、 社会保障費を中心とする一般会計の歳出増加を、「目安」 として 18 年度までの 3 年間で実質計 1 兆 6 千億円程度 (過去 3 年の増加額) に抑えることとし、 防衛費は 「効率的に整備し、 費用対効果の向上を図る」 との曖昧な記述で、 具体的改革には触れていません。 また、 女性の活躍推進、 低所得の若年層や子育て世代を支援する税制改革を打ち出しています。 このため、 諮問会議は来年度予算編成の課題とポイントに @全ての分野の経費を対象とする幅広い歳出改革 A各省庁は予算要求段階で歳出改革の効果を明示 B歳出の上限は示さず抑制に取り組む C公的サービスの民間委託で民需を創出 D成長戦略などに予算を重点配分する 「特別枠」 を確保 ―― を挙げています。 アベノミクス第 3 の矢である成長戦略でどのような新機軸が打ち出せるか。 国民は注視しています。

税制改正で配偶者控除の見直し
 政府税調は 7 月 2 日の総会で、 骨太の方針に沿って約 20 年ぶりとなる所得税の抜本改革に向け、 あらゆる控除を見直して来年 6 月までに中長期的な税制の答申をまとめ、7 月内には中間の論点整理を行い、 2017 年度の税制改正で実現を目指すことを決めました。 現行の配偶者控除は、 配偶者の年収が103万円以下なら、 世帯主の収入から一定額を差し引いて税金を算出する仕組みで、 女性が年収を抑えるため 「 103 万円の壁」 を意識して働く時間を減らす原因になっていました。 そこで専業主婦世帯などの税負担を軽くする配偶者控除の見直しでは 昨年 11 月の複数の案を示しており、配偶者の年収を問わずに一定額を世帯主の収入から差し引く 「夫婦控除」に代えることが有力案になっています。 政府税調は、 若い共稼ぎ世代が安心して子供を育てられ、経済活力を生むような税制を目指しています。

参院の 2合区 「10増10減」 が成立
 参院選の 「 1 票の格差」 縮小に向けた 「 2 合区 ・ 10 増 10 減」 の公選法改正案は、 自民、 維新、 元気、 次世代、 新党改革の 5 党が提出し、 24 日に参院本会議を通過、 28 日の衆院本会議で可決 ・ 成立しました。 「鳥取 ・ 島根」 と 「徳島 ・ 高知」 をそれぞれ 1 つの選挙区に統合 (合区) し、 いずれも定数は 2 ( 3 年毎の改選数は 1 )。 宮城、 新潟、 長野 は定数 4 ( 同 2 )から 2 ( 同 1 ) に減らし北海道、 東京、 愛知、 兵庫、 福岡 は定数を 2 (同 1 )ずつ増やすという改正。 これで最大の格差は 2.97 倍となり最高裁が 「違憲状態」 と判断した 10 年の参院選の最大格差 5 倍、13 年の 4.77 倍より縮小します。 合区対象となる 4 県選挙区の舞立昇治氏   (鳥取) ら自民党議員 6 人全員が法案に反発し参院本会議の採決前に退席、 衆院本会議でも 後藤田正純氏 (徳島 1 区) ら 5 人が本会議を欠席しました。 一方、 民主、 公明、 生活の 3 党と無所属クラブは格差是正が不十分だとし、20 県 ・ 10合区を含めて定数を 「 12 増 12 減」 し格差を 2 倍未満にする公選法改正案を提出しました。 連立与党が対立したのは異例ですが、 谷垣禎一、 井上義久自公両党幹事長は 「連立には影響ない」 と強調しています。