第352回(7月16日)安保法制で背水の陣 維新の協力が鍵
 今国会の焦点である安全保障関連法案の審議は、会期内成立に向けて最大のヤマ場を迎えています。 自民党議員の勉強会で報道を威圧する発言が飛び出し、 一時はマスメディアをも敵に回し、 窮地に立たされた安倍政権ですが、 13日に特別委の中央公聴会を終え十分審議時間を重ねたことから、15日の衆院特別委で自公両党により可決。 16日にも衆院を通過させ、最悪の事態でも参院の 「60日ルール」 を保険に、 9月半ばに成立を目指す背水の陣で臨んでいます。 与党単独強行の印象を避けるため、 同法案には基本的に賛成者の多い維新の党を採決に抱き込めるがどうかが中央突破の鍵です。 懸案の参院選挙制度改革も 「10増10減」 の公選法改正案が成立の見通しで、 首相は難関を乗り越えれば益々求心力を高め、「積極的平和主義」 の安倍談話を 8月の終戦記念日に発表。 9月の総裁選では無投票再選を果たし、 政権基盤を一層固める方針。 だが、 大詰めの環太平洋経済連携協定(TPP) の日米交渉で好条件を勝ち取れるか。 先に閣議決定した 「骨太の方針」 と日本再興戦略を来年度予算編成にどう取り込むか。 日銀の異次元金融緩和で日経平均株価は ITバブル以上に回復しましたが、 日本の財政状況は財政破綻のギリシャよりも格段に悪い状態で、 財政再建と経済成長の両立には多くの課題が山積しています。 韓国の反発でもたついた 「明治日本の産業革命遺産」は、 お陰様で 5日のユネスコ世界遺産委員会で登録が決まりほっとしています。 更にご指導をお願い申し上げます。

 「10増10減」野党4党案に合意
 自民党は 9日の参院議員総会で、 「1票の格差」 是正の選挙制度改革について隣り合う 2県の 「合区」 2つを含む 「10増10減」 の野党 4党案を受け入れ、 改正公選法案を今国会で成立させることで 4党と合意しました。 野党 4党案は維新 ・ 次世代の両党と日本を元気にする会、 新党改革が 6月に合意したもの。 「鳥取 ・ 島根」 と 「徳島 ・ 高知」 をそれぞれ改選数 1 の選挙区にすると同時に、 宮城、 新潟、 長野 3 県の改選数をそれぞれ 2 から 1 に減らし、北海道、 東京、 愛知、兵庫、 福岡は改選数を 1つずつ増やし、 全体で 「5増5減」 ですが、 参院議員の任期は 6年で、3年ごとに半数ずつ改選されるため、 定数は改選数の 2倍の 「10増10減」 となります。 格差が 4.77倍だった前回 13年の参院選を巡り最高裁は昨年 11月に 「違憲状態」 の判断を示しましたが、「10増10減」 だと 2010年の国勢調査に基づく最大格差は 2.97倍となり、 3倍を切ります。 これに対し、 民主、 公明両党は 20県 ・ 10合区を含む 「12増 12減」 で、 格差を 2倍未満にする案で合意しています。 来夏の参院選で新制度を導入するには、 1年程度の周知期間が必要なため法改正を急いでいますが、 衆院では自民が単独過半数、 参院では自民と野党 4党で過半数に達するため、 成立は可能です。  しかし、 石破茂地方創生相 (鳥取)、竹下亘復興担当相 (島根)山口俊一沖縄北方担当相 (徳島)、中谷元防衛相 (高知) ら合区対象の 4閣僚と細田博之幹事長代行 (島根)が反対を表明。 先に独自の合区案を提示して幹事長を更迭された脇雅史前参院幹事長も執行部の 5党合意を不満とし、 参院自民会派を離脱しました。自民内では依然余震が燻っています。

明治産業革命遺産が世界遺産登録
 日本の世界遺産登録は 「富士山」(山梨、静岡両県)、「富岡製糸場と絹産業遺産群」(群馬県)に続き 3年連続で全体では 15件目となります。 今回は幕末から明治期の重工業発展の歴史を示す23施設で福岡、 長崎、 山口、 静岡など 8県に跨り、 5月のユネスコ (国連教育科学文化機関)のイコモス (国際記念物遺跡会議) が 「西洋技術を日本のニーズや伝統に適合させ、 50年余りという短期間で本格的な産業化を達成した」 と評価し、 登録を勧告していました。 このうち長崎県は端島炭鉱 (軍艦島)、 高島炭鉱、 旧グラバー住宅、 小菅修船場跡、 三菱長崎造船所第三船渠、 同ジャイアントカンチレバークレーン、 同旧木型場、 同占勝閣の 8件と最も多く、 三菱関連のように稼働中の造船施設も含まれています。 ところが韓国は長崎市の軍艦島など 7施設について、 「戦時中に朝鮮人労働者 5万 7900人が強制労働を強いられ、 94人が死亡した」 と主張。 7施設を登録の申請対象から外すよう求めました。

強制労働の慰謝料請求が今後焦点
 この要求に日本側は、 遺産の対象時期は 1850年代から 1910年までで、 韓国が主張する戦時中の徴用とは時期が異なると反発して対立しましたが、 先月 21日の日韓外相会談で、 産業革命遺産と韓国が申請した 「百済の歴史地区」 の両方の登録に 「双方が協力する」 ことの大枠で一致、 外交レベルでは一応決着しました。 それにも関わらず、 韓国は ドイツ ・ ボンで開かれた ユネスコ世界遺産委員会の審議で、 「強制労働」 を盛り込んだ意見陳述を用意して協議は難航、 審議会が 1日遅れ 5日の土壇場でようやく双方が折れ合い、 登録が決まりました。 これは韓国が施設の徴用工について 「強制労働 (forced labor)」 だったと主張したのに対し、 交渉の末、 日本側は 「意思に反し連れてこられ、 厳しい環境で労働を強いられた (forced to work)」 との表現を盛り込むことで受け入れました。 韓国が態度を硬化させた背景には、 従軍慰安婦や強制労働の慰謝料請求など歴史問題があり、 「日本に妥協するな」 との強い国民世論があるからです。 この点を危惧し岸田文雄外相や菅義偉官房長菅は訴訟問題に波及しないよう、 記者会見で 「強制労働を意味するものではない」 と強調しました

北朝鮮は拉致・遺骨調査2度延期
 日韓両国は 1965年の 「日韓請求権 ・ 経済協力協定」 で請求権問題は解決したことを確認しましたが、 韓国最高裁が 2012年、 個人請求権は消滅していないとの判断を示したため、 訴訟は急増。 今年 4月には 668人が日本の 60社を相手に過去最大の集団訴訟に乗り出し、 従軍慰安婦問題とともに大きな懸案事項です。 一方、 拉致問題は北朝鮮が再調査に関する特別調査委を設置して 4日で 1年となりましたが、 北朝鮮はその直前に 「誠実に調査を行ってきたが、 今しばらく時間が掛かる」 と延期を伝えてきました。 首相は 3日の平和安全法制特別委で延期を公表、 「誠に遺憾だ」 と指摘、 制裁を強化するかどうかは、 北朝鮮に早期の報告を働きかけ、 その結果を見極め判断する意向を示しました。 北朝鮮は当初、 拉致被害者や日本人遺骨など 4分野調査の第 1回の報告を 「夏の終わりから秋の初め」 に行うと言いながら、 14年 9月には 「調査は未だ初期の段階。 おおむね 1年掛かる」 と延期を通告していました。 2度の延期に拉致被害者の家族は怒り心頭で、 制裁強化を叫んでいます。 しかし、 北朝鮮は去る 4月、 北朝鮮産マツタケ不正輸入事件に絡み、 在日本朝鮮人総連合会の許宗萬議長宅が捜索されたことなどを非難し、 「このような状態では政府間対話も出来なくなる」と通知してきており、 追加制裁に踏み切れば、 交渉が途絶える虞もあります。

TPP日米交渉もコメで難航必至
  かくのごとく日韓関係は歴史認識を巡って溝が依然深く、 日朝関係も拉致問題が膠着している上、 日本領土に到達する北朝鮮の弾道 ミサイル ・ ノドン開発など周辺事態の安全保障でも懸念が増大。 外交面では朝鮮半島に振り回されています。 産業革命遺産 23施設は 2千万人誘致の観光立国としては朗報ですが、 軍艦島の保存には最大 158億円かかると想定され、 その技術や補修費用の負担をどう賄うか。 足を引っ張る外交問題にどうケリをつけるか。 喜んでばかりはいられません。 外交課題では TPP日米交渉の決着が迫っています。 米大統領に貿易交渉を一任する 「貿易促進権限 (TPA)法」 が米議会上院で可決し 6月 29日にオバマ大統領が署名して成立しました。 日米の事務レベルによるTPP協議は 9,10両日、 東京で再開され、 米国から日本へのコメ輸入枠、 米国が日本から輸入する自動車関税問題などを協議しましたが、 最終判断は 28日から米 ・ ハワイで開く参加 12カ国閣僚会合に委ねました。 閣僚会合では残された農産物関税や知的財産の分野で大筋合意を目指します。 しかし、 甘利明 TPP担当相と米通商代表部 (USTR) のフロマン代表との折衝は難航が予想されます。フロマン氏はタフネゴシエーター(手強い交渉相手)であり、 日本には農産物重要 5品目の関税を維持する国会決議がある上、 コメでは米国から無関税で輸入する特別枠を 5万トン程度に抑えたい日本に対し、米国は17.5万トンを主張して対立。自動車分野は日本が関税の早期撤廃を求めているのに対し、米国は日本から輸入する自動車部品にかけている関税 2.5%の撤廃時期を出来るだけ引き延ばそうとしているからです。 それだけに甘利担当相の手腕に大きな期待が寄せられています。

岩盤規制改革の改正農協法成立へ
 岩盤規制改革の 1つである農協関連法案は 6月 30日に衆院を通過し、 今国会で成立の見通しとなりました。 農業委員会法 ・ 農協法 ・ 農地法の改正を目指すもので、 農協法改正案は全国農協組中央会 (JA 全中) の一般社団法人化などが主な改正点。 農業委員会法改正案は @農業委員の選出方法見直し A農地利用最適化推進委員の設置 B都道府県及び全国段階における農業委員会ネットワーク機構の創設 ―― などが柱。法改正の流れの中で、 万歳章 JA 全中会長は任期 2年を残して退任を表明。 2日に 10年ぶりの会長選を行った結果、 JA三重中央会長の奥野長衛氏 (68) が、全中副会長で JA和歌山中央会長の中家徹氏 (65) を下し、 8月 11日の臨時総会で決まる次期会長に内定しました。 選挙戦では農協改革への対応が最大の焦点でしたが、 奥野氏は 「JA 全中をピラミッドの頂点にした JA 組織は改めないといけない。 住民や組合員、 農業者の思いをいかに吸収できるかだ」 と抜本的な組織見直しを訴えました。 JA 全中もコメ、 麦、 牛 ・ 豚肉、 乳製品、 甘味資源作物の重要 5品目を堅持する国会決議の遵守を強く求めており、TPP日米閣僚交渉の行方を見守っています。

来年度予算の「骨太方針」決定
 政府は 6月 30日の臨時閣議で、 本年度の経済財政運営を進める基本指針 「骨太の方針」 と改定成長戦略 (日本再興戦略)、 規制改革実施計画を決定しました。 この方針に沿って来年度予算編成を行います。 計画では社会保障費の伸びを年 0.5兆円程度に抑制する 「目安」 を示し、2020年度を達成時期と定めた財政健全化に取り組む姿勢を強くアピールしています。 骨太方針と成長戦略は、 経済成長と財政再建の 2兎を追う安倍内閣の基本路線に沿ったもので、 麻生太郎副総理 ・ 財務相は閣議決定後の記者会見で、 ギリシャの財政悪化を踏まえ、 「信頼に足る計画を国際マーケットに示すことは非常に意義がある」 と胸を張りました。 だが、 高成長を織り込んだ財政再建計画は過去に幾度か頓挫しており、 市場では、 財政健全化計画の前提となる国内総生産 (GDP)の実質 2%、名目 3%以上の経済成長は厳しいとの見方が強まっています。 骨太方針では、 借金に頼らず税収などでどれだけ政策経費を賄えるかを示す基礎的財政収支 (プライマリーバランス = PB)の赤字を現在の 3.3%から 18年度で 1%程度に圧縮し、 20年度に黒字化する目標を明示しました。 しかし、 ギリシャなど財政危機に陥った国に共通するのは、 成長率や貯蓄率の低下、 長期金利の上昇、財政再建の遅れなどで、いずれも現在の日本に当てはまります。 日本の負債 (借金)は 16年3月末に 1035兆円に達する見込みで対 GDP比は 205%。ギリシャは42兆円、180%で、 経済指標は日本が経済小国のギリシャよりも悪化。 これをどう脱却するか。 当面の最大の課題です。