第348回(5月16日)日米同盟新時代 安保条約再改定の重み
 安倍首相は4月29日、歴代首相として初めて米議会上下両院合同会議で演説し、大歓迎されました。演説後の記者会見で、オバマ大統領は 「オタガイノタメニ」 と日本語で歓迎、「積極的平和主義」 を唱える首相も 「日米の歴史に新たな1ページを開いた」 と胸を張りました。日米首脳会談で最終合意した日米防衛協力のための指針(ガイドライン)は、「周辺事態」 の文言を削除、地理的制約なしに後方支援が可能な 「重要影響事態」 に改めるなど、米政府が 「日本はアジア太平洋地域に留まらず世界の平和により大きな役割と責任を担う」 と賞賛しました。 一方、4日 首相のお膝元の萩反射炉と松下村塾、我が長崎の軍艦島 (端島炭鉱) など23資産を 「明治日本の産業革命遺産」 として、ユネスコの諮問機関である イコモス(国際記念物遺跡会議) からユネスコ (国連教育科学文化機関)へ登録が勧告されました。 大変めでたいことです。 新ガイドラインは祖父の岸信介元首相が55年前に締結した日米安保条約改定の極東条項を世界規模に引き上げる内容で、実質は安保条約を再改定する重みがあり、 日米同盟新時代を切り開くものです。 野党は閣議決定の解釈改憲から明文改憲へ踏み出したと見て、 「法案が未提出の段階で重要法案の成立時期を外国で公約するなど前代未聞。国民無視、国会軽視だ」 (岡田克也民主党代表) などと強く反発、来週 ( 5月17日) からの後半国会は荒れ模様となりそうです。 ご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

侵略のキーワード避け痛切な反省
 「歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものだ。私は深い悔悟を胸に黙祷を捧げた。 先の戦争に斃れた米国の人々の魂に深い一礼を捧げる」――首相は 「希望の同盟へ」 と題し約45分間、米議会合同会議で演説しました。 カリフォルニアでの留学時代に仕込んだ流暢な英語を駆使し、先ず57年6月に祖父・岸信介元首相が米議会で演説したことを回顧。次に日本軍の攻撃で多数の米兵が犠牲になった真珠湾、バターン・コレヒドール、珊瑚海の日米激戦を引き合いに出し、日米双方の戦死者を追悼しました。 さらに、「戦後の日本は、先の大戦に対する 『痛切な反省』 を胸に歩みを刻んだ」 と述べ、先のバンドン会議で表明した 「深い反省」 以上に重い表現で 「反省」 を強調。 その上で 「自らの行いがアジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない。歴代総理と全く変わるものではない」 と、従軍慰安婦問題も心に占めていることを示唆、従来の歴史認識を引き継ぐ考えを明らかにしました。 首相は終戦記念日に発表する 「70年談話」 でも、「侵略」 や 「お詫び」 のキーワードは使わず、 未来志向に富んだ談話を発表する方針ですが、米議会での演説は 「村山談話」 を前提に、 歴代内閣の歴史認識を踏襲する考えを重ねて表明したものです。

日米半世紀に新たなページ開いた
 韓国は直ちに 「お詫び」 の言葉がないと遺憾の意を表明しましたが、 米議会は立ち上がって拍手を贈るスタンディング・オベーションを10回以上も繰り返し、 首相の演説を歓迎しました。 記者会見でも、両首脳は 「晋三」 「バラク」 とファーストネームで呼び合い、オバマ氏が 「空手、カラオケ、漫画、絵文字」 など知り得た日本語を連発して愛想を振りまくなど親密さを見せ、首相も 「日米半世紀の歴史に新たな1ページを開いた」 と大満足でした。 イラクやアフガニスタンでの戦闘任務を終了した米国は、 2月に発表した国家安保戦略で、 単独の軍事力行使を抑制する方針を打ち出し、 同盟・友好国に 「負担の共有」 を求めています。 オバマ大統領が会見で、「オタガイノタメニ」と日本語で述べながら、「これが日米同盟の要であり、世界の教訓になるものだ」 と強調したのも 「同盟は双方向である」 ことを訴えたものです。 国防費が潤沢で無くなった米国は過激派 「イスラム国」 (IS) 掃討でも、 自らは本格的な地上部隊を送らず、欧州やアラブ諸国と連携した軍事作戦を重視。 ブッシュ前政権時代に批判された単独行動主義からの転換を図っています。 米国にとっても首相の 「積極的平和主義」 に基づく世界規模での自衛隊の役割拡大は渡りに船でした。 ロシアは9日の 「対独戦勝70周年記念式典」 に首相を招きましたが、首相は欠席しました。

自衛隊活動巡る討論会で各党火花
 首相は帰路のロサンゼルスで1日、記者団から 「法案成立をこの夏」 と明言したことを問われたのに対し、昨年12月の記者会見や今年2月の国会答弁で 「今国会で成立を図ると明確に答弁している」 と答えて全く意に介さず、 自衛隊の活動範囲については「地理的概念ではなく、日米同盟がより機能していくための安保法制だ」 と説明しました。安保法制は後半国会の最大争点ですが、NHKは憲法記念日の3日、 憲法9条下での 「自衛隊の活動拡大」 の是非について徹底討論会を開き、@集団的自衛権の行使 A外国軍隊への後方支援 BPKO (国連平和維持活動) への国際協力 ―― など安保法制を巡り10党代表が2時間に渡り火花を散らしました。 「今夏に安保法制を成就させると米議会で公約した首相の発言は議会軽視だ。撤回を要求する」 (民主党)、「戦争立法だ。軍事一辺倒ではなく憲法9条を遵守すべきだ。集団的自衛どころか、米国は同盟国を抱き込みベトナムやイラクで 『集団的侵略』 を行ってきた」 (共産)、「平和憲法の理念を投げ捨て、立憲主義を否定・骨抜きにし、平和国家を180度転換させる内容だ」 (社民)、「なし崩し的に実質的な憲法改正だ。日本と関わりない国と地域に自衛隊を派遣すべきではない。 憲法9条は堅持すべきだ」(生活の党) ―― などと反対。 改憲賛成派の維新、次世代、日本を元気にする会も懸念を表明しました。

改憲に絡む大阪都構想の住民投票
 この中で維新の党の江田憲司代表は「通常兵器しか持たなかった時代と違って(核兵器の時代。憲法の) 見直しは必要だ」 と改憲支持の発言。 維新の党は、大阪市を解体し5つの特別区に再編して、府主体で都市再生を目指す 「大阪都構想」 の是非を問う住民投票を17日行い、賛成多数を得れば、府民の支持を得たと構想を進める考えです。道州制の導入などのために改憲を掲げる最高顧問の橋下徹大阪市長は、野党時代の安倍氏に接近し、改憲を掲げる新党結成を誘ったこともあります。 橋下氏は住民投票に敗れれば 「政界引退」 を宣言しています。 首相は大阪都構想に理解を示し、橋下氏の参院など中央政界への鞍替えを待って連立を組み、参院でも3分の2の改憲勢力を構築しようと盛んに秋波を送ってきました。 首相が改憲を目指す憲法論議の主舞台 ・ 衆院憲法審査会は連休明けの7日から実質的審議に入りました。 憲法改正は衆参両院の3分の2以上の賛成で発議し、国民投票で過半数を得る必要があります。 昨年の衆院選圧勝で 「1強他弱」となり、求心力を高めた首相は 9月の党総裁選も 「無投票再選」 の呼び声が高く、来夏の参院選以降1年以内をメドに改憲の国民投票を実施するよう船田元・党憲法改正推進本部長に指示しています。

改憲向け合意形成優先の迂回戦略
 朝日は憲法記念日に 「改憲へ迂回戦略」 の1面大見出しで特集記事を載せ、「首相は合意形成優先に路線を切り替えた」 と報じました。要旨は次の通りです。 <首相や古屋圭司・前拉致問題相らは 「連合国軍押し付け」 とみる憲法の中でも、とりわけ戦争放棄を規定する9条改正こそ 「本丸」 と位置づける。 公明や野党の反発が強い9条改正で、古屋氏ら「急進派」は国会の発議要件を過半数に引き下げる 96条改正の先行実施を首相に働きかけた。 「私は第96代首相だが憲法96条を変えたい。(反対する) 国会議員が3分の1を超えれば国民は指1本触れられない」 ――13年3月、首相は地元 ・ 参院山口補選の街頭演説で訴えたが、 改憲派の有識者からも 「裏口入学」 などと激しく批判され、96条改正論を事実上撤回した。 首相は 06年に出版した 「美しい国へ」で、 「権利があっても行使出来ないのは 『禁治産者』 の規定に似ている」 と批判した。 だが集団的自衛権の憲法解釈を変えた昨年7月の閣議決定で宿願の1つをかなえた。 船田本部長らは9条改正の 「正面突破」 ではなく国会での合意形成を通じて国民投票への地歩を固めるべきとの迂
回作戦を進言、首相は了承した。>

環境権など改憲3原則が突破口
 自民党の迂回作戦は@戦争や災害発生時の政府や国会の権限を定める 『緊急事態条項』 を設け、 議員の任期延長や首相の解散権の制限などを規定 A良好な環境の中で生活する 『環境権』 を設け、国や国民の環境保全の責任を規定 B財政健全化や予算の原則を 『財政規律条項』として規定 ― ― の改憲3原則を提示、 当面は9条改正を掲げず、一先ず改憲の実績を挙げる考えです。 公明党は時期よりも内容であるとし、 地方自治の拡充、環境権などの 「加憲」 を主張。改憲賛成 7党のうち、 民主党は憲法裁判所の設置、 衆参両院制の改革を唱えていますが、 「共通認識のない安倍政権では論議は封印する」 との態度。 維新の党は道州制 ・ 1院制の導入など統治機構の改革を出来るだけ速やかに行うと、 改憲の 「率先勢力」 を自認しています。共産党は「変えやすい所から変えるのは国民を愚弄する」 と述べ、 社民党とともに猛反対。 後半国会の安保法案審議は改憲論争を絡め一層激しくなりそうです。

軍艦島など23施設が産業革命遺産
 一方、長崎の軍艦島と呼ばれる端島炭鉱、高島炭鉱、三菱長崎造船所第三船渠 (今も稼働)、旧グラバー邸 (住宅) など長崎県8施設や福岡の三池炭鉱、八幡製鉄所、山口の萩城下町など東西8県の23資産が、日本の近代工業化の礎となった 「明治日本の産業革命遺産」 として、ユネスコの諮問機関である イコモス(国際記念物遺跡会議) からユネスコ (国連教育科学文化機関) へ登録が勧告されました。 陰で登録を推進してきた私は大いに喜んでいますが、 鉄やコンクリートの巨大な建築物が崩壊しつつある軍艦島をどう保存するか。 課題は山積です。 韓国は自国民が戦前に強制労働させられた施設だと反発していますが、 6月28日からドイツで開く世界遺産委員会で最終決定されます。