第336回(11月13日)日中首脳会談が成功 消費再増税決断へ
 臨時国会は会期末まで2週間足らず。首相はその間隙を縫って9〜17日間、中国・ミャンマー・豪州3カ国を訪問、懸案の日中、日露首脳会談を開くなど、「地球儀俯瞰外交」の総仕上げに入りました。米国の中間選挙で大敗したオバマ政権は前途多難ですが、「ダブル閣僚辞任」の危機を乗り切った首相は、「地方創生」、「女性活躍」の両関連法案にも成立のメドがついて意気揚々。17日発表の7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値を慎重に検討して、来年10月に消費税を10%へ再増税するかどうかの決断を下します。読売の解説によると再増税の環境を整えるため、政府と日銀が「阿吽の呼吸」で金融の量的緩和拡大を実施、7年ぶりの円安・株高が続き好景気を支えています。この措置を世界は「サプライズ金融」、「バズーカ砲的金融」と称していますが、異次元金融政策の成否は、来年度予算編成でアベノミクス第3の矢「成長戦略」が実現するかどうかです。自民党内では野党の選挙態勢が整う前に「消費再増税と新たな憲法解釈で国民に信を問うべきだ」との声が高まっています。木枯らしとともに解散風も勢いを増してきました。さらなるご支援をお願い申し上げます。

不測の事態回避に相互信頼構築
 首相は9〜17日の日程で10,11日には中国・北京で開催のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、12,13両日はミャンマー・ネピドーで開いた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席しました。この後、15,16両日は豪州・ブリスベーンで開く主要20カ国・地域首脳会議(G20 サミット)が続きます。第2次安倍政権で50番目の訪問国となった中国では、最大の懸案だった習近平中国国家主席との日中首脳会談が約3年ぶりに実現しました。会談では@尖閣諸島などの東シナ海の緊張状態について「異なる見解を有している」と認識し、対話と協議で情勢の悪化を防ぐA危機管理メカニズムを構築し、「不測の事態」の発生を回避B政治・外交・安保対話を再開し、政治的相互信頼関係の構築に努めるC「歴史を直視」し、未来に向かう精神に従い政治的困難を克服することで「若干の認識」が一致――の日中合意文書を発表しました。これには事前に習首席と非公式接触をした福田康夫元首相や首相側近の谷内正太郎国家安全保障局長らの根回しが功を奏しました。

尖閣・靖国に直接触れない玉虫色
 事前折衝で中国側は「尖閣諸島の領土問題は存在し、安倍首相が靖国を参拝しないことを明確にする」と主張、日本側は「領土、歴史認識では一切譲歩しない」と拒否したため、日中首脳会談の開催は困難視されていました。だが、谷内氏が7日、中国の外交政策を統括する楊・国務委員と会談、「日中関係改善に向けた話し合いについて」と題する上記の日中合意文書を発表しました。首脳会談前の合意文書発表は極めて異例ですが、文書は尖閣・靖国問題には直接触れず、双方のギリギリの妥協で生み出された“玉虫色”の内容。習近平氏は国内世論の反発を意識してか、安倍氏が握手しながら「公式にお会いできて非常にうれしい」と語りかけても、無言でわざと顔を背け、仏頂面で応対。会談では、日本が植民地支配と侵略の「おわび」を表明した村山元首相談話に触れ、「歴史を直視し未来に向かうことが重要だ」と強調。首相から「歴代政権の歴史認識を引き継ぐ」の言葉を引き出しました。

露大統領来日は来年の適切な時
 また、合意文書のBには尖閣諸島周辺などの「不測の事態回避」が盛り込まれており、日中防衛当局間で“偶発的な衝突”を避けるための緊急連絡体制である「海上連絡メカニズム」の早期運用開始が会談で確認され、首相が「戦略的互恵関係の原点に立ち戻り、日中関係を発展させたい」と呼びかけたのに対し、習氏が同意したなどは大きな成果です。しかし、中国は文書の@「異なる見解を有する」との表現で、尖閣が日本の固有の領土ではなく日中国交正常化締結交渉で来日したケ小平副首相(当時)が主張した「棚上げ事項」であることを示唆し尖閣共有の協議が出来るA「歴史を直視」し「若干の認識が一致し」の表現で首相の靖国参拝は束縛した――と評価。報道を通じ玉虫色の合意文書を大きく宣伝しています。北京では9日夜、プーチン露大統領と7回目の日露首脳会談も開き、来年の「適切な時期」にプーチン氏の来日を目指し岸田外相の訪露や日露外務次官級協議の再開で一致しました。

拉致問題の後回しを家族会懸念
 豪州ではオバマ米大統領、アボット豪首相と7年ぶりの3首脳会談を開き、日米豪政府が合意した潜水艦の共同開発など安全保障分野の提携について協議します。しかし、北朝鮮関係は展望が開けません。外務省の伊原純一アジア太平洋局長を団長とする政府代表団は10月27〜29日に北朝鮮を訪問、徐大河特別調査委員長と会談、「拉致問題が最重要課題」と迫りましたが、北側は「遅くとも夏から秋にかけて中間報告」との約束には頬かむりし、@拉致被害者A「特定失踪者」を含む行方不明者B残留日本人や日本人遺骨C帰還事業で北に渡った日本人妻――の調査で「現時点では客観的資料は未発見」と答えただけ。拉致被害者の詳細報告はなく、拉致被害者家族会(飯塚繁雄代表)は「北朝鮮が遺骨問題などに傾注、拉致問題は後回しになるのではないか」と強い懸念を抱いています。さらに最高裁が4日、朝鮮総連中央本部の競売問題で売却の決定を下したため、売却手続きの中止を求めてきた北朝鮮が拉致家族の調査を滞らせる可能性も出てきました。自民党の「対話と圧力による北朝鮮外交を進める会」(有志議員12人=山本一太前沖縄北方相ら3共同代表)は「圧力」を強化し北朝鮮を牽制する方針で、先に緩和した制裁を復活させることも検討しています。

レームダック化へ向かうオバマ氏
 首相がファーストネームで呼び合う仲のオバマ米大統領は4日の中間選挙で大敗。レームダック(死に体)化へ向かいました。共和党はイスラム過激派組織「イスラム国」やエボラ出血熱への対応など国民の安全に関わる問題を巡り、オバマ政権の指導力を批判。8年ぶりに上院の過半数を奪還、上下両院とも過半数を制し、政権と議会の「ネジレ現象」が生じました。6 年前「Yes we can」を合言葉に、「オバマケア」(医療保険改革)などを引っ下げて颯爽と登場したオバマ氏ですが、財政赤字削減や景気・雇用対策、移民制度改革、銃規制強化、テロ防止などの重点政策が共和党との対立で実現できず、「決められない弱腰政治」に国民の不信感が高まったのが敗因です。元来、民主党は福祉優先の「平等主義」、共和党は自由貿易推進の「自由主義」が党是。日本は米国の内政には直接関係がなく外交は大統領の専決事項。むしろ共和党内には自由貿易賛成者が多いため大詰めの環太平洋経済連桂協定(TPP)交渉では大統領に通商一括交渉権(TPA)を与えるなどTPPには追い風になるとの見方があります。しかし、共和党内には日本の農畜産品の関税撤廃を求める声が強く、農業団体や財界が一枚岩になって日本に一段の譲歩を求めてくる可能性があります。

緩和策はハロウィーンサプライズ
 さて、首相はオバマ氏が失敗した「決められる政治」が断行できるだろうか。日銀は10月31日の金融政策決定会合で、2013年4月に打ち出した「異次元」の量的・質的金融策の拡充を決めました。これは@国債買い入れなどによる資金供給量の拡大ペースを、年60兆〜70兆円から80兆円に引き上げ、増加ペースを約10兆〜20超円拡大A買い入れる長期国債の平均残存期間を「7年程度」から「7〜10年程度」に延長――などが柱です。この決定で日本の日経平均株価が一時870円超値上がりし、終値は約755円高の1万6413円で7年ぶりの高値、今も1万7千円台です。ニューヨーク株式市場はダウ平均株価が前日終値比約195j高の1万7390jで最高値を更新、円相場は3〜6円超も急落し、約6年10ヶ月ぶりに1j=115円台まで円安が進みました。独、仏、英の株式指数も1〜2%超の上昇を記録しました。このような金融緩和策は、米ウオール・ストリート・ジャーナル紙が「ハロウィーン(欧米の伝統行事)・サプライズだ」と報じたように世界に衝撃を与えました。何よりのサプライズは、米連邦準備制度理事会(FRB)が同29日、量的緩和策の終了を決定したのに対し、日銀が全く逆の量的緩和の追加策を発表したからです。株式市場は米国の景気回復が鮮明になったことでFRBが近く金利を上げるとの見通しから、急速にjが買われていました。それが日銀の量的緩和拡大で一挙に円安・j買いが加速しました。

緩和はデフレ脱却に揺がぬ決意
  日銀の量的緩和強化策は政策委員9人のうち賛成5、反対4の多数決で決まったといいますが、FRBが金融引き締め策を決定したと同時期に、なぜ日銀は国債を買う資金供給量(マネタリーベース)の拡大を図ったのか。黒田東彦総裁は記者会見で、「着実に進んできたデフレ心理の転換が遅れるリスクがある。デフレ脱却に向けて揺ぎない決意を表すものだ。今はまさに正念場」と強調しました。確かに4月消費増税の反動減や夏の異常気象と円安による原油、輸入食品などの値上がりで消費が落ち込み、アベノミクスで回復しかけた景気は足踏み状態。日銀が31日に発表した「経済・物価情勢の展望」では2015年度の消費者物価見通しが7月時点の1・9 %から1・7 %に下方修正され、物価上昇ペースは黒田総裁が当初見込んだ「2年程度を念頭に(2%の)物価安定目標を達成する」ビジョンが崩れる虞れがあります。そこで黒田総裁は半数近い政策委員の反対を押し切り電撃的に追加緩和策を決定。 企業や個人が金融機関からお金を借り易くして設備投資に回すなど経済の活性化を目指し、お札(日銀券)をジャブジャブ刷って長期国債を買うことにしたものです。


年金管理法人と日銀が阿吽の呼吸
 政府は日銀決定と同じ31日、「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF) の運用資産に占める国内株式の比率を12%から25%に引き上げることを柱にした新たな運用の目安(ポートフォリオ)を発表しました。将来の年金支払い資金を確保するため、国債を中心とした安全志向の運用を改め、積極的な運用に切り替えるものです。日銀の量的緩和追加策もこの「公的年金運用の見直し」と「経済対策」の要素を絡めています。GPIFの運用資産残高は3月末の時点で世界最大規模の132兆円に上り、株式の運用比率が25%に上がれば10兆円規模の資金が株式市場に流入する計算。「外国株式」も従来の12%から25%へ、「外国債券」も11 %から15%へと比率を引き上げました。株式市場は、GPIFの公的年金運用見直しが株価押し上げになると歓迎、日銀発表日の朝から買い注文が先行、首相の増税判断を促すには好都合の市場展開となりました。財務省幹部は「追加緩和は物価安定の目標に向けた日銀独自の判断」と口を揃えますが、第2次安倍内閣の高い支持率が株高に支えられてきたいきさつから、麻生太郎財務相は「日本の経済を後押しする力を発揮してくれるもの」と大歓迎。読売は「政府と日銀が『阿吽の呼吸』で異次元量的緩和の追加を決めたが、総裁の相場師的感覚による『黒田マジック』に市場が大きく反応した」と解説しています。

政治とカネ追及で与野党泥仕合
 GPIFは国債だけでなくリスクの少ない株式などにも積立資金を運用しますが、株価が下落した場合の損失リスクが大きく、果たしてこれがアベノミクスの切り札になるかどうか。黒田マジックの金融緩和策も資金供給量は約2倍に増えたものの、金融機関の貸出残高は前年比2%程度の低い伸び。加えて円安で輸出が増大した大企業も内部留保を厚くし設備投資の活性化には繋がらず、下請け・中小企業は円安が逆に災いし、輸入原材料の高騰で収益が上がらず、従業員の待遇も改善出来ない状態。国民の所得格差は増大するばかりです。景気の好循環を維持するには、法人税実効税率の引き下げ、岩盤規制の改革、国内産業の生産性向上、地方分権など公約したアベノミクス第3の矢「成長戦略」の構築が喫緊の課題です。だが「地方創生」、「女性活用」の両関連法案は「ダブル辞任」のあおりで審議が遅れ気味。衆院(10月30日)、参院(11月4日)両院予算委で安倍内閣の基本姿勢を質した集中審議で、野党は「政治とカネ」などを巡って厳しく追及しました。だが、衆院トップの質問に立った民主党の枝野幸男民主党幹事長は革マル派との関係が指摘されるJR関連労組から政治献金を受けていたことが発覚し迫力に欠け、維新の党の江田憲司共同代表も関係する政治団体の不透明な資金処理が見つかるなど、非難合戦の泥試合を展開。首相は答弁で枝野氏に反論した上、フェイスブックでも枝野氏を批判しました。

野党の選挙態勢整う前に総選挙
  対決色を強めた国会では、労働者派遣法改正案などの攻防が激しくなっていますが、来年度予算編成上の都合から延長が出来ず、自民党内では「内閣支持率が50%前後あるうちに消費再増税で国民に信を問うべきだ」との年内解散論が高まり、読売は先頭切って@11月解散、年内投開票A国会を若干延長し年内解散、来年1月投開票B補正予算成立後の通常国会冒頭解散、2月総選挙B暫定予算成立後の2月解散、3月総選挙――などのケースを載せ、年内総選挙の場合は「12月2日公示・14日投票」か「9日公示・21日投票」を掲げました。ほかに4月の統一地方選に重ねる案、来年度予算成立後の来夏解散、2年後の衆参ダブル選挙なども想定されますが、地方選重視の公明党は統一地方選との同日選、衆参ダブル選の双方に難色を示しており、衆院での自公選挙協力が定着している自民党としては見送らざるを得ません。読売によると次期衆院選に向けた野党の準備状況は全295小選挙区で、公認候補予定者数は、民主党が133人、維新の党が67人、次世代の党が25人、みんなの党が7人に過ぎず、4党が候補を決めていない「空白区」は113に上り自公両党の「空白区」5とは対象的。自民党内では若手を中心に再増税が4月の地方統一選に与える影響を懸念する声が出され、野党の選挙態勢が整う前に総選挙を行うべきだとの声が高まっています。

景気冷え込み警戒し再増税延期も
 衆院解散の最大争点は、来年10月の消費再増税と解釈改憲に繋がる集団的自衛権の限定容認問題。首相は消費再増税に「今はニュートラル」と慎重な構えを見せてきましたが、消費税を15年10月から10%に引き上げることは来年の予算編成に絡むため、17日に発表される7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値を重視して決断を下します。その前に、4〜18日まで、5回の集中点検会合を開き各界45人の意見を吸い上げています。初日(4日)はマクロ経済の専門家や労使代表ら8人が出席、その内5人が社会保障の充実と財政健全化に向けた再増税に賛成、消費者団体代表ら2人が反対、閣内で消費増税を推進してきた浜田宏一内閣官房参与(米エール大名誉教授)は4月の消費増税による景気の冷え込みを警戒し「再増税を17年1月か4月に延期すべきだ」と提唱。賛成意見を述べた三村明夫日商会頭も5兆円規模の経済対策、古賀伸明連合会長も非正規労働者対策の必要性を強調しました。 しかし、首相が増税先送りを決めた場合、財政健全化の公約に反し国際的信認が得られず、日本国債の市場が暴落する虞れもあるとして、与党幹部には予定通り増税すべきだとの主張が多く、先送りなら自民党内で首相批判が高まるため、官邸周辺では早期解散論がにわかに高まりました。 野党はこれを「首相側近とマスコミの一部が組んだ陽動作戦だ。本気なら火事場の底力を発揮して受けて立つ」と身構え、木枯らし並みの解散風が吹き始めました。