第333回(9月30日)地方創生・女性活躍の2枚看板 臨時国会開幕
  第2次安倍内閣発足後初の臨時国会は9月29日に召集され、11月末日までの会期63日間にわたる与野党論戦の火蓋が切られました。首相は「アベノミクス」3本の矢で景気回復の成果が上がったと自負し、最重要課題に掲げる「地方創生」や「女性が活躍する社会」の実現に向けた法案の成立に全力を挙げる方針です。「切れ目ない安全保障」の法制は来年1月の通常国会に一括上程することとし、代わりに自民党が議員立法で「特定国境離島」関連の法案を提案します。このため重要法案は街起こしの「地方創生基本法案」や女性幹部登用を促す「女性活躍推進法案」、広島災害を重視した「土砂災害防止法改正案」などに限られ、今国会での対決法案は少なくなりました。しかし野党は集団的自衛権行使を限定容認する閣議決定が「自公与党の密室協議で決まった」と批判、国民への説明責任を果たすべきだと厳しく追及する構えです。イラク、ウクライナなど中東情勢は益々緊迫の度を高め、日露・日朝外交の交渉に影を落としています。その最中、政府与党は来年10月の消費税率10%への再増税に向け2015年度予算編成に取り組みます。景気好循環を維持する成長戦略を盛り込めるかどうか。険しい政治状況の中、一層のご支援をお願い申し上げます。

雇用、賃金の景気好循環目指す
   「日本経済はタソガレを迎えたと見られていたが、アベノミクスの3本の矢が一定の成果を上げた。守りではなく、新しい挑戦で、雇用と賃金上昇の景気好循環を目指し、経済最優先で取り組む」――首相は国会召集直前のNHK番組で抱負を語り、集団的自衛権行使の限定容認についても、「(憲法を遵守し)武力の行使は絶対にしない。国際法に則った安全保障に徹する」との姿勢を強調しました。国会召集日の所信表明演説でも、「若者が地方創生に取り組み、女性の活躍によって閉塞感を打破。岩盤規制を改革し、経済成長と財政健全化を両立させたい」と述べ、東アジアの近隣外交にも意欲を示しました。提出法案は、地方創生の司令塔である「まち・ひと・しごと創生本部」の基本理念を明記した「地方創生基本法案」、企業や自治体に女性登用を増やす行動計画の策定を求める「女性活躍推進法案」、継続審議のカジノを含む統合型リゾート設置に向け1年以内に法整備を国に義務付ける「特定複合観光施設整備推進法案」のほか、「災害対策基本法」(立ち往生した車両を撤去)、「土砂災害防止法」(特別警戒区域などの指定手続きを簡素化)、「給与法」(人事院勧告の実施)、「労働者派遣法」(派遣労働者の無期限派遣を条件付で容認)、「風俗営業法」(ダンスの営業時間を翌朝まで緩和)、「拉致被害者支援法」(生活支援策を整備)を改正する6法案です。

ローカル・アベノミクスを推進
  政府は9月12日、地域活性化や人口減対策を推進する「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長・安倍首相)の初会合を開き、50年後に人口1億人を維持するための「長期ビジョン」と、今後5年間に実施する「総合戦略」を年内に取りまとめる基本方針を決定しました。基本方針は@若い世代の就労、結婚、子育ての希望実現A東京一極集中の歯止めB過疎や高齢化など地域の課題解決――を掲げ、「バラマキ型」の投資や各省庁の縦割り行政の排除を強く打ち出しました。また、創生本部に助言する有識者として、増田寛也元総務相(元岩手県知事)、コマツの板根正弘相談役ら12人を起用しました。首相は「地方創生は安倍内閣の重要課題。若い方々が将来に夢や希望を持てる地域を作ることが人口減少を克服する道筋」と挨拶し、ローカル・アベノミクス(地方創生)推進の決意を示しました。増田氏は読売の講演会で、「大事なのは地方経済活性化と出産・子育て対策を同時並行で行うこと。自治体毎の診断書、処方箋を作る必要がある。目先の地方統一選を考えたら間違いだ」と選挙目当てのバラマキ政策に警鐘を鳴らしました。自民党は安倍政権の「地方創生と女性活躍」の2枚看板を実現する2統合本部を設置、地方創生本部長に河村健夫前選挙対策委員長、女性活躍本部長に上川陽子元少子化担当相を起用、全面バックアップしています。

再消費増税と軽減税率導入が争点
  安部政権の新布陣を「改造したフリ内閣」と酷評した海江田万里民主党代表は、読売のインタビューで、「地方創生の言葉によって無駄な公共投資が復活しないよう野党としてしっかりチェックしたい。地方分権や地方主権と結びつかなければ、本当の意味で地方創生は出来ない」と批判しました。今国会の最大争点は来年度の税制改正までに決着を迫られる来年10月の消費税率10%へ引き上げる再消費増税と軽減税率の導入です。先号のHPで報告した通り、内閣府が8日に発表した4〜6月期のGDP(国民総生産)の改定値は、個人投資や企業投資が5・1%減、住宅など消費支出が10%減に低迷したことで、8月速報値の6・8%減からさらに0・3ポイント落ち込み、年率換算7・1%減に下方修正されました。米国の金利上昇を見込んで一時、1ドル109円台と6年ぶりの円安・ドル高になり、円安で原油や天然ガス、食料品など輸入品が高騰、電気代などに跳ね返り、家計負担が増えています。再消費増税は来年度の税制改正に絡むため、首相は12月8日公表の7〜9月期のGDPなど経済指標を見て、「完全にデフレを脱却し、成長軌道に乗っているか」などを徹底分析して決断しますが、「経済は生き物だから今はニュートラルだ」と慎重に構えています。

税率の線引きと法人税減税が難題
  しかし、税制改正には2つの難題が待ち受けています。自公両党が「消費税10%への引き上げ時」で合意した軽減税率の導入と法人税実効税率の引き下げです。公明党は支持母体・創価学会から軽減税率の導入を前提に消費増税の理解を得たとされ、10%への再引き上げ時には食料品や生活必需品を軽減対象とし、低所得者を含む幅広い消費者に恩恵を与えるよう求めています。日本の消費税に当たる「付加価値税」を導入した欧州では英、仏が20%、独が19%と高率ですが、逆進性を和らげるため、食料品、旅客輸送、宿泊施設、医薬品、書籍・新聞などを軽減しています。軽減税率は、英が食料品0%。仏は2・1%、5・5%、10%の3段階。独は軽減対象を次第に拡大――などまちまちです。日本が導入するに当たっては、何を軽減対称にするかの「線引き」と事務処理が極めて重要。消費税率が1%上がると税収は年2・8%増、4月からの3%増税で年8・4%増えるため、財務省や自民党税制調査会(野田毅会長)は、線引きで増収分が減らないよう、色々と注文を付けています。

好循環拡大で政労使協議を再開
  また現行では、請求書などに税込価格をまとめて記載すればよいのですが、軽減税率を導入すれば、低い税率の商品と高い税率の商品とを区分けする必要性から、税率や税額を細かく記載した「インボイス(税額票)」を導入することになりかねず、経団連などは「中小企業の納税手続き事務が煩雑になる」と懸念しています。もう1点は政府が6月にまとめた「骨太の方針(経済財政改革の基本方針)」に、「法人税の実効税率(東京は35・64%)を早ければ15年度から欧州並みの20%台に段階的に引き下げる」と決めたことです。財界は大歓迎ですが、法人税率を1%引き下げると4700億円の税収減になるため、プライマリーバランス(基礎的財政収支)を整え、20年度に財政健全化を目指す財務省は反対です。首相は「経済の好循環を拡大するには政労使の共通認識を醸成することが重要だ」とし、内閣改造後初の経済財政諮問会議(首相が議長)を16日に開き、政労使協議の再開を決めました。同会議の民間議員には榊原定征経団連会長、新浪剛史サントリーHD次期社長が新たに加わり、政労使会議では企業が@引き続き収益を賃金に回すA休暇の取得や女性の活躍を促す――などで景気の好循環を維持する仕組みが検討されました。今年度補正予算の編成も焦点です。

3者会談で再消費増税の協力要請
  自民党の谷垣禎一幹事長は党総裁当時の12年8月、民主党の野田佳彦前首相、公明党の山口那津男代表との3党首会談で、消費増税を柱とした社会保障・税一体改革関連法の成立で合意した仲間。それゆえ、谷垣氏は就任後の会見で「消費増税が財政の安定に寄与し、政策の選択肢を広げることにも役立つ」と述べ、消費増税の必要性を強調。予定通り10%への引き上げを基本路線としています。9月12日に2年ぶりの谷垣、野田、山口3者会談を開き、再消費増税の協力を要請した模様です。3党間の連帯責任を意識してか、海江田氏もインタビューで、「(原材料価格や燃料費の高騰など)円安のひずみはいろんな意味で国民生活に影響を与え、4月の消費増税負担で生活が厳しくなった人も増えている」と、経済環境の整備を優先すべきだと主張しただけで、再消費増税の賛否には言及を避けました。今回の党役員人事で首相は公明党との風通しが良く、外交面では中国にもパイプが太い谷垣氏と二階俊博氏の2人を党3役に起用しましたが、人事の狙いは効果覿面に表れています。

民主布陣、自民政権に対峙を強調
 とはいえ、70年代末の「一般消費税」(大平内閣)、80年代半ばの「売上税」(中曽根内閣)は不発。89年4月に消費税3%を導入した竹下内閣はリクルート事件の批判を受けて退陣、97年4月に同税を2%引き上げた橋本内閣は増税駆け込み需要の反動減にアジア通貨危機が加わり経済が悪化して参院選に敗れ退陣するなど、消費増税は鬼門です。また法人税率の引き下げには、民主党をはじめ野党が「国会議員の身を切る改革を優先させるべきだ」と選挙制度改革の先行を主張して反対を唱え、地方自治体も減収になると難色を示しており、首相決断の前途は多難です。民主党は16日に盛岡市で両院議員総会を開き、国政選挙担当の代表代行を新設して岡田克也前副総理を起用、枝野幸男元官房長官を幹事長に再任、福山哲郎元官房副長官を政調会長、川端達夫元総務相を国対委員長にそれぞれ充てる人事を承認しました。岡田、枝野両氏は執行部と距離を置く「民主党6人衆」と呼ばれていましたが、海江田代表は「民主党の原点に戻り、自民党政権に対峙する布陣だ」と強調しています。

 維新の党発足、みんなは再分裂か
  日本維新の会と結いの党は「維新の党」の党名で合流。21日に党大会を開き、党体制や61項目の基本政策を決め、野党第2党として再出発しました。合意事項は@新党の代表は1年間、橋下徹、江田憲司両氏の「共同代表制」とするA代表代行に松野頼久国会議員団代表、幹事長には維新の会幹事長の松井一郎大阪府知事を充てるB東京、大阪の2本部体制とするが主たる事務所は大阪――など。党綱領は(1)統治機構改革で「この国のかたち」を変える(2)自治分権・自立・民権を基本理念とする(3)法と秩序に基づく現実的な外交・安全保障政策を展開(4)「保守VSリベラル」を超えて改革勢力を結集する――を掲げています。しかし基本政策は、距離感のあった安保政策、原発再稼働で@集団的自衛権の限定容認は「自衛権」行使の適正化を図るA原発はフェードアウトを目指し、再稼動の是非は検討――などとぼやかした表現。みんなの党は「党の創業者」で与党との再編を模索する渡辺喜美前代表が所属議員11人を集めた会合で「浅尾慶一郎代表が野党再編に走るなら、辞めてもらいたい」と浅尾降ろしに言及。これに浅尾代表が「方針が違うなら渡辺氏が党を出て行くべきだ」と反論、17日の党役員会で「与党再編」構想に反対する方針を採決したため党内対立が再燃。27日の両院議員総会で双方の路線を排除せずに対応する玉虫色の方針を決めましたが、結いの党に次いで再分裂の様相を深めています。各野党は一応、来春の統一地方選やその後の国政選挙を戦う体制を固めていますが、みんな、維新、次世代の党は集団的自衛権行使の限定容認には基本的賛成で迫力がなく、安倍政権は安泰のようです。 

国連の安保理事国に名乗り上げ 
  首相は国会召集直前の9月22〜27日までニューヨークの国連総会に出席、一般討論演説で「不戦の誓いこそ日本民族が受け継いでいくものだ」と積極的平和主義を強調、「21世紀の現実に合った姿へ国連を改革していかねばならない。日本は相応しい役割を担っていく」と国連安保理の常任理事国入りに名乗りを上げました。国連総会ではウクライナ情勢が主たる議題に浮上したため、首相は出発直前の19日、欧米から「1周遅れの緩い制裁」と批判されていた対ロシア制裁に追加措置を加えて発表、ロシア包囲網形成への関与を強めました。これが秋に予定された日露首脳会談の延期につながると懸念されましたが、プーチン露大統領は森喜朗元首相と会った直後の21日に安倍首相に誕生日祝いの電話が掛け、日露間の対話継続で一致しました。その際、首相は11月に北京で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議での日露首脳会談を提案、プーチン氏も開催に意欲を示しました。 

長崎教会群の世界遺産指定に努力
  日露両国は秋の大統領来日で合意していますが、ロシアのクリミア半島編入を機に両国間の準備作業は事実上ストップ。米国もプーチン氏の来日に強い不快感を示したことから、首相は北京会談を提案したものです。この首脳会談で「北方領土交渉が多少とも進展すればよい」との期待が持たれています。政府は17日、世界遺産条約関係省庁連絡会議を開き、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」(長崎、熊本両県)と、フランスの推薦枠で国立西洋美術館(東京・上野)を含む「ル・コルビュジエの建築作品」を共に世界文化遺産に推薦する、として正式に決めました。来年2月1日までに推薦書の正式版を国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)に提出し、2016年の世界遺産委員会で登録の可否が審議されます。「長崎の教会群」の詳報は前々回のHPに掲載した通りで、私はバチカン駐日大使に協力要請書を手渡すなどユネスコ指定の実現に一層の努力を続けています。