第329回(8月1日)世界大戦前夜の光景 安保・予算編成に全力
 猛暑の8月、政府は大車輪で2015年度の予算編成に取り組んでいます。7月25日に経済政策「アベノミスク」に充てる特別枠4兆円を盛り込んだ概算要求基準(シーリング)を閣議了承。これに沿って各省庁は8月末までに予算要求、財務省の査定を経て12月末に編成作業を終えます。特別枠は首相がトップの「地方創生本部」で新成長戦略「日本再興戦略」に掲げた農業や雇用、医療、中小企業振興などに重点配分。特に地方の活性化を重視しています。一方、集団的自衛権の行使を限定容認する閣議決定に従い関連法案を次期通常国会へ一括提出するため法整備を急いでいます。安保問題は閉会中審査で激論を交わしましたが国際情勢はマレーシア旅客機が撃墜されたウクライナの内乱、パレスチナ自治区ガザのイスラエルとハマス両軍の攻防など、1世紀前の第1次世界大戦前夜を思わせる緊迫事態で益々安保・抑止力の強化が緊急課題です。新興5カ国BRICS(伯・露・印・中・南ア)が欧米主導に対抗して発展途上国のインフラ整備に開発銀行設立で合意するなど世界秩序も変革期に入っています。中東の紛争による原油高騰が物価を押し上げ消費増税よりも大きな影響を与えつつあり、第3の矢「成長戦略」の成否が今後の政局を占う分岐点です。政調副会長の私の責務は極めて重く、皆様のご支援、ご教唆を切にお願い申し上げます

 成長戦略・地方活性化枠に4兆円
 「秋の臨時国会に地方創生第1弾の関連法案を提出し、スピードを持って支援に全力を入れる」――首相は7月20日、横浜市の講演で人口減対策に意欲を示しました。政府が同25日に閣議了解した概算要求基準(シーリング)の特別枠は「成長戦略枠」3兆円と「地方活性化枠」1兆円で、成長戦略枠は、政府が6月に閣議決定した新成長戦略「日本再興戦略」に掲げた農業・雇用・医療・中小企業振興などに重点配分。地方活性化枠は同25日に発足した「地方創生本部」(首相が本部長)が、関東、関西の都市圏よりも回復が遅れている地方経済の振興や人口減・高齢化対策と取り組み、2020年までの総合戦略を策定します。この中には菅義偉官房長官が総務相当時に制度化した「ふるさと納税」の上限額を現在の2倍に引き上げ、都市部に集中する税収の格差を解消する案も含まれています。首相が講演で明らかにした第1弾の法案は、官公庁の物品購入などに地方のベンチャー企業受注枠を設けるための官公需法改正案などです。特別枠(総額4兆円)は14年度予算の概算要求でも1・9兆円が計上されました。特別枠の財源確保のため、来年度も14年度予算と同様、政策によって増減できる裁量的経費を前年度より1割削減するよう各省庁に求めています。

 約半数の自治体が消滅と増田氏
 人口減少は日本の将来を左右する緊急課題。総務省の「地方中枢拠点都市」、国交省の「高次地方都市連合」など、いずれも地域圏に拠点を定めて、結婚・出産・子育て支援、地方への定住・移住促進、雇用創出など、人口流出に歯止めをかける構想を推進しています。「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相=元岩手県知事)は若手女性の激減に伴い、約半数の自治体が消滅の可能性があると指摘、全国知事会(会長・山田啓二京都府知事)は少子化対策の抜本的な強化を求める「非常事態宣言」を採択。山田会長は「日本は死に至る病にかかっている」と危機感を訴えました。来春の統一地方選を意識してか、首相は9月改造で地方創生担当相を新設しますが、人口減対策や地域活性化など地方創生の司令塔として、自らが本部長の「まち・ひと・しごと創生本部」の準備室を内閣官房に数十人規模で25日に設置、9月に正式発足させます。閣僚懇談会では、「地方創生の各省の企画立案機能を集中させる。地域が持続的な社会を創生できるよう、全力で取り組みたい」と強調しました。2060年時点で日本人口の1億人台維持する目標を掲げ、過疎自治体で地域づくりを手伝う「地域おこし協力隊」を3年間で今の3倍の3000人に増やす考えも示しています。過疎集落は全国で約6万4千を数え、内454集落は10年以内に消滅すると見られますが、政府は複数の集落を1つにまとめて活性化する「集落ネットワーク」のモデル事業に取り組み、中心の「基幹集落」には商店、福祉施設など、サービス拠点を集約する方針です。

 スポーツ・防衛装備庁など新設
 来年度予算の概算要求と絡み、活発化しているのが中央省庁の再編構想。自民党の後押しもあり、文部科学省と防衛省の外局として、それぞれスポーツ庁と防衛装備庁を2015年度に新設することがほぼ固まりました。首相は6月末にスポーツ庁の設置を提言しに来た超党派のスポーツ議連に対し、「丁寧に丁寧にと言って出来るわけでもない。勢いのあるうちに進めた方がいい」と答え、秋の臨時国会への関連法案提出に強い意欲を示しました。スポーツ庁には、文科省スポーツ・青少年局の一部や厚労省の障害者スポーツ担当部門などを移管、20年の東京五輪・パラリンピックなどスポーツ行政を一手に担わせる方針です。防衛装備庁は武器輸出3原則に代わる「防衛装備移転3原則」に対応するもので、航空機や車両といった装備品の研究開発、購入を担当する技術開発本部、装備施設本部などを統合、研究開発から購入までを一元的に扱い、効率化を目指します。一方、「政高党低」だと批判される内閣官房と内閣府は、意義が薄くなった部署の縮小や、他省庁と重複する部門の統廃合に向け、自民党の行政改革推進本部(本部長・望月義夫衆院議員)が秋までに改変案をまとめ、提言する段取りです。他に自民党内では宇宙開発を担う宇宙庁、厚労省の分割論なども浮上。財務省は「スクラップ・アンド・ビルドが原則だ」と警戒しています。

 限定容認の野党追及に迫力なし
 7月14,15両日に開かれた衆参両院予算委の閉会中審査は、民主党の海江田万里代表が「国会の論議をせず、憲法解釈を180度変える。国民の声を無視して(閣議決定で)決めてよいのか」ともっぱら手続き論で反対を唱えましたが、首相は有識者会議の議論や11回の与党協議に加え、国会の集中審議などで70議員の質疑があったとし、「閣議決定が拙速だとの指摘は当たらない」と一蹴。国民が蒙る犠牲の深刻性、重大性などを判断し、手順を踏んで法整備を進め、次期通常国会に関連法案を一括提出する姿勢を示しました。他野党も「解釈改憲か」、「徴兵制になる危惧はないか」、「自衛隊員にリスクの高い仕事をさせることになる」などと追及しましたが、みんなの党、日本維新の会は基本的に賛成で野党は迫力に欠けました。小野寺五典防衛相は「自衛隊員は祖国防衛の誓紙を書いて入隊、装備・訓練も万全」と答えましたが、自衛隊60年の記念すべき日に閣議決定したことは、創設時に「日陰者」と呼ばれた屈辱の歴史に終止符を打つもの。「国の防人」として使命感に燃える自衛官のプライドを損なうような平和ボケの野党追及こそ批判されるべきでしょう。

 憲法解釈の限定変更は40年ぶり
 閉会中審査では1972年の田中内閣政府見解と新政府見解が比較されました。「憲法9条で戦争を放棄し戦力保持を禁止されたが、前文で“平和に生存する権利”を、13条で“生命・幸福追求の権利”を定めている。自らの存立を全うし、平和に生存することまで放棄していないことは明らか。そのために必要な自衛措置を禁じているとは到底解されない。しかし、自衛措置を無制限に認めているとは解されない。国民の“生命・幸福追求の権利”が根底から覆される“急迫、不正の事態”に対処する止むを得ない措置として容認される。その措置は“必要最小限にとどめる”べき」と表現。そこまでは、田中、安倍両内閣も一致しています。その先について、田中内閣は「武力行使は外国の武力攻撃による我が国に対する急迫・不正の侵害への対処に限られ、他国への武力攻撃を阻止する集団的自衛権の行使は憲法上許されない」と規定し「集団的自衛権は保有するが行使できない」との憲法解釈が40年も続いてきました。これに対し安倍政権は限定容認論を閣議決定したわけです。

 アジアの安保環境の変化に対処
 つまり、「わが国への武力行使のみならず、密接な関係にある他国への武力攻撃で、我が国の存立が脅かされ、国民の生命・権利が根底から覆される“明白な危険”がある場合、他に適当な手段がないとき、必要最小限度の実力行使は憲法上許容される」という限定容認を打ち出したもので、中国の海洋進出、北朝鮮の核実験・弾道ミサイル発射など北東アジアの急激な安全保障環境の変化に対処し従来の解釈を変更、抑止力を高め日米安保条約を進化させようとするものです。全野党はさらに国会で論議を深めるべきだと閉会中審査を求めましたが、与党は首相の外遊を理由に拒否しています。首相はオセアニア3カ国訪問に次いで、7月25日から4日までメキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリ、ブラジルの中南米5か国を歴訪。メキシコやブラジルでは石油・天然ガス開発に協力することで合意したほか、新たな政府援助(ODA)を確約して回り、来年10月に国連安保理事会の非常任理事国に立候補するに当たって各国に協力を要請しました。首相は経団連の「夏季フォーラム」に小泉政権以来8年ぶりに出席するなど財界と蜜月関係にあり、他の外遊と同様、今回も榊原定征会長ら企業トップ約70人が同行、トップセールスを展開しました

 旅客機撃墜の武装集団は鬼畜以下
 これに先立ち、ウクライナ東部で勃発したのがマレーシア旅客機の撃墜事件です。ウクライナ東部ドネツク州で17日夕に墜落したボーイング777型旅客機は、米とウクライナの両大統領が「親露派武装集団がロシアから持ち込まれた地対空ミサイル・ブク(BUK)で撃墜した」と厳しく非難。対する武装集団は「ウクライナ政府軍による撃墜だ」と語り、プーチン露大統領は「ウクライナで武力攻撃が再開されなければ悲劇は起こらなかった」と反論。どうやら親露派武装集団が政府軍機と誤認して撃墜した模様ですが、親露派が証拠隠滅を図ってブラックボックスや機体破片を持ち去り、真相は「藪の中」。乗客283人のうちオランダ154人、マレーシア28人、豪州27人、インドネシア12人、英国9人など262人の国籍が判明。武装集団は政府の現地調査を妨害し遺体から現金や指輪などの貴金属を盗むなど鬼畜にも劣る暴虐の限り。ようやく21日にフライト・ボイス両レコーダーをマレーシアの調査団に、遺体もウクライナ経由でオランダに引き渡しました。怒った米・欧州連合(EU)は軍事、エネルギー、金融などの面でロシアに対する追加制裁に合意しました。

成長戦略と限定容認の法整備急げ
 パレスチナ自治区ガザではイスラエル軍がイスラム主義組織ハマスに地上戦を展開して地下道の補給ルートを破壊、1千人超の死者(市民は7割)が出るなど泥沼化。イラク国内のシーア派とスンニ派の宗派紛争も激化するばかりです。100年前に勃発の第1次世界大戦はバルカン半島のサラエボでオーストリアの皇太子夫妻がセルビアのテロに暗殺されたのがきっかけ。背後にはロシアのバルカン半島支配の目論見がありました。民族、宗派が憎み合い大量殺戮に走る今の中近東は、まさに第3次大戦前夜の緊迫した光景です。北東アジアの抑止力強化のため安保関連の法整備と日米防衛協力の指針(ガイドライン)は一刻も早く改定しなければならず、重油高騰を乗り切る成長戦略も早急に確立しなければなりません。なお、私は再選されたモーリタニアのアブデルアジズ大統領の就任式典(2日)に日本政府の特派大使として参列するため、8月1日から4日まで西アフリカを訪問します。