第324回(5月16日)経済・安保で首脳外交 憲法とTPPで論戦
 5月連休中に独、英など欧州6カ国を歴訪した安倍首相は、主要国と経済、安全保障の両面で協力強化を図り、アベノミクスによる景気回復が着実に進んでいることを訴えました。国会終了後の7月にはメキシコ、ブラジルなど中南米数カ国を歴訪、トップセールスを含む「地球儀俯瞰外交」を完結します。一連の外交で首相は「力を背景とする現状変更は決して容認できない」と欧州首脳に安保政策での連携をアピール、軍事力を強化し尖閣諸島周辺で強引に海洋支配を目指す中国を牽制。国家戦略特区や法人税減税策を披露し日本への投資を呼びかけました。成長戦略の要である環太平洋経済連携協定(TPP)の日米交渉は、オバマ米大統領の来日を機に 実質的に合意しており、19,20両日にシンガポールで開く閣僚会合で日米両国が連携して早期妥結を図る方針です。有識者会議の安保法制懇は集団的自衛権の憲法解釈見直しについて、15日に報告書を提出しましたが、終盤国会ではこの報告書とTPP交渉を巡り与野党間で激しい論戦が予想されます。6月の成長戦略の改定作業も大詰めを迎え私は政調副会長として多忙を極めています。ご支援をお願い申し上げます。

欧州6カ国と防衛装備協力で合意
 「日本の政治家で午(うま)年生まれは、小泉・中曽根両首相。2人の特徴は首相を長く務めたことだ」――首相は英国の講演で、自らの干支にちなんで贈られた馬の置物を前に、長期政権を担った2人の先輩首相にあやかってご満悦。4月29日から独、英、ポルトガル、スペイン、仏、ベルギーの欧州6カ国を歴訪した首相は、メルケル独首相を皮切りに各国首脳と会談。ウクライナ情勢を巡り「力による現状変更は認めない」との認識を共有して今後の対露制裁措置では欧州各国と連携、経済分野では日・欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉を「2015年中に大筋合意を得る」方向で、早期締結を目指すことを確認しました。キャメロン英首相とは外務・防衛閣僚会合(2プラス2)の早期開催や防衛装備品・技術の共同開発の促進で一致しました。これは先月に閣議決定した武器輸出3原則に代わる「防衛装備移転3原則」を適用したもので、オランド仏大統領との会談でも次世代原子炉、無人潜水機の共同開発で合意。政府は防衛技術の向上、開発費抑制の見地から、既に豪州との間で船舶の流体力学の分野を研究課題とする防衛装備協力で合意しています。

法人税実効税率の引き下げ公約
  首相はロンドンでの講演で、成長戦略の障壁になっている“岩盤規制”を切り崩す「ドリルの刃は最大速度で回転している」と強調、法人税の実効税率の引き下げについても「改革を一層進める」と述べ、対日投資の促進を呼びかけました。6月の成長戦略改定ではこれらの公約実現が各省調整の大きな課題に浮上しました。このように首相は、日欧が国際ルールを遵守し、自由貿易のパートナーであることを意識して、安全保障、経済の両面で戦略的関係を構築する「積極的平和主義」の推進とトップセールスの旅を続けました。6月4〜5日にブリュッセルで開くG7 首脳会議(サミット)に出席する前後にイタリアを訪問、
7月上旬には豪州への返礼訪問に合わせ、天然ガスなど資源が豊富なパプアニューギニアとニュージーランドを訪問、日本企業の投資や進出活動を促進します。さらに同下旬にはメキシコなど中南米数カ国を歴訪、日本が立候補する国連安保理事会の非常任理事国選挙が2015年10月に行われるのに備え、中南米諸国の支持を取り付ける方針です。首相は病気で退陣した第1次政権と違い、第2次内閣では「毎月1回の外遊、被災地訪問、ゴルフ」を日程に組み入れ大車輪の活躍。外遊予算が大幅赤字となったため政府内予算のかき集めに苦労しましたが、今年度は4千万円余分に外遊予算を計上し首脳外交を展開中です。外遊する首相の国会出席軽減など国会改革を巡る自公民と維新の会4党の協議も進みました。

TPP交渉は重要な一里塚と首相
 自民党の石破茂幹事長も首相と手分けして欧米との安保連携を強化しています。4月30日(日本時間5月1日)に訪米した石破氏はワシントンで講演し、「領土、領海、領空を守るために、個別的自衛権の範囲内でなお必要な法整備がある」と前置きし、今後想定される偽装漁民による尖閣諸島の奇襲上陸など、武力攻撃とは認定できない「グレーゾーン事態」に対処するため、自衛隊法改正などの法整備を進める考えを示しました。集団的自衛権行使の憲法見直しについては、「米国との戦略でも符合する。同盟国同士が協力し合うネットワーク型の同盟が求められている」と講演で指摘し、バイデン副大統領との会談では軍事力を背景に東シナ海や南シナ海で威圧的行動を取る中国に国際法を遵守させるため、日米連携を強化することを確認しました。首相は1日遅れの日米共同声明が出された4月25日、「TPP交渉全体にとってキー・マイルドストーン(重要な一里塚)となる大きな成果を上げることが出来た」と胸を張り、1日夜のロンドン金融街での講演でも「日米TPP交渉は大きな前進だった」と強調、日米首脳会談で実質的に基本合意に達したことを示唆。フロマン米通商代表も1日、米上院財政委員会の公聴会で、交渉中身には触れず、「2国間の(関税の)市場アクセスで重要な一線を越えた」と実質合意を裏付ける証言をしました。

双方選挙で大筋合意の表現避ける
 しかし、先号で紹介した通り、安易な妥協をすれば、@日本は4月27日の衆院鹿児島2区補欠選挙に悪影響A米国は11月の中間選挙まで大統領に通商一括交渉権(TPA)を与える法律が米議会で成立するメドが立たなくなるB他国との交渉にも配慮する必要がある――などから、共同声明では「TPPで大筋合意」の表現を避け,「重要課題で前進する道筋を特定した」とし、TPP参加国に協定妥結の措置を早期に採るよう呼びかけました。TPP参加12カ国は19,20両日、シンガポールで閣僚会合を開きますが、日米は参加国の国内総生産(GDP)の8割を占め、交渉全体の鍵を握ることから、日米以外の関税協議や知的財産権の保護、国有企業の優遇見直しなどのルール作りを一気に加速させる方針です。これに先立ち12〜15日にベトナムで開かれた首席交渉官会合では、知的財産権分野の音楽や小説の著作権保護期間を70年に統一することで合意しました。日米協議では、先号で詳報したようにセンシティビティ(慎重に扱うべき分野)の牛・豚肉やコメなど農産物「重要5項目」と自動車規制のあり方などの協議で日米が痛み分けし、ギリギリの妥協をしました。

豚肉と自動車安全基準で最終協議
 妥協のポイントは@輸入豚肉が基準価格を下回る差額分を関税として徴収する「差額関税制度」は維持し、安い豚肉にかかる482円の関税を15年程度で50円に引き下げA牛肉の関税は38・5%を10年程度で9%に引き下げB乳製品は米国産を低関税で輸入する特別枠を新たに設定Cコメ・麦・甘味作物の関税率は原則維持D米国が日本車にかけている関税2・5%は「TPP交渉で設定されるもっとも長い期間」で撤廃――の5項目。今後は実務者間で、米国産豚肉の輸入が急増した場合に関税率を元に戻すセーフガードの発動要件や米国から日本に輸入する自動車の安全基準見直し、低関税で輸入する乳製品の特別枠――などを煮詰める段取りです。しかし、衆参両院の農水委員会は「関税死守」を求める決議をしており、自民党支持基盤の農業団体から反発の声が上がると予想され、終盤国会では、野党が集団的自衛権の憲法解釈見直しとともにTPP問題を激しく追及すると見られます。

安保法制懇が行使容認の報告書
  集団的自衛権の行使容認問題は、先の日米首脳会談でオバマ大統領が「日本側の取り組みを歓迎し、支持したい」と表明、自民党の高村正彦副総裁が主張する「限定容認論」への党内の理解が深まったことで見直し論議が加速してきました。政府の有識者会議「安全保障の法的基盤再構築懇談会(安保法制懇)」(座長=柳井俊二・元駐米大使)が15日、集団的自衛権の行使容認に関する報告書を提出したのを受け、首相は記者会見した後、解釈見直しの「基本的方向性」と事例集を自公両党に提示、与党は20日にも本格的協議に入ります。与党案がまとまれば閣議決定し、秋の臨時国会に自衛隊法改正案など関連法案を提出する方針です。安保法制懇の報告書は@集団的自衛権の行使A国際的な活動での武器使用などの集団安全保障B武力行使に至らない侵害を指す「グレーゾーン事態」――の3分野について現状では法制上の不備があり、憲法解釈の見直しや法整備を行うべきだと提言しました。集団的自衛権行使の歯止め措置としては@密接な関係にある国が攻撃を受けたA放置すれば日本の安全に大きな影響が出るB当該国から明確な要請があるC第三国の領域通過には許可を得るD首相が総合的に判断E国会承認――の6要件を挙げています。

多様な事例集もとに与党内協議
 政府は報告書を受けて、国家安全保障会議(日本版NSC)「外務、防衛など4大臣会合」を開き、基本的方向性と具体的な事例集をまとめました。それには、日本が当該国を支援する「必要性」が高いことと、相手の侵略行為と比べて必要以上に強力な対抗手段を取るのを禁じる「均衡性」について慎重な検討を加え、首相が判断するとしており、事例集には@周辺事態などで公海上にいる米艦の防護Aシーレーン(海上交通路)の機雷排除B米国を攻撃した国に武器を提供する船舶への臨検C第1次安倍内閣で安保法制懇に諮問した「米国に向かう弾道ミサイルの迎撃」D朝鮮半島有事などの際に非戦闘員を乗せて日本に避難する外国航空機・艦船の護衛、海外での邦人救出E国連平和維持活動(PKO)などの集団安保に自衛隊が加わる場合の武器使用――などの6事例が含まれます。武器使用には武力攻撃とは直ちに判断できない偽装漁船による「グレーゾーン」事態の対応も対象としています。首相は15日夕の記者会見で、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増していることを強調した上、憲法見直しの基本的方向性や事例集を国民に詳しく説明しました。

限定容認論に公明は依然慎重
みんなの党内には、憲法見直しよりも集団的自衛権の行使ができるよう憲法改正を主張する向きもありましたが、13日の会議では6要件の歯止めの下なら「限定的容認論」を認めるとの党見解をまとめ、日本維新の会と幹事長・国対委員長会談を開いた結果、両党で勉強会を開くことで合意しました。しかし、民主党は「国会で専門に議論する特別委員会を設置すべきだ」と早期の閣議決定に反対。支持母体「創価学会」婦人部の反発を受ける公明党は、3日に山口那津男代表が参加して与党協議が開かれたものの、高村氏の「限定容認論」に対し「集団的自衛権の中に本当に必要最小限度のものがあるか疑問だ。(尖閣諸島などは)個別的自衛権、警察権などで対応できる」と依然慎重な態度を崩していません。山口氏はBS番組で「国民に何も聞かないで一方的にやることは、憲法の精神にもとる」と批判、14日の記者会見でも「見直しより経済再生、震災復興が最優先課題だ」と述べています。北側一雄副代表も4月24日の衆院憲法調査会で「憲法改正でなく、解釈変更で対処するなら、長年の政府解釈との論理的な整合性は図れるのか」と疑問を提示しました。高村、北側両氏は解釈見直しで両党を代表する責任者。超党派の日中友好議連・訪中団(高村団長)は4〜6日に北京を訪問し、二人はその間、水面下で協議を続けたと見られます。

戦術的互損関係打開に日中会談
 共産党序列3位の張徳江・全人代常務委員長と会談した高村団長は「戦略的互恵関係であるべき両国関係が、今はお互いに損をする戦術的互損関係にある」と指摘、11月にアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて日中首脳会談を開きたいとの安倍首相の意向を伝え、打診しました。だが、張委員長は「習近平国家主席に伝える」と応じたものの「今の中日関係が悪くなったのは日本側の原因」とし、首相の靖国参拝を「戦争を美化するものだ」と非難、日中首脳会談には否定的態度を示しました。首相は「対話のドアは常にオープンであり、中国側にも同様の姿勢を取ってもらいたい」となおも意欲的ですが、中国は5月初め領有権争いが続く南シナ海のパラセル(西沙)諸島の海域で石油の掘削作業を始めたことから中国とベトナムの船舶が衝突、スプラトリー(南沙)諸島では350匹の海亀を密漁した中国漁船1隻がフィリピン側に拿捕されるなど海洋トラブル続きです。

グレーゾーンに自衛隊法改正先行
このように海洋支配を強める中国が東シナ海でも、尖閣諸島に漁船の緊急避難所を設けたり、偽装公船に乗った偽装漁民が急襲上陸した場合は、武力攻撃とは認定できない「グレーゾーン事態」であり、自衛隊を派遣できず、現状では海上保安庁で対応するしかなく、法整備は喫緊の課題であり、急がねばなりません。集団的自衛権の憲法見直しに慎重な公明党に配慮する首相は3日、ポルトガル・リスボンで同行記者と懇談し、憲法解釈の閣議決定について、「時期ありきではなく与党で一致することが極めて重要。場合によっては時間を要することもある」と述べ、与党協議が長引いたり国会論議が紛糾する場合は、憲法解釈見直しの閣議決定を急ぐより、秋の臨時国会で自衛隊法・周辺事態法の改正案や自民党が選挙公約に掲げた「国家安全保障基本法」案の成立を先行させる考えを示唆しました。3日の憲法記念日は改憲・護憲派の集会が多く開かれ、解釈見直し論議で盛り上がりました。