第321回(4月1日)日米韓会談、日朝協議再開 首相は春爛漫
 2014年度予算は3月20日、戦後3番目の速さで3年ぶりに年度内成立。日米韓首脳会談はオランダ・ハーグで開催され、拉致問題の日朝協議も1年4か月ぶりに再開。春闘は大手企業が賃上げに応じるなど、まさに安倍政権は春爛漫です。首相は13年度補正と新年度予算の「15ヶ月予算」を切れ目なく執行して景気の腰折れを防ごうと懸命。国会では次の焦点である集団的自衛権行使の憲法解釈見直しに本腰を入れています。だが大幅賃上げで妥結したのは円安・株高で輸出が伸びた自動車、電機など大手企業だけ。全国の7割を占める中小下請け企業は、燃料高や親企業から増税分上乗せ(転嫁)を拒否される恐れもあって経営は不安定。2000万人に増えた非正規社員の待遇改善もままならず消費は停滞気味で、折角の「アベノミスク」が支えてきた経済好循環の前途は不透明。首相は我が世の春を謳歌してばかりいられません。おまけにウクライナ南部クリミア自治共和国のロシア編入問題で米欧とロシアが制裁合戦を展開。これが世界経済の下振れリスクを招き不安に陥っています。私は成長戦略と取り組んでいますが変わらぬご支援をお願い申し上げます。

アベノミクス効果でデフレ脱却
 「ようやく手に入れたデフレ脱却の大きなチャンスを手放すわけにはいかない。消費税アップによる経済への悪影響を最小限に抑え、速やかに景気が回復軌道に戻るよう万全を期す」――首相は14年度予算が成立した3月20日、記者会見でこう胸を張りました。先の参院選で自民党が勝利し、衆参両院でねじれが解消した結果、「1強他弱」の体制で、1999年度、2000年度(いずれも3月14日成立)に次ぐ戦後3度目のスピード可決です。一般会計総額は史上最高の95・8兆円で、経済対策5・5兆円の13年度補正予算と合わせると100兆円を軽く突破します。首相はこの「15ヶ月予算」を効率的に執行することで、「GDP(国内総生産)500兆円も視野に入ってきた」との14年度経済見通しを国会で答弁。「アベノミクス」の効果による景気回復に強い自信を示しました。名目GDPは13年度見込み
で434・2兆円ですが、14年度に500兆円台に回復すれば、リーマン・ショック前の7年度(513兆円)以来7年ぶりとなり、デフレ脱却が軌道に乗ったことになります。政府は新年度予算を成長分野に重点配分、とりわけ、@東日本大震災の復興事業A20年東京五輪施設を結ぶ高速道整備B震災で露呈した全国の老朽化が目立つ道路網・橋梁の補強――などの公共工事に約6兆円を計上し、インフラの強靭化と規制緩和に全力を挙げています。

下請けいじめに転嫁Gメン出動
しかし、全国的に建設業界の若者離れや高齢化で作業員の不足と建設資材の高騰が進み、地方自治体の公共工事では落札業者が決まらず、予算執行が出来ない状態にあります。一方、春闘は、首相が数回にわたる政労使会議で、「経済再生の鍵となる賃上げ(ベア)」を強く要請したのに財界が応え、明るい結果を生みました。でも賃上げに応じたのは円安による輸出で潤ったトヨタ、日立製作所など自動車・電機や鉄鋼の大手企業が中心で、全国で7割を占める中小企業は低迷しています。消費税が1日から3%増税されれば、商品の値上げを避けたい大手企業は、中小下請けメーカーが納入する商品の増税分上乗せ(転嫁)を拒否し、下請けの仕入先に増税分の値引きを求める可能性があります。97年4月に税率が3%から5%に上がった時は、不当な値引きを呑ませる「下請けいじめ」が起きました。政府は昨年10月に施行された特別措置法に基づき、「転嫁カルテル」を認める一方、中小企業に“還元分”のしわ寄せが行かないよう取り締まっています。果たして成果やいかに。

燃料高騰で貿易・財政「双子赤字」
財務省が1月末に発表した2013年の貿易統計によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は11兆4745億円の赤字で前年より65%増。海外からの配当金の受け取りなどを含めた経常収支も昨年10 月以降、赤字に転落しました。円安で原油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が膨らんだからです。燃料の値上げは電気代に跳ね返り、それに大豆、小麦など穀物も値上りし家計にも響いています。しかも、非正規社員は全企業の38・2%を占めて2000万人を突破、今春闘でも待遇改善は進まず不満が増大、消費の需要は停滞気味です。新年度予算の国債発行高(国の借金)は41兆円以上で、基礎的財政収支(プライマリーバランス)は一向に改善されていません。貿易、財政の「双子の赤字」は日本国債の信任が失墜してインフレを招き株式市場も暴落、国債の利子が高騰すれば債務超過になる可能性も否定できません。政府は3月28日、地域限定で規制緩和を進める国家戦略特区を指定しました。@東京圏(東京都、神奈川県、千葉県成田市)A関西圏(大阪府、京都府、兵庫県)B新潟市C兵庫県養父市D福岡市E沖縄県――の6地域で、前号で紹介した通り、広域特区の自治体は国が定めた雇用や医療、教育など6分野16項目の中から規制緩和するものを自由に選べ、世界一ビジネスがし易い環境が作れます。6月には成長戦略を改定します。

クリミア編入に日米欧制裁発動
 国際情勢では、クリミア自治共和国が16日に行った住民投票で同国のロシア編入が決まり、米欧は露の閣僚や財界人など要人の渡航禁止やロシア銀行の資産凍結など制裁を発動。キャメロン英首相は19日、下院で「ロシアを主要8カ国(G8)から永久追放する議論をすべきだ」と発言しました。安倍首相も同日の参院予算委でロシアを非難し、査証(ビザ)発給要件の緩和に向けた交渉の停止を決定。さらに、欧米並みに要人のビザ発給停止や資産凍結など制裁を検討中です。3月24日にオランダ・ハーグで開催の核安全サミット前に開いた日米欧の先進国首脳会議(G7)で、日本は財政危機のウクライナ暫定政府に対し、最大1500億円を支援すると表明しました。G7会議では英国の提案に沿って、プーチン露大統領を議長として6月にソチで開くG8サミットはボイコットし、同時期にブリュッセルでG7サミットを開くことを決めました。折角、プーチン大統領がテロ発生の危険を顧みず、ロシアの威信を懸け、巨費を投じて成功させたソチ冬季五輪の外交成果は吹き飛びました。安倍首相はG8首脳の中では伊首相と2人だけソチ五輪の開会式に出席、プーチン氏の今秋来日で合意するなど、過去5回の首脳会談で蜜月関係を深めてきました。しかし、ハーグで予定した日露首脳会談も開かれず、秋の日露首脳会談での極東シベリア開発を絡めた4島返還交渉の雲行きは険しくなってきました。

国際連携VS愛国主義の冷戦構造
 共産陣営と自由世界が半世紀に渡って対立した冷戦構造は崩壊しましたが、政治・経済学者は、イデオロギーに代わってグローバル経済による新たな冷戦が4半世紀ぶりに勃発したと指摘しています。確かに、ユーロ通貨を導入した「EU圏経済一体化」のグローバリズムと、武力を背景に領土拡充など「大国主義への回帰」を目指すロシア・中国のナショナリズムが対立する新たな冷戦時代に入り緊張状態が際立っています。「クリミアは、強く揺るぎないロシアの主権下に置かなければならない」――プーチン氏はウクライナからの独立を宣言したクリミア自治共和国とセバストポリ特別市のロシア編入条約に署名した後こう表明、露の外相も、「ソチのG8サミットが中止になっても構わない」と述べ、今後は中国など新興国を含めたG20を重視する姿勢を強調しました。年末までの移行期間にロシア通貨ルーブルなどが導入されて併合は完了しますが、武力をテコに行うクリミア併合は領土保全の重要性を謳った国連憲章や国際法に違反は明白。バイデン米副大統領は「領土の強奪」と非難し、EUも併合を承認しない声明を発表。併合すれば沖縄県尖閣諸島周辺で公船による領海侵犯を繰り返す中国に利することになります。困ったことはロシアが対抗措置としてウクライナ経由でEUにまで敷設されたLNGパイプラインを閉ざしEU向けガス供給の凍結を検討していることです。露はEUに燃料の3割を供給しており特に独露関係は経済的に密接。この制裁合戦でEU・露双方の経済が落ち込み、引いては中東から輸入する原油・ガスが高騰するなど日本経済にも影響し、折角の経済好循環に水を差されます。

米仲介の首脳会談で日韓修復へ
 幸い、ハーグでの核安全サミットの翌25日、安倍首相、オバマ米大統領、朴槿恵韓国大統領の3者による日米韓首脳会談が米国の仲介で実現しました。安倍首相が同14日の国会答弁でいわゆり従軍慰安婦問題を巡る河野談話や村山談話の継承を明言したことを、朴大統領が「幸いだと考える」と評価、「慰安婦被害者のおばあちゃんたちの傷を小さくし韓日関係と北東アジア関係が強固になることを願う」と歓迎したのがきっかけで安倍・朴両首脳の初会談は実現しました。日米韓首脳会談では従軍慰安婦問題には触れず、「北朝鮮の核問題で3カ国の協力関係を強調することが必要だ」との認識で一致しました。当初は日韓2国間会談を開き、韓国側が元慰安婦への直接補償を求め、日本側は1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に解決済み」と応酬、島根県竹島問題や韓国人元徴用工を巡る訴訟などを協議する筋書きが想定されていましたが、2国間会談に向けた環境整備に止めました。これで冷え込んでいた日韓関係は雪解けに向かいます。しかし、中国の習近平国家主席はオバマ米・朴韓国両大統領と個別にハーグで会談,中韓会談ではハルピン駅に韓国の英雄・安重根の記念館を建設した意義を強調して反日共闘路線を構築。安倍首相の靖国参拝を「戦後の国際秩序に対する挑戦」と位置づけ、日中首脳会談は拒否しました。

日朝局長級で拉致問題協議再開
 拉致問題を巡る日朝外務省局長級協議は30日に北京で1年4ヶ月ぶりに再開。19.20両日、中国・瀋陽で開いた課長級の非公式協議で合意したものです。これに先立つ10〜14日、拉致被害者の横田めぐみさんの両親とめぐみさんの娘キム・ウンギョンさん、ひ孫の女児がモンゴルで初面会したことが日朝会談の再開に繋がりました。北朝鮮は中国が後ろ盾だった張成沢・前国防委副委員長を粛清して以来、対中関係がギクシャクし政治・経済の両面で孤立を深めたため、日本に制裁緩和や経済支援を求めてきたと見られます。首相は「拉致問題を必ず安倍内閣で解決したい」と意欲を燃やし、20日の記者会見で、「重要な1歩だ。日朝諸懸案の解決を図るため、米韓両国を含む国際社会と連携をしながら全力を尽くす」と強調、北京の両国大使館ルートを通じ水面下工作を続けてきました。しかし、日本が「対話と圧力」で、拉致・核・ミサイルの懸案を包括的に解決する方針を堅持しているのに対し、北朝鮮は「拉致問題は解決済み」の立場を変えず協議は難航しそうです。22,23両日には米韓合同演習に抗議、元山から日本海に向けて短距離ミサイル約50発を発射、26日は日米韓首脳会談の時間に合わせ中距離弾道ミサイルノドン2発を発射し会談を牽制しました。

カリスマ性薄れた橋下大阪市長
 橋下徹大阪市長(維新の会共同代表)が「大阪都構想」の実現を目指した出直し大阪市長選は23日に投開票が行われましたが、投票率は23%と最低、無効は白票4・5万票を含む6・75万票で最多。橋下氏の得票数も前回(約75万票)の5割、約37・7万票と惨めな結果となりました。小泉元首相が郵政選挙で見せた単一争点の「劇場型選挙」を狙ったのに対し各党は候補を立てず肩透かし。大阪市民からもソッポを向かれ橋下氏のカリスマ性はすっかり地に堕ち、中央政界への転身も望み薄になりました。同じ共同代表の石原慎太郎元都知事も、自らが会長に就任した党エネルギー調査会の初会合で、国会で審議予定の対トルコ・アラブ首長国連邦との両原子力協定に賛成する考えを表明した途端、若手議員に「党を出て行け」と罵声を浴びせられる始末。同党が昨年、両協定に反対の方針を決めていたからで、石原氏は後日、発言を撤回しました。同党が結いの党と統一会派を組めば、衆院は62議席で民主党を抜いて野党第1会派に、参院は14議席でみんなの党12議席を上回り議員立法提出が可能なばかりか、議運委の理事を出せるようになるため、「1強他弱」を打開しようと基本政策の協議を続けています。だが、維新は大阪府市議員団と国会議員団の「東西対立」に加え、橋下、石原両共同代表の求心力が低下、いずれは分裂するとの見方が強まっています。結いの党が離党した後のみんなの党は、渡辺喜美代表に資金疑惑が浮上し動揺中です。後半国会の争点は別稿の「北村の政治活動」で取り上げました。