第320回(3月16日)好況だが内憂外患 懸案処理で内閣改造
 4月1日の消費税増税まであと2週間足らず。政府はアベノミクスが引き寄せた好景気の腰折れ回避に全力を挙げ、3月末に自然成立する2014 年度予算を切れ目なく執行するとともに、規制緩和の「国家戦略特区」を3月内に決定、6月には成長戦略の改定を行う方針です。政労使会議で財界に要請した賃上げもトヨタなど大手企業が実施を回答。春闘も明るさが見えてきました。ただし、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の見直し、エネルギー政策策定など内政課題、外交では膠着状態に陥った日米間の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉、中韓関係の改善、日朝赤十字会談などの課題が山積しており、首相はどう決着をつけるか。内外ともにまさに正念場です。これら課題では連立の公明党との間に不協和音が生じ、自民党内にも慎重意見があります。首相は懸案処理に向け新体制で臨むことを決意、2月末の参院議員との会食で、今国会後に内閣改造・党役員人事を行うと明言しました。大雪で厳しい春続きですが、北村は元気一杯です。ご支援をお願い申し上げます。

国家戦略特区は月内に候補決定
 14年度予算案は3日から参院予算委に舞台を移し論戦が始まりましたが、駆け込み需要などの好景気が続いて首相は余裕たっぷり。民主党の桜井充政調会長が「安倍事務所の給料は上がるのか」と質したのに対し、「(テレビ中継を見ている)地元の秘書は固唾を飲んで私の答えを待っているかもしれない」と笑いを浮かべながら、「物価上昇に対応できるよう事務所としてしっかりと引き上げたい」と増額を確約しました。首相の脱不況戦略はアベノミスク3本の矢の@大胆な金融緩和による中小企業の投資拡大A積極的な財政支出によるインフラ整備B賃上げによる内需拡大――の3点。首相が再三の政労使会議で要請したのに応え、自動車、電機など大手企業は賃上げ(ベア)を回答、よい春闘相場が築かれつつあります。だが、復興特別法人税の1年前倒し廃止は企業だけの恩典で個人所得税に2・1%かかる復興特別所得税は25年継続。これに消費増税が重なるとなれば、3月は確定申告期であり、税務所に向かう庶民の重税感が高まり、消費需要が落ち込むと見られます。政府は需要の反動減の緩和に備え国家戦略特区について今月内に候補地を決める方針です。

特区は地方自治体活性の起爆剤
 前号で述べたように、首相は1月、スイスで開いた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の基調講演で、「いかなる既得権益といえども、私のドリルから、無傷ではいられない」と勇断を示しました。国家戦略特区は、地域限定で規制緩和を進めるアベノミクスの看板政策で、@都市再生・まちづくりA教育B雇用C医療D歴史的建築物の活用E農業――の6分野からメニューを選べます。大都市圏を対象とする「広域特区」と、規制緩和する分野ごとに飛び地の複数市町村を指定する「革新的事業連帯特区」(バーチャル特区)があり、計3〜5ヶ所が選ばれる見通しです。広域特区は東京圏で「東京23区、横浜、川崎両市」の一部、関西圏で「大阪、京都、神戸3市」の一部。地域振興が狙いのバーチャル特区は「新潟市、福岡市」を中心に指定される見通しです。例えば@の都市再生特区では、容積率の上限引き上げの特例を利用すれば都心でも職住近接の高層マンションが建てられるし、Dの特区では歴史的建造物を旅館代わりにする旅館業法の特例を受けられ、いずれも20年の東京五輪を控え、不動産業にとってはビッグ・ビジネスチャンスとなります。

特区農産物加工に関税優遇措置
 Eの農業特区では、農業生産法人の役員要件緩和で、農業への新規参入や農地レストランの設置などが期待できます。新潟市は港湾と空港を武器に、輸入農産物を加工して輸出する場合の関税優遇措置などを提案しており、農業分野で提案の西日本の自治体とともに指定される見通しです。福岡市は新たな起業や雇用を生み出すため、学生や女性を対象にした啓発教育や融資制度の充実を提案しています。いずれも特区内の企業は、設備投資減税や借入金の利子補給などが受けられようになります。首相は特区で規制に風穴を開け、地方自治体「活性化」の起爆剤にしようと考えています。3月下旬の正式指定に先立ち、規制担当の閣僚や指定予定自治体の首長、民間業者による「特区会議」の準備会合を開催、指定後は同会議を正式に発足させ、4月をメドに特区計画を決定する段取りです。

原発は重要なベースロード電源
 都知事選では細川護煕元首相が唱えた「即原発ゼロ」など、原発・エネルギー問題が争点でしたが、細川氏の敗因は再生可能エネルギーの確保策が具体的でなかったからでしょう。政府は2月25日、中長期的なエネルギー政策の指針となる「新エネルギー基本計画」案を関係閣僚会議で決めました。公明党と協議の上、今月中に閣議決定します。同案は原子力発電を「重要なベースロード電源」と位置づけ、安全が確認された原発は再稼動する方針を明記し、電力会社が目指す再稼動を後押しする内容となりました。ベースロード電源とは専門用語で、発電コストが比較的安い原発、石炭、水力、地熱などで、昼夜を問わず一定量の電力を安定供給できる電源を指しています。経済産業省の有識者会議が昨年12月にまとめた基本計画の原案では、原発を「基盤となる重要なベース電源」と位置づけたのに対し、「速やかな原発ゼロ」を掲げる公明党が「原発依存に傾き過ぎている」と反発したため、同党の意向を取り入れ、「基盤となる」との表現を削除・差し替えたものです。

再稼働地ならしで会社に追い風
 ただし、有識者会議の原案を踏襲し、民主党政権が掲げた「2030年代の脱原発」と比べると、安全性を確認した上で再稼動をさせる原発活用の方針を維持。さらに、「確保していく規模を見極める」とし、今後の新増設に含みを残しました。このように再稼働の地ならし的案であり、電力会社にとっては追い風になります。茂木敏充経産相は「原発ゼロなどと根拠なく示すのは、責任あるエネルギー政策とは言えない。方向性が変わったとは認識していない」と述べました。原発の使用済み核燃料を全て再処理して使う「核燃料サイクル政策」は、取り出したプルトニウムを使う「高速増殖炉」が柱ですが、高速増殖炉の「もんじゅ」はトラブル続きで稼動のメドが立たない上、公明党が再処理せずに地中に埋める「直接処分」を検討していることに配慮して、「中長期的な対応の柔軟性を持たせる」との文言を新たに付け加え将来の見直しを匂わせています。自民党内にも「再稼働推進派」、再生エネルギーの「分散型電源派」、「脱原発派」があり、石破茂幹事長は記者会見で「再生エネルギーの比率を上げ、原発の依存度を下げるのが公約だ。エネルギーの安全保障を考えながら、経済成長、雇用の確保、経済の好循環を総合的に検討したい」と語っています。

立憲主義に反すると民主党反発
 中盤国会の最大焦点は集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の見直しです。有識者会議「安全保障の法的基盤再構築懇談会(安保法制懇)」の4月答申を受け取り次第、見直し作業に入り、与党協議を経て夏ごろに閣議決定し、秋の臨時国会に国家安全保障基本法、改正自衛隊法など関連法案を提出する方針です。12年ぶりに年末に改定する日米防衛協力の指針(ガイドライン)に解釈変更を反映させるには、夏の閣議決定がリミットであるからです。首相は憲法見直し手続きを国会で何度も説明しましたが、その中で「政府の最高責任者は私だ」と述べ、「内閣法制局は単なるアドバイス的存在」であるかのような印象を与えたため、民主党は「憲法9条(平和条項)に違反するという内閣の解釈を正面から否定するものだ。立憲主義に反する」と反発。国会で徹底的にオープンな議論をするよう求めています。公明党の漆原良夫国対委員長も「国民の声を聞くべきだ」とブログに書き、閣議決定前の国会審議を求めたことから、首相は「閣議決定前でも国会で答弁する義務があるのは当然」と国会での論議を確約しました。公明党は憲法解釈見直し、エネルギー対策ばかりか、選挙制度改革などでも不満を強めています。特に故・竹入義勝元委員長が日中正常化の橋渡しをした経緯もあり、安陪政権の対中・対韓外交にも注文をつけています。

公明は下駄の鼻緒と首相を牽制
 「公明党は下駄の鼻緒。鼻緒が切れたら、下駄で歩けなくなる」――山口那津男同党代表は2月26日、都内で講演し連立政権の中での公明党の重要性を強調しました。これまで同党は自民党の主張を何でも大筋で受け入れてきたことで、マスコミから「踏みつけられてもついていく”下駄の雪”」と揶揄されてきましたが、最近、集団的自衛権行使容認のなどを巡って党内不満が高まっているため、山口氏は首相をやんわり牽制したものです。自民党内でもエネルギー政策などに慎重意見が多い上、連立後15年以上の一体的政局運営、選挙協力などの実績から蜜月関係にひびが入るのは得策ではないとの意見が強くあります。中国瀋陽市で3日から日朝赤十字会談が1年7ヶ月ぶりに再開され、日本人の埋葬遺骨返還や遺族墓参などを協議しましたが、拉致問題の話し合いは先送り。日韓首脳会談も慰安婦を巡る「河野談話の検証」問題で韓国が態度を硬化させ、中国と同様に首脳会談の実現は困難です。米大統領来日前の日米TPP交渉も難航しており、集団的自衛権などの内政に加え外交も難しい局面で、首相には内憂外患の日々が続きます。予算案が衆院を通過した2月28日夜、首相は公邸での参院議員との会食で、「内閣発足から1年以上たっており、通常国会を終えた後か、臨時国会前かにに人事を行う」と明言しました。首相の党総裁任期は来年9月末ですが、首相は予算成立のメドが立ったため、人事断行で党内を引き締めて求心力を高め、来春の統一地方選を勝利、総裁選で再選を果たす決意を表明したものです。