第312回(11月16日)鉄道や原発輸出 小泉氏は原発ゼロ強調
 臨時国会は、早くも会期53日間の折り返し点を過ぎ、後半戦に入りました。安倍首相は10月末にトルコを再訪。海底地下鉄完成式に出席して鉄道・原発などインフラ輸出のトップセールスを展開したり、初秋には「意志の力で安保政策の立て直しを必ず実行する」と自衛隊幹部に訓示したり意気軒昂。今週末にはラオス、カンボジアを訪問しASEAN(東南ア)外交を完結します。しかし、国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案は衆院を通過したものの、特定秘密保護法案や首相が「成長戦略実現国会」と位置づけて意欲を燃やすデフレ脱却の「産業競争力強化法案」、「国家戦略特区法案」、「社会保障制度改革プログラム法案」など重要法案の成立見通しは立っていません。省庁の幹部職員人事を一元管理する「内閣人事局」を作る国家公務員制度改革関連法案などを含めると、重要法案は28本、条約は13本もあります。会期延長なしでの成立は不可能ですが、終盤国会では企業再編を促す経済対策など、14年度の予算編成と税制改正に取り組まねばならず、大幅延長は出来ません。緊迫した政局ですが、皆様の変わらぬご支援、ご教唆をお願い申し上げます。

トップセールスでトルコ再訪問
 「日本とトルコの協力で達成された歴史的業績だ。不可能を可能にする情熱に敬意を表したい」――首相は10月28日、イスタンプール市内ホテルでのレセプションでボスポラス海峡の海底地下鉄の完成について祝辞を述べました。同29日に開通した同地下鉄(全長13・6キロ)はオスマン帝国時代からのトルコの悲願だったアジアと欧州の両大陸を結ぶ新たな大動脈。大手ゼネコン・大成建設が受注し、コンクリートブロックを数センチ以内の誤差で沈めて繋ぐという高難度の技術を駆使して工事を成功させました。首相は鉄道や原発などのインフラ輸出のトップセールスに力を入れており、財界首脳を引き連れて開通式に臨むトルコの訪問は今年2回目。インフラ輸出はアベノミクス3本目の矢の成長戦略の柱に位置づけています。読売によると、安倍首相は就任以来、中東や東欧などの新興国を相次いで訪問してトップセールスを展開、2020年の受注目標を現在の3倍、30兆円に設定、鉄道分野では7兆円を見込み、原発などエネルギー分野は9兆円を目指しています。

2プラス2は米・豪に次ぎ3国目
東電福島第一原発の汚染水流出という逆風が吹く中でも、トルコでは安さが売りの中国や韓国勢に対し、高い技術力と人材育成込みのパッケージで原発受注に競り勝ちました。インドでは最大都市ムンバイと工業都市アーメダバードを結ぶ高速鉄道(事業規模最大1兆円)の整備で共同調査を行うことで一致、鉄道車両や運行システムだけでなく、管理や保守点検でも協力を提案しているようです。首相がプーチン露大統領と4月に首脳会談を開き、トップダウンで開催を決めた日露の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)は1、2日の2日間、東京で開かれ、@テロ・海賊対策A防衛協力Bサイバー安全保障協議の立ち上げ――など11項目で合意。海洋で影響力を広げる中国を念頭に海上安全保障の協力強化でも一致しました。2プラス2は米国、豪州に次ぐ3カ国目で平和条約の未締結国間では異例。岸田文雄外相は協議冒頭、「安全保障、防衛分野の協力に新たなページを開く」と意義を強調。首相も2日、ラブロフ外相、ショイグ国防相と官邸で会談し、「両国の信頼関係を大きく発展させるもので、テロ・海賊対策の共同訓練実施など具体的成果があった」と評価、北方領土問題の解決に向けて平和条約締結交渉を進展させたい意向を表明しました。

首相・閣僚ら負担軽減の国会改革
中国の習近平政権が「シルクロード経済ベルト」と称し中東各国を訪問、エネルギー輸入ルートの拡大に懸命ですが、首相も負けずにインフラ、資源外交を展開しています。しかし、首相のトップセールス外交は2つの点で波紋を描きました。1つは野党の出席要求を無視してトルコ訪問を優先させたことです。29日の衆院本会議では産業競争力強化法案の趣旨説明と質疑が行われましたが、「会期の短い臨時国会中に3日間も費やす外遊は極めて強引だ」、「成長戦略の要の法案と言いながら法案審議は部下任せにするのは問題だ」と野党は反発しました。そこで国会改革を巡る与野党協議が10月31日から始まり、自公両党は首相の衆参両院予算委への出席回数に上限を設けることを柱とする改革案を提示しました。具体的には@党首討論以外の首相の委員会出席を原則として予算委に限定、出席回数・出席時間も各党一巡の基本的質疑に絞るA閣僚も予算委での質問が無ければ出席は不要で、海外出張など重要な公務がある場合は副大臣が各委で答弁B重要な政策を審議する「国家基本問題調査研究会(仮称)」を設置、研究結果を公表――などに力点を置いています。

原発ゼロの小泉発言も波紋描く
 「通年国会の検討」を提唱する民主党や日本維新の会は、党首討論の充実や首相と閣僚の国会主席を減らす方向では与党と一致していますが、他の野党は「国会軽視に繋がる」と首相らの負担軽減に反対。結局、期限を区切らずに今国会で協議を重ね「与野党の合意を得たものから次期通常国会で実行に移す」ことになりそうです。もう1つの波紋は首相がトルコに原発技術の売り込みを図っているさなか、小泉純一郎元首相が講演で「原発ゼロが望ましい」と発言したことです。8月中旬にフィンランド・オンカロの核廃棄物最終処分場を見学した小泉氏は、核の最終処分が10万年もかかり容易でないと知らされ、10月1日に名古屋市内で講演し、「今こそ原発をゼロにして循環型社会を目指すべきだ。原発ゼロの方針を自民党が打ち出せば一挙に国民の機運が盛り上がる」と檄を飛ばしました。困惑気味の政府自民党は石破茂幹事長が「引退した小泉氏の発言で党の政策が変わることはない」と静観しましたが、首相は9日のBS朝日で、「日本は島国だ。ドイツは(原発を)辞めてもフランスから電気を買える。それが出来ない日本は責任あるエネルギー政策を考えねばならない」と述べ、「現段階でゼロを約束するのは無責任」と指摘しました。

細川氏も原発ゼロを国民運動へ
これに対し野党は「危機意識を共有できる偉大な政治家が現れた。大きな勇気を頂いた」(渡辺喜美みんなの党代表)、「全面賛成。党の機関紙・赤旗に登場してほしい」(市田忠義共産党書記局長)、「政治の現場を離れ公平な高みから眺めて脱原発に至ったのだろう」(小沢一郎生活の党代表)、「民意は脱原発と確信したから原発ゼロに傾いた」(福島瑞穂前社民党首)と大歓迎。同党の吉田忠智新党首は小泉氏と会い、連携について意向を探りました。小泉氏は12日、日本記者クラブで記者会見し、「首相の権力は絶大だ。原発ゼロの方向に権力を使ってほしい」と政策転換を促し、「即ゼロがいい。首相は在任中に方向性を出した方がいい」と述べ、首相の再稼働方針に反対しました。細川護煕元首相も同日付けの東京新聞のインタビューで、「ごみの捨て場がないのに再稼動するのは犯罪的な行為だ」と批判、小泉氏の「原発ゼロ」に向けた活動を国民的な運動に発展させたい考えを表明しています。

特定秘密保護法の見通し立たず
「一連の小泉発言は野党の存在感を一段と希薄にする狙い、といぶかる見方もある」と東京新聞は指摘しましたが、これまで与党ペースで進んだ国会で、原発再稼動反対を叫ぶ野党を逆に勢い付かせたことは事実です。政府は外交・安保政策の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案と特定秘密保護法案をセットで国会に提出。衆院の「国家安全保障特別委員会」(額賀福志郎委員長)で集中審議をした結果、NSC設置法案は自公民3党が「情報提供を義務付ける規定を設ける」修正案に合意、7日に衆院を通過しました。だが、司令塔に不可欠な機密保全態勢を強化する特定秘密保護法案は野党の反対が強く、今国会で成立の見通しは立っていません。同法案は前回HPで詳述したように防衛、外交、スパイ防止、テロ対策の4分野をチェックし「特定秘密」とそれを取り扱う人を指定、情報漏洩者に米軍の機密漏洩並みに最長10年の重罰化を図る内容です。これに公明党は憲法が保障する基本的人権の「表現の自由」「国民の知る権利」に不可欠な「報道・取材の自由」への配慮を法案に明記するよう要求。政府自民党は「正当」な業務なら処罰しないとし、公明要求を受け入れました。これで「スパイ天国」の汚名は返上されそうです。

戦前の軍機保護法と野党反対
しかし、野党は「積極的平和主義を唱え、集団的自衛権の解釈改憲を目指す首相の狙い通りだ」、「日清戦争直後に制定、日中戦争開始後に全面改正された軍機保護法と同じで言論統制に使われる」、「特高警察を復活させる警職法の再来だ」、「東電福島第一原発の汚染水漏洩事故もテロ対策の特定秘密になりかねない」、「環太平洋連携協定(TPP)交渉の情報も秘匿される」――と識者や法律家の支援を得て猛反対しています。特定秘密は「指定期間が5年で何度も更新でき、30年を超える場合は内閣の承認が必要」と規定していますが、民主党は国民の「知る権利」を担保するため、30年後は全ての情報を公開するよう情報公開法改正案を提出、これに公明党が賛同、日本維新の会、みんなの党も前向きな姿勢を示しています。民主改正案は行政機関が公文書を非開示とした場合、裁判所が是非を判断する「インカメラ審理」制度や、首相が開示を勧告できる制度を導入するなどが柱です。かくして後半国会は特定秘密保護法案の成否を巡り与野党が激しい攻防を展開しています。