第310回(10月16日)苦渋の決断 賃上げ・雇用拡大で正念場
  安倍首相が「成長戦略実現国会」と位置づけた臨時国会は、10月15日から12月6日までの53日間開かれ、@消費税増税と経済対策A東京五輪招致と関連公共事業B環太平洋連携協定(TPP)交渉C東電福島原発の汚水漏洩と原発再稼働問題――などを巡り与野党が激論を展開します。首相は1日の日銀短観が3期連続改善されたのを受けて消費税率を17年ぶりに来年4月から8%へ引き上げ、景気の腰折れを防ぐため5兆円の経済対策と1兆円の減税を行うと発表しました。野党は「法人税減税は大企業の内部留保を厚くするだけで賃上げには回らない」、「五輪名目のバラマキ公共事業が進む」、「東京に人手や資材が一極集中し被災地復興が妨げられる」など五輪招致に絡めて汚染水漏洩や原発存続問題を厳しく追及する構えです。ねじれ国会の米国では暫定予算が共和党の反対で1日の期限までに成立せず、政府の機能が17年ぶりに停止、オバマ大統領はTPPの首脳会合を欠席。6日に現地入りした安倍首相が日米共同で「仲裁役」を果たそうとした思惑が崩れました。順風万帆の安倍政権ですが、賃上げ、雇用拡大にタイムラグが生ずれば、折角のアベノミクスが失速する恐れもあり、まさに正念場。なお一層のご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

5兆円規模の経済対策と1兆円減税
 「増税で日本経済は景気低迷の谷へ逆戻りしないか、最後の最後まで考え抜いた。経済再生と財政健全化を両立させていく」――首相は1日夕の記者会見で消費税率を来年4月から8%へ引き上げる苦渋の決断を語りました。江戸時代中期の長州藩(首相の地元)の毛利重就藩主が検地による増収を新田開発などの投資に回した故事を挙げ、「未来への投資が明治維新の原動力になった」と述べ、年内にまとめる5兆円規模の経済対策を賃金上昇や雇用拡大に重ねたい思いをにじませました。前号で詳しく説明したので簡潔に述べますが、政府の経済対策は増税による景気の腰折れを防ぐため、@住民税非課税の低所得者2400万人に現金1万円支給などの簡素給付措置A住宅購入者に最高30万円の給付金制度を創設B最新設備を導入した企業の法人税に設備投資減税C賃金アップした企業の法人税に所得拡大促進税制の拡充D東日本大震災被災地の復興を加速――など1兆円余の減税措置を含めると6兆円規模です。消費増税3%分は8・1兆円(1%は2・7兆円)ですから2%分を経済対策に充当します。これを今年度補正予算に組み入れ来年度予算案とともに編成します。

復興法人税廃止前倒し年内結論
 与党内で論議を呼んだ首相肝いりの復興特別法人税廃止の1 年前倒しは、自公両党税調の協議で、「国民の理解を得る。震災復興財源を確保する。企業賃上げの効果を検証」――の3条件をクリアできるかどうかを検討し12月中に結論を出します。世界一高い法人税の実効税率の軽減についても来年度施策で検討を継続することになりました。10%上乗せした復興特別法人税の廃止前倒しは、復興予算に8000億円の穴が開くため、伊吹文明衆院議長は民放番組で「財源確保に建設国債を発行すればよい」と提言しました。消費増税による家計負担額は年収250万円以下の世帯で5.5 万円、400〜450万円世帯で6.5万円、1千万円世帯で11万円となり低所得者ほど負担が重い逆進性の税制です。野党は@長期デフレで法人税を払えるのは3割の大企業だけだA法人税減税は大企業の内部留保を厚くし賃上げには回らないB7割の中小企業に設備投資や所得拡大促進の法人税減税を実施しても賃上げは期待できないC25年間の個人所得税、10年間の住民税の復興特別税は据え置き、わずか3年間の復興特別法人税を2年で廃止するのは大企業優遇税制だ――と猛反発。民主、日本維新の会、生活の党は「増税は賛成だが経済対策に反対」。みんなの党は「増税、対策ともに凍結し、公務員制度改革を優先」。共産、社民両党は「双方とも絶対反対」を唱え、首相の所信表明演説に対する代表質問や衆参両院予算委審議で徹底的に追及する構えです。

経済対策の重要法案メジロ押し
 臨時国会ではデフレ脱却に向けた設備投資や企業再編を促す経済対策関連の「産業競争力強化法案」(仮称)、「国家戦略特区法案」、「社会保障制度改革プログラム法案」、「特定秘密保護法案」、内閣官房が高級官僚600人の人事を一括管理する「公務員制度改革法案」、「農地法改正案」など新規重要法案のほか、「国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法案」、「電気事業法改正案」、「生活保護法改正案」など前国会で廃案または継続審議となった法案を成立させる方針です。農地法改正案はTPP交渉を睨んだ農業強化策として、地方銀行などが作る「投資事業有限責任組合」(ファンド)が農業法人へ直接、投資することを解禁するものです。現行法でファンドの出資は農家の自立性を危うくしかねないなどと反対論が強く、認められずにいましたが、新たに農業を始める意欲のある法人が農地を借りるなど規模を拡大する際の資金調達を助けるため、公的な融資制度を改善します。農業の平均年齢は66・2歳の高齢化に達していますが、この改革を通じ民間活力を農業経営に呼び込み、若者の農業参入を促して農業を活性化させ、安い海外農産物への競争力を高める考えです。

オバマ氏欠席で仲裁役の思惑外れ
  TPP交渉はインドネシアのバリ島で開かれ、3日からの閣僚会合に次いで8日の首脳会合で「年内妥結に向け、残された課題の解決に取り組む」との声明を採択して終了しました。しかし、議長を務めるはずのオバマ米大統領が国内事情で急遽欠席したため、6日に現地入りした安倍首相は経済大国として日米が共同で「仲裁役」を務めようとした思惑が外れ、声明には具体的な道筋を示す「大筋合意」の文言は明記されませんでした。米国では2014会計年度(13年10月1日から1年間)の暫定予算が共和党の反対で1日の期限までに成立せず政府の機能が17年ぶりに停止状態。米議会は上院が与党の民主党、下院は共和党優位のねじれ国会で、対立の根底には来年の中間選挙を狙い、「オバマケア」と呼ばれる医療保険制度改革など社会保障を重視し財政支出を通じて景気回復を図るオバマ民主政権と、歳出削減重視・増税反対を掲げる共和党が、根本的な違いから衝突しているからです。

部分品目の関税撤廃に農協反対
 そればかりか米政府の債務が17日に法定の上限に達する見通し。喫緊の課題は上限引き上げ問題ですが双方の対立が激しく、このままでは債務不履行(デフォルト)となり、ドル安・円高など世界の金融市場が大混乱に陥り、リーマン・ショック以上の「恐慌」の危機が訪れる恐れもあります。TPP交渉で政府自民党はコメ、麦、乳製品、牛・豚肉、甘味資源作物の重要5品目を関税撤廃の例外とする「聖域」を求めていますが、参加国間では関税、医薬品の特許など知的財産、国有企業、環境の43分野を巡り激しく対立、7月に遅く参加した日本は不利な状況に追い込まれています。首相は「国益上、守るべきものは守る」と述べていますが、重要5品目を分類すると原料米や煎餅の加工品などコメだけで60品、乳製品200品以上、牛・馬肉でも100品程度と全体で586品目。分類品目の部分的な関税撤廃をするよう聖域の譲歩を迫られており、農協(JA)は公約違反と反対しています。参加国は12月に閣僚会合を開き妥結の最終調整をしますが、決着は先送りされそうです。

成功にはベアと雇用拡大がカギ
 「大阪都構想」を争点とした9月29日の堺市長選は「都構想」に反対した自民支持、民主推薦の竹山修身・現市長が日本維新の会の新人・西林克敏元市議を破り、再選を果たしました。「都構想」は維新にとって「一丁目一番地」の政策だっただけに、5万票超の差で敗れた橋下徹・大阪市長(維新共同代表)のショックは大きく、都議選、参院選に続く敗北で求心力が低下、国政への影響力は急速に薄れました。安倍政権は選挙勝利に加え、消費増税の決断でも内閣支持率が下がらず、長期政権に向けて順風満帆の航海を続けています。しかし、派閥領袖に相談しない党人事など「首相一強」「政高党低」の政治姿勢、霞が関を抑え込む官邸主導の政策が反発を招き、友党公明党も集団的自衛権を巡る解釈改憲や大企業優先の経済対策などを巡って隙間風が吹き始めています。オバマ政権は議会工作に失敗してTPP首脳会合に欠席し、同政権が掲げてきた「太平洋重視戦略」は破綻しかけ、一瞬にして苦境に立たされました。安倍政権も「経済再生と財政健全化の両立」という景気の好循環策には一時金の支給ではなく、来年4月からのベースアップと雇用拡大が肝要で、財界の協力がなければアベノミクスは失速しかねません。首相は臨時国会で正真正銘の正念場に立たされており、自民党も背水の陣で戦う態勢を固めています。