第309回(10月1日)予定通り消費増税断行 波乱万丈の国会
 政局秋の陣。首相は2020年五輪招致を追い風に、来年4月から8%への消費税率の引き上げを決意。景気の腰折れを防ぐため増税の2%分5兆円規模の経済対策をまとめました。
9月23〜27日間は米・加両国を訪問、カナダではシェールガスの日本輸出に向けた協力強化で一致、ニューヨークでは国連総会で一般演説をするなど外交にはなおも意欲的です。経済対策の柱は低所得者への現金給付策や固定資産税減税と企業向け減税、それに国土強靭化のインフラ整備策。これによって15年続いたデフレを脱却し経済再生を図る戦略です。しかし、消費税増税法は少子高齢化で膨張し続ける年金や医療、介護など社会保障制度を安定させる目的で自公民3党が合意し制定されており、野党は「合意に矛盾する」と反発しています。首相は五輪招致で福島第一原発の汚染水漏洩について、「コントロールされている。決して東京にダメージを与えない」と明言しましたが、東電は「制御できていない」と首相発言を否定しました。首相は「積極的平和主義」を唱え、集団的自衛権行使の容認や「国家安全保障会議(日本版NSC)」の創設を目指しており、野党は10月15日開幕の臨時国会で激しく追及すると見られます。さらなるご支援、ご教唆をお願い申し上げます。

五輪招致はアベノミクス第4矢
 「状況はコントロールされ、汚染水の影響は福島第一原発の港湾内0・3平方キロ内にブロックされている。首相として安全と未来に持つ責任を完全に果たす」――首相はブエノスアイレスの五輪招致プレゼンテーションで熱弁を振るいました。マドリード( スペイン)が経済不安とドーピング問題、イスタンブール(トルコ)が隣国シリアの中東危機に揺れる中、東京招致が日増しに強まる過程で発覚した汚染水300万トンの漏洩問題。外国メディアが一斉に東京の安全を危惧したのに対し、政府は直ちに470億円の対策費を計上、五輪委総会で首相は「東京にダメージを与えることは許さない。私が保証する」と東京五輪の「安全・安心・確実」を訴えました。閉塞感漂う「失われた20年」、「15年続いたデフレ」を脱却し、財政を健全化し日本を再生するアベノミクスの第4の矢として首相はオールジャパンで五輪招致に取り組みました。東京五輪の経済波及効果は、選手村などの建設投資、新型テレビなど家電の買い替え、五輪関連グッズの販売、外国人観光客の増大などの五輪特需で、都の試算の3兆円よりも多い4・2兆円になると証券業界は見込んでいます。

東京集中・被災地復興妨害と野党
 ところが、東電の山下和彦フェロー(技術顧問)は民主党の会合で「汚染水は制御できていない。港湾外に漏れ出ている」と首相発言を否定し、波紋を広げました。専門家は、海側に流出を食い止めるために建設中の全長800メートルの遮水壁について、逆に1〜4号機周辺の地盤に水が溜まり地震で液状化する恐れを指摘し、政府が地元を説得中の発電機周辺土壌を凍らせる凍土の遮水壁(1400メートル)についても、「氷は水よりも体積が大きく、霜柱と同様、建屋が浮き上がってしまう」と別の弊害を指摘しました。経済学者は消費増税断行と東京五輪招致で「日本経済はルビコンを渡った」と述べており、首相はもはや後戻りできません。臨時国会の早期開催を求める野党は27、30日の閉会中審査にこぎつけ、衆院経済産業委に東電の広瀬直己社長を招き、「汚染水処理を巡る首相発言は強弁だ」、「遮水壁設置をなぜ先送りしたか」などと責め立てました。首相は外交にも熱心で、23日にはカナダでハーパー首相と首脳会談を開き、自衛隊とカナダ軍が燃料・食料など物資を融通するための物品役務相互提供協定で合意、カナダ産シェールガスの対日輸出に向けた協力でも一致しました。26日の国連総会一般討論演説では、既に9500万ドル支援したシリアの難民支援に、さらに6千万ドル(約59億円)を追加支援すると表明しました。

実質増税1%、刻み増税に配慮
 「あらゆる景気指標を勘案して、最後は私が最終判断する」――首相は10月1日発表の日銀短観を最終指標とし、2014年4月から予定通り消費税率を5%から8%に引き上げる決断を下します。9月9日発表の4〜6月期GDP(国内総生産)は、物価変動を除いた実質で、年率換算3・8%増と連続プラスの高成長を示したほか、「集中点検会合」で有識者の7割が消費増税に賛成した、などが決断の背景にあります。増税に伴う景気の落ち込みを避け、低所得者の負担を軽減するため、増税3%の約8兆円増収のうち2%分に相当する5兆円規模の経済対策を実施します。これは、首相の経済ブレーンでアベノミクスの理論的支柱だった浜田宏一米エール大名誉教授、本田悦朗静岡県立大教授の両内閣官房参与が有識者懇で増税時期の延期か、1〜2%に縮小し刻み増税にすべきだと提案したのを受け、3%増税のうち2%を景気の腰折れ策に回し、実質的な増税は1%にとどめることにしたものです。

企業減税など5兆円の経済政策
 社会保障と税の一体改革関連法(消費税増税法)は文字通り、膨張し続ける年金や医療、介護などの社会保障制度を維持・安定させる目的で制定されました。しかし、1997年4月に橋本龍太郎政権が消費税率を3%から5%に引き上げた際は、山一證券などの金融破綻やアジア通貨危機も手伝って、実質GDPはマイナス3・7%まで落ち込み、15年長期デフレの出発点になりました。このため、同法の付則18条には「物価が持続的に下落する状況からの脱却」を図り、「総合的な施策その他の必要な措置を講ずる」と明記。11〜20年度の平均成長率を名目で3%程度、実質で2%程度に目指し、成長戦略や防災・減災に資する分野にも資金を配分できるようにしています。政府与党はこの付則を大義名分に9月末、5兆円の経済政策をまとめました。既に住宅ローン減税、住宅購入者への個人向け現金給付や自動車取得税の廃止などは決定済みですが、新たに@住民税が非課税の低所得者2400万人前後を対象に現金1万円を、「児童扶養手当」などを受け取っている人には1万5千円を支給するA最新設備を導入するか、投資額に対する利益が15%以上の企業には法人税を減税B従業員の賃金を14年度に2%以上、15年度に3%以上、16,17年度は5%以上引き上げる企業を対象に給与増額分10%の法人税を減税C東京五輪に向けて首都圏3環状道路や京浜道整備D農業の6次産業化を推進――などを打ち出しました。

軽減税率の早期実施求める声も
97年の増税時には、低所得者や高齢者の一部に1〜5 万円の現金を給付しました。今回も円安が進行、ガソリンや輸入食品が高騰して電気代値上げにも波及しているのに、企業の賃上げが行われず庶民の負担感が強まっているため、低所得者に現金給付するものです。高速道料金の割引制度も期限が切れる来年4月以降、割引率を縮小し継続する方針です。政府は15年10月に税率を10%へ引き上げる際、食料など生活必需品の税率を据え置くか、軽減税率の適用を検討していますが、公明党が8%アップの段階からの実施を要求していることから、自民党税調の協議でも軽減税率の前倒しを求める声が上がりました。こうした経済対策に加え、首相は「2014年度まで上乗せする復興特別法人税を1年前倒しで廃止する」ことにご執心。甘利明経済再生相は「法人税の実効税率(約36%)は国際水準に比べ高い。実効税率も引き下げて投資や雇用を拡大すべきだ」と主張、茂木敏充経産相が支持、首相も理解を示しました。しかし、公明党は個人の所得税に25年間、住民税に10年間の復興特別税が存続されるのに、財界だけ優遇するのはおかしいと反発。麻生太郎財務相も当初は「企業を優遇しても増収分は内部留保に回るだけで賃上げには向かわない。財政再建目標の達成が困難になる」と難色を示しましたが、首相は譲らず、「デフレ脱却の鍵は企業収益、賃金、雇用の拡大にある」とし20日には首相官邸で政労使会議(年5回開催)の初会合を開き、米倉弘昌経団連会長、古賀伸明全労会長ら労使代表に賃上げを求めました。結局、首相と財政相らの綱引きが続いた末、麻生氏が折れて復興特別法人税の廃止を承諾。自民党税調に諮り、税調は30日、野田毅会長に公明党との調整を一任。
 自公両党は @ 好景気を作り上げるため、復興法人税の1年前倒しを検討   
          A 財界に賃上げの協力を要請し国が効果を検証  
          B 廃止分の復興財源は13年度補正予算で穴埋めーーーーで合意しました。  
 実効税率軽減を巡る政府与党内調整は難航したまま、結論を予算編成に絡む年末に持ち越しました。

妥協への進展あったが先送りか
一方、懸案の環太平洋連携協定(TPP)交渉は18から4日間、米ワシントンで非公開の首席交渉官会合が開かれ、10月のAPEC首脳会議で成果を発表する「大筋合意」に向けて協議しました。だが、具体的内容はほとんど明らかにされずに21日閉幕しました。鶴岡公二首席交渉官は記者会見で、10月8日にインドネシア・バリ島で開く首脳合意に向け「各国が多くの課題について妥協に向けた進展があった」と述べたものの、バリ島の閣僚会合や首脳会議では「具体的な結論を出すための交渉は予定していない」と語り、交渉は先送りされる見通しを示しました。非公開で全容は不明ですが、協議では難航しない「通信インフラ」などの分野は進展し、関税撤廃の「物品市場アクセス」、医薬品特許の「知的財産」、「環境」などの難航分野は調整が進まなかった模様。日本を除く11カ国は関税をなくす品目の割合を示す貿易自由化率を95%以上求めていますが、日本は重要農産品5品目の関税維持を堅持しつつ、ブルネイでは自由化率を80%台前後へ引き上げました。しかし、米国相手の2国間折衝で鶴岡首席交渉官は80%台後半を認める高めの水準を提示したもようです。10月1〜8日まで、APECの関係閣僚や首脳らの会合がバリ島で並行して開かれます。

公共事業大盤振舞いと野党反対
 政府与党は10月15日開幕の臨時国会を「成長戦略実現国会」と位置づけ、デフレ脱却に向けた設備投資や企業再編を促すこれら経済対策関連の「産業競争力強化法案」(仮称)、「社会保障制度改革プログラム法案」、「特定秘密保護法案」など新規重要法案のほか、「国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法案」、「電気事業法改正案」、「生活保護法改正案」――など廃案を含む継続審議の法案を成立させる方針。自公民3党は合意の上で増税法を成立させたため賛成ですが、当時の野田佳彦首相や安倍首相も「増収分は全額、社会保障費に充てる」と明言してきただけに、民主も含め、野党はこぞって「付則は抜け道で増税目的と矛盾する。公共事業に大盤振る舞いをしようとしている」と反発。とりわけ共産、社民など中小野党は「国民には増税の負担強化、大企業には減税優遇で、土建国家復活の“打ち出の小槌”になる」と猛反対しており、地方自治体も固定資産税が減税されるとドル箱の財源が失われるため、反対しています。10月国会は波乱万丈の展開が予想されます。石破茂幹事長は「謙虚・親切・丁寧・正直に国民の信任を頂くため微力を尽くす」と常在戦場の決意を述べており、臨時国会では我々も一丸となって野党と対決する覚悟です。