第307回(9月1日)消費増税決定の正念場 外交も目白押し
 10日間の長期夏休みを取った安倍首相は爽やかな気分で秋政局に立ち向かっています。9月も外遊花盛り。ロシアで開く20カ国・地域(G20)首脳会議でアベノミクスの経済効果を説明し消費増税実施の決意を表明。続いてアルゼンチンの五輪委総会、ニューヨークの国連総会、10月にASEAN諸国訪問と目白押し。しかし、首相の歴史認識と『右傾化』に中韓両国は反発しており、両国との首脳会談は望み薄。日ロ首脳会談での北方領土交渉も難航しそうです。10月中旬に開く予定の臨時国会では、来年4月からの消費税増税実施の可否、2014年度予算案の編成、集団的自衛権の行使容認など与野党激論の課題が山積しています。首相は9月末に任期が切れる党役員人事に併せ、大幅な内閣改造を検討していましたが、報道機関によると、首相は重要政策を固めるため当面現体制を継続させて予算編成後に改造、来年1月開幕の通常国会を新体制で乗り切る構えのようです。酷暑の辛い夏が続きましたが、さらなるご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

外遊に備え長期休暇で英気養う
 首相は8月12日と15日(戦没者追悼式)の公務を除き、10日から20日まで長期の夏休みを取り山梨県鳴沢村の別荘で過ごし、財界人や閣僚、秘書官とゴルフを楽しみ、郷里の山口県長門市で墓参りをするなど存分に英気を養いました。森喜朗元首相は政権末期、文科省所管の水産学校実習船「えひめ丸」がハワイ沖で海難事故を起こした際、ゴルフ場に居て指示が遅れ、「危機管理能力」が問われて内閣支持率が急落、退陣に追い込まれました。このように首相が長期休暇を取ると政局に影響する事件が発生しがち。だが、安倍首相は参院選圧勝以来の幸運続きです。国会議員の外遊も盛んで衆院委員会派遣だけで約10班8、90人が調査活動を続けました。首相は8月24〜29日間、経済ミッションを同行しバーレーン、クウェート、カタールの中東・ペルシャ湾岸GCC諸国の3カ国とアフリカ東部のシブチを訪問しましたが、9月も外交からスタートします。5,6日のロシアのサンクトペテルブルクで開く20カ国・地域(G20)首脳会議、7日にアルゼンチンで開く国際オリンピック委員会(IOC)総会、下旬のニューヨークでの国連総会、10月7,8日のインドネシアでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議と、同9,10日のブルネイでの党南ア諸国連合(ASEAN) 関連首脳会議にも相次ぎ出席し、資源外交と東京五輪誘致のPR、自由民主陣営の価値観外交を展開するなど外遊は隙間なしです。

「不戦の誓い」に触れず中韓反発
  G20首脳会議では経済の持続的な成長と財政健全化の双方を実現するアベノミクスの中期経済計画を推進すると強調、来年4月以降の消費増税実施を事実上の「国際公約」とする方針です。しかし、肝心の2国間(バイ)の首脳会談は、沖縄県・尖閣諸島、島根県・竹島の領土紛争に加え首相の歴史認識と『右傾化』に中韓両国とも反発を強め、実現は不可能な状況です。8月15日の第68回終戦記念日に首相は自民党総裁として玉串料を私費で奉納し靖国参拝は見送りました。だが新藤義孝総務相、古屋圭司国家公安委員長、稲田朋美行革担当相の3閣僚が参拝、超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」も例年の2倍の102人、石原慎太郎氏を含め議員全体では105人が参拝しました。また首相は同日、日本武道館で開かれた全国戦没者追悼式の式辞で、近年の歴代首相が表明していたアジア諸国に対する「加害と反省」や、「不戦の誓い」には触れませんでした。これに中国の外務次官が木寺昌人駐中大使を呼び、「歴史の正義に挑戦だ」と強烈に抗議し、首脳会談の環境は吹っ飛びました。日ロ両国は8月18日から2日間、モスクワで次官級協議を開いた結果、5日を軸に首脳会談を開くことで合意しましたが、北方領土の帰属について双方の主張に距離があり、交渉進展の見通しは立っていません。

概算要求基準に30%配分特別枠
 安倍政権は8月8日に閣議了解した2014年度予算の大枠を示す概算要求基準(シーリング)に沿って予算編成作業を本格化させています。シーリングは公共事業や教育、防衛などに充てる「裁量的経費」について、13年度当初の13・2兆円より10%減らすよう求め、その上で各省庁は「減らした残りの分(要望基礎額)の30%」まで成長戦略や防災などに関連した予算を財務省に特別枠として要求できる仕組みにしました。特別枠は3・6兆円程度です。自民党は参院選の公約で道路や橋などの老朽化対策や耐震化を進める「国土強靭化」を掲げており、関連法案を次期臨時国会に提出する予定です。また尖閣諸島を巡る中国などとの緊張が高まる中で防衛費の増額が求められています。しかし、税収を大きく左右する来年4月からの消費税率引き上げの最終判断が未定であるため予算規模はまだ固まっていません。首相は8月12日発表の4〜6月期の国内総生産(GDP)速報値と9日の改定値公表を待って10月中旬ごろ増税実施か否かの最終決断を下します。

景気は大手に偏り設備投資停滞
 「(増税の)金の卵が先か鶏が先か、景気が腰折れしないかを見極める。1%刻みの増税が望ましい」――経済学者を集めた18日のNHK日曜討論で本田悦朗内閣官房参与(静岡県立大教授)は消費増税に慎重論を唱えました。4〜6月期のGDP速報値は年率換算で2・6%増の3四半期連続プラス成長でしたが、好景気は大手輸出企業に偏り設備投資は停滞、中小企業以下の賃金上昇は望めず円安による輸入物価の値上がりでコストプッシュインフレの危惧が深まり、庶民の不満は増大しています。総務省は同時期のパート・派遣など非正規労働者は最多の1881万人で前年より106万人増えたと雇用の改善を強調しましたが、失業率も3・9%で4%台は変らず非正規が増えた分は正規雇用が減っています。民主党政権に対する失望感から自民党は参院選で圧勝しても大手紙世論調査の内閣支持率が軒並み数%下がったことを見れば、国民の全面的な信頼を回復していないのが現実。石破茂自民党幹事長は両院議員総会などで驕らぬ政局運営を呼びかけました。

成長戦略に投資減税、法人税減免
 デフレ脱却と賃金上昇の合間のタイムラグを解消するには有効な成長戦略を一刻も早く構築しなければなりません。政府は20日に開いた自公両党の税制調査会に関係省庁が投資減税の対象とすべき項目を示し、税制改正論議を本格化させました。議論の中心は企業が国内で設備投資をした費用を初年度にまとめて経費(損金)として計上できる「即時償却」の拡充策。初年度に支払う税金が減る分、新規投資に回すことが期待されます。老朽化した社屋や設備の更新を行う際、耐震性や省エネ対応で一定基準を満たした場合の法人税や固定資産税の減免なども議論し、9月中にまとめる成長戦略に関する税制大綱に盛り込む方針です。しかし、企業の優遇策には野党が猛反対です。首相は夏休み中も本田氏と同じく「1%ずつの刻み消費増税」と1年ずつ実施先送りを唱えている経済ブレーンの浜田宏一(米エール大名誉教授)を別荘に招き増税のタイミングを協議しました。浜田・本田・堺屋太一氏ら11人の内閣官房参与は「アベノイレブン」と呼ばれる側近です。昨年成立した消費増税関連法には「経済状況で見直す」との“景気弾力条項”が盛られており、浜田、本田両参与と財界首脳、労組代表、経済学者ら有識者60人は26日から6日間、「集中点検会合」を開崔。石破幹事長は「自民党も統合的な形での議論の場が必要」と述べました。首相はこれら提言や10月の日銀短観が示す物価や金融市場の動向、賃金上昇と税収増見通しなどをじっくり見て同月7日のAPEC会合前に消費増税を断行するかどうか、決断を下します。

執行部続投させ秋改造見送りか
 首相が当初描いた党役員・内閣改造人事では、昨年秋の衆院選、先の参院選を圧勝させた功労者である石破幹事長の再任をいち早く内定、大幅改造を検討していましたが、党役員、閣僚の交代が少数であれば更迭と見られるし、玉突き人事なら小規模では済まされないことから執行部は続投させて秋改造は見送り、政府の副大臣・政務官や党部会長人事だけは中堅・若手に経験を積ませるために実施するだろうとマスコミは見ています。確かに参院選では自民党支持団体が推す候補が多く当選、各部会などからの公約実現の予算増額要求が強く、改造の新閣僚では手に負えません。また、首相は官邸に外交・防衛政策の司令塔「国家安全保障会議」(日本版NSC)を年内に設置する考えです。前通常国会に同設置法案を提出しましたが継続審議になっています。政府は設置法案に併せ外交・防衛などの機密情報の漏洩を防ぐため、情報管理の徹底を目指す特定秘密保全法案を秋の臨時国会に提出する予定ですが、情報漏洩した場合の罰則強化が主な内容であるため、民間の平和団体は「国民の知る権利の制限やプライバシーの侵害が懸念される」と反発を強めています。首相は国会答弁のためにもベテラン閣僚の改造は見送りそうです。いずれにせよ秋の国会は成長戦略、TPP交渉、集団的自衛権などを巡り野党が厳しい論戦を挑み緊迫しそうです。

長崎の教会群が世界文化遺産へ
 ところで、長崎県には朗報が入りました。文化審議会は8月23日の特別委員会で、2015年の世界文化遺産登録を目指す「長崎の教会群とキリスト教関連施設」(長崎・熊本両県)を、本年度に国連教育科学文化機関「ユネスコ」へ推薦する候補に選びました。ただし、内閣官房の有識者会議は、長崎造船所を含む長崎、福岡、鹿児島など九州5県と山口、静岡、岩手の計8県が関わる「明治日本の産業革命遺産」の推薦を検討。各国の推薦枠は年1件に限られているため、政府内の調整にゆだねられ、9月中にも決着する見通しです。私もユネスコ推薦に努力してきましたが、一層、実現に向け微力を尽くしたいと考えています。