第306回(8月16日)成長戦略の実現に全力 消費税増税決定へ
  自民党は参院選で与党の絶対安定多数を勝ち取り、ねじれ国会を解消しました。安倍政権は10月召集の国会でアベノミクスの第3弾「成長戦略」の実現に全力を挙げるとともに、来年4月から実施予定の消費税の8%への引き上げについても同月中に決断を下す方針です。首相は8月12日に出た4〜6月期の国内総生産(GDP)速報値や完全失業率が改善されたなどから経済再生が好転したと判断、8日に閣議了解した中期財政計画に消費増税必然の背景を盛り込み9月5〜6日にロシアで開く20カ国・地域(G20 )首脳会議で説明、理解を求める考えです。だが、かつて橋本龍太郎政権が2%アップで退陣したように消費増税は鬼門。デフレ脱却と賃金上昇の合間にはタイムラグがあって消費が停滞、税収増が見込めず庶民の負担だけが増大する危険性があり各紙世論調査では国民がこの点に不安を感じています。野党は参院選の敗北ショックでお家騒動続き。“一強多弱”の国会で野党共闘は困難視されます。消費増税の成否は一に政府与党の責任にかかっています。それだけに自民党員は猛暑の中にも成長戦略の充電に懸命です。よろしくご教唆、ご支援をお願い申し上げます。

民主、みんな、維新お家騒動続き
 民主党執行部は参院選惨敗の引責辞任をした細野豪志幹事長の後任に大畠章宏代表代行を充て、東京選挙区で公認外候補を支援した菅直人氏と、尖閣諸島問題で中国の肩を持つ発言をした鳩山由紀夫氏の両元首相の除籍処分を提案、細野氏の引責辞任と「差し違え」ようとしました。だが、7月26日の両院議員総会では菅氏には党員資格停止3ヶ月、既に党籍を離脱している鳩山氏は不問にするとの軽い処分に終わりました。むしろ、代表の海江田万里体制に不満が残るなど同党は迷走を続けています。参院選で伸び悩んだ日本維新の会も、橋下徹共同代表が同27日、「(大阪都構想など)大阪の課題に集中するため職を離れたい」と辞意を表明したのに対し、石原慎太郎共同代表が極力慰留し即辞表を撤回、党内に不満がくすぶっています。みんなの党も25日の両院議員総会で、江田憲司幹事長が民主、維新両党幹事長とひそかに会い野党再編問題で意見交換したことについて、渡辺喜美代表が「再編ありきの離合集散では失敗を繰り返すばかりだ」と叱責、江田氏が「みんなは個人商店でない。上場しなければならない」と反発。結果的に江田氏は更迭されました。

持続的成長目指す中期財政計画
 このように野党はお家騒動に明け暮れて次期国会での共闘は難しく、弱小野党の中で巨大与党の責任は益々増大しています。安倍政権の政局運営で最も重要な課題は、デフレ脱却の確実な足取りと、消費増税の実施時期決定です。財務省は6月に決定した政府の「骨太方針」に基づき、中期財政計画と2014年度予算の概算要求基準を策定、自公両党の了承を得ました。骨子は「基本認識」として、経済の持続的な成長と財政健全化の双方の実現に取り組むと強調、@国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の赤字額は名目国内総生産(GDP)比で2010年度の6・6%から15年度までに半減させ、13年度から15年度までに17兆円程度の収支改善が必要A14、15年度の国の一般会計はそれぞれ4兆円程度改善し、新規国債発行額は前年度(約43兆円)を上回らないよう努力B両年度の地方の一般財源総額は13年度計画と実質的に同水準を確保C財政健全化目標の達成が困難な場合は機動的な財政政策を行う――など。概算基準の方は公共事業など「裁量的経費」は各省庁に10%削減を求めるが、成長戦略関連などは「新日本優先課題推進枠」を新設して総額約3兆5千億円まで要求を認めることとし、8日に閣議了解しました。麻生太郎副総理・財務相は「増税の法制定時と今と比べて、悪くなった経済指標は1つもない。決めるタイミングは早い方がいい」とし、ロシアで開催のG20首脳会議で方向性を示すべきだと記者会見で述べました。しかし、中期財政計画には消費税率の引き上げについて「経済状況を総合的に勘案して判断する」とし、同計画の前提に消費増税を織り込んでいません。

首相ブレーン1%刻み増税提言
 これは、首相の経済ブレーンである浜田宏一内閣官房参与(米エール大名誉教授)が「タイミングを見るとマイナス」とし、毎年1%ずつ刻んだ増税を唱えているからです。浜田氏は読売の特集(7月31日)で、首相の金融政策でのリーダーシップを評価しながらも、「橋本内閣が97年に消費税率を2%引き上げた際、税収は想定より伸びなかった。財務省は『アジア金融危機の影響』と言っているが、消費増税が景気悪化の一因だったのは間違いない」と橋本内閣が退陣に追い込まれた事情を説明、「消費増税先送り論も一案」と述べています。田村憲久厚生労働相も「景気が腰折れして税収が増えなければ本末転倒」と浜田氏に同調するなど、閣内で不協和音が生じています。そこで首相は8日、官僚時代に1970年の大阪万博開催を手掛けた作家の堺屋太一氏を内閣官房参与に起用しました。堺屋氏は故小渕恵三,森喜朗両内閣で民間人として経済企画庁長官を務め、橋本前政権が実施した消費税2%増税を公然と批判するなど増税の慎重論者。経済再生と財政規律の維持が最大課題ですが、12日発表のGDP速報値によると、4〜6月期は自動車・電機大手の輸出が好調などで0・6%増、年率換算では2・6%増で3四半期連続プラスの成長でした。消費増税について菅義偉官房長官は、次の判断材料となる9月9日の改定値公表を待って、「秋ごろにしっかり見極め、的確に判断したい」と述べ、甘利明経済再生相も「秋の判断が順調に行くよう今は環境整備に努める」と慎重です。安倍内閣の最大使命はデフレ脱却であるため、8月下旬から消費増税による景気への影響について有識者約50人の意見を聞いいています。

社保国民会議は医療費負担増提言
 消費増税は年々1兆円ずつ増大する社会保障費の補填と充実・強化を主な狙いとして自公民3党が合意し、昨年8月に「社会保障と税の一体改革」関連法を成立させました。同関連法に基づき「社会保障制度改革国民会議」(会長=清家篤慶応義塾長)が設置され、同会議は1年以内に社会保障の将来像について結論を出し、政府に「法制上の措置」を取るよう求めています。同国民会議は6日、医療、介護サービスに関する患者や利用者の負担引き上げなど、国民に“痛み”を求める改革を内容とした最終報告書案を提出しました。負担増は@70〜74歳の医療費負担を1割から2割にA医療保険料の上限引き上げB大病院の初診・再診の自己負担増C介護保険で高所得者の利用者負担引き上げC入院患者の給食給付見直し――など世代間、世代内の公平性を確保し、制度の信頼性を高める目標を掲げています。税金を財源とする「共助」より、家族や地域で負担を分け合う「自助」を重視する安倍政権の意向を反映させたものです。「病院完結型」の医療から患者を地域全体で治し、支える「地域完結・包括ケア型」の医療を目指します。政府は改革の実施時期を明記したプログラム法案を10月の臨時国会で成立させ、2014年以降に具体的な介護、医療の改革法案を順次、国会に提出する方針です。しかし、報告書の内容を不満とする民主党は3党実務者協議から離脱しました。野党は消費増税に加え高齢者医療費の負担増が国民にダブルパンチを与えるものと強く反発、消費増税の実施を巡って国会で激しい論争を展開しそうです。

中国・北朝鮮非難の防衛白書
参院選挙中も中国の監視船は尖閣諸島周辺の領海を侵犯しましたが、政府は7月9日の閣議で中国を厳しく批判する2013年版の防衛白書と、同23日に期限が切れるアフリカ東部ソマリア沖アデン湾での海自による海賊対処活動の1年延長を決めました。白書は中国の海洋活動を「不測な事態を招きかねない危険な行動を伴い、極めて遺憾」と警告し、中国公船の領海侵入急増をグラフで示し「既存の国際法秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力による現状変更の試みを含む高圧的とも指摘される対応を示している」と激しく非難しています。また昨年12月の北朝鮮による事実上の弾道ミサイル発射は「米国本土の中・西部に到達する可能性があり、新たな段階に入った」との懸念を表明、今年2月の核実験についても「核兵器開発をさらに進展させた可能性が高いと指摘。ロシア、韓国に対しては「我が国固有の領土である北方領土や竹島の問題が依然未解決」と記しています。

集団的自衛権容認で小松氏起用
集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈に意欲を見せる首相は、「憲法解釈の番人」内閣法制局長官に小松一郎駐仏大使を起用しました。小松氏は第1次安倍内閣当時、国際法局長として、首相が設置した「安全保障の法的基盤再構築懇話会」(座長=柳井俊二・元駐米大使)の事務作業に携わり、集団的自衛権行使に関する「4類型」の立案に深く関わった人物。政府は秋の臨時国会に集団的自衛権の行使を容認する「国家安全保障基本法案」を提出、外交・安保政策の司令塔となる日本版「国家安全保障会議(NSC)」設置にも取り組む方針です。しかし、歴代内閣は憲法9条に照らし「国を防衛するための必要最小限度の範囲を超える」と解釈して「集団的自衛権は国際法上認められるが、行使は憲法上許されない」との見解を示してきました。有識者会議は@公海上での自衛隊による米軍艦船の防衛A米国を狙った弾道ミサイルの迎撃B国連平和維持活動(PKO)などでの武器使用C多国籍軍などへの後方支援――の4ケースを想定、「米艦防御」と「ミサイル攻撃」は集団自衛権の行使に該当すると指摘しましたが、9月に再開される同会議は年末に向けてさらに前向きな結論を導き出し、政府は「防衛大綱の改定に盛り込む」(小野寺五典防衛相)方針です。

防衛大綱に海兵隊機能盛り込む
これには野党だけでなく、連立与党の山口那津男公明党代表も「憲法上の歯止めがなくなる」と反対、中韓両国も安倍政権の右傾化を警戒しており、集団的自衛権の行使は国会で論議を呼び、実現のハードルは高いと思われます。防衛省は7月26日、「防衛計画の大綱」見直し案の中間報告をまとめました。小野寺防衛相は記者会見で、「日本の海洋は世界で6番目に広い。6800の島の防衛には水陸両用の機能が必要だ」と説明、敵基地攻撃能力の保有についても「憲法上許される。北朝鮮の脅威、日米間の議論、周辺国にしっかり理解を得るという様々な努力があっての能力構築だ」と強調しました。1ヶ月前の北村HPに日米合同の離島奪還訓練「ドーン・ブリッツ」作戦を取り上げましたが、中間報告は自民党が求める安全保障政策の転換策に沿って12月に改定される「防衛計画の大綱」に、離島へ強襲上陸するような「海兵隊機能」の保有を盛り込もうとするものです。また、北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に、敵の発射台などを直接叩く「敵基地攻撃能力」保有と日米間の役割分担などの検討を明記しました。離島奪還の軍事増強では上陸に使う水陸両用車や空輸できる軽量戦車・大砲の保有、那覇の第15旅団の拡充か、長崎・佐世保の陸自西部方面普通化連隊などを拡充して中央即応集団に所属させる案などが検討されます。警戒監視体制の強化では米軍の最新鋭戦闘機「グローバルホーク」のような高高度滞空型無人機導入の検討も打ち出しており、安保・外交を巡る与野党の国会論戦は激しくなりそうです。