第305回(8月1日)過半数制し自民圧勝 ねじれ国会解消
 自民党は参院選に圧勝、単独で改選定数の過半数を制したうえ、自公両党で絶対安定多数も確保、ねじれ国会を脱しました。首相は7月末のフィリピン、マレーシア、シンガポール3カ国訪問に続き、8月下旬には経済ミッションを同行しバーレーンなど中東・ペルシャ湾岸のGCC諸国4カ国を訪問、成長戦略の一環として日本企業のGCC諸国への進出を後押しする方針です。自民党全盛期の包括政党に立ち返った安倍政権は、9月末に任期が切れる党役員人事に併せ内閣改造も断行、10月召集予定の臨時国会で国民に約束したアベノミクスの関連法案を成立させる方針です。また経済指標の推移を見たうえ、来年4月の消費増税実施について同月に決断を下します。国民に「政権担当能力なし」と判定された民主党は結党以来の惨敗。日本維新の会も橋下徹共同代表の「従軍慰安婦発言」が逆風となって党勢が急降下、分裂の様相を深めており政界再編は必至です。今後3年間は国政選挙がない「黄金の3年間」と見られ、失態が無い限り、安倍長期政権が続くと予想されますが経済再生策、原発再稼動、環太平洋経済連携協定(TPP)、改憲の4課題を短期間に解決出来るかどうか。まさに正念場です。猛暑続きですが一層のご支援をお願い申し上げます。

自公で絶対安定多数も確保
 7月21日の参院選は半数の選挙区73、比例区48の計121議席を巡って争われました。自民党は65議席(選挙区47、比例18)を獲得、非改選議員50を加えると115議席。公明党確保の11(同4,同7)と同党非改選9を合わせると与党は135議席で過半数(122議席)を突破したばかりか、常任委員会の委員長と過半数を獲得できる絶対安定多数(135)に達しました。野党第1党の民主党は衆院選、都議選に次ぐ3連敗で両区合わせて17議席、細野豪志幹事長は引責辞任。共産、維新、みんなが各8。社民1、諸派・無所属3、生活、みどりの風が各0で、福島瑞穂民主党代表も辞任し「引責ドミノ」続きです。この結果、与党は本会議で委員長に中間報告を求め、委員会採決を省略して本会議採決により法案、条約などを可決することが出来、参院の“ねじれ”は解消されました。参院選ではネット選挙が解禁され政党や候補者のHPとブログの更新が出来るようになったほか、世界で2億人が使っているツイッター(つぶやき)やフェイスブックといった双方向のソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)利用の選挙運動が可能になりました。欧米や韓国では政治と民意を繋ぐ重要なチャンネルとしてネット選挙が定着、有権者が自陣営のサイトに登録したりサイト上で友達を勧誘する電子メールを送ったりして無党派層の獲得に懸命です。 

街頭舌戦と対照的なネット選挙
 首相も1日に10回程度フェイスブックを更新しました。7月3日の党首討論では首相がフェイスブックで田中均元外務審議官を批判したことに、「大宰相らしくない」と記者団に問われ、首相はむきになって「私は小泉内閣の官房長官を務めていた時に、日朝首脳会談の外交記録2回分が残っていないことが分かり、田中氏に質したら『知らない』と答えた。国の根幹に関わる政策だ。(田中氏は)外交官として間違っている」と再批判、首相の言動としては当然であると、反発姿勢を示す一幕もありました。自民党は首相をモデルに“ゆるキャラ”の「あべちゃん」が登場するゲーム「あべぴょん」やアプリ「投票へ行こう」を開発。立候補者全員にタブレット端末を配布し、若年層に政治への親しみ易さをアピールしました。民主党もスマートフォンのカメラ機能を利用して党首や幹事長が立候補者とのツーショット「ポスター」を作れるアプリを開発するなど、各党は街頭の舌戦とは対照的なSNS利用の戦いに力を入れました。成功したのは俳優の山本太郎さん。東京選挙区から無所属で立ち、ネット選挙で1200人のボランティアとカンパを集め、ツイッターのフォローワー20万人の支援で当選しました。だが今回の投票率は、59・32%の戦後最低だった昨年衆院選よりもさらに悪く52・61%。ネット選挙で若者の動員は出来なかったようです。

“3本の矢”一体的推進、経済再生
 「3本の矢で日本を覆っていた暗く重い空気は一変した。この道しかないと確信している」――首相は選挙遊説で、@大胆な金融緩和A機動的な財政政策B民間投資喚起の成長戦略の「3本の矢」を一体的に進め、日本経済を再生させると訴えました。政府と日銀は1月、2%のインフレ(物価上昇率)目標を明記した共同声明を発表。日銀は直ちに、市場に供給する資金量を倍増させ「量的・質的金融緩和」に踏み切り、政府も大型補正予算など大規模な財政出動を進めました。さらに、政府は6月、10年後に1人当たり国民総所得(GNI)を150万円に増やし、大胆な規制緩和を実現する「国家戦略特区」を創設するなどの成長戦略を公表しました。そして、選挙公約には、3年間で設備投資をリーマン・ショック前の水準の年間70兆円に回復し、日本に対する外国企業の直接投資残高を2倍の35兆円に拡大する数値目標を盛り込み、名目成長率3%、実質2%の経済成長、企業収益の改善、雇用拡大と賃金増、消費の拡大などを掲げました。公明党も参院選で、財政出動と金融緩和の効果を起動力として成長戦略を具体化する「実感できる経済回復」を公約で訴えました。 

8月の経済指標見て消費増税決断
 この3本の矢のアベノミクスが評価され、参院選で圧勝した与党ですが、選挙公約をどう経済成長に結びつけるか。安倍政権は8月12日に出る4〜6月の経済指標をもとに来年4月からの消費増税を10月に決断します。しかし、公約の「成長の好循環」を実現する舵取りは難しそうです。問題は国と地方を合わせた長期債務(借金)残高が2013年度末に約977兆円となり、国内総生産(GDP)の2倍(約1000兆円)に達する見通しです。首相は先に英国で開かれた先進国首脳会議(G8サミット)で、アベノミクスに高い評価を受けた半面、財政健全化を図るべきだとの注文も受けました。巨額債務の対応を誤れば長期金利が一気に上昇し、国際社会で円が信認を失い、経済再生が頓挫しかねません。そこで自民党政権は国と地方を合わせた基礎的財政収支(PB=プライマリーバランス)の赤字額のGDP比を、15年度までに半減させ、20年度までに黒字化する健全化目標を示しています。

凍結し一気に10%増税案も検討
 円安で燃料、小麦、食料油、電気代などが値上がりする中で、民主党は「政府の経済政策には強い副作用がある。賃金が上がらない中での物価上昇、国債の金利乱高下など多くの懸念がある」と指摘、消費増税に伴う低所得者対策では税率8%の引き上げに合わせ低所得者への給付措置を実施。10%引き上げの際にも給付付き税額措置など逆進性対策を行うと主張しました。地方税化を目指す日本維新の会は別として、他の野党は地方増税反対か、凍結を唱えています。与党の公明党は税率8%引き揚げ段階で簡素な給付措置を実行。10%引き上げ段階で食料品などへの「軽減税率」導入を目指しています。自民党も簡素な給付措置を暫定的に実施する方針ですが、軽減税率を1年半に2度も実施すれば商店など現場は混乱を来たすとし、1度に実施する考えが強まっています。このため8月の経済指標の如何によっては8%引き上げを凍結、15年10月に一気に10%に上げる案も検討しています。

成長戦略実行国会で産業強化策
 2日から7日まで召集される臨時国会は、参院の正副議長、委員長人事など院の構成に留め、本格的な臨時国会は10月に召集の予定です。退任する平田健二議長の後任は自民党の山崎正昭副議長が選出されます。首相は「黄金の3年間」を経済再生期と位置づけ、10月 国会を「成長戦略実行国会」とし、産業競争力強化法案(仮称)の早期成立を目指します。
同法案に反映させるため、自民党税制調査会の審議を前倒しし、投資減税や法人税軽減などの税制改正案大綱を早急にまとめる方針です。外交・安保政策では、「安全保障の法的基盤再構築に関する懇談会」(座長=柳井俊二・元駐米大使)を近く再開、集団的自衛権の行使を可能にする新たな憲法解釈の検討を始める考えです。第1次安陪内閣で外相を務めた麻生太郎・現財務相は当時、ユーラシア大陸の外周に成長してきた新興国を帯のよう広げて中国を取り囲み、民主主義の価値観を共有する「自由と繁栄の弧」を提唱しました。

価値観・資源・五輪外交ラッシュ
 選挙期間中も中国の監視船は尖閣諸島周辺の領海を侵犯しましたが、首相は政権奪還後も6年前の「価値観外交」を再現しようと、7月25〜27日にフィリピン、マレーシア、シンガポールのASEAN諸国を訪問、各国へのインフラ支援とフィリピン沿岸警備隊の能力向上に日本から巡視船10隻の供与を約束するなど、海洋進出を図る中国をけん制しました。8月下旬には世界有数の石油・天然ガスの埋蔵量を誇る中東・ペルシャ湾岸のクウェート、カタール、バーレーンなど4カ国を訪問し資源外交を展開します。さらに、9月にはロシアで開かれる主要20か国・地域(G20)首脳会議に続いて、アルゼンチンでの国際五輪委(IOC)総会にも出席する意向で、まさに外交オンパレード。ただし、G20首脳会議で関係悪化の中韓両国と個別首脳会談が開けるかどうか。これが当面する最大の外交課題です。