メッセージ第300回(5月16日)改憲が参院選の争点 経済外交で大成果
 7月参院選の争点に憲法改正が急浮上してきました。首相は中東歴訪中の1日、記者会見で「憲法改正は自民党立党以来の課題」であるとし、衆院選と同様に参院選の公約に先ずは96条の改正を掲げ、国会議員の3分の2勢力を参院選で確保するため全力で戦う決意を表明しました。第1次内閣で改憲に必要な国民投票法を制定した首相は、改憲の発議要件を定めた96条の緩和を突破口に、平和条項の9条改正に踏み込み、中国の尖閣諸島領海侵犯、北朝鮮の弾道ミサイル発射実験などで緊迫する安全保障環境に備え、集団的自衛権の行使、国防軍創設などの整備を図る方針です。これには日本維新の会、みんなの党などが賛成、護憲勢力の共産、社民両党などは反対、友党の公明党は環境権など「加憲」を唱えながらも、改憲には慎重。民主党内は賛否両論に分かれています。民意がどう反映されるか。改憲が参院選を占う重大な鍵になってきました。おかげさまで月2回更新の北村HPは300回を重ねました。12年半にわたりご愛読頂きましたことを深く感謝申し上げます。ネット使用の選挙運動は夏の参院選から解禁です。改善すべき点を色々とご教示下さい。

トップセールスの経済・資源外交
 安倍政権の12閣僚は大型連休中、新興国を中心に18カ国を訪問、中国包囲網の経済外交、民主主義の価値観外交を展開しました。首相は訪ロで北方領土交渉の再開や資源外交など大きな成果を上げました。首相は連休中、ロシアとサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAB)、トルコの中東3カ国を歴訪。大手企業の社長ら約120人を引き連れてトップセールスし、活発な資源外交を展開しました。日本首相の公式訪ロは2003年の小泉純一郎首相以来10年ぶり。4月29日のプーチン露大統領との日ロ首脳会談で、石油・天然ガス分野など経済協力の拡大を通じて北方領土交渉を加速させることで一致。投資の枠組みやインフラ整備、医療の協力でも合意しました。サウジではホルムズ海峡の安全輸送や海賊・テロ対策と医療、水道インフラ、太陽光パネル、原発関連部品輸出で経済協力をする共同声明を発表。UAB、トルコでは日本の原発輸出を可能にする原子力協定を締結、三菱重工業と世界で原発権威の仏アレバ社が受注しトルコで合弁会社を設立することになりました。

2プラス2の立ち上げも声明に
 「この数年間停滞していた平和条約交渉を再スタートさせ、加速化に合意したのは会談の大きな成果だ」――安倍首相は日ロ首脳会談後の共同会見でこう強調しました。日ロ首脳の共同声明は@両国首脳の定期的な相互訪問を含むコンタクトを強化A平和条約問題の解決策作成へ向け交渉の加速化を双方の外務当局に指示B外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)の立ち上げC石油・ガス分野のエネルギー協力の拡大D核兵器・弾道ミサイル製造を放棄しない北朝鮮を非難――を骨子としています。会談後の共同会見でプーチン氏は「私たちが重視したのは経済協力だ。日本企業の参入を期待している」と表明。マツダ、三菱、トヨタなど経済使節団の企業名をわざと挙げ、経済関係強化が両国に利益をもたらすと強調しました。昼食会では1855年のワインを振る舞い、同年に結んだ日魯通好条約を思い出させる演出も見せて大サービス。ロシアは交渉に前向きだったプーチン氏が2008年に大統領を辞任。日本も首相が06年から毎年交代し、民主党政権下の10年にはメドベージェフ大統領が国後島を訪問して日ロ関係は冷え込み、領土交渉は暗礁に乗り上げていました。

面積2等分方式を大統領言及か
 それが、柔道愛好家のプーチン氏は大統領に復帰寸前の昨年3月、「引き分け」との日本語を使い、「領土問題を最終決着させたいと強く望む」と記者会見で語り、交渉再開の機運が急速に芽生えました。1956年の日ソ共同宣言では平和条約締結後に歯舞、色丹を引き渡すとされ、98年の東京宣言で国後、択捉を含む4島を交渉対象とすることで合意。2001年のイルクーツク声明はプーチン大統領と森喜朗首相との間で、この2つの合意に基づき領土交渉を進めることが確認されています。朝日によると、プーチン氏は会談の席上、領土問題の解決策として、面積を半分に分け合う2等分方式に言及し、首相側近も「発言があった」と暗に認めています。だが、首相はサウジアラビアの記者会見で「そうした(大統領発言の)事実は無い」と否定しました。ロシアは2008年、アムール川(中国名・黒竜江)とウスリー川の合流地点の中洲にある大ウスリー島を2分することで中国との国境を画定。19年にはノルウエーとの係争海域を2等分し、40年に及ぶ境界線論争に終止符を打った経緯があります。プーチン氏の言う「引き分け」が面積の2等分方式なら一歩前進の筈です。

4島返還は経済協力の進展如何
 過去の日ロ折衝では北方4島の一括返還を強く求める日本に対し、ロシア側は「第2次世界大戦の結果、ロシアへの帰属が確定した」との立場を崩さず、プーチン氏も、歯舞、色丹2島の引渡しで決着を図る姿勢を取り続けました。日ロ首脳会談後の会見で首相は「戦後67年以上経っても解決しない問題を一気に解決する魔法の杖は存在しない」と指摘。大統領も「明日解決することはあり得ない」と述べるなど慎重姿勢を示しました。両首脳はこれまでの経過を踏まえ、「双方が受け入れ可能な形で交渉を加速させたい」と述べていますが、領土交渉の進行度合いは、液化天然ガス(LNG)など経済協力の進展如何にかかっていると言えます。それでも首相は会談で、「日ロはアジア太平洋の安定に責任がある」と強調。議題に北朝鮮問題を取り上げ、日本が打診した「2プラス2」立ち上げで合意するなど軍事力を増強する中国、挑発言動を続ける北朝鮮を牽制する成果は十分に挙がりました。

NO,2も中国包囲網の経済外交
  中国牽制では、NO,2の麻生太郎副総理財務相も首相に劣らず、2、3の両日、スリランカ、インドを訪問。首相と2人3脚で中国包囲網の経済外交を展開しました。麻生氏は第1次安倍内閣の外相当時、「自由と繁栄の弧」構想を打ち出しアジア諸国の民主主義体制への移行や経済発展の支援を続けました。ところが、日本が最大の援助国だったスリランカは2009年に中国が逆転し、企業進出などで中国に遅れを取っています。麻生氏はラジャバクサ大統領との会談で、「スリランカは極めて重要な海洋国家で、日本は沿岸警備隊への研修などを提案している」と述べ、両国協力関係の強化で一致しました。一方、安倍政権発足後初の日米防衛相会談は4月29日、ワシントンで開かれ、小野寺五典防衛相は「尖閣諸島は日本固有の領土であり、断固守り抜く」と語ったうえ、ヘーゲル国防長官に安保条約の適用対象であることを重ねて確認。北朝鮮の弾道ミサイル発射など挑発行動にも警戒を続けることで一致しました。

96条緩和が9条改正の突破口
 ヘーゲル国防長官は「米国は主権の帰属については特定の立場は取らないが、尖閣は日本の施政下にあり、日米安保条約上(第5条)の義務が適用される」と述べ、「日本の施政権を損なおうとするいかなる一方的、強制的な行動にも反対する」意向を表明しました。日米同盟の深化には、海外での自衛隊の武器使用を認める改憲が重要な課題です。首相は「私は第96代の首相。96条改正の入り口から入りたい」と遊説で唱え、96条の緩和を9条改正の突破口にする考えを示しました。5日の国民栄誉賞の表彰式では、松井秀喜投手、長嶋茂雄4番打者、原辰徳捕手の始球式に、首相は96番の背番号をつけたユニホーム姿で審判を務め、改憲パフォーマンスを演じました。憲法記念日2日前、サウジでの記者会見では、「憲法改正は自民党立党以来の課題。昨年の総裁選でも公約に、先ずは96条を掲げた。参院選でも変わりはない」と語り、改憲勢力の維新の会、みんなの党と連携する傍ら、改憲慎重派の公明党には「立場をよく理解し誠意を持って議論を進めていきたい」と述べ、説得に励む姿勢を示しました。歴史認識などで関係が悪化した中韓両国に対しては、「我が国の憲法なので、いちいち説明していく課題ではない」と改憲を区別し、突っぱねました。

維新・みんなと先ず96条改正
 96条の改憲発議には衆参それぞれで総議員3分の2以上の賛成が必要と定めていますが、改正では過半数に緩めることを目指しています。首相が第1次内閣で制定した「国民投票法」は18歳以上が投票できるとしているため、次の臨時国会では民法や公選法との整合性を取りつける他の法改正も進めることが必要です。同じ敗戦国でもドイツは戦後に作った新しい憲法(基本法)を59回も改正したのに、日本はなぜ出来ないか。憲法9条2項には「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」とあります。冷戦体制下での安全保障は米国の“核の傘”に頼っていればよかったが、世界の安全保障環境が激変した現在、首相は「憲法上、自衛隊は持てます」「軍隊とは違います」などの詭弁を弄することに矛盾を感じ、集団的自衛権の行使、国防軍設置などに意欲を見せています。首相は昨年3月、96条改正を盛り込んだ「船中八策」を発表した日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長とひそかに会い、「戦後レジューム(体制)からの脱却という私がやりたいことには貴方たちの力が必要だ」と持ち上げ、共闘を申し入れたといいます。自民党は「9条改正」、維新とみんなの党は「首相公選制」を共通目標としていますが、維新は「道州制」、みんなは「統治機構(行政)改革・地方分権」に力点を置き、先ずは96条改正を目指します。9日の衆院憲法審査会では主要7党が96条の見直しで意見を表明。自民、維新、みんなは賛成、民主は96条の先行改憲に反対、公明は慎重姿勢を示し三極化しました。さて、参院選で国民がどう評価するか。改憲が勝敗を左右する決め手になってきそうです。