第297回(4月1日)次々とハードル突破 厳しい近隣外交
 安倍政権は日銀総裁人事、TPP参加の正式表明――など順調な国会運営で、7月の参院選に直結する2つのハードルを無難に乗り越えました。財界もアベノミクスを歓迎して賃上げに協力し春闘は明るい雰囲気で、高い内閣支持率が続いています。約13・2兆円の暫定予算も成立し残るハードルは、ロケットスタートが失速せず、実質2%の国内総生産(GDP)を達成し、4〜6月の景気が回復するかどうかです。脱デフレの兆しが見えないと予定通り来年4月からの消費税増税は実施できません。一方、@中国新体制の習近平国家主席は「領土、主権は守り抜く」と尖閣諸島侵犯の意欲を示したうえ、ロシア、南アを訪問しBRICS開発銀行の設立で合意A北朝鮮は「核の先制攻撃も辞さず」と瀬戸際外交を拡大B今月末の首相訪露では北方領土返還の展望が不透明C夏からの環太平洋経済連携協定(TPP)交渉も難航予想――など、外交は厳しさを増しています。首相は国会答弁で「農業は国の礎」と農業を保護し「攻めの農業」に徹する考えを強調しました。私も党の農水担当の政調副会長・TPP対策委員会幹事として、農水産業の振興に全力を投入しています。

無期限金融緩和の黒田新総裁
 「一言で言うと激動の5年間。リーマン・ショック、欧州債務危機、東日本大震災とめったに起きないことが次々に起きた」――激動期の金融システムを守り抜いた白川方明日銀総裁は19日、淡々と退任の弁を語りました。朝日の「天声人語」は16日、「『白から黒へ』。さらさら流れる白い川から、<中略>政治が見込んだ黒い田んぼに、黄金の穂が実る日が待たれる」とのいささか揶揄した記事を載せました。新総裁の黒田東彦前アジア開発銀行総裁は、衆参両院議運委の所信聴取で、「従来の金融政策では2%の物価目標の達成には不十分。量的にも質的にもさらなる金融緩和を進める」と述べ、14年から始める予定の「無期限の金融緩和」を前倒ししたり、国債の買い増しによって、市場に流し込むお金を増やす手法に軸足を置く考えを強調しました。黒田氏はお金の量を増やせば物価が上がるという「リフレ派」で、白川前総裁とは肌合いが違います。外国債券の購入は否定していますが、2%のインフレ目標の実現が見通せるまで長期国債などを毎月13兆円程度買い続ける「無期限緩和」前倒しを検討しています。ともあれ前回の総裁人事が民主党の反対で不承認になったことを思えば、野党を分断する与党の国会対策が功を奏し、同じ「ねじれ国会」の参院をクリア。厄介な国会のハードルを突破したことに間違いありません。

国益かけ必死の交渉を首相決意
 「守るべきものは守り、取るべきは取る。国益をかけ必死の交渉を展開する」――首相はTPPを巡る18日の衆院予算委の集中審議で与党議員らから「聖域なき関税撤廃を前提にする限り反対」の自民党公約と参加表明の整合性を問われ、強い決意を表明しました。党の衆院選政策集には「自動車などの工業製品の数値目標は受け入れられない」「食の安全・安心の基準を守る」などの5項目も盛り込まれており、首相はこれにも「交渉でしっかりと勝ち取ることが課せられた使命」と確約しました。自民党のTPP対策委員会は13日夜の総会で激論の末、「コメ、牛肉など農業の5品目や国民皆保険制度で、聖域の確保を最優先し、出来ないと判断した場合は脱退も辞さず」を条件に、「国家百年の計に基づく決断」を首相に求め、TPP交渉参加を容認する決議を採択しました。これを受けて首相は15日夕の記者会見で @今がラストチャンス。この機会を逃すと日本は世界のルール作りから取り残されるA交渉参加は国家百年の計で、同盟国の米国と新しい経済圏を作り、わが国の安全保障、アジア太平洋地域の安定にも寄与するB東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)やアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)に向け、ルール作りのたたき台となる――などを国民に訴えました。正式参加表明で2番目のハードルもクリアしたことになります。

甘利氏がTPP政府対策本部長
 確かに、先行11カ国の交渉国間で既に合意されたルールをひっくり返すのは容易ではなく、米国が日本の参加を了承するのは議会に通告後90日とされることから交渉参加は7月以降になるとみられ、参加の正式表明はぎりぎりのタイミングでした。オバマ米大統領は年内に交渉妥結(合意)を目指し、10月にインドネシアで開くAPECに合わせてTPPの首脳会議を開き、ルールの大筋をまとめる意向を示しています。首相は参加表明と同時に菅義偉官房長官、岸田文雄外相、茂木敏充経産相らのTPP関係閣僚会議を設置し、甘利明経済再生相を担当相に充て、「TPP政府対策本部」(甘利本部長)を新設。国内チームトップの国内調整総括官に佐々木豊成官房副長官補を、参加11カ国に習った対外チームトップ(交渉責任者)の「首席交渉官」に鶴岡公二外務審議官(経済担当)を任命しました。

「国の礎・日本文化」農業を守る
 甘利担当相が15日に発表した影響試算では、農産物にマイナス影響がある半面、工業品などの輸出が増えて国内の消費も伸び、10年後に実質のGDPを3・2兆円、0・66%押し上げる経済効果があると見ています。しかし、関税ゼロなら安い輸入品が入ることで10年後に国内の農林水産業の生産額が現在の8兆円程度から3兆円減ると試算、カロリーペースの食料自給率も今の40%から27%に落ち込む見通しです。このため、16日に都内で開かれた党の全国幹事長会議では、北海道連幹部からTPP参加反対の声が出され、首相は「農業は国の礎で日本文化そのもの」と答え、国内農業の保護に力を注ぐ決意を表明。政府は打撃を受けた農家の収入を補填する「保険制度」の検討を始めました。私も長崎新聞の取材に対し、「農林水産品が犠牲になってはならない。農業は国土と領域を守る多面的な機能がある。国益が守れない場合は脱退する覚悟で交渉しなければならない」と答えました。党のTPP 対策委の幹事として、農業を断固守り抜くことに専心しています。

参院先議多く会期内成立目指す
 3番目のハードルは参院選前にいかにして13年度予算と関連法案を成立させるかです。予算成立は連休前後に遅れる見通しから、政府は公務員給与の支払いに支障を来たさないよう50日間の暫定予算を野党の協力を得て年度内に成立させました。また、7月の参院選を控え、今国会は会期延長が難しいため、自公両党は政府が予定した新規提出法案65本のうち15本、条約承認案18本のうち5本を参院先議とする方針です。参院先議は無免許運転に罰則を強化する道路交通法改正案、食品の原産地表示を統一する食品表示法案など国民生活に密接な法案が多く、野党がこれに応じれば参院先議は全体の24%と、過去10年で最高の割合になります。日本維新の会の橋下徹共同代表は「自民党とのスタンスの違いがはっきり分かる法案を出したい」と述べ自民党の補完勢力でない点を強調。同党は教育委員会廃止の関連法案や国会議員と地方首長の兼職法案など10本以上の議員立法案を独自に提出する方針で参院選に向けて改革政党を盛んにPR。だが30日の党大会では大阪で指揮する橋下氏と東京の国会議員団との間には路線を巡る確執が露呈しました。

憲法96条緩和の超党派勉強会
  憲法改正論議も高まっています。07年に成立した国民投票法に基づき衆参両院に設置された憲法調査会は、13日に参院、14日に衆院が安倍政権発足後初の討論に入り、衆院憲法調査会は1章の天皇制と2章の「戦争の放棄」を議論しました。自民党の中谷元・元防衛長官は、自衛隊を「国防軍」と位置づける立場から、「自衛権の保有、国家を守る組織の名称、権限などを明記すべきだと9条改正の口火を切り、維新、みんなの党も賛同しました。一方、安倍首相が主張する憲法96条の改正に呼応する民主、日本維新の会、みんなの有志議員による「憲法96条研究会」が15日、21人を集めて超党派の勉強会を開きました。96条は衆参それぞれ総議員の3分の2以上の賛成で発議、国民投票で過半数が賛成すれば承認されますが、この3分の2の要件を「2分の1」に改めるものです。呼びかけ人は民主党の渡辺周衆院議員、日本維新の会の松野頼久国会議員団幹事長、みんなの党の浅尾慶一郎政調会長で、松野氏は「96条改正の原案を出すには衆院で100議員が必要。この3党で発議出来るようにしたい」と挨拶。初会合には民主党から蓮舫参院議員ら4人、維新10人、みんな7人。代理出席の民主25人、維新19人、みんな9人が出席しました。民主党の幹部は「党分裂を誘う思惑がチラつく」と警戒を強めています。

蒙古・露・中東へエネルギー外交
 こうした中、首相はエネルギー外交にも本腰を入れています。東日本大震災後、日本の原発が止まり割高な液化天然ガス(LNG)を使う火力発電所をフル稼働させているため、足元を見られ、日本は国際価格の3〜4割高いLNGを買い求めているからです。首相 は30日から2日間、モンゴルを訪問し、エルベグドルジ大統領との首脳会談で経済連携協定(EPA)交渉の促進や、モンゴルに豊富な石炭、銅などの地下資源の輸入拡大を協議しました。首相のモンゴル訪問は06年の小泉元首相以来約7年ぶり。今月末からは大型連休を使ってLNG輸出国のロシア、原油輸出国のサウジアラビアなど中東を歴訪する計画を立てています。中国の習近平国家主席は初外遊にロシアを選び、中露首脳会談でロシアから中国への石油供給量を倍増するエネルギー協力で合意しました。遅れずに資源外交を展開、中国を牽制するのも重要です。経済産業省は12日、愛知県・渥美半島沖の海底約千メートルからさらに約3百メートル掘ったところにある「メタンハイドレート」(燃える氷)から世界で初めて天然ガスを取り出したと発表しました。これはメタンと水が結びついたシャーベット上の結晶で、シベリアやアラスカの永久凍土層や水深5百メートルより深い海底にあり日本近海の埋蔵量は天然ガス消費量の100年分と推定されます。だが海底深くあるガスを安い費用で安定的に取り出す技術は未確定で、資源外交に頼らざるを得ません。

ねじれ解消決起大会で首相が檄
 3年3ヶ月ぶりの政権復帰で気勢が上がる自民党は17日午後、「ねじれ解消」に向けた参院選の決起集会と位置づけ、東京のプリンスホテル新高輪で党大会を開きました。首相は「今まさに日本を覆っていた雰囲気が大きく変わった。アベノミクスの3本の矢を次々に放ち、確実に景気は回復しつつある。世界の真ん中で日本という国を咲かそう。参院選を勝ち抜いて誇りある日本を取り戻す」と檄を飛ばしました。前日に党本部で開いた屋台村で、お手製のカレーや焼きそば150食分をえびす顔で振舞った石破茂幹事長は「世に言う『お灸を据える』ことがもう一度あってはならない」と、一転顔を引き締めて戒めました。ねじれ解消には、改選議席121のうち自公両党で64議席以上が必要です。石破幹事長は31の1人区で「25勝」を勝敗ラインと明言しており、党大会前の午前中は党本部で立候補者向けの初の研修会を開き、選挙機運も次第に盛り上がっています。しかし、27日までの「1票の格差」訴訟では、16件のうち2件が「違憲状態」でしたが、東京、大阪両高裁・支部を含め14件は「違憲」判決を下し、このうち広島高裁と同高裁岡山支部の2件が「違憲・無効」(やり直し)の厳しい判決でした。政府与党は厳粛に受け止め小選挙区改正と比例区の抜本改革案を今国会中に提出しますが、まずは「0増5減」の区割り審勧告に基づく公選法改正案を成立させる方針です。28日の区割り審は、我が長崎4区を含む17都県42選挙区の線引き変更を勧告しました。この詳報は次回に譲ります。