第295回(3月1日)「3本の矢」受け支持率上昇 外交で成果
 大型補正予算が成立、国会は実質15ヶ月通しの13年度予算案の攻防に移りました。アベノミクスで掲げた「第1の矢」の積極的な財政政策は補正予算の成立で軌道に乗り、「第2の矢」の大胆な金融緩和もモスクワのG20(主要20カ国・地域)金融会議で是認され、円安・株高の安倍相場が続いて珍しく就任時より内閣支持率が上昇しました。森喜朗特使とプーチン露大統領との会談では北方領土交渉の仕切り直しで合意、5月連休前にも安倍首相が訪露する地ならしが出来ました。日米首脳会談では北東アジアの緊張に対処し「日米同盟の絆」強化で合意。最大懸案の環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題は「聖域あり」の共同声明を出す成果を上げ、首相は衆参両院の施政方針演説でTPP参加の意向を表明しました。首相は残された「第3の矢」の成長戦略が絡むTPP 参加を夏の参院選前に最終決定する方針ですが、自民党内は賛否両論に分かれ、意見集約はなかなか困難です。政府与党は本予算案の会期内成立を目指し、22日の自公民3党幹事長会談で「13年度税制改正法案の年度内成立に最大限努力する」確認書を交わしましたが、「ねじれ国会」の参院審議は容易でなく、成立は大幅に遅れそうです。さらなるご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

建設資材・人手不足で復興遅れ
緊急経済対策を含む総額13・1兆円の12年度補正予算は2月26日に成立しました。復興・防災対策や成長による富の創出などを重点分野に掲げ、公共事業関連費が4・7兆円を占めています。リーマン・ショック後の09年に麻生内閣が組んだ14・7兆円に次ぐ過去2番目の規模で、安倍内閣は速やかに執行して実質国内総生産(GDP)を2%押し上げ、約60万人の雇用を創出する方針です。公共事業費は13年度本予算と合わせると軽く10兆円を超えます。前述の通り自公民3党は「税制改正法案の年度内成立に努力」する確認書を交わし、本予算案の年度内成立を目指していますが、予算案は年越し編成したため、衆院を通過してもねじれ国会の参院審議が難航して成立は5月と見られ、暫定予算を組むことになりそうです。しかも、困ったことに東日本大震災の被災地では生コンクリートやセメントなど建設資材が不足し、岩手、宮城、福島3県の42地域のうち津波被害の沿岸部を中心に29地域で値上がりし、仙台では価格が最大43%も跳ね上がっています。また、鉄筋工、型枠工、左官など建設作業員も被災地の建設会社が64%、全国で35%も人手不足になって建設業界全体に波及、復興が著しく遅れています。安倍政権は民主党政権で壊された「経済・教育・外交・暮らし」の再生に懸命ですが、思わぬ所に落とし穴が開いています。

首相自慢の3外交はヒット続き
「金融緩和はデフレ脱却が目的だ。良いものを作っても、為替の結果で売れないのはおかしい。適正な水準(物価上昇目標の2%)に行くのは正しい方向だ」――。首相は2月18日の参院予算委で、民主党議員が「アベノミクス」を「アベノマジック」「アベノリスク」と冷やかし、主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議での金融緩和を追及したのに対しこう胸を張りました。首相が自慢するように安倍外交はヒットを続けています。2月15,16日にモスクワで開かれたG20会議には麻生太郎財務相と白川方明日銀総裁が出席、関心を集めたアベノミクスについて麻生氏は「デフレからの早期脱却や物価安定に焦点を当てた政策だ」と説明。通貨安競争の自粛や保護主義回避の共同声明を採択しました。日本の円安にブラジルなど新興国は「金融緩和の波及効果に留意すべきだ」と懸念を表明しましたが、声明は「日本は中期的に財政再建をさらに進める必要があり短期的な景気刺激のために経済対策を打ち出した」と日本に理解を示し@日米欧の政策で世界経済のリスクは解消したA為替レートが継続して(市場で決まる水準から)乖離するのを避けるB通貨の競争的な切り下げ(通貨安競争)を控える――など日本の金融緩和を是認しています。

引き分けは勝ち負けなしの解決
次は首相の親書を手渡した森喜朗特使とプーチン大統領の21日の会談。両者は2001年に「日ソ共同宣言と東京宣言に基づく北方4島の帰属問題解決と平和条約締結で合意」した「イルクーツク声明」を発表して以来の緊密な間柄。まず、大統領が安倍首相の訪露を歓迎する意向を表したのに対し、森氏は「安倍首相の公式訪問で新たな関係を構築する大事な年になる。領土問題を最終的に解決するために両者が決断することが必要だ」と述べ、「領土問題で大統領が述べた『引き分け』とはどういう意味か」と質しました。大統領は「日露間に平和条約が無いことは異常な事態。(引き分けは)勝ち負けなしの解決だ。双方受け入れ可能な解決を意味する」と答え、「北朝鮮の核実験は断じて容認できない。安倍首相とじっくり話し合う大事なテーマだ」と述べました。これで首相の連休中訪露が確定、10年ぶりに北方領土打開の糸口が開けたほか、両国が北朝鮮の暴発についても牽制して行くことになりました。米国が岩盤に張り付いた天然ガスのシェールガス開発を進め、欧州(EU)の市場開拓を狙っていることから、ロシアは欧州に供給している液化天然ガス(LNG)の需要減を懸念、ウラジオストクまでパイプラインでLNGを運び、日中韓など北東アジアに販路を切り替える考えです。シベリア開発には日本の資本・技術の導入が是非とも必要で、プーチン氏はこの経済協力を絡め領土交渉を優位に進めようとしています。

日米同盟強化と「聖域あり」確認
原発依存が低下した日本では、原油やLNG、石炭による火力発電への切り替えで燃料費がかさむうえ、円安が響いてガソリン代が高騰しています。シベリア開発への協力で産油国の思惑値上げを防止し、領土交渉が進展すれば一石二鳥。首相の訪露はグッドタイミングです。首相は22日、オバマ米大統領との日米首脳会談で、中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル発射問題を踏まえ、アジア太平洋地域の安定のため日米同盟を強化することで合意、エネルギー分野の協力でも一致しました。首相は「安全保障環境が厳しさを増す中、米国とともに責任を果たす」と強調。11年ぶりに防衛費を増額し、防衛計画大綱の見直しや歴代首相で初めて集団的自衛権の行使へ検討を始めたと説明、「日米安保体制の抑止力向上への協力」を求めました。宇宙やサイバー空間で防衛協力を進め、尖閣列島問題でも協力することを確認、米軍の移動式早期警戒レーダー「Xバンドレーダー」を日本国内に追加配備することも合意しました。焦点のTPP 交渉参加については、@全ての物品が対称だが、交渉参加に際し全ての関税撤廃をあらかじめ約束することは求められないA日本の農産品、米国の工業製品は貿易上のセンシティブな分野。最終結果は交渉の中で決まるB日米協議では自動車や保険に関する懸案事項などで作業が残されている――とする共同声明を発表しました。首相はその後の記者会見で「聖域なき関税撤廃が前提ではないことが明確になった」と述べ、「聖域」の存在を両首脳間で確認した成果に自信を深めています。

満額回答にも日本冷遇と中国酷評
自民党は先の衆院選で「聖域なき関税撤廃を前提にする限り反対」を公約に掲げたため、首相は会談で「日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品など二国間貿易上のセンシティビリティー(重要項目)が存在する」と強調、「最終的な結果は交渉で決まる。全ての関税撤廃をあらかじめ約束することは求められない」と、例外品目の”聖域あり”の確認を促すと、大統領はこれに同意し共同声明として発表しました。中国の新華社は「米国は晩餐会も共同記者会見も開かず、尖閣問題でもコミットせず、日本は冷遇された」と酷評、新日米同盟を牽制しましたが、安倍首相はビジネスライクな会談の中にも強く主張を通し、いわば「満額回答」を引き出しました。首相は25日の党役員会や公明党に帰国報告し、政府の専権事項である外交のTPP 交渉参加について一任を取り付けて、28日の施政方針・政府4演説で安倍外交の成果報告とともに、TPP 交渉参加の意欲を表明しました。

自民党議員6割がTPP参加反対
経団連など財界はTPP参加をこぞって歓迎、「第3の矢」の成長戦略を練る内閣の「産業競争力会議」(議長=安倍首相、民間経営者・学者ら10人で構成)もコメの輸出産業化を目指し農地集約への新制度検討に入り、みんなの党、日本維新の会も賛成しています。しかし、自民党内は賛否両論に別れ、激しい綱引きを演じています。「TPP参加の即時撤回を求める会」(会長=森山裕元財務副大臣)には党所属6割の236議員が加盟、首相のTPP参加表明後も「党内論議を先行させるべきだ」と慎重論を唱え反対しています。理由として、日本の専業農家は60歳以上と高齢化が進み、兼業農家も減反政策による耕作放棄地が増加し農業は衰退。これを支えているのが高関税、戸別所得補償制度だからです。コメに778%、バター360%、砂糖328%、大麦256%、小麦252%、牛肉38・5%と高関税の農産物が多いため北海道から沖縄まで全国の農家は保護され、関税が撤廃・軽減されたら日本農業は成り立ちません。

PM2・5汚染は中国の環境テロ
TPP 参加で日本には低価格の米国産牛肉,中国、タイのコメなどがどっと輸入されると、消費者は喜びますが、農家は大打撃を受けます。日本の食料自給率(カロリーベース)は現在39%ですが、自給率が低下し、国際関係の悪化や外国の事情で仮に輸入が止まれば「食糧安全保障」が不安になります。米国も日本がTPPに参加するなら自動車、保険、牛肉の3分野を例外品目にするよう譲歩を求めています。従って、どの分野を聖域の例外品目に入れ、聖域でなくなる分野に国がどう対策を講じるかが,TPP参加の次の大きな焦点になります。こうした中、環境省の観測データ公表に続いて国立環境研究所(茨城・つくば市)は2月21日、中国で大気汚染が深刻化している微小粒子PM2・5の日本への影響について全国観測結果を発表しました。その結果では1月の多い日に大気測定局の3割で環境基準値を超え西日本で濃度が上昇しており、学者は中国からの「環境テロ」と批判しています。

黄砂より小さく肺癌の原因など
PMと言うのは微粒子(パーティキュレート)と物質(マター)の頭文字。単位はマイクロメートルで直径2・5メートルの100万分の1。2・5ミリの千分の一に当たります。髪の毛の直径は80マイクロメートル程度ですから、その30分の1以下の大きさ。中国やモンゴルの砂漠から偏西風に乗ってやってくる黄砂よりはずっと小さく、吸い込むと気道の奥深くまで届き、肺に沈着するので、肺がんやぜんそく、心臓病との関連が指摘されています。おまけに花粉が飛ぶ季節。薬局では高機能マスクが飛ぶように売れています。中国でも6万円以上する日本製の高級空気清浄機が良く売れ、「特需」になっています。この物質の存在が論議を呼んだのは1999年。当時の石原慎太郎都知事が、粒子状物質を含んだ黒煙をまき散らすディーゼル車を大気汚染の元凶と指弾し「東京から駆逐する」と宣言。排ガスのすす入りペットボトルを振って政府の無策を批判し、話題を呼びました。

外交、内政とも第2ステージへ
米国は97年にPM2・5の環境基準を設定しましたが、日本はやや遅れており、野党は国会で対応を急ぐよう求めています。このため、22日に北京で開かれた環境、外務、経産省などの日中両政府間会合で、日本側は越境汚染の懸念を伝え、大気のモニター方法や電子顕微鏡を使った汚染発生源の特定などの技術協力を申し出、中国側は「先進国の経験に学びたい」と表向きは応じました。だがその陰で、「光化学スモッグのオゾン濃度が高くなったのは日本が脱原発で石炭を燃料とする火力発電を再開したからだ」と、日本悪者説を唱えています。安倍首相は華々しく外交デビューし、内閣支持率も70%以上に上がりました。しかし、4月末にも予定される日露首脳会談で北方領土交渉再開をいかに推進するか、TPP 交渉参加で党内を説得できるか、近く国家主席に就任する中国の習近平総書記と戦略的互恵関係を構築できるか。安倍外交は第2ステージに入ります。また、消費税率を予定通り14年4月から8%に引き上げるには、今年4〜6月期の経済成長率が重要な判断材料になるため、切れ目ない15ヶ月の本予算案を早期に成立させなければなりません。